交響曲第4番変ホ長調作品82 Symphony No.4 in A-Minor op.63
作曲:1910〜11年
編成::Fl:2 Ob:2 Cl:2 BassCl Fg:2 Hn:4 Tp:2
Tb:3 Timp グロッケン 弦5部
演奏時間:約35分
シベリウスの作品の中で一番暗く陰鬱な雰囲気を持っているのはおそらくこの曲でしょう。どこまでも続く果てしない闇。死の影。なぜシベリウスはこのような音楽を書いたのでしょうか。このとき彼はまさに危機的状況、窮地に立たされていたのです。シベリウスはそのしばらく前から喉の不調を感じていました。その後、医師の診断により、その原因がのどの腫瘍であると診断されたのです。そのためシベリウスは当時その分野で世界的権威であったベルリンのフレンケル博士のもとで手術を受けることになりました。手術は無事成功しましたが、シベリウスは腫瘍の再発の不安にさいなまれることになります。場合によっては彼の生命を脅かす可能性すらあったのですから、その恐怖は大変なものだったでしょう。加えて博士から好きなタバコと酒を禁じられたシベリウスはそのやり場のない思いを日記に、そして音楽にぶつけるしかなかったのでしょう。彼はこの曲を「心理的交響曲」と名付けているところにもそれが表れているのではないでしょうか。その一方で、シベリウスはこの曲を「現代音楽への抗議」とも呼んでいます。また、この曲にはコリ山地で目にした風景からのインスピレーションがあるともいわれています。このようにこの曲の内容に関しては諸説ありますが、あくまでこの曲は絶対音楽としての交響曲であり、必要以上に表題にこだわる必要はないでしょう。しかし、やはりシベリウスにこの曲を書かせたのは彼を襲った苦難だったといえるのではないでしょうか。
曲は冒頭から低弦による非常に暗く陰鬱で恐ろしい雰囲気に満ちています。冒頭のテーマは3全音という「死」をあらわすものから成り立っているそうです。チェロのモノローグはまさにシベリウスの心情吐露といえるのではないでしょうか。この雰囲気は、時として祈りのようなコラール的なモチーフによって覆い隠されほのかな希望が見えますが、金管楽器のアタックやティンパニなどによってもとの雰囲気に引き戻されてしまいます。何の解決を見いだすことなく1楽章は終わります。2楽章はオーボエがユーモラスなテーマを吹きますがやはり、暗い雰囲気に飲み込まれてしまいます。3楽章はさらに内面的な音楽となり深いところへ沈んでいきます。もはやここまでくると言葉を失ってしまいます。4楽章は陰鬱な雰囲気を振り切ろうとするように曲は始まります。ここではグロッケンが活躍し、時に明るい表情を見せますが、やはりもとの雰囲気によってうち消されます。クラリネットのソロもなにやら不安定な奇妙なもので不安さをかき立てます。曲の最後に来てもやはり陰鬱なムードを振り切ることはできず、結局何の答えも出すことができずに闇の中に沈んで消えます。
January.15.1999 By Johansen