劇付随音楽「クリスチャン2世」、同・組曲


作曲:1898
編成:
劇音楽版 
エレジー・ミュゼット・メヌエット・蜘蛛の歌;Fl2,Cl2,Fg2,Harp,Triangle,弦5部、バリトン独唱(蜘蛛の歌)
ノクターン・セレナード・バラード;2管編成 Tb3 Perc
組曲:

この作品は、シベリウスの音楽院時代の学友でもあった、多彩な劇作家、アドルフ・パウルによる、歴史劇「クリスチャン2世」のための劇付随音楽です。

この歴史劇は、16世紀史実に基づいたもので、その時代に実在し、スウェーデン・デンマーク・ノルウェーの3国を支配した王、クリスチャン2世の悲劇を描いたものです。

北欧3国を支配下におこうとしたクリスチャン2世は、当時、同盟関係から外れていたスウェーデンを同盟(カルマル同盟)に引き戻そうと、弟であるスウェーデンの執政官ステン・ストゥーレを討伐し、さらに多数のスウェーデン貴族を処刑するという残虐行為にでます(ストックホルムの虐殺 1520)。しかし結果、この行為はグスタフ1世ヴァーサの反乱を招くこととなり、クリスチャン2世に死ぬまでの幽閉生活をもたらすことになります。

アドルフ・パウルの劇では、このストックホルムの虐殺の心理的動機として、また、この残虐な行為を起こすような、当時の宮廷内や王族の間の雰囲気や関係を象徴的にあらわすものとして、クリスチャン2世が愛し、王宮に召し抱えたオランダブルジョア階級の娘、ディヴェーク(Dyveke)の不可解な死を置いています。

ディヴェークはブルジョア階級の出身でありながら、宮廷に召し抱えられたため、貴族からは非常に冷遇され、不可解な死を遂げます。この死は毒殺ではないかと言われています。アドルフ・パウルは、ディヴェークが(宮廷内の貴族の策略によって)毒入りのサクランボを食べて死ぬという筋書きを作っています。

現在では、後に編集した組曲版が有名になっており、曲順が少々オリジナルのストーリーとは入れ替わっています。

オリジナルでの曲順は、
エレジー(序曲)
ノクターン(1−2幕間の間奏曲)
ミュゼット(2幕2景への前奏)
セレナード(2−3幕間の間奏曲 or 3幕への前奏=メヌエットの代替)
メヌエット(3幕への前奏)
バラード(4幕)
蜘蛛の歌(5幕3景)
となります。

組曲版では、ノクターンを前奏曲とし、第2曲をエレジーとミュゼット、第3曲をセレナード、第4曲をバラードとしています。

ここでは、劇音楽版の演奏順で、それぞれの曲を解説します。

エレジー
劇音楽としては、序曲に相当します。穏やかで優雅な曲想は宮廷の様子を彷彿とさせ、ロマンティックな曲想は、クリスチャン王のディヴェークとの悲恋を想像させますが、そこに漂う悲しげな雰囲気は、その後引き起こされる悲劇を予感させます。

ノクターン
第1幕と第2幕の間の間奏曲。伸びやかな弦楽器による息の長い旋律と、交錯するリズミカルな木管の応答による対比は鮮やか。木管の用法は、「レミンカイネンとサーリの乙女たち」を彷彿とさせます。ちょっぴり悲しげな雰囲気を漂わせながらも、活気のある曲で、クリスチャン王がまだ幸せな頃、ディヴェークと恋に落ちたころを描いているのでしょうか。

ミュゼット
第2幕のシーン。ディヴェークが住む屋敷のシーン。辻音楽師がミュゼットと呼ばれる農村舞曲を奏でています。このあとに、ディヴェークは毒入りのサクランボを食べて、暗殺されるのですが、そんな雰囲気は微塵もなく、のどかな農村の風景が描かれます。いわば、嵐の前の静けさといったところでしょうか。なお、ミュゼットは、バグパイプとシャリュモー(※クラリネットの前身の楽器。リコーダーにクラリネットのマウスピースをつけたような形状で、粗野で素朴な音色を持つ。)によって奏でられるという設定ですが、シベリウスはこれを2本ずつのファゴットとクラリネットを使ってオーケストレーションをしています。

セレナード
第2幕の重苦しい雰囲気を振り払うかのような、楽しげな音楽で、場面の転換の音楽にふさわしいと言えるでしょう。しかしながら緩やかな中間部では、「ノクターン」の旋律が引用され、過去を回想させます。

メヌエット
第3幕第1景の前奏曲。第3幕はコペンハーゲン城での祝宴を描いているということもあって、軽やかで陽気なメヌエットです。しかしながら中間部では、悲しげな雰囲気を引きずっています。しかし、すぐに陽気なメヌエットに覆い隠されてしまいます。

バラード
第4幕のための音楽。ストックホルムの虐殺の場面を描く音楽。音楽は一転、荒々しく激しい音楽になります。激しく高揚する音楽は、交響曲第1番と相通じるところがあります。

蜘蛛の歌
第5幕、とらえられ、幽閉の身となったクリスチャン王のシーン。寂しく惨めな生活を一生送ることになったクリスチャン王。そのよこで、道化が歌うのがこの曲。この曲で歌われる歌詞は、クリスチャン王の人生とその悲劇を象徴的にあらわすものでしょう。

July.8.2001 by Johansen


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