前略 11月29日の「日本性科学体系」の放送拝見しました。 医師の倫理観が問われている昨今ですが、この度のこの問題は、このような著作が行 われる背景を考えますと、患者写真の無断掲載に留まらず、もっと大きな問題を含ん でいるものと見なければならないはずです。以下は、私が著者の種々な出版物から、 問題発言を抽出して抗議文としてまとめようとしていたものですが、著者の日頃の研 究・著作活動を分析してみると、研究者、科学者としての顔の裏にあるもう一つの顔 が浮かび上がってきます。そして、それは決して無視できるものではないことが分か ります。 このような医師、助教授が、日本の性教育をリードし、性科学の権威として専門書の 刊行に関与しているという事実を見ると、背筋の寒い思いを禁じ得ません。 女性抗議団体の方に是非お渡し頂きたいと思い、お送りいたします。宜しくお願いい たします。 [ ]内が笠井助教授の著書からの引用です。 日本人の名器信仰に便乗したベストセラー、名器博士といわれる滋賀医科大の笠井 助教授の著になる「名器の科学」は次のように始まります。 [性の俗説の中でもっとも多いのが、やはり女性器にまつわるものだろう。とくに日
*「名器の科学」 本の男性は"使用感"のよし悪しを気にする。・・・・・・名器願望はさておき、世に言われ
笠井寛司著 ている性の俗説には、なんの根拠もなく、したがって、まったくあてにならないもの
'85 ごま書房刊 が多い。いや、俗説ばかりか、性の常識とされているものの中にも、ひどくいいかげ んなものがある。それというのも、これまで女性器というものが科学的に研究される ことが、ほとんどなかったからだろう。いってみれば女性器は、科学から置き去りに された、ほとんど未開拓な分野なのである。だからこそ、いいかげんな説も堂々とま かりとおってしまうわけだ。その未開拓な女性器を、私一人の力ですべて開拓しつく すのはとうてい無理なことだろうが、毎日女性器と対面し、悪戦苦闘しながらデータ を集め、その結果を分析したところ、いろいろと興味深い事実が浮かびあがってきた。 それとともに、性の俗説や常識がいかに誤っているかが、数字のうえからもはっきり 実証されたのである・・・・・・もしかしたら女性器の計測ではギネスブックものではない かと、秘かに自負している] [私としては、とかく誤解の多い女性器について、一般の人たちにすこしでも正しい 知識をもっていただければと思って、この本の筆をとったのだが、とくに女性に読ん でいただけることを切に願っている。自分の体のことを、もっと知っていただきたい のである] 本書は世界ではじめて、3200にものぼる女性の性器をこと細かに生体計測した 結果をもとに、小陰唇の役割から始まって、大きさ、形、色素沈着、大陰唇の形、生 理、色素沈着、皺襞、クリトリスの構造、大きさと、細かな計測結果のデータと性能 上の良し悪しを分析しながら話は進められています。 腟の項では次のようになります。 [・・・・・・圧巻は最後のゆで卵飛ばしだった。かけ声とともに卵がポンと腟から飛びだ したときは、正直いって私も驚かされた。卵は、なんと三メートル近くも飛び、あろ うことか、あまりの妙技に呆然として口を開いていた、私たちの仲間の男の口に、み ごと飛びこんだのである。女性の腟と筋肉の関係からいうと、訓練しだいではこうし た妙技も不可能ではないが、それにしても、私が驚かされたのはたしかである。腟と 筋肉の話をすると、まず腟そのものにも筋肉はある。腟壁の断面を顕微鏡でみると、 粘膜のすぐ下に筋繊維が走っているのが認められる。ただし、その筋肉はひじょうに 薄く、筋肉としての役割はあまり果たしていない。筋肉は、自分の意志で動かせる随 意筋と、動かせない不随意筋に大別できる。見た目の違いから平滑筋と横紋筋に分け られ、平滑筋は随意筋、横紋筋は不随意筋だと理科の時間に教わるが・・・・・・・・] 平滑筋は不随意筋、横紋筋は随意筋です。 