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ポトチャリポラパ/コミック/2007年
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2007年/3月
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2007年/3月/29日
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「レイモンド」1巻 田丸浩史(富士見書房/角川グループパブリッシング)

「田丸浩史、新境地開拓!」なんてオビに書かれていました。

・小学生高学年女子の部屋の机の引き出しから海兵型の黒人ロボットであるレイモンドがいました。あと「ドラえもん」的に。

・海兵型の軍人で黒人でアメリカ人ってのがポイントで、最初の延々英語が通じないってネタが新境地なのかしらね。3話くらい引っ張ってましたし、これは星の数だけある「ドラえもん」パロディでもたしかに新しいですよ。「翻訳こんにゃく」噛んでこいって話じゃないですか。

・ま、4話以降は未来の道具やらタイムマシンを使った、わりとあるあるなネタになりました。ま、そこで「一休さん」をフィーチャーするのはかなり田丸節ですけどね。「ラブやん」における、ジャモジさんみたいなもんかしら。

・少年誌連載なのか、下ネタは控え目で、けっこう真っ当にドタバタしてるのがまた新鮮ではあります。それでもにじんでくる男臭さと、ワイルドさは、さすがです。

・で、途中で、健全な女子をのび太役だと間が持たないことに気づいた田丸先生が、同級生の男どもを動かしはじめてからは猥雑とワイルドに磨きがかかり、なおかつエロネタも増えてきました。女教師ネタはいいね。

・田丸氏はもう安定してますよね。だから、新境地というより、普通にいつもの安全安心の田丸節ですが、ロリオタプーとかヤバ目ネタがお好みのようでしたら「ラブやん」を再読されたらよろしいかと。

・あと、1話ごとの語り下ろし田丸半生記はサイコー。ゲストの西川魯介氏もサイコー。おれも西川氏といっしょで田丸氏のラブコメはけっこう好きよ。
(17:58:10)

「掃除当番」武富健治(太田出版)

・著者名をみるたびに消費者金融を思い出してしまう。

・8本収録の短編集です。「鈴木先生」ブレイクにつき、同人誌などから集めた短編集という、最近、よくみかけるパターンです。

・あとがきによると、作者が「本道」として推し進めていきたい、開拓していきたい、少女の日常を描いたものです。

・掃除当番をマジメにやらない班の人たちや、その気持ちをわかってくれない先生などにイライラしてる女生徒の「掃除当番」
・後に「鈴木先生」の2巻でもエピソード紹介的なカタチになった、小川という美少女が登場する「ポケットにナイフ」。そう、「鈴木先生」の2巻を読んだ方ならおわかりでしょう、バタフライナイフのエピソードですよ。あれの完全版といったオモムキ。
・本ばかり読んでいる少女とシャイ子と呼ばれるシャイなのにやることやる女の子との話「シャイ子と本の虫」
・衝撃のオチであった「まんぼう」
・昔好きだった「男」にそっくりの女子中学生に会って思わず後をつける「勇」
・お互いに妥協しているカップルの女性側の心の葛藤を描く「康子」

・などなど。

・やはり表題作の「掃除当番」がおもしろいです。掃除をやってくれない班のほかの人に対してイライラクヨクヨするミクロな感じがとても新鮮ですね。うまい「些細」をついている感じ。

・その反面、飛びすぎな展開についていけなくなる、「勇」あたりはあまり。

・ふと、このディティール命な感じは、泉昌之氏、Q.B.B.、すなわち、久住昌之氏と似てる感じがしました。その質や方向性はずいぶんとちがうようにみえますが、たとえば、泉昌之氏の初期の名作「夜行」における、トレンチコートの男が、夜汽車で駅弁のオカズをどういう順番で食べるかひたすら考えている感じと、「掃除当番」のみんな手伝ってくれないのに不満があるけど「いいかっこ」にみられるのはイヤという葛藤などの悩み具合というか、優先順位に悩んでいるところが似ている。それは「康子」での主人公康子のエロじゃない意味でのいやらしい葛藤にも似ている。

「鈴木先生」にある、話が連続してるために起こるグルーブがないのが物足りない。いわゆるオチがビシっと決るタイプの話は少ないですしね。ああ、巻末の「カフェで」はオチがきれいでしたね。

・クオリティは高いです。ただし、「鈴木先生」を思いすぎ、期待しすぎると肩透かしという、これまた冒頭に書いたパターンの定石どおりですね。
(19:06:04)amazon

2007年/3月/24日
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「境戸町奇談」小林真尋(スクウエアエニックス)

・道をはさんで神社と教会がある。昔から仲が悪くてお互いに退魔をナリワイとしている。
・神社側の跡取り少年は、才能がなく日々苦労している。そこに教会側から「秘密兵器」として、タメ年のシスター少女がくるわけです。かくして、はじまる退魔ドタバタラブコメと。

・なににどのような連載されているのかよくわかりませんが(スクウエアエニックスの雑誌は女子更衣室の中くらい縁がないし)、コミック1巻で完結で全4回。1回がめちゃくちゃ長いの。

「連載中は毎回パニックに陥り〜」なんてコミックのカバー見返しの作者あいさつにも書かれてますがさもありなん。よく4回も、この長丁場で切り抜けたなと思ってしまいます。平均50ページで初回は70ページくらい。

・妖怪退治と、シスターと神主のラブコメとを大きな軸として、ほかにいろいろとくすぐりを入れてますが、つくりはかなりシンプルでしっかりとしてまして、とにかく構成力がぬきんでていると思います。冷蔵庫の中身をあまり追加で足すことなく(新キャラ等)、ムダな遊びも入れずに、オーソドックスな調理法で単行本1冊分をまかなったね。
・オープニング→教会と神社の様子を描き、シスターと神社の息子のやりとり、学校風景、事件が勃発、シスターと競争しながらも結局協力して退治、だけどシスターはずるがしこく美味しいところをとって、神社はまたビンボーでエンディング。超基本です。

・弱点は、まあね、1巻で終ってるところからもいろいろとあるけどさ。絵がアッサリにもホドがある気味(丁寧ですが)とか、おれはオビ後ろのちょっとドキドキハプニングなエロ風味のラブコメを期待したところ、豪快な音を立てて空振りしたりね。

・あと、シスターの銭ゲバな性格はわかりますが、ツンデレがよくわかってない人が演じてるツンデレみたいな、ツンがすごくエグイ感じなのがどうにも好きになりきれないというか。男のヘタレ具合も、それの反動のツッパリ具合も、もうひとつ好感はもてなかったなあ。いや、ちがうんだな。逆にリアルの女性のそれに近いわけなのか。性格がしっかりしてるから、いうことがシビアでエグかったりするんですね。でも、神社の息子には別の感情を持ってるから冷たくしきれなかったり逆に拒絶や反抗してみたりするんですね。

・細かいギャグや、妖怪のアイディアや、バトルシーンは、ベースの絵があっさりだから、ややスカってるのもありましたがよくできてます。ただし、その質ってのはなんていうか女性が少年誌に描くために慮ったって感じのものですかね。それが上記のエロネタのスカしなどに現れてます。

