古楽器オケの演奏を聴こう


 モーツァルトやベートーヴェンが生きていた時代の楽器の音はどんなだったのだろう、オーケストラはどんな音がしていたのだろうか、作曲家はどういう楽器の音を思い描いて、作曲をしたのだろうか。そんな私たちの好奇心を満たしてくれる、古楽器による演奏、古楽器オーケストラ、あるいは時代楽器の奏法を取り入れた演奏が、ここ10年で一気に広まって、ポピュラーなものになりました。

ここまで古楽器演奏(時代楽器の奏法をとりいれた古楽風な演奏も含む)が市民権をえたのは、単に、興味の対象になっただけではなく、古楽器やその奏法の導入が、停滞気味だったクラシック界に新風をもたらし、あらたな表現や音楽をつくりだしたからでしょう。それは、古楽器演奏が、単なる学問的見地を越えて、芸術として大きな意味を持つようになったからに他ならないでしょう。


・・・・・おっと。話が堅くなりすぎましたな。とにかく古楽器演奏やその当時の奏法をとりいれた演奏が面白いのです。私たちはどうも常日頃から、音楽や楽器というものは常に進化していくもので、古いものより新しいもののほうがより質が高いものになると考えがちです。だから昔の楽器は、音も大きくないし、音程も悪いし、良いところなどないだろうと考えてしまいがちです。ところが現代の優秀な時代楽器による演奏は、時代楽器の持つ制約を乗り越えて、いや、そのハンデまでをうまみにして、非常に斬新な感じを与えてくれます。たとえばベートーヴェンというと、非常に暗く、まじめで、重厚な音楽というイメージがつきまとっていて、実際にそのように演奏されますが、古楽器による演奏を聴くと、もっと軽やかで、シャープで、オプティミスティックな面があることに気づきます。それは決して否定的な捉え方ではなく、むしろ現代の感覚に合っているようにさえ感じます。そう感じるのは、古楽器の演奏家たちが、単にその時代の演奏を復元しようと考えているのではなく、現代において存在する意味のある音楽を作り出そうとしているからでしょう。ですから、これらの演奏はとても現代的で、まさに今を感じることのできるものです。
 また、彼らはいわゆる伝統というものからも無縁であるということも大きな武器でしょう。伝統は確かに素晴らしいものですが、ときとして伝統は自分からその殻に閉じこもって、発展を妨げてしまうものでもあります。そうした停滞気味なクラシック音楽にとっては古楽器演奏はまさに救世主的な存在であるといえるでしょうね。

・・・・・あ、また、話がまじめになってしまったなあ。とにかく難しい理屈は抜きにしても、とても楽しめると思います。ひょっとすると今までクラシックとは無縁だった人にも、これらの演奏をきけば、意外とすんなり受け入れてもらえるかもしれません。現在はたくさんCDも出回っていますのでまだ聴いたことのない方は是非とも聞いてみてください。有名な演奏家をリストアップしておきます。


古楽器オケと演奏家
ブリュッヘン/18世紀オーケストラ
18世紀の作品を演奏するために結成されたオーケストラ。近年は19世紀初頭までの音楽をレパートリーにしています。独特の暖かい音を持ったオーケストラで、ブリュッヘンの作り出す音楽も人間的な暖かみのある素晴らしいものです。

インマゼール/アニマ・エテルナ
近年注目度アップの団体。シューベルトの交響曲全集をはじめとして、目の覚めるような演奏を残しています。

ガーディナー/オルケストル・レヴォリューショネル・エ・ロマンティク
1830年代、ヨーロッパ一優秀であったとされるパリ音楽院のオーケストラを規範として作られたオーケストラです。ベートーヴェンからベルリオーズ、シューマンあたりまでがレパートリーのようです。モデルにしたオケの時代が若干新しく、現代楽器の音に少し近く、違和感がなくなじめるサウンドです。

ピノック/イングリッシュ・コンサート
こちらはもっと以前の音楽、バッハやヘンデル、バロック時代の曲を演奏するために結成されたオーケストラです。軽やかな演奏を聴かせてくれます。

アーノンクール/ヨーロッパ室内管
この指揮者とオーケストラの組み合わせは、正確な意味での古楽器演奏団体ではありません。ヨーロッパ室内管は現代の若手演奏家による現代楽器による団体で非常に卓越した演奏能力を持つ団体です。アーノンクールは古楽界のスペシャリストで、1960年代からウィーン・コンツェントゥス・ムジクスを結成するなど地道な活動をしてきました。このコンビの演奏では、古楽器奏法を現代楽器で再現することによって、現代楽器の性能の良さと、古楽器奏法による斬新で繊細な表現を両立させています。また、アーノンクールの音楽は非常にアグレッシブで個性的でとても良いです。


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