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FILM MAKER TAKESHI IKEDA
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2004年06月17日(木) 撮影開始

イタリア人だから昼休みは長いだろうと、充分時間をとって行こうとしていた。
だから昼下がりに変えようかと思っていた。
でも部屋にいるよりは外に出たほうがいいだろうから、早めに出た。

近くの公園で気持ちを落ち着け、いざ工房に行く。
窓は開いていた。
のぞきこむとマルコの後ろ姿が見える。
向かい側には男がいて話をしている。
真剣に話していた。
ちょっと間をとったほうがいいかも。

しばらくしてもう一度行く。
まだ話している。
今度は奥さんのマリアンも見えた。
もう少し待ってみた。

もう一度行く。
今度は大丈夫そうだったので、マリアンに声をかけた。
「Posso?」

工房に入るとマルコは携帯で話をしている。
「Ciao! Bene!」
「Caldo!」
相変わらず元気のいい声で話し掛けてくる。

「しばらく忙しかったけど、ときどき来ていたんだよ。
でも土曜ばかりだからいつも閉まっていた。
今日はマルコの家族みんなにプレゼントを持ってきたんだ。」

さっきマルコと話していた割腹のいい男はマルコの弟子だった。
ブルガリア人で、メキシコ料理のレストランで働いているらしい。
僕のもってきたお土産はメキシコで買ってきたTシャツで、
こんどそのレストランに行くときにみんなで着て行くと言う。

僕は正直しばらく彼と会っていなかったことにものすごい不安を覚えていた。
今年に入ってこの日初めて会った。
いろいろと考えていた。

もう僕が映画を撮るのを断念したと思っていやしないか?
僕のことを忘れてはいないか?
彼の仕事の迷惑だとは思っていやしないだろうか?

そんな不安はただの僕の思い過ごしだった。
マルコは一度しか説明していない僕の企画をちゃんと覚えていてくれた。
そして彼の弟子に僕がどういう人間かというのを伝えてくれていた。
僕が撮ろうと決めた人に間違いはなかった。

言葉がつたないのはマイナスの要因だけれども、それに恐がらずに気持ちをぶつけること。
マルコはとても温かく受け入れてくれている。
あまり伝わっていないかも、というよりも相手の心を想いやりたい。
そう思えることがマルコにはわかってもらえているようだった。

間があいてしまうことで起こる心配が、あっという間に解消された。
気持ちがよかった。

イケダは僕の名字だというのに、そのほうが簡単だからと、
マルコからもマリアからもイケダと呼ばれている。

何度通っても撮れないジレンマにしばられるよりも、
必要と思われるカットを少しでも撮ることで、
自分のいまやっていることの意味を見つけようとした。
前向きになれる自分をマルコを通して探し出した。
そしてアングルを探して撮りまくっていた。

最初に今日は暑いといっていた通り、
「今日は暑くて短パン姿だからマエストロじゃないよ。ごめんな」
それは僕にこの日のテーマを与えた。
その足をフレームの中におさえようと、ローアングルのカットを多く撮ろうと決めた。

今日は忙しいんだとは言っていたものの、
ちょこまかちょこまか動く僕のことなど気にせずに手入れをするマルコ。
僕の理想の被写体だ。
下手に僕のことを視野に入れられると僕もいい画を撮れない。
僕のスタイルにピッタリとあてはまるマエストロだ。
おかげでマルコの真剣な眼差しを手に入れられた。

作業も一段楽してみんな片づけに入った。
話を聞いているとワインを飲もうと言っている。
もちろん僕も飲むんだろうなと思っていた。

あんまり飲みたい気分ではなかった。
マリアンはグラスを3つ持ってきた。
僕の分はないのかと思っていた。
イタリア人がそんなことするわけがなかった。

マルコとマリアンは二人で一つのグラスのワインを飲んでいた。
マルコは「カンパイ」
僕は「チンチン」
このワインホントにうまかった。
甘くてビールくらいのアルコール度なのにすぐに酔いがまわった。

自分の工房の広告の出ている雑誌を手に、話しはじめる。
彼は日本で映画公開されているんだよ。
今度のドキュメントは日本で公開されるのかい?
日本でもイタリアでもやりたいんだ。
英語の字幕もつけるよ。

ホントに僕の思い過ごしだった。
僕は人に対する時の自分に自信があまり持てないのだろう。
それは自分の欠点ではあるけれど、
マルコというマエストロの大きな心に触れることで、自分が成長していく。
僕がこの映画でやりたいことは正にそれであって、
その自分の姿を映画の中でも描いて行きたいと思っている。

ブルガリア人の弟子ジョルジオもワインを飲んで帰る。
明日午前中は学校で、午後から工房に来るといっていた。
そのあとバルバラという女の人が来て、工房なのか? マルコの家なのか?
家賃の話でやり取りをしばらくしていた。

僕も帰りの電車の時間が危なくなってきて、
早くこの話が終わらないかと思っていた。
そんな心配もよそに、いい感じで終わった。

「イケダ、終わりだ。帰るぞ。最終は何時だ?」
「よく知らない。7時過ぎだよ」
マリアが「7時20分よ」
「うん、いつもそのくらいだ。アッハッハ」
脳天気なマルコだった。

「Tシャツありがとね」
喜んでもらえて嬉しかった。
マルコの大切にしているものは僕も大切にしたいと思う。

さて帰りのクレモナ駅。
7時10分のガリバルディ行きは35分遅れ。
7時26分の中央駅行きはオンタイム。
だったら中央駅行きに乗ることにした。
時間前になると40分遅れの表示。
ありがちだけど、やっぱり頭に来る。
小腹をすかしてたのでパニーノを探すがどこにもない。
街をまわって戻って来たら、55分遅れに変わっている。
もう街に戻る気力もなく、駅で待っていた。
結局は1時間遅れで出発。
中央駅にも30分くらい、トータルで1時間30分くらい遅れて着いた。
あーイタリア。
大ボケかますなよ。



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