「ラブなんだな」えのきどいちろう(大和書房) |
・やっぱり「FMTV」ってフジTVで深夜にやっていた番組が大きいのです。これは、MTVとお笑いと混ざったような番組で、お笑いといっても、ラジカルガジベリンバシステム(ちがうかもしれん)とか、あと、作家なんかが出演してるようなぬるい番組だったのです。そういうのの流れと、「TVブロス」。おれが学生のときに創刊だったんだよ。安かったのと新聞もとってなかったので、これらの流れで知った作家はたくさんいるんだ。ミヤザワアキオ氏やカワカツマサユキ氏とかさー(漢字が自信ないんだ)。ま、その流れでえのきど氏を知ったんだわ。あと、日本テレビでいとうせいこう氏とサザンオールスターズの関口氏の番組もあったな。これもタイトル忘れたんだけどさ。ははは。 ・ま、そういうことで、コラム集です。 ・こういうことだと思うんだ。この当時、恋愛論ってのが流行ったんだ。で、通常バカコラム書いていたえのきど氏にも白羽の矢がね、ってことで、当初はそれに沿った内容を書こうとしてたんだわ。ま、よくよく読んでみると、大学時代は超女遊びしてたらしいそうだ。だから、受けたみたいけど、でも、どうも、ガラじゃないことを悟ったみたいで、結局、なんでもアリになって、なんでもアリならアレだってんで、いろいろと集めて1冊あがりって感じ。 ・えのきど氏の芸風(作風ですね)はほじくるってことかもしれない。 ・たとえば、「ここ一番でコーラを飲む」知り合いの女性の話を延々掘り下げる。これは、彼女についてほじくるんじゃなくて、「ここ一番でコーラを飲む」という現象自体について、「なんだかなあ」という視点をもとに、水戸泉の塩まきとかをからめたり、とにかく、このネタ1本で引っ張り倒す。 ・ダイエットに関して。「損」とする。たとえば、体重が2倍になれば、地球上に増えた分、多く存在するという考え。これなんざ、かつて、弟子だった故ナンシー関氏のことをちょっと思い出したり(噂の真相に「ふられた」とか書かれて、ナンシー氏文句をいいに乗り込んで、そのままなりゆきで仕事をゲットしたそうな)。 ・失恋レストランが実在したらうっとおしいとか、献血中での看護婦との会話とか、「いい先生」の増加現象についてとか、その切り口、そして、話の転がし方、なかなか勉強になるところが多いなあと。 ・世の中に「ひっかかること」のセンスを養われると思います。そうか、世の中にはまだまだたくさんの「ひっかかること」ってのがあるのですね。(2002/10/19・22:57:35) |
「乳母車を押して、トラックのように私は走った」塔島ひろみ(車掌文庫シリーズ3) |
・文庫とかいって、ちっとも文庫サイズではないのです。スピリッツとかモーニングのコミックサイズです。そして、同人誌です。 ・「車掌」というミニコミがあります。これがとてつもないミニコミなんですが、その大将である塔島ひろみ氏の作品です。パフォーマー・とうじ魔とうじ氏の奥様です。 ・シリーズ3ということですが、これはどうも1「二十世紀終りの夏、私はこんな風に子供を産んだ」と2「大安の日はあんぱんを食べる」に続く1年に渡る育児日記みたいですね。3部作です。 ・おれの買った「3」は、平成7年12月から平成8年8月までの期間です。息子・麦太クンが0歳から1歳の誕生日を迎えるまでですね。 ・塔島氏といえば、「楽しい[つづり方]教室」「ドキュメント・ザ・尾行」「鈴木の人」など、名作、衝撃作を世に問うてます。どれもこれも少なくともおれには忘れられない作品ばかりです。とくに「楽しい[つづり方]教室」は、文章を書くための血肉としてかなりの割合を占めています。おれはこれを読んで文章の書き方を知ったといってもいいくらいです。 ・ということで、ネットであふれている育児日記より定価400円分の価値はあると思います。 ・論より証拠で、引用してみましょう。ちょっと長いですが。 > [4ヵ月] 今日は保険所にツベルクリンを受けに行く日だ。途中で雨が降ってきたりバスがなかなか来なかったり道がすごく混んでたりとかしたもんだから、受付終了まぎわに保健所に駆け込む。 あわただしく麦太を持ってホールに行き、やっと一呼吸ついて見回すと、あちこちに麦太と同じ4ヵ月の赤ん坊が抱かれていた。そしてそれらをゆっくり見回すと、皆それぞれずいぶん変な顔だ。どれもこれも、麦太と明らかに比べ物にならない雑魚である。 そして問診を終えて体重、身長を計りに別の部屋に行くと、また別の子供達がダーッとベッドに寝ていた。その半分以上が、「ゲゲ!」と思うような、じっと見たりするのが悪いような、恥ずかしくてたまんないような、醜さだ。そしてそんなのをそれぞれの親がちゃんと可愛がっているので、感心する。 > > 9時過ぎに帰宅し、遅い夕食を出すと、よっぽどお腹がすいてたようで、パンをぎゅーっと、口に押し込んで、押し込んで、飲み込めないのに次から次へと、わずかな隙間に押し込んで、押し込んで、押し込んで、目が白くなった。 窒息死するので、水を含ませたり、背中をさすったりするけど、死にそうなのに、まだ本人は新しい食べ物を手に取って、口の中に押し込み続ける。ほとんど腐っている100円で買ったスイカも押し込んだ。 酔っ払ってたので助ける気力もあまりなく、これは死ぬだろう、と諦めて見ていると、オエ、となった。そして、喉に詰まったものが、みーんな、口から押しつぶされた状態で、長くのびて出てきた。パンとスイカにつばがしみこんで一体化している。 やわらかく食べやすくなっていたので、出てきたやつを細かくちぎってもう一度食べさせた。 > ・と、こんな感じ。ニュアンスはわかっていただけるか。 ・前にネットの日常日記なんてムダで無益とかいう論調があった。今でも、「ネタ日記」と「タダの日記」なるワケのわからん「村の住人」にだけわかる区切りがある。区別というか、差別というか。 ・本作はわりと淡々とあったこと、食ったこと、いったこと、きいたこと、思ったことを綴っている。まあ、育児日記なので、麦田クン中心に。というか、0〜2歳まではどうしても子供中心になるわな。ましてや母親は、「全て」になるんじゃないかい。 ・とかいいながらも実際問題「全て」にはできんわな。自分が食ったり生活する分もあるわけだし。だから、てんやわんやするわけだし、それを記すのは、才能も必要だろうけど、とてもおもしろい読み物ではあるはずなんだね。だいたいが、「ネタ日記」ってもうすでに流派みたいのがあって、かなり様式化してるじゃん?10パターンもねえんじゃないか? ・ま、それはともかく。非常におもしろい読み物にもなるし、結局、育児日記でもなんでも、最終的には書いている人の日記になるんだなあってことがわかりました。自分のことを1行も書かなくても、全部ウソでも、結局自分の日記になる。そういうことがよくわかりました。 ・本作、わりとあけすけで、かなり塔島家の内情に詳しくなったりします。アパートに風呂がないから、ダンナの実家にもらい湯しているとか。しかも、麦太クン、たまの1番風呂なのに湯船でウンコもらしたりしてるし。 ・ということでおもしろいです。1と2も買おうかなと思ってます。 ・おれは東京は中野・ブロードウェイというところで手に入れました。通販もやっておりますし、ミニコミの専門店、扱ってる書店なんかで、取り寄せや手に入ったりもしそうです。 ・ネットでは、「タコシェ」『BOOKS ART SPACE』とか、探しようもありますんで、探してみてください。 ・とかいって、サービスで探していたら、そのものズバリ「車掌」についてくわしいところをみつけましたわ。ここがイチバンかも。 ・で、調べたら、「大安の日はあんぱんを食べる」は、育児日記じゃないみたいですね。ああ、そうなんだそうなんだ。 ・ステキな人です。そしてステキな本でした。(2002/10/08・14:10:18) |