・いやぶっちゃけこの題材なら1回2話掲載とかにして、全8話にしたほうがよかったんじゃないかしらね? 1話中にあきらかに話が変わってるところもありましたけど、1話のスパンだとよくできてるけどボリュームに欠ける感じが。そう、構成がなまじ上手すぎるからアッサリと読み終えるんですよね。「あれ、もう終わりか?」って。

・個人的に3話4話に登場した、金持ちの娘(で、神社の息子に恋をする)と、そのテキトーな召使がよかったね。
(18:12:18)amazon

2007年/3月/22日
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「街角花だより」こうの史代(双葉社)

・こうのサンの最新作は商業誌のデビュー作のリメイクで、デビュー作も収録と1冊で大まかにこうの史代遍歴をみわたせたような気持ちになれますがそれはキセル乗車と同じ理屈ですので注意が必要です。

・街の儲かってないお花屋さんを舞台としたハートフルストーリーです。儲かってない花屋さんでけなげに働いているメガネの店主さんと、なぜか働くことになるいろいろあったバイトって図式です。
・1995年のが「明石版」で、2007年のが「日和版」なのです。どちらも同じパターンだけど名前ほか微妙にちがうところがあります。

・で、最高に共通点なところは、ユリっぽいところよね。

・いやね、「夕凪の街/桜の国」みたいな社会派マンガの人ってイメージを強く持ってる方が依然多いようですし、それを乗り越えた自称「通」(おれのことよ)には、ほのぼのコメディが本線みたいに思えるこうの作品。
・それは正しいんだろうけど、それだけじゃないモヤモヤしたものをなんとはなしに感じてました。本書がわかりやすく導いてくれましたね。こうの作品のキャラはエロいのね。

・以前のも検証してみようかと思うくらいですが、「明石版」も「日和版」もそれらにはさまれるカタチになる短編もエロい。エロいってのはちょっとダイレクトすぎる表現でおれのいいたいことと微妙にちがうんですよね。色気があるってのもまたちがう雰囲気だし。なにか匂い立つというか艶があるというか。あるときにすごく生々しさを感じたりするんですよ。それこそハッとするくらい。

・明石版も日和版も徐々に2人が惹かれあってるんですよね。店長とバイトのカンケイから友達になり、その先に自覚無自覚なしで足をじわじわと踏み込んでいく感じがゾクゾクする。エッチだ。ま、それもすごくすごく淡く描いてますけどね。

・明石版では1話目でメガネの店長さんのメガネを取るとまつげが長い美人さんになるってネタに、店員さんがドキっとしてます。
・一方、店員さんがちょっといいなと思っていた顔見知りの男の縁を取り持ったときに、店長さんが「いい人だ」とじっとみつめられてテレたり。

・日和版のほうではどちらかというと店長さん側のほうがアプローチしてるかな。最初「けったいな店長さんだな」と思ったけど、ユリと考えると合点のいく行動の数々。

・短編も「俺様!」での短いアクション&ロマンス。「願いのすべて」での飼い犬が美少女になって居候というエロマンガとかで何度かみたことあるシチュエーションながら、天真爛漫な犬っぷりな少女がかわいくて仕方がなかったりなあ。もしかして萌え?

・いやまあここまでおれの妄言を読んで期待しすぎるとズコーっと激しくコケる可能性が高いのですが、このじんわりとあるエッチさはとてもいいんですよ。スイカに一振りの塩のようなものと思っていただければ。こうの氏の女性キャラはしっとりとしていて突如大胆な行動される不思議ちゃん的ではありますが、その大胆なところにちょっとエッチなところも混ざっているのがミソなのかもしれませんね。そういうのに男がドキドキくるのを熟知されているのかしら。

・いつでも新刊が楽しみ。既刊読み直すのも楽しい。そして1コマ1コマ楽しいし、お話全体も楽しい。ということでいつまでもたくさんこうの史代氏のマンガを読みたいなといつも1冊読み終えるたびに思うボクでした。ただ、ボクがこんなこというとすごくウソくさく感じるようで評判が悪いけど本心だからネ!

オススメ
(14:33:25)amazon

2007年/3月/19日
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「学園黙示録 HIGH SCHOOL OF THE DEAD ハイスクールオブザデッド」 1巻 佐藤大輔&佐藤ショウジ(角川グループパブリッシング)

・ゾンビマンガです。ゾンビはいいですね。
・最近、「ライフオブザデッド/古泉智浩」や「東京ゾンビ/花くまゆうさく」「カワイコちゃんを2度見る/福満しげゆき」などの青林工藝舎のひねったゾンビものばかりを読んでいたので、当初のジャンル「ホラー」のカテゴリーに入ってるのは久しぶりです。

・ある日、学園にゾンビがきます。ゾンビにかまれたものはゾンビになり、ものすごいイキオイで学校はゾンビの群れになります。主人公は幼馴染と逃げようとします。道中、戦ってる人たちといっしょに逃げることにします。

・なんていうかな、とてもゲームよりのマンガだなと思うのです。いわずもがなの「バイオハザード」です。ただ、ゲーム化できるか?という観点でみるとマンガ的だよなあと、とってもコウモリなマンガなんですよ。トリなのケモノなの?って。

・作画の人は知ってる人なんだ。「ふたりぼっち伝説」を描いてる方ですね。ヤングキング系の雑誌で、締め切りに間に合わずにアナをあけた作家のかわりに作品を描いていた「代原作家」だったんですよね。この「ふたりぼっち伝説」のいなたい雰囲気は今回はないですが、画力はバッチリでございますね。

・カバー裏折り返しにある原作者のあいさつにもあるように、「ゾンビとバトル」と同等に「おっぱいやパンツ」が描かれてるのがおもしろいなあと。制服に返り血を浴びながらおっぱいやパンツってどうよ?って。まあ、ホラーとエロは親和性が高いもんですけどね。これはエロというより「萌え」な感じが新しいとすればいいのか? 変わった取り合わせとするべきか。

・1巻の白眉は、ミリタリーマニアのオタクと行動をトモにしていたツンデレでロリな少女がコンタクトがずれるのでメガネをかけるシーンだったりしますからね。

・各キャラがトートツな感じはあります。たしかに、パターンとして、行動をともにする人間にトラブルメーカーがいないとおもしろくないもんですが、それが「はいこんにちは。今後ともよろしく」って感じで現れたのがちょっとね。もうちょい軽く伏線を敷くとかできんかったのかしら。

・1巻の終わりに学校の外に出てしまうんですが、それはあとでまたなにかからんでくるのでしょうか。

・2巻もすぐに出るようですから楽しみにしたいと思います。
(18:20:47)amazon

「東京ゾンビ」 花くまゆうさく(青林工藝舎)

・花くまゆうさく氏とは縁がなかったのです。その昔、「コミックアレ」というコミック雑誌がマガジンハウスから発刊されてました。そこでえらいフィーチャーされていたのです。期待の大型新人とかいってね。当時、その手のヘタウマ系には辟易してたころなので、「ケッ」とは思っていたのです。だから、「コミックアレ」ほかに、オヤジ週刊誌の4コマとかくらいしか知らなかった。

