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FILM MAKER TAKESHI IKEDA
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2006年07月28日(金) 沈黙と解放

夏。
このときばかりは街も目を閉じる。
わずかに聞こえてくるのは、
したたり落ちる汗の音。

踏みしめるスニーカーも、
ぼやけた視線の先に響き渡る。
工房の中の人気は薄く、
どちらかといえば空間の作り上げる涼しさを感じる。

時の中に閉じ込められた、
遠く忘れてしまいそうなくらいのかけら。
透き通ったガラスの向こう側に見える、
ルカの見つめているもの。


マルソー


作業を続けている。
ただそれだけのこと。
しかしそれに至るまでの過程が、
シンプルであればあるほど浮き出てくるものがある。

話しかけられる相手がいるわけでもない。
雑誌やテレビがあるわけでもない。
手を付けなければいけない作品があるわけでもない。
目の前にあるものにただ没頭する。

耳元でささやく沈黙と呼吸が聞こえてくる。
それはガラスでありハンマーであり、
欠片を運ぶルカの手であり、それを見つめる目である。

そして僕には見えないルカの見ているもの。
沈黙の先にあるものは何だろうか?


タンジェント


手が職人の仕事ぶりを物語るから、
職人の「手を見たい」などということを聞くことがある。

確かにその人の手や指を見れば、
その人が経てきたものが見えてくるようにも思える。
仕事をモロに反映させた物であるならば、
何よりも物語ることは多いだろう。
僕もそう思う。

撮影中いつも気になってしまうのが、
作業に取りかかっている人の「目」
目は仕事それ自体を映すことはなくとも、
どれだけその対象へと想いを打ち明けているのかを描写する。
そんな風に僕は見る。


沈黙こそ雄弁


手は仕事に費やしたものの積み重ねをみせ、
目は仕事へのその人の想いを表す。

目は言葉や作品などよりもいろいろなものが見える。
集中力、緊張感。
目の美しさは職人には際立って見えるもの。

僕にすら見ることのできる目の前にある作品。
彼らが見つめているのはそれだけではない。
作品をすかした先にあるものを見ているはず。

本当にそうなのかどうか。
目を見ていれば焦点がどこに合っているかが見えるから、
それも何となくわかるような気がする。


外の空気そのままに


どこからか戻ってきたアリアンナ。
今回は白衣ではなく普段着。
そしてそのままで制作に取りかかる。

真夏の海岸から戻ってきたかのように、
小さなスケッチを手に作業台へと向かう。
海岸から拾ってきたと思われる石を使ってキャンパスを埋め尽くしていく。

それまでに見たことのない破片を駆使する。
僕の中では斬新に映った。
下絵のスケッチを横に置いて手早く進んでいく。
アリアンナの目に映るものはいったいなんなのだろうか?

自由気まま


インテルスティチオという言葉がある。
「すき間」という意味だ。
ミラノの地下鉄にはガラスを計画的に敷き詰められただけのモザイクが、
壁に埋め込まれているところがある。

モザイクはインテルスティチオの感覚が大切と聞いたことがある。
埋め込まれたガラスとガラスのすき間のことだが、
それがどんな意味を示しているのか?

単純に言えばそれは手作りの醍醐味というか、
人間の成す不完全さの象徴でもあるように思える。
ミラノのモザイクはモザイクというよりむしろパズルのように見えた。

インテルという言葉は「国際」という意味でよく使われるように、
橋渡しのような意味合いもあるだろう。
ガラスの橋渡し。
モザイクを人生の縮図とするならば、
それは合間に流れている時。

はりつめた瞬間と息抜きのとき


バイクのブレーキにも少なからず遊びがある。
はりつめただけだと緊張の糸は切れやすい。
人の営む生活の中に流れている遊び。

作品へ没頭する集中力を発揮する反面、
緊張をほぐす間隙の感覚。
没入とリラックスのバランス。

ただひたすらに石とガラスを埋め込む作業、
それを見つめる眼差しをとらえるアングル。
余裕の表情を浮かべているアリアンナ。

自分のやりたいモザイクをかたどっていくことの喜びを表している。
義務ではなく、制約もなく、
好きなことをできる遊びのような感覚。

気がつくとルカがジェラートを買ってきていた。
ジェラートをほおばりながら、
無邪気に制作に取りかかる工房。

我を忘れて見入っていた瞬間から解き放たれ、
張りつめた空気もいつの間にか解きほぐれていた。




この日、撮影した映像の一部を公開しています。どうぞご覧下さい。

koko - Ravenna 7




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