最初これはミスプリントではないかとも思いましたが、続きを読むとミスプリでは ないことが分かってきます。 [腟壁の筋肉は平滑筋である。だから、動かそうと思えば、動かすことも可能だろう が、なにしろ薄いものだから自分の意志を十分に伝えることはできない] 随意筋と不随意筋の区別という生理学的に基本的なことも認識していない医学博士 が性科学の権威として日本の性理論をリードしている現実を、突然我々は知らされる ことになります。これは勘違いでは済まされないことでしょう。この現実を一体どう 考えたらいいというのでしょうか。性反応は全て生殖器の筋肉が関与する反応です。 これまで性機能の解明ができなかったのもこの辺に原因があったのではないかと見る こともできるでしょう。こういう偽者は科学者など止めて、卵飛ばし評論家でもやっ ていた方がお似合いといえそうです。 変だなという眼で見始めると、いろいろなことが目に付いてきます。 [問診のとき、耳の切れこみがピシッと狭くなっている女性がやってくる。そこで、 期待しつつ下を見ると、腟入口はパカッと開いていて、締まりがないどころか、ゆる みきっているということが、実際にふれてみなくてもわかることが少なからずあった] [いまでは、私は女性を見れば、わざわざ裸にしてみなくても、その女性の股間がど のような様相をしているか、ほぼ見当がつくようになった] [私の統計データでは、"使用感"まではいちいち確かめていないので、そのあたりの ことはあまり詳しく解説できなくて残念だが、そのへんは読者の判断におまかせした い] [処女・非処女の見分けかた:まず顔を見る。お世辞にも十人並みとはいいがたい女 性にはノット・バージンの印をつける。とびきり美人で、身長も162センチぐらい のは要注意で、意外にバージンなのが多い。不美人ならぜったい見栄をはって処女じ ゃないと答えるだろうと推測すると、それが当るわけである] [クリトリスの発育状況は色白と色黒では明らかな差が見られる。横径が5ミリ以下 の発育が悪いクリトリスは色黒女性はもっとも多く、色白の肌の女性はもっとも少な くなっている。7ミリ以上と発育良好のクリトリスは色白の女性にもっとも多い。女 性の感度はクリトリスの大きさだけが決め手となるわけではないが、色白のほうが感 度良好と、期待したくなる数字である] [肌色と小陰唇の色素沈着の関係:ピンク色の小陰唇の持ち主は、圧倒的に色白の女 性に多い。また、小陰唇全体に強く色素沈着しているものは、色黒の女性に断然多い。 軽度の色素沈着はむしろ例外といえるくらい比率が低い。色黒の女性の小陰唇は褐色 をしているといって、ほぼ間違いない] [私は、女性器と毎日のように顔をつきあわせているせいか、見た目にきれいかどう かということがたいへん気になる。この見た目を左右するのは、なんといっても、そ この色のつきぐあいである。いくら上の顔が美人でも、下の方があまり黒々していた りすると、とたんに興醒めになるのは、われながら否定しがたいところである] [何が名器か、名器についての考え方は人によってさまざまだろうが、これまで話し てきたことを頭に入れておけば、肌色から、その女性の女性器が自分の好みかどうか の見当はつくだろう] [色白な女性ほどヒップが上がっている傾向が強く、色黒な女性ほどお尻が垂れてい
*「女が歓ぶ房中術入門」 る傾向があることが判明した。つまり、色白ほどプロポーションがいいわけで、色白 →ヒップの下垂が少ない→名器の持ち主という図式が成り立つ。色白な女性には名器 の持ち主が多いといってもウソではないということになる] こうなるともうこれは、女性蔑視というより人間差別であると言わざるを得ません。 一昔前までは、医者は我々庶民の慈父であり師であったはずです。しかし、もはや ここにはその面影は微塵もありません。医者という仮面を1枚剥げば、このテイタラ クなのです。このような医者の前で、股を開き、たっぷり観察され続けてきた何万も の女性は、一体どんな思いでこれを読むでしょうか。またこのような「人格者」が、 講演やマスコミを通して性教育活動に広く関与しているのですから、日本の性教育は 「立派なもの」であると言えるでしょう。 更に問題なのは、この人間差別と自己の利益追求のために使われた膨大なデータは 京都大学の大型コンピューターセンターを利用して処理されていることです。 [なお、この仕事が続けられたことに対して、いわば道楽のようなことを私がなすが