・で、本作。「ライフオブザデッド/古泉智浩」で影響を受けたとのコトなので買ってみましたのです。実に初花くまゆうさくということです。

・江戸川区にある産業廃棄物を集めた「黒富士」。あらゆるものを埋めるけど、死体もようけ埋まってます。あるとき、そこから死体がゾンビとしてコンニチハして東京中ゾンビだらけになりました。
・そして五年経ちます。生き残った人間は、一角に高い塀をたてそこに住んでます。金持ちはマンションに、一般人は奴隷として。

・そういう閉鎖空間でストレスのたまる金持ちのために「ゾンビファイト」が繰り広げられています。ゾンビと腕に覚えのある人間が戦うんですね。

・つまり、格闘マンガってことになるんですね。

・ゾンビネタがおもしろいのは、ゾンビはいろいろなものにあてはめられるからで、ホラーとしてモンスターとしてのゾンビから、ホームレスとしての象徴。エイズなどの難病にかかるなど。

・本作、ラストの怒涛の展開と、ポジティブさは、ほかに類をみないものですよ。スカッとします。そのときのゾンビの扱いがすごいね。たしかに、そうなんだよな。

・あと、オープニングのゾンビ登場シーンもなかなかすごいものがありますね。

・ということで、けっこう格闘シーンが多い変り種のゾンビマンガですが楽しかったです。
(18:52:15)amazon

「彼女を守る51の方法」 3巻 古屋兎丸(新潮社)

・おいおい、51巻まで続けるつもりか?ってくらい、まだまだ東京は地獄のままです。というか、本作、お台場からはじまって、地震あとのグジョグジョの東京を案内するってマンガになってるのかもしれないなあ。

・東京タワーの上から東京を見下ろし、六本木を通って渋谷って、主人公たちは巡ってます。東京タワーからは、火災旋風って火が巻き上げられる竜巻があちこちにある東京を描き、六本木では、ガイジンの人のやさしさを知り、主人公がPTSDにかかるわけですよ。

・おれの買っていた同時期に出た地震マンガはどちらも2巻で完結しましたが、本作はまだまだ続くようです。ポイントは3巻続いてもちゃんとおもしろいってことですね。

・一応の目的はあるけどロードムービーげな感じで彷徨ってる主人公たちとの出会いと別れを描いてるんですね。それを通じての成長も描いてます。

・そしてそれぞれの情報がまた濃いこと。3巻では「トリアージ」というのがシビアだったなあ。あと、主人公ら一行の1人がレイプされます。で、こういう極限時での男の性衝動なんてのも解説しておりますね。例外なく酒を飲んでいるやつがレイプするそうで。

・作者のあいさつにもありましたが、これは現在古屋氏にしか描けない、「みてきたような地獄」ですよね。すばらしいです。
(19:10:23)amazon

2007年/3月/17日
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「勝ち組フリーター列伝」 大西祥平&吉本浩二(小学館)

・縁は異なものといいますが、書店の店先で吉本氏の「昭和の中坊(原作:末田 雄一郎)」を買い、コミック内のエッセイコミックで富山県出身ということを知ります。世間的には「こまねずみ出世道常次朗」のほうが有名なようですがそっちは未見です。

[富山に縁のある漫画家さん]

・その後、このサイトを知り、[吉本浩二とは - はてなダイアリー]を知りました。



漫画家。リスト::漫画家。

1973年富山県生まれ。

大西祥平が原作の「勝ち組フリーター列伝」(ビッグコミックススペシャル ISBN:4091805000)は、「勝ち組フリーターたちの取材」に名を借りた、作者自身の「売れない漫画家」としての過酷な人生の迷いっぷりを描写しまくった、私漫画の傑作。



・この「はてなダイアリー」の文章で興味を惹き本書を購入しました。これを記述した人はすごく偏ってます。だけどそれゆえに興味を惹きましたし、本書の魅力は上記によく描かれております。

・ということで、原作の大西氏と、「勝ち組」の7人のフリーターにインタビューするというテイで、その実、作画の吉本氏のマンガ家業の苦悩を描いているエッセイコミックになってるんですね。ルポマンガの皮を被ったエッセイコミックです。ま、差がないような気がしますが。

・家を買ったフリーター。20万を2億円にしたデイトレーダー。沖縄にカフェを出した夫婦。フリーターから区議会議員になった等。

・彼らの話や一家言や教訓、裏技なども当然のことながらおもしろいですが、さらにおもしろいのは、連載を持っていながらも汲々した生活をしている作画の吉本氏が彼らの勝ちっぷりに逆上して食ってかかるんですよね。そこがクライマックスだったりします。

・本作、フリーターの方々の生き方ノウハウというタメになったり知的好奇心が満たされつつ、作画の人のキレ芸を楽しむという、小学館トクイの芸風である「一粒で2度美味しい」状態になってます。ウンチクとエンターテインメントね。ウンターテインメントってか。

・そして半分くらいから、ストーリーが生まれていきます。吉本氏の恋愛模様もまざってきて、物語に連続性が生まれます。

・それらが最終回でケリがつくんですよね。フリーターという生き方についても、吉本氏の苦悩にも、恋愛の行方にも。

・不定期連載で2003年から3年にも渡りかかれており、そら絵柄も変わるってくらい少しづつ変わりますが、それが年月を経ているという変化にもなるんですよ。絵はイイ意味で垢抜けないままですが本作にはこれ以上ないくらいフィットしてます。

・読み終わると、作者も、登場したフリーターの方も幸せになってくださいと祈ってみたくなったりねえ。それはつまり感動してるってことになるのかしらね。

・ドロくさいクセのある絵柄ではありますが、ハマると気にならなくなります。熱いマンガです。

オススメ
(16:11:15)amazon

「少年幻燈館」勝川克志(小学館)

・13年ぶりの単行本です。すごく知ってる作家さんとはいえないんでどれほどの既刊があるのか正直なところよくわかりません。正直ついでにいうと絵本を描いてらっしゃるマンガ家さんはそっちのほうで活躍されるのが長かったりするとよくわからなくなったりしますよね。佐々木マキ氏や永島慎二氏や石坂啓氏などなど。

・そして、世間的な知名度というのもまたよくわからない作家さんです。おれはもちろん好きですからコミックを買ったのです。

・カンタンに本書を評すると「田舎の三丁目の夕日」。西岸良平氏のナツカシマンガは都会のイメージが強かったですが、こっちは田舎ですね。どこなんだろう?愛知? 岐阜? そういう方言バリバリのものです。

・田んぼと山々が広がるのどかな場所で昭和30年代の田舎の少年ライフが展開されていきます。

・引越していく少女が「ギフチョウ」をみたいというのであちこち探し回る。
「巡回映画屋」の父と全国を旅しながら転校転校の生活を送ってる少年と仲がよくなる。
・親の仕事である電器屋の話。その電器屋で配達にベンリということ三輪自動車のミゼットがくる話。
・昔の田舎のクリスマス模様(なにか洋風なことをしようと家族でトランプで遊んだりする)

