音詩「吟遊詩人」


 この曲は、交響曲第4番とほぼ同時期に作曲された作品で、この曲が作り出す音世界は第4交響曲とよく似ていると思います。内省的で、極限まで圧縮された音楽には、のどの腫瘍、手術、再発のおそれと死の恐怖が反映されています。
 シベリウスのこの時期の作品は傑作揃いで、シベリウスの一つの頂点を作り出したといって良いと思います。暗い闇の中、なんとか光を求めようとする、祈りのような音楽の数々はまさに感動的です。その中でも第4交響曲とこの「吟遊詩人」はとくに強い光を放っています。
 曲はクラリネットに伴ったハープによって印象的に開始され、「吟遊詩人」を強く印象づけます。吟遊詩人の奏でる音楽は孤独で悲しげで、聴き手に痛切に訴えかけてきます。その後音楽は発展し、希望を求める祈りの歌となります。そして高まった音楽が再び静かになると、冒頭のハープが戻ってきます。しかしながら、冒頭よりも穏やかな雰囲気となり、少しばかりですが希望を抱かせろうような、安堵の表情で曲は終わります。
 ところで、この曲のタイトルの吟遊詩人とはワイナモイネンをさすものだ、との見方もありますが、シベリウスはそのような物語との関連性についてはいっさい述べていないようです。そういう意味からすればこの曲はシベリウスが自分の心の内を語ったものなのかもしれません。吟遊詩人を登場させて、その吟遊詩人に自分を投影させて、作曲者は自分の代わりに吟遊詩人に語らせたのかもしれませんね。

February 19.2000.by Johansen


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