束の間のさよなら
「わぁー、本当に此処からだとミッドガルが一望出来るのね」
眼下にミッドガルを望む崖の上。ティファは強い風にたなびく髪を押さえながら言った。
「不確かな記憶だけど、恐らく此処がそうだ」
「此処でザックスが...」
「ああ、死んだ場所だ...」
ティファは手にした花束をそっと置いた。そして二人は眼を閉じ、ザックスの冥福を祈った。

二人は近くに座り、ミッドガルを眺めていた。
「こうして廃虚になったミッドガルを見てると、何だかチョット悲しいね」
「悲しい?」
「ミッドガルは神羅の本拠地、全ての悲劇の始まりの場所だったけど、思い出の場所でもあったから」
「ティファにとってはニブルヘイムがあんな事になってから、ずっと住んでた所だからな」
「スラムは暗かったし、チョット危険なところもあったけど...でも、好きだった」
「バレットやアバランチの人達、エアリスと出会えた。そしてクラウドとも再会出来た」
「イヤな事もあったけど、楽しい思い出もいっぱいあった街だから」
「俺にとっても同じようにみんなに出会った場所だ。ザックスと初めて会ったのもあそこだ」
「ねえ、クラウド、ザックスの事話して」
「ザックスは...俺の親友でもあり、ライバルでもあり、ある意味で憧れの存在だったんだ」
クラウドは話し始めた。

俺は給水塔でティファにソルジャーになるって話した後、ミッドガルへ行ったんだ。
実際、ソルジャーになるとは言ったものの、どうすればなれるのか知らなかった。
それでニブルヘイムにいた神羅兵に聞いたんだ。『どうすればソルジャーになれるの』って。
神羅兵は笑ったが、『もしも本気ならミッドガルへ行け、あそこに行けば分かる』って教えてくれた。
たまたまその神羅兵も次の日ミッドガルへ帰る予定だったんで、頼み込んで一緒に連れていってもらう事になったんだ。

ミッドガルに着くと、俺は神羅ビルに連れて行かれた。
すると神羅はこれからテストを行うと言って俺をある部屋に連れていった。
部屋に入ると他にもソルジャー希望の連中がテストを待っていた。
テストって何をするんだろうと思っていたんだが、いきなり身体検査らしきものを受けた。
そしてしばらくしてから合格だと言われた。
俺はこれでソルジャーになれるって有頂天になってた。
検査を担当していたのが宝条だった。今考えるとテストというのはジェノバ細胞との適合を調べていただけだったんだ。

その時、俺に声を掛けてきた奴がいた。
「君も合格したのか?おめでとう。これから一緒に頑張ろうぜ」
「ああ、ありがとう」
それが俺とザックスとの初めての会話だった。
あの時、結構な人数がいたと記憶してたが、結局合格したのは俺とザックスだけだった。

俺とザックスはそれからソルジャーになるための訓練を受けた。
苦しかったけど、何とか頑張っていた。
ザックスは陽気な奴で俺とは性格はまるで正反対だったが、俺達は妙に気が合った。
ある時、どうしてソルジャーになりたいんだと訊いたんだ。
「そりゃあ、ソルジャーっていえばヒーローだし、女の子にはモテモテだぜ。男ならなるしかないだろ」
実際、街へ出掛けてもしょっちゅう女の子に声を掛けていたっけ。
「俺、ソルジャーになるんだぜ」っていつも言ってたなあ。
俺はいつも呆れて見ていただけだった。でも、そんなあいつが羨ましくもあった。
俺もあんな風に声を掛けてたらティファともっと仲良くなれたのになあってね。

そのうち俺達は魔晄を浴びさせられ、そして注射された...それがジェノバ細胞だった。
すると俺は頭の中が混乱した。頭の中で別の声が聞こえてきて、俺は何が何だか分からなくなった。
そして意識を失った。
俺は3日くらいは起き上がる事が出来なかった。
ようやく意識を取り戻すとザックスがいたんだ。
あいつも俺と同じようになったらしいが、1日で元に戻ったようだ。
それからあいつはずっと俺を看病してくれたらしい。
「クラウド、やっと眼を覚ましたな。心配したよ」
いつも陽気なあいつが涙目で言ったんだ。
「看病していてくれたのか...すまない」
「当たり前だろ、一緒にソルジャーになるって誓ったじゃないか」
俺もどうにも涙が止まらなかった。今考えると、俺が泣いたのはあれが最後だったかもしれない。

だが、結局俺はソルジャーにはなれなかった。...いや、脱落したんだ。
あれから俺は時々同じように意識が混乱するようになっていた。
聞こえてくる別の声は、明らかに俺の意識を支配しようとしていた。
身体的能力や戦闘能力はザックスに劣るところは無かったが、あの意識の混乱だけはどうしようもなかった。
やがて俺はソルジャー失格者とみなされた。
宝条は俺を見て「失敗作」と言った。あの時は意味は分からなかったが。