・本作は筆者の自伝的要素が強く、やはり白眉はタイトルにもなっている自分でフィルムを製作して幻灯機で上映会したり、ガリ版を買って学校で新聞を発行する話かしら。

・勝川氏のオンリー1すぎる絵がやはりすごいです。この絵にもともとノスタルジー要素がしみこんでるのでそうとは気づきませんでしたが、おれの知ってる限り、ここまでモロに昭和30年代的な「写実」内容ははじめてかもしれませんねえ。そして、そこいらのマンガ家がはだしになってもかなわないくらいの写実なのに、すべてにスーパーデフォルメな勝川節がしみこんでいるのです。イメージとしてヤングにわかりやすく伝えるならば「Dr.スランプ」ですかね。ペンギン村的な「ナンデモアリ」はひょっとしたら勝川氏にルーツがあるのではないでしょうか。

・こういうマンガを「絵が上手いマンガ」というんですね。デフォルメされた人物にあわせて世界もデフォルメされているからその世界はちゃんと「機能」しているんですよね。これが8頭身のリアルな人物を描いていながら、貧乏劇団の書割よりもしょぼい背景しか描けないマンガ家のほうが多いですからね。

・そこにあるものがすべて「制御」「統一」されている世界に安心して浸ることができる。こんな幸せなことはないね。こういうマンガ家さんがもっともっとたくさんいるともっと幸せになれるのになと思う。つーか、勝川氏も13年ぶりとかいってないでもっともっと描いて読ませてほしいなと思ったりもしました。

・過去のおれの記憶にくらべてややアッサリ風味な絵になった気がしますが、それでもまったくオンリー1かと。だれも真似できない画風ですよ。

・おれは昭和30年代には存在してませんが、そのときの空気は「三丁目の夕日」でも、本作でも感じ取ることができます。本書を開くとそこには昭和30年代の田舎の光景が広がる。おれにはとくに5月の田植え時期の田んぼのニオイが強く感じられる。それがありがたくもうれしくもなつかしい。

オススメ
(16:18:27)amazon

2007年/3月/16日
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「美童物語」比嘉 慂(講談社)

・沖縄の方による沖縄のマンガです。沖縄の方はPCで人名などを書くときに苦労しそうですね。本作、「みやらびものがたり」と読み、作者は「ひがすすむ」氏です。もちろん、カンタンにこの文字は出せませんでした。

・以前「カジムヌガタイ」という沖縄の作品をお描きになられてます。そっちのほうはよりダイレクトに「戦争」がからんでましたが、本作は、じんわりとからめてで戦争がからんでます。読みきり短編4編収録です。

「風葬」では、本土よりジャーナリストが島に伝わる風習である「洗骨」を取材にきます。文字通り死体の骨を身内が浜辺で洗うというもの。でも、ジャーナリストがきた本当の理由は?

・沖縄の置屋にいった娘との友情を描いた「ジャリ馬」

・沖縄のコトバを喋ると「バツ」として首からフダを下げて授業を受ける「方言札」

・特高警察にマークされている男が里帰りするもいわれない差別や疑いを受ける「仁政叔父さん」

・どれも「戦争」によりゆがめられホンロウされる人々が描かれてます。コトに女性。それこそタイトルにつながってきます。美童というのは少女や乙女の意だそうです。4本にはカマルという少女が物語り進行の役で登場します。彼女の目を通した戦争に巻き込まれた沖縄の姿が映しだされてるのです。

・前作ほどショッキングな内容はありませんでした。前作は日本兵の横暴とか、人の生きる死ぬがダイレクトに起こる、「戦地」としての沖縄でしたが、今作はそうなりつつある沖縄でしたから。

・でも、個人的には「方言札」の存在にはかなりのインパクトを感じたのです。コミックサイズくらいの板に「方言札」と書かれており、アナをあけてヒモが通っている。
・授業中に方言、すなわち沖縄のコトバで喋ったらそのフダを首から下げるということです。標準語で喋ることを強制されていたわけですね。沖縄の人の感覚だと、標準語じゃなくて「日本語」です。しかも、そのフダは単なるバツじゃなくて、実際に内申書に響いたりするかなり効力のあるものだったりするのですね。
・つまり、標準語は「日本人」になるためのコトバということですよ。沖縄の人は日本人になる必要があったわけです。だから、「日本語」なんですよ。

・そして、そのことのために負傷したために軍からお役目ゴメンで帰ってきた少女の兄を描くわけです。そこでの日本人との交流がまた泣かせるのですよ。日本人になり日本のほこりを持つために日本語を覚えるってね。

・他の作品もそういった日本人でありながら日本人でない沖縄人の哀しみをどっぷりと描いております。イッキ読みできない濃さ。泡盛ストレートでイッキって感じでしょうか。

・相変わらず、ほぼ全てのコマに背景が入ってるし、異様な書き込みがあるというゴージャス仕様ですが、絵自体のレベルはそうでもないというやつ。ありていにいうと「ナニワ金融道」的。タッチとかはちがいますが方向性が似てるかと思います。
・前作より人物描写は格段によくなりました。ご年配とお見受けしますけれど、すごい向上心と感服しましたです。カマルちゃんがカワイイです。「萌え」というのからは程遠いですが。

・重い一辺倒にならないようにアクションや笑いを混ぜ込んだりの工夫もすごい、完成度が高い作品集です。
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2007年/3月/9日
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「ピコーン」舞城王太郎&青山景(小学館)

・サブカルチャーが大好きな方は「これが読みたかった」とお思いになるでしょうし、サブカルチャー的なマンガを描いてる方は「おれが描きたかった」とお思いになるでしょう。そういう「ヴィレッジバンガード」で散財せずにいられない方が読む本だと思います。

・おれは「すごい人だ」って噂にきく程度しか、原作の舞城氏のことを知りません。もしかして「舞城王」まで苗字?って思うくらいです。もちろん、著作のほうはご存知ありません。
・青山氏のほうはなぜか当サイトで検索客が相次いだ「SWWEEET」の作者ということを知ってます。

・本作、「IKKI」に掲載された表題作と、完全描き下ろしで「スクールアタック・シンドローム」の2本掲載です。

・ちょっとやんちゃな彼とのささやかな同棲生活。ところがある日彼は死体でみつかった。彼女は犯人探しに奔走する「ピコーン」
・福井県の学校内で623人を殺した3人の生徒。それ以来、伝染した暴力が連鎖している。別れた女房との間に子どもがいて、彼も「伝染」してるようだってんで、長い引きこもりから立ち上がって学校にいった男。「スクールアタック・シンドローム」

・ディティールがミソだと思いますね。たとえば、「ピコーン」における、「スペイン風オムレツ」「クレッソワーント」「フェラチオ」「大検」「ピコーン」「悪魔崇拝」「松本人志」。これらのキーワードを選択するセンスがとにもかくにも「新しい」とおれには思えた。

・大筋のネタバレちょいゴメンでいうと、愛してる彼氏が死んだけど強く生きることに決めたって、下手したらYoshiかよ!って青春ストーリーなんですが、その感触は全然ちがう。おれは本作のほうが全然流れ込んでくる。