*「名器の科学」まえがきより ままに、黙って時間を与えてくださった、滋賀医科大学産婦人科教室・吉田吉信教授 の情愛に厚く感謝するものである。また、コンピューター処理にあたって、惜しみな く時間と知恵を貸してくださった、保健管理学教室の佐々木武史教授に深甚の謝意を 表したい。それとともに、女性性器のデータ・インプット作業を、うら若い女性の身 でありながら、黙々と続けてくれた私の協力者・西沢真理子嬢に、今さらながら厚顔 の自分を恥じつつ、あらためて感謝する] ベストセラーを生むためには、それなりの綿密なデータ収集とその理論化への分析 と展開が必要です。また、古語からドイツ語にいたる膨大な翻訳から執筆までの作業 をいかに優秀な学者が行ったとしても、4年間に3冊のベストセラーを生むのは大変 な時間と経費がかかるはずです。「道楽」と自己利益追求のために、国家公務員がそ の公の時間と公の設備及び人材をいかに自由に活用できるかという好例がここに示さ れています。また、それを公言して憚らないところが日本の自由主義の面白いところ と言っては言い過ぎでしょうか。 このような現状に対して文部省や厚生省はどのような見解を持っているか是非調査 するべきではないかと考えます。 これらの著作に対し日本性科学会の石濱淳美理事は次のような賛辞を贈っているの も見逃せないことです。 [ベストセラー「名器の科学」の著者笠井寛司先生が、その豊富な性科学的造詣を活
*「前戯の技術」カバーより かして、またまたインドの性典に隠された、愛撫術のすべてを一書にまとめられた。 わが国では永いあいだ性がタブーであったから、性の研究などに携わっている学者は きわめて少ない。またどういうわけか、性科学者は昔から関西に多く輩出し、ノーベ ル賞とともに、西高東低の傾向がみられている。大学アカデミズムのなかでは、性の 研究などをすると出世しないといわれている。笠井博士は、こうしたわが国の体制の なかにあって、しかも官学に身をおきながら、いわば反体制的性科学の研究に打ち込 んでおられる、貴重な学者の一人である。この「前戯の技術」もまた、本当の意味で 人間生活に役立つ、貴重な楽しい本になるものと信じて疑わない。今回もまたベスト セラーになること間違いないものと思われる] 同じ穴のムジナは何匹もいるというしかありません。 良識ある医者、科学者は、これらの無責任なハウツー書に眉をひそめているのかも しれません。しかし、一般人の眼にとまるのは、これらの本なのです。異論があるな ら何故内部告発がないのでしょうか。真実を究明しようとするなら、告発をためらう 必要はないはずです。世論をリードし、指導して行く立場にあるべき医者、科学者が このような無責任な著作によって世論を混乱させている状態、またそれを是正しよう としない状態が続く限り性環境の改善は望むことはできません。 このような無責任窮まる著作を繰り返している著者ですから、今回の「日本性科学 体系」の制作経緯についていかに弁明しようと、弁解の余地はないはずです。 こういった慢性的倫理不在症候群は、医療現場においても管理部門においても蔓延 していることは疑う余地はありません。 従って、告発は著者、出版社に留まらず、このような医師、教授を横行させている 日本産婦人科学会、日本性科学会、文部省まで広げるべきではないかと思いますが いかがでしょうか。
フジテレビ報道局 ビッグトゥデイ 宛 意見書から
1995.12.1