結局、俺は神羅兵として神羅に雇われた。
ソルジャー失格でも神羅兵くらいには使えるだろうという事らしい。
俺もこのままニブルヘイムに帰る事も出来なかったから、神羅兵になるしかなかった。
それでもザックスは以前と変わり無く付き合ってくれた。
神羅兵に成り下がった俺と。
俺は少し複雑な気分だった。ソルジャーと神羅兵では雲泥の差だからな。
「クラウド、お前は俺と同じくらい、いやそれ以上に強いんだ。病気さえ治ればソルジャーに復帰出来るよ」
そんなあいつの言葉に、俺もソルジャーに復帰出来るよう頑張ろうと思った。
今考えると、きっとあいつの励ましがあったから俺はジェノバに支配されなかったのかもしれない...。

ある日、あいつがいきなり俺の部屋に飛び込んできた。
「やったぜ、俺、彼女が出来たんだ」
俺は当然の事じゃないかと思った。あいつはソルジャーだし、いつも女の子に声を掛けてたからな。
今更驚く事じゃないと思った。
「どんな子なんだ?」
「彼女は...実はまだ名前も知らないんだ」
「名前も知らないのに彼女なのか?」
「名前は知らないが、でも、俺は彼女が好きになった。彼女、花売りをやっているんだ」
「それで、その子はお前の事どう思っているんだ?」
「それが、良く分からない。でも、今度デートする事になってるんだ」
彼女というのはまんざら嘘ではないようだ。
どうやらその彼女は、あいつがいつも声を掛けてる女の子とは違うようだ。
今度はあいつも本気らしい。
「それで相談に乗って欲しいんだ」
「何だ改まって、相談って何だ?」
「それがな...今度のデートの時、何かプレゼントしようと思うんだけど、何にしたらいいと思う?」
「プレゼント?」
「ああ、何がいいか迷ってるんだ」
「お前、いつも女の子に何か買ってあげてるじゃないか、それじゃ駄目なのか?」
「彼女はあの子達とは違うんだ。何ていうか、上手く説明できないが...」
これは本当に惚れてるなと思った。
でも、俺だって女の子にプレゼントなんてした事がないから分からなかった。
だから、俺がプレゼントを贈るんだったら...ティファに贈るんだったら何がいいか考えたんだ。
俺だったらティファがいつも身につける物、イヤリングとかリボンとか...きっと贈るだろうなと。
「彼女がいつも身につけるような物がいいんじゃないか?イヤリングとかリボンとか」
「おお、そいつはいいな!早速探してみるよ」
あいつは街に飛び出していった。

あいつは結局彼女にリボンを贈った。
エアリスのリボン、あれはザックスが贈った物だったんだ。

エアリスとザックスの事は俺も殆ど知らない。
あの後、何回かデートしていたようだったが。
「今度、彼女を紹介するぜ」
あいつはそう言ってたが...結局その直後、俺達はニブルヘイムへ行く事になった...

「その後の事はティファも知っている通りだ」
「そうだったんだ...エアリスのリボン、ザックスにもらった物だったんだ」
「ああ。結局それに気付いたのはエアリスが死んだ後だったけど」
「エアリス、いつもリボン大切にしてたから...想い出の品だったのね」
「でも、それがクラウドのアドバイスだって知ったら、エアリス驚いただろうね」
「...あの時、俺は単にティファに贈るならって考えただけだ」
「私、もらってないよ」
「それは...」
「ふふ、いいの。私、もうクラウドからいろんなもの、いっぱいもらってるから」

「ザックスはきっと会いたかったのね」
「ああ。今思えば、あいつがどうして命懸けでミッドガルに行こうとしたのか分る気がするよ」
「...エアリス...」
「でも、今はきっと再会してるさ。向こうの世界でね」

眼下には廃墟と化したミッドガルが見える。
ザックスと出会い、そしてエアリスと出会ったミッドガル...今は巨大な墓標のように見える。
「ザックス、エアリスと会えたかい?もう、誰にも邪魔されることは無いんだ...」
「いつかまた、会おうな」

「ひとまずさようならだ、ザックス」
クラウドはザックスに別れを告げた....いつか再会するまでの束の間の別れを....。

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あとがき

このShort Storyは、FF7 Foreverでクラウドとティファがミッドガルを訪れる直前という設定で書きました。
これを書くキッカケはFF7iでザックスイベントを見たためです。
あれを見てなかったら、ザックスは僕の中ではぼんやりとしたイメージしか無かったかもしれません。
でも、あのイベントを見て「ザックスって好い奴だなあ...」としみじみ思ったんで。
二人の過去は完全に僕の想像です。ちょっと強引なとこもありますが...。
最後の別れを告げるところはザックスを忘れるという意味ではなく、自分の気持ちに一区切りつけるという意味合いです。
「私のイメージするザックスと違う」かもしれません、そこは僕のイメージという事でご容赦を(^^;)