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FILM MAKER TAKESHI IKEDA
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2004年11月05日(金) トラッツォ

初めてトラッツォと呼ばれるクレモナの鐘楼に登った。
ボローニャの斜塔よりも高く、階段の段数も多いはずなのに、体力は持った。
ただ頂上に行くと高さを感じてしまい、恐かった。
それでも恐る恐る登ってみた。

マルコの工房に行くと,小さなかわいい猫がいた。
いつの間にこんな猫を飼い始めたんだろう。
自然とカメラが猫の方に向いていた。

マルコお得意のコントラバスの制作をしていた。
マリアンを中心にマルコがアドバイスしていた。
弟子のジョルジオはバイオリンのニス塗りをしていた。
かわるがわるアドバイスをしつつ、自分もバイオリンの制作をする。

マリアンと話をしている時に気が付いた。
「Lui(彼)」という言葉を使っていた。
どうやら誰かからの注文があって製作しているもののようだった。
しばらく聞いていると,こだわりがあってその通りにしているようだった。
いままで見てきた作業工程にはなかった動きがあった。

ひとつヒントをもらったような気がした。
ある人からの注文。
そこに自分のこだわりを通していいものに仕上げるのか?
それともプレーヤーの希望をのんで創るのか?
あいだを取るのか?
ひとつ違った角度からのアプローチを問われた気がする。


僕にとって一番大切なことはコミュニケーションをとることである。
カメラのフレームなどは2次的なものである。
どうでもいいものではないが,大切なものを欠いてしまうと、
本来やりたいことが失われる。

マルコとコミュニケーションをとりながら撮る。
これは案外大変なものだ。
作業を見ながらアングルも決めて,マルコの興味をそそるような動きにも,
臨機応変に対応していかなくてはならない。
もちろんカメラアングルなど、役者でないマルコが気にしてくれるはずもない。
こちらの動きも機敏にならなくては。

いろいろな要素を踏まえると,もっとイタリア語の修練しなくてはならないと感じた。
ただでさえ少ない語彙に、専門用語も飛び交う。
ニスくらいの単語はわかるけど「ヤスリ」はマルコに教えてもらった。

もちろん僕が出したいのはマルコの人間性である。
それを出すためのツールの一つ。
それは僕にとってカメラやパソコンと同じくらい、
体の一部として機能させなくてはならないもの。

そう考えるとブルガリア人のジョルジオはかっこよく見えてきた。
日本より近いとはいえ、異国の地で自分のやりたいことのために頑張っている。
スキンヘッドの彼も心はやさしそうで、僕も応援したくなる。
彼のバイオリンに向かうひた向きな姿を見て、
彼の見るマエストロ像について聞きたくなっていた。

いろんなアングルから探る一つのもの。
理想は高く、鐘楼より高く。
僕もジョルジオもマルコも高くそびえ立つものを創り出していくのだろう。




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