・その「センス」にまみれて、作画の青山氏も炸裂させてます。実験的な作画や構成など、随所に「たのしー!」という気持ちが読み取れます。「ここはこんなんしてやろ」って楽しんで描いている感じ(実際は血尿モノでしょうがね)が空回りや独りよがりに終らず読者にも効果的に伝わってます。前作比70%増しくらいで伝わっている。前作はそう考えると意欲作ではあるけど作者のいいたいことが伝わりにくかった気がすると今になって思う。

・ただ、本作、いくつか飛び越えなければならないハードルがあるかな。じゃないと意味がわからないところも。ま、そこいらはサブカルの宿命かもしれないなあと。表現を先鋭にすれば受け取る側だって限られてくるし。

・ぶっちゃけ、「松本人志」のところってわからない人多いじゃないか。かなり重要なところだけど。それが最後の「ピコーン」につながるんだしさ。別にネタバレじゃないから書いておくけど「一人ごっつ」ね。これがかなり重要な小道具なので、もし未見の人がいたらレンタルビデオ屋で借りてみておきましょう。

・けれんまみれだけど実はド直球なラブストーリーってあたりがちょうどおれ内でもいいところに入ったみたいです。

・本作を経て青山氏のレベルは相当アップしたんじゃないでしょうか。次回作をかなり期待してます。すごいものを読むことができそうです。

・1200円っておしゃまな値段ですが、かなり相応です。

オススメ

参照:[YouTube - 一人ごっつ]

(13:54:38)amazon

「少年少女漂流記」乙一&古屋兎丸(集英社)

・深夜の「バーミアン」で何時間でもあーでもないこーでもないと練りながら作った「完全合作」だそうです。

・10代の悩める少年少女を描いた短編集。

・満員電車の中、通学。「みんな沈んじゃえ」と少女は思う。そうするとみんな水没し、少女は上空でボートに揺られている。そして、好きな男子や好きなものが次々と流れ着いてくる「水没記」
・部屋に巨大な飼育ケース(テレビ画面で80型とか)を置いてアリを飼ってる少年。うっとりと眺めてる日々。ある日、アリが「ドット」になって好きな女子を描いて話しかけてくる「アリのせかい」
・自分が魔法少女だと思う少女。進学校でオチコボレてる少年。ダイエット成功したけどお菓子からの攻撃に負けてしまう少女。死んだヤンキーの幼馴染と自作のバイクでツーリングする少年など。

・すごくおもしろかった。なんていうかな、かつて少年少女だった人、ことに、かつてトンガリキッズだった人が読む本じゃないかなと思ったのです。「オールドニューウェーブ」といいますか。モトサブカルチャー、サブカラーだった人向けというかね。

・意図的だと思われますが、時代とのシンクロをあえてユルく設定してあります。それこそ20年くらいのスパンでユルいんじゃないかしら。薄型テレビもケータイも服装のセンスも「今」のそれと思いますが、たぶん、「今」の少年少女には「古いよ」って思われるくらいの感じ。だからオッサンいわくのイマドキ感覚。

・ん。でも、それは大正解で、現役が読むより、かつて少年少女が読むためのものだから、購買層としてはジャストフィットしてるんだと思いますよ。

・そもそも本作の最大のキーワードは「伊集院光」です。いや、2人による解説対談で初っ端に出てくるキーワードがそれですし。
・中2病で、デビッドリンチ占いです。本作はその2つで語ることができるそうです。たしかにそうです。
・中2の背伸びしがちで自分を表現し切れない未熟さを持て余してる時期と、デビッドリンチの映像のような不条理で気持ち悪い表現。これらが混ざり合って彼らはホンロウされてますし、かつての少年少女もそうだったと思い起こすしくみになってるのです。

「学校の中枢」では、進学校のオチコボレクラスの6組からかつての親友のいる1組の教室まで、市松模様の廊下の黒だけを踏んでいけば、また昔のように仲良く話すことができると思うが、あと1歩というところで、廊下がゆがみ、空間もゆがみ、どこを歩いているのかわからなくなる。そうするうちに白い模様のところに自分の大切にしていたものが現れてくる。そしてたどり着いた先は学校の中枢だった。

・あと、やはり少女のほうがステキですね。前後編の「お菓子帝国」が1番好き。ダイエットして、あと1キロやせたら好きな男子に告白する。でも、甘いものが食べたくて死ぬと。で、トモダチがイタズラで寝ている彼女のクチにケーキを入れる。そうするとお菓子に襲われて滅亡しそうになってる人類という図式がみえる。そして「人類を救わなければ」と使命感に燃え、お菓子をバカ食いするようになるんですが、このケーキを食ったときからお菓子帝国の侵攻図のビジュアルはやはり当代随一ですよ。生クリームの洪水に飲み込まれ、舞い降りる八橋に食べられ、地面からはチョコレートパフェが生えてくるのです。で、リバウンドと。この話のラストがすばらしい。1番感動しました。

・しかし、古屋氏ってもうこっち方面で本気なマンガを連発してるってことは、おちゃらけな感じのマンガは描かないってことなんでしょうかね?「パレポリ」とか「πパイ」とかねえ。

・もうしわけありませんが乙一氏の著作は読んだことがないのです。ただ、それを差し引いたとしてもかなり古屋テイストは強いと思われます。ただ、さわやかな希望に満ち溢れているポジティブなイメージがあふれる読後感はわりと乙一氏の功績なのかしら?と推測してみたり。

・同時期に発売された「ピコーン/舞城王太郎&青山景」と小説家とのコラボって点で比べると、ディティールという点で新味はないですが、その分、完成度が高くスキがない感じがします。とくに緻密なシカケがすごい。
・ということで古屋ブランドは磐石ですね。あとはメガヒット待ちですか。
・本作と、前記の「ピコーン」は同じ値段ですが、受ける感じが全然ちがいますよ。本作変則函入りで版型もでかい(ブックオフだと「特大」になるサイズ)ので豪華です。本の値段は不思議なものですね。

オススメ
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「あるいて一歩」2巻 武田すん(メディアワークス)

・1巻で積み上げてきた設定とかみんななくなり、かなり風通しのいい2巻となりました。
・昨今は「滑り止め設定」とでもいいましょうか、一応のワクみたいのを用意してそこで差異を出すってパターンばかりでして、展開次第じゃ活きるかもしれないけど、別に考えなくてもイイって設定が多すぎます。アレやらアレとか。

・本作に1巻であった設定。名門高校が舞台。主人公はビンボーなので学校の敷地内にある(厳密にはちがうか)寮に住む。そこの同級生の大家さんにホレてる。クラスのみんなには金持ちということにして振舞っている。

・この最後の設定が崩れた2巻です。ということはつまり結果的に女子ばかり住人のアパートに住む男子って例のラブコメになったわけですね。めでたしめでたし。

・基本ドタバタということで、主人公は大家さんに告白したいがジャマが入る。大家さんもどうしようと思いつつも主人公の至らなさについ怒る。そこに恋敵があらわれると。

・こう絵ヅラを眺めているとよくわかりますが、このマンガでは1pに1人以上怒ってますし、怒鳴ったり暴力が起こってます。
・喜怒哀楽の、「怒」ってのは、スピードを生みます。怒鳴り声は基本早口ですし、早口ってことに加速が生じスピードでます。そしてドタバタと、1話を駆け抜けているわけです。

・つまり、テンポはいいんですが、緩急の「急」ばかりなんですね。とくにヒロインの大家さんがあまり笑わない。というか、泣くか怒っているばかりの印象を受ける。これはあまりよくない。よくないというかもったいない。

・だから、イキオイ、恋敵で2巻でもけっこうエロ要員として活躍している橘さんに人気が出がちなんですね。彼女は怒ってもいるけど、エロい顔もけっこうみせますしね。2巻では「サンクス乳輪フェア」も開催されてますからね。乳首はダメだけど、開いた胸元から、「そこに乳首があるよ」とばかりに乳輪を表わすトーンが貼ってあります。それはまるで夜の灯台のように航海中の船乗りに港の場所を知らせてくれるのです。

・笑顔ですよね。おれは笑顔がみたいなと思いました。やはりいい笑顔のキャラは人気がでますしね。

・そんな中、2巻でのいい笑顔は、アパートに住んでいる背の高いコ(明)と小さいコ(花)ですね。

・アタックし続ける橘さんに、自分がチャラ男であるとウソをついて愛想を尽かされるってシナリオを明と花に協力させて両手に花状態でくるときの彼女らの作り笑顔がとてもよかった。なんやかやいうてそういうことにつきあってくれるやさしい彼女らにホレたね。明なんかかなり露出してるし。つーか、わりに主人公はけっこうリアルでイヤなやつだよな。打算的すぎるというか。小心者のくせに突然開き直ったりな。

・ということで1巻よりよくなりました。おもしろかったです。このテンポをキープしつつ、「緩」をかもし出せるとさらにベターかと。あと、大家さんのとびきりの笑顔希望。
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「仕切るの? 春日部さん」3巻 竹内元紀(角川書店)

・最終巻。
・3巻は、エロネタを圧縮してzipファイルにしたって芸風に、いろいろと新風が吹いていたのが印象的だった。

・ほぼ1話まるごとマンガ内マンガにしてみたり、超適当なパロディにもなってないRPGパロディがあり、1p1本のショートギャグあり、おもしろ歌詞ネタ、無機物ネタ、昔話パロ、ラジオ投稿ネタ、旅行などなど、後半はいっしょのパターンがないくらいいろいろな手法に挑戦されてますし、それらの完成度がどれもこれもぼちぼち高いことに感心。レゾンデーテルである下ネタもちゃんとからませてますしね。それはあたかも韓国人がすべての料理にニンニクと唐辛子を混ぜ込むが如し。ただそれだけじゃなくなったので必然的に密度は減りましたが。

・なんつーかな、打ち切りが決ったからやりたいことやってやれ的なヤケクソ感がやや漂ってる気がして(もちろん錯覚でしょう)、とても楽しかったです。

・ということで一見そうは思えませんがパンティーのレース柄のように繊細な理系ギャグマンガではありました。次回作も楽しみにしてます。


「会長会長 「5万個」」
「丁寧にしてもそんなコト言っちゃダメ!!」


・と、テレてる会長(春日部さん)がステキでした。

・あと、「ころんだひょうしに女のコとキスしたい会」に入会したいです。
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「御石神落とし」6巻 永久保貴一&増田剛(白泉社)

「日本の性風俗がまるわかり」なんてオビに書いてありますが、なにげにエロ方面の「風雲児たち/みなもと太郎」ってなノリすら漂ってます。風格がでてきましたね。

・6巻では明治初期の農民のセックスライフを描く茂介編が佳境です。新婚夫婦がみんなの前でちゃんと夫婦してることを証明するために四十八手を実演する祭りとかあったのねえ。これがエロいのと同時に、かなり荘厳で、感動なんですよ、ええ。

・増田氏の絵がまたすごく精緻でねえ。しかも、同様に詳細な永久保氏の歴史考証がまたすごくてね。歴史の流れすら感じさせるのよ。日本人特有のメンタリティというかね。「たわけモノ」の由来とかさ。

・今度は江戸吉原編を描くってことでね。こりゃあほんと「エロ風雲児たち」になれそうね。いや、マジでマジで。
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「赤灯えれじい」9巻 きらたかし(講談社)

・サトシプロポーズ失敗の巻。
・ということでヤンキー女とヘタレ男の同棲マンガ。
・このプロポーズ失敗して、ギクシャクする感じ。だれが悪いんでないのになんとなく「合わない」「うまくいかない」って空気を描いてるのはすごいと思います。なんつーかな、「そうだよ」とすごく強く思います。カップルがダメになる空気ってこんなだよなあと。ま、本作、復活するんですが。

・ただ、時間の流れのタール化現象がはじまってきてます。かなり展開がかったるい警報です。

・でも、チーコさんのフェラシーンがね。凡百のエロマンガとかのなによりもそういうのがなんつーかリアリティがあってね。これはかなりグッときたですよ。あのチーコさんがやったってのがいいんですよね。

・そろそろ「次」のなんかを描いたらいいんじゃないのと思ったりします。店じまいの準備しねえとタールがますます固まって重くなりますよ。それはそれでいいんでしょうけど、彼らはとりあえず早くゴールを切ってもらいたいような気がするんですよねえ。作者もここまで育ったキャラだからそれなりのけじめをつけるべきでしょう。
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「電波の城」3巻 細野不二彦(小学館)

・もう大人になって、マンガで怖くて夜も眠れなくなるってことはないかなと思っていたところに本作ですよ。これが今、おれには1番怖い。

「電波の城」は細野氏のキャリアにおいても何回目かのピークになる作品だと思う。

・天宮というキャラクターを生み出しただけでも賞賛に値する。謎が多い女。現在と過去が並行して展開しているのですが謎が解けても怖いのが治まらない。画面に映っていないほうが怖いんですよね。

・謎が多い女天宮はBSでのお天気姉さんの初仕事に臨むが、そこに番組に君臨する女帝キャスターのひどい仕打ちが待っていた。

・ということで、表紙になってるので別にかまわないんでしょうが、カッパのキグルミを着て、お天気を読ませられたり、いろいろな妨害が起こるわけです。

・つまりはそういう昔からある少女マンガの根性モノの構図なんですよね。みなにいじめられてもけなげに耐えてがんばる天宮。って、でも、読んでいるこっちとしてはまったくそうは思わない。このいじめてるやつがきっと仕返しされひどい目に遭うにちがいないとドキドキしながらみてるんですよね。実際、3巻になってもひどい目に遭ってる人は大勢います。レイプしようとしたプロダクションのオーナーはぶっ飛ばされましたし、オーディションでジャマしようとした女は「謎の地震」に遭って仕事不可能なほどの重傷を負いますしね。

・もういじめてる女帝もイビリのパターンが通用しないでペースかき乱されてオロオロしだしてますしね。

・そこにきて1巻の最初のほうに登場したかなりキーとなりそうなキャラも投入ですよ。ううううこわくてこわくてたまらない。

・と、本作、かなりうがった見方をします。
・この謎の多いキャラクター、過去と現在を並行して描く構成。彼女が通ったあとには不幸があるという図式。それを追う人。ああ某沢直樹のアレとソックリじゃないですか。恐怖映画っぽくはじまったのにすぐにグズグズになってよくわからないけど小賢しい毎話の引きだけは上手いのでわからないなりに読ませるけど結局わからないまま終わりもあやふやでさ、アニメ化もしたアレ。たしか単行本も19巻とかあったんですよね。

・もしかして細野氏が「アレならおれのほうがもっと上手くできる」とやったんじゃないでしょうかね。意外に細野氏、こういうなにげないアテコスリチックなことしそうですし。

・うがってますね。

・ま、おもしろさの個人的な比較だったら、ブータンとブラジルのサッカーの試合結果くらい圧倒的なんですけどね。

・こんなにこわくて、こんなにつづきが知りたくて、こんなに読んでる間ドキドキする、現在連載中の作品はこれだけ。願わくば某沢直樹病にかかってグダグダにならないでほしい。

オススメ
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「クドー遺宝伝」上津康義(少年画報社)

・トレジャーハンターの物語です。チビで黒メガネのクドーと、亜人間で怪力の男。あと、骨董屋の少女と組んで、世界の秘宝を探して大冒険の旅を続ける。

・オビに聖悠紀氏の絶賛があります。


お話は面白いし、絵もうまい。
何よりキャラクターに華がある。
これで売れなきゃうそでしょー


・いやたしかにその通りなんですよね。ただ、トータルでおもしろくないんだよなあ。なんだろこれ?

・おれの見解だと、本作は、コミックスにして2〜3巻分の大冒険のあとのインターミッションって感じのエピソードが多い気がする。
・ほら、トレジャーハンターったら代名詞的な有名映画シリーズの「インディージョーンズ」があるじゃないですか。あれって、いつも冒頭に冒険の真っ最中からはじまるじゃない? 宝をとったとたんにワナが発動して大きい玉が転がってきたりとか。それですよ。

・ACT2なんかそれの典型的な感じで、古代の超文明が作り上げた物語の中に入り込んでクリアするってバーチャルRPGにうっかり少女が入り込むエピソード。こういうのが、大ネタの合間と合間にはさまるって感じわかるでしょ?

・インターミッションじゃなかったら、なんとなくダイジェストな感じというかね。この本で一応ちゃんと起承転結してるんですが、やや食い足りないというかあっさりしてるというかね。

・あとは、なんていうかな、「知ってる人が楽しい」って、内輪というか、オタク受けというか、そういう薄い疎外感もあります。それはページ数の都合などの不可抗力なところもあるでしょうけど、ミリタリーや歴史や遺跡やそういうのを知っているほうが楽しいように出来ている。

・あれっすよね、メカとかすごいの描く人は往々にしてそういう風になる傾向がありますね。

・だから練りこんだユーザーフレンドリーな長編が読んでみたいな。もしくは単行本上下巻で完結することを前提としたもの。ちょっといろいろと決定するには惜しいような気がするのです。
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2007年/3月/6日
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「ライフ・イズ・デッド」古泉智浩(双葉社)

・長編ゾンビマンガです。ゾンビネタはなぜにこうも人をひきつけるのでしょうか。とかいって実はすごくこわくて苦手だったんですが。だって、死んでるから死なないし。

・日本の地方都市が舞台。アンデッドウイルスが蔓延している世の中。性行為や噛みつきで発症し、死後アンデッド化する。すなわちゾンビになってしまう奇病。それに発症した少年が主人公。彼はゾンビになる恐怖とともにでもどうしようもない感じで日々生きてます。

・ゾンビの魅力のひとつとして、いろいろなものを託すことができるからじゃないかとは思います。

・たとえば、本作の意味する「アンデッドウイルス」ってのは、あれですよねエイズ。エイズにまつわるモロモロを拡大解釈していった感じがあります。

「ゾンビ」というのが差別用語になっているあたりの体裁の整え具合はまさにそうですよね。「エイズ」じゃなくてHIVナンチャラですもんね。

・また、性交渉で感染というところで2ちゃんねるでは「感染してもセックスできたおれは勝ち組」なんて書き込まれるわけです。

・つまり、ジャンルとしてはゾンビものでもあるけど同時に「難病モノ」にもなるわけですね。ま、あと同時に「現実から半歩ずれた世界モノ」でもあるのかもしれない。だから、にったじゅん氏の女性が男性をセックスで支配している社会ってのと同じ「IFモノ」でもあります。

・そして古泉智浩氏ですから青春モノです。彼の作風は「青春」に決まりですね。今回はザリガニのニオイのする青春です。アンデッド化が進行すると死臭が漂うんですね。で、往診にくる看護師に密かに思いを寄せてる主人公は消臭スプレーを振りまくんですよ。ここがわりと数多あるゾンビマンガと比較しても画期的なんじゃないかしら。ニオイが気になるゾンビ。あと、フスマと畳のあるところでのゾンビってのも新しいかもね。

・そして、地方都市描写にも、矮小な登場人物描写も、さらにさらに磨きがかかってます。こういう地方都市とDQNがかった人物をテイストレスに描写させたら古泉智浩氏は今のところ日本一じゃないか。

・北野武氏が監督をした「座頭市」を思い出しましたね。「ゾンビ」をおれが描いたらこうなるって感じの新解釈によるリメイクのような感じ。リメイクってのとはコトバがちがうか。

・最近の古泉氏は「おれ流」のパターンが多いです。古泉流「転校生」が「 転校生オレのあそこがあいつのアレで」で、性器だけが入れ替わる男女の話。「これが未来だぜ!」では、ロボットアクションものやパロディが満載です。
・映画化もした「青春金属バット」や「死んだ目をした少年」のような「ダイレクト」なものだと、かなりダメージが強いんですよね。そこにアクセントとしてヒトサジ、ちがった要素があると、それ自体が「フィクション」としての逃げ道の役割を果たして、逆に安心して読み進むことができるんですよ。

・本作でも、もうイヤんなるくらい「人間」な方ばかりです。アンデッドウイルスに侵されて死にゆく兄をみて壊れてる家庭を救うのは、私がアイドルになることしかないと、せっせとオーディションに応募し続けるバカで美人の妹(古泉氏の描く美人だけどバカの女性描写は沁みるわあ)。
・その妹をみるためにかこつけてはちょいちょいと家にくるダメ友達。アンデッドウイルスを感染させたあとも金をせびるためにくる遊び友達の女。へらへらしてる無責任の往診の医者(この描写すごいよくわかる。医者って無責任にみえるんだよな)。野良ゾンビをからかってるうちにかみつかれるDQNたち。

・あー、結局、世の中がどうなろうと、今とたいして変わらないんだなあと思ったりねえ。

・アンデッドウイルスが蔓延しつつもつまらない田舎の日々は過ぎていきます。彼らはそれなりに精一杯考えて行動したりしてます。でも、時間は過ぎて物語は終る。

・もともと自主映画の企画としてスタートしたものでして、そのためか知りませんが、自主映画独特のベターっとした8mmフィルムの質感が感じられます。登場人物もわりとベタにキャラを立ててますし、ラストの畳み掛けるような感じも、クライマックスらしさも、すべてわかりやすさに通じているような気がします。
・もっというと「自主映画化しやすそう」。そういう細かい配慮を感じます。というか、そもそもゾンビって自主映画化しやすいですよね。

