●『独裁者たちへ!!一口レジスタンス459』名越健郎編訳(講談社α文庫)
「アネクドート」って知ってる?これはもともとはギリシア語の「アネクドトス(地下出版)」から来ている言葉で,ロシア語で「小話」を意味するらしい.ロシアの民衆はソ連共産主義政権の時代,政府による徹底的な思想言論統制の下,秘密警察の監視や密告を恐れて従順に振舞いつつも,本音では政府や指導者を小話で痛烈に批判して,その欲求不満を解消してきたという.その内容には,政治風刺はもちろん,経済,社会,歴史,民族,軍隊,エロティシズムなど,その時代時代の情勢が反映しているんだ.
ロシア人の生活の中では,この「アネクドート」は重要な位置をしめているそうな.リラックスした会話の場では,気の利いた一口小話を披露しあうことが習慣であり,「こういうアネクドートは聞いたか」「新しいアネクドートはないか」というのが挨拶代わりなんだって.夏は郊外のダーチャ(別荘)に出かけ,シャシリク(串刺しの焼肉)を片手に,ウオッカを飲みながらアネクドート.冬は暖房のきいた部屋でコニャックを傾けながらのアネクドートが,彼らにとって至上の幸福となるという.
この本は,ソ連時代から現在までのそういうアネクドートを集めた小話集.日本にはこういう気の利いた小話はないよね.日本人には欠けているユーモアのセンス,現実をパロディ化するという能力を養うにはもってこい.ただちょっと内容が高度なものが多いんだけどね.さあ,あなたも知的なジョークを身につけてみませんか?(2001/5/2)
●孤児
スターリン時代,大学の面接試験で教授が受験生に質問した.
「君の母はだれだ」
「わが偉大な祖国,ソビエト連邦です」
「君の父はだれだ」
「わが偉大な指導者,スターリン閣下です」
「君は何になりたい」
「・・・僕は孤児になりたい」
●社会主義論
問「キリスト教と社会主義の共通点は何か?」
答「キリスト教は清貧を説き,社会主義はこれを実行した」
●農業問題
ソ連農業省で農相の記者会見が行なわれ,記者団が今年の収穫見通しをたずねた.
農相は答えた.
「例年通りの平年作だ.去年よりは悪いが,来年よりは良い」
●東欧
問「世界で最も中立を維持している国はどこか?」
答「チェコスロバキアだ.彼らは自国の内政にも干渉していない」
●国際社会
問「世界の理想的な人間とは,どのような人間像か?」
答「イギリス人のように料理がうまく,フランス人のように外国人を愛し,ドイツ人のようにユーモアにたけ,スペイン人のように働き者で,イタリア人のように自己抑制し,アメリカ人のように外国語を話し,中国人のように高い給与をもらい,日本人のように個性豊かで,ロシア人のように酒を控えめに飲む人」
●病院
若い女性が産婦人科を訪ねた.
「先生,結婚して3年になるというのに,まだ子供ができないんです」
「服を脱いで,そこに横たわってください」
「・・・,しかし私は夫の子がほしいのです」
●ペレストロイカ
問「ペレストロイカとは何か?」
答「口を開けてもいいのに,口に入れるものが何もない時代のことだ」
●神のお告げ
コール独首相「ドイツ経済はいつになったらよくなりますか?」
神「君の任期中によくなる」
クリントン米大統領「アメリカ経済はいつになったらよくなりますか?」
神「君の任期中には無理だ」
エリツィン大統領「ロシア経済はいつになったらよくなりますか?」
神「私の任期中には無理だ」
●北方領土
問「北方領土の住民が幸せになるにはどうしたらいいか?」
答「第一に,ロシア連邦からの独立を宣言する.
第二に,日本政府に宣戦布告する.
第三に,ただちに降伏し,日本の捕虜になる」