交響曲第5番変ホ長調作品82 Symphony No.5 in Es-Dur op.82


作曲:1914〜15(初稿) 1916年(第2稿) 1919年(決定稿)
編成::Fl:2 Ob:2 Cl:2 BassCl Fg:2 Hn:4 Tp:3 Tb:3 Timp 弦5部
演奏時間:約32分

〜そして、夜明け〜

 交響曲第4番作曲当時、シベリウスを襲った喉の腫瘍、そして手術、再発への恐れ・・・・・ようやくそういったものから解放されたシベリウスの音楽には再び明るい光が戻ってきます。交響曲第5番は長い夜の闇を経てようやく訪れた夜明け、日の出を連想させるような、美しく喜びに満ちた音楽です。
 この曲はシベリウスの50歳の誕生日を祝した記念コンサートのために作曲されました。そうした背景を反映してか、曲は交響曲第2番のような親しみやすさを備えた曲となりました。平明な美しさと、フィナーレの盛り上がりなど、シベリウスファンでなくとも理解しやすい内容をもっていますが、安易に俗っぽさを求めず、高い精神性を持った音楽に仕上げているところがいかにもシベリウスらしいと思います。アンダンテ・フェスティーヴォとともに、シベリウスの思い描く「祝祭」というイメージを見ることができます。
 この曲は予定通り、記念コンサートで演奏され、大成功を納めましたが、シベリウスはさらに改訂を2度行い、現在一般的な決定稿が完成されました。そういった経緯があったため、改訂稿の作成後、つい最近まで初稿は日の目を見ることはありませんでした。しかし、シベリウスの遺族の特別の許可により、オスモ・ヴァンスカが初稿による演奏・録音を行い、私たちも当初の曲の姿を知ることができるようになりました。初稿は4楽章構成となっていますが、実質は1,2楽章は1つの流れにつながっており、全体的な構成にはそれほど違いはありません。初稿には交響曲第6番や第7番の世界につながるような、柔らかな幻想的な雰囲気を持った部分があり、とても印象的で魅力的はありますが、やはり全体の構成とメッセージ性を考えたとき、2度の改訂を経て、極限まで磨き抜かれた決定稿の方が音楽的な力を持っているように思います。
1楽章:Tempo Molto Moderato - Allegro Moderato
 いかにも夜明けを連想させるような雰囲気の中、ホルンによって奏され、木管楽器によって応答される第1主題によってこの曲は静かに始まります。(なお、初稿ではホルンは用いられず、木管の応答部から始まります。)。オーボエのモチーフをへて木管高音によって提示されるのが第2主題となります。主題は複雑に展開され、緊張感にあふれた音楽に変わります。はじめは陰鬱な雰囲気が支配的ですが徐々に明るさを増していき、闇の部分が消え光が満ちてきます。そして喜びに満ちた、凱旋行進曲とでもいうような雰囲気の中で1楽章は集結します。
2楽章:Andante Mosso quasi Allegretto
 2楽章は1楽章の熱狂とは一転して北欧の自然を連想させるような穏やかで美しい音楽です。この楽章のテーマの一部は劇音楽「白鳥姫(Swan White)」中のものによく似ています。この楽章はそれほど起伏の激しい音楽にはならず、穏やかに淡々と進みます。次の楽章への静かな期待を抱かせてくれるような雰囲気が続きます。
3楽章:Allegro Molto
 終楽章はまさに喜びの祭典です。弦楽器のトレモロによる開始と主題の提示はシベリウスの内面の静かな喜びがあらわれているようです。シベリウスらしく決してお祭り騒ぎになることなく、内面的な喜びが高まっていくとトランペットによって2部音符のモチーフが提示されます。このモチーフがよく言われる「大自然のオルガンを鳴らす」というイメージをかき立てます。そして第2主題が木管とチェロによって提示され、それらが展開されてフィナーレになだれ込んでいきます。そして最後にこの曲は驚くべき集結法−tuttiによるゲネラル・パウゼをはさんだ和音の堂々たる提示で幕を閉じます。

January.15.1999 By Johansen


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