・次はなにを古泉流でみせていただけるのでしょうか? 楽しみです。あと、影響を受けたそうな「東京ゾンビ/花くまゆうさく」を読んでみようと思いました。

・と、ここまで書いてから、ニオイが気になるゾンビマンガってありましたね。ゾンビ化したのを隠しつつ刑事をするってマンガ。

「ZONBIE COP 俺はゾンビだ! / 左近士諒 」か。

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「鈴木先生」2巻 武富健治(双葉社)

・気持ち悪いマンガだ。
・ヒザ小僧をすりむいてケガをして完治する前にカサブタがめくれた患部のグジュグジュをみる種の気持ち悪さが近い。本作の場合、中学校舎の屋根がカサブタにあたるのか。

・2巻になり、ギアを1段上げたかのように加速がついた。だから、余計に気持ち悪さも増した。

・中学生の担任とその先生と生徒との話です。問題にも全力で立ち向かう鈴木先生を描いた感動教育マンガです。いや、感動はしないか。

・1巻はしてみると「体験版」であり「プロローグ」だったのか。2巻にして鈴木先生の苦悩も、学校の問題も、それぞれのキャラの思惑も、「カオス」と3文字でしか表現できない状況になっていきます。

・その軸として1巻から薄くありました、小川という生徒。美少女の生徒を中心として物語がいよいよ動いていく。彼女にホレたら最後、地獄に向かってつきすすんでしまうかのように、全員が悩んだり悶えたり、離脱したりする。そして鈴木先生も基本はそれで悶え狂っていた2巻でした。


何て…
フクザツにもつれ込んで
しまったんだ……!


・さいごのページで鈴木先生はそう思ってます。本当にそういうことになってます。これが蓄積に蓄積を重ねたままよくもまあここまでフクザツにできたなというくらいフクザツになっているのです。そして読者の立場としてその「フクザツ」がちゃんと理解できてるのがすごいわ。

・それは、前記の小川をいよいよメインに据えた「恋の嵐」シリーズで爆発します。でも、それに至るまでのフクザツもちゃんと飲み込んだまま進行しています。

・それらをわかる1番の功績、すなわち、「鈴木先生」における最大の功績は、インパクトのある絵かと思っていたけど、実はコトバなのかもしれない。本書の中のコトバはどれも少しヘンで、それだからこそ、非常に脳にこびりつき、強く作用している。

・ときに古臭く、そのくせそれはギャグになるほどじゃなく、なおかつ今の女子中学生?や今の中学教師?ってコトバのそれぞれがひっかかる。それはまたかなり意図的に仕組まれたものだと思える。

・解説の宮本大人氏も「確信犯」という言葉を使われている(しかし解説がまたすばらしかったです)とおり、狙いもあるけど、悪い意味じゃない「天然」の感性やリズムみたいなものも大きいと思う。


愛する麻美さんとの
国交回復までだと
固く決めて自分に許した
----夢の中だけの
小川との逢瀬だが……

それを待たず…
自ら断ち切らねば
ならない時が
来てしまったかも
しれん!


・もう鈴木先生は淫夢に小川が登場するのは仕方がないとしてるけど、それもダメになったのかと、朝起きしなに思っているのです。しかも、そう思った理由として、夢の小川が服を着ていたからだそうです。これまでは全裸で登場していたのに服を着ていたから、夢と現実の区別があいまいになってきたと危惧してるのです。

・んー、やっぱり気持ち悪い。そのストイックさが気持ち悪い。

・さて、カサブタのたとえを冒頭にしました。そう、この「気持ち悪い」は、「でも、確かめずにいられない」タイプのものなんですね。そっとバンドエイドを外して「うわー」と意味もなく眺めてませんでした? あるいは、もっとわかりやすくいうと鼻をかんだあとのティッシュオープンですよ。

・とにかく1巻を読みましょう。度合いがありますがそれぞれに感じるモノがあると思います。それが2巻ではさらに大きくなったと思ってください。

「それ」を確かめたいですか?それなら2巻はオススメです。

・2巻読むと自動的に3巻を読むのは「have+to」です。あるいは「must」です。どっちがこの場合正しいのか忘れました。

・個人的にはトートツな登場だった、前の学校での知り合い・関先生との偶然の出会いがあり、次に続くための布石だった「@嵐の前夜」、なんつーかとてもイヤな余韻を受けました。

・あと、なんか意味があるのかしら、「@」ってタイトル前につくのは。
(18:36:57)amazon

「十三参り」吉野はるか(司書房)

・今や、絶滅危惧種である、なじみの小さな町の書店に司書房の「ファンx2シリーズ」が定期的に入ります。で、タイミングがいい(=金に余裕がある)ときは買ってしまいます。

・猫耳の少女が着物姿の表紙。裏表紙には屋根の上にデッキブラシを持って立っている。ここでは黒いセーターにスカートにヒザより長い長靴を履いている。バックには銭湯のエントツ。

・これだけをたよりに買ってみました。今もマンガ内容以外の知識とかなにもないです。もしかしたらハリーポッターを書いた人がマンガでのペンネームが吉野はるかというのかもしれません。ハリーポッタは読んだことないので内容ではわかりませんし。可能性は0ではないと思います。

・2編の中篇が収録されてます。

・魚屋のせがれがサカナを盗んだクロネコを追いかけ、曲がった路地を曲がるとそこには少女が立っていた。
・猫は十三参りをしていたのでした。猫は人間になるか飼い猫になるか野良でがんばるかを自分で決めて菩薩に報告できるそうです。
・ということで、クロネコの少女はそのサカナ屋に居候してどっちにするか決めることにしたのでした。「十三参り」

・美味しいオムレツを動物に食べさせる店を作るためにレストランに弟子入りするキツネ(男に化けている)。ところが常連の娘さんにホレてしまう「キツネ洋食店」

・独特メルヘンとでもいいましょうか。どちらも味のある少女マンガよりのメルヘンです。
・なにかに連載されていたのではないような気がするのですが、ページ数が多いのでえらいノビノビとした、開けっ放しの窓から春風が入ってくるかのような詩的表現を似つかわしくないことを承知の上でやりたくなるような感じです。

・あー、まー、だから、創作系の長編同人誌って感じかなあ。それのかなり良心的なやつの2in1を買った感じ。そう考えると1000円という値段も納得かも。1作500円ね。

・ネコの少女スズキ(そういう名前)ははっちゃけててボーイッシュでネコの奔放さとシャープさを持ち合わせてるし、同居するタケシの少年っぽさや、タケシを憎からず思ってる幼馴染のマリちゃんとか、サカナ屋の両親とか、ナイスキャラばかりです。
・キツネ洋食店のほうもしかり。どちらもいい意味で、時代性皆無のどこか切り離された別世界でのデキゴトっぽいです。


(落ち込んでいるマリにスズキが)

まり。
それは
自分に
失礼だ

まりはかわいい
まりはいい人間だ!

そんなこと
自分が1番
よく知ってんじゃ
ねえか!

クラスなんて
小せェ世界のコトで
うじうじすんな!

「あたしサイコー♪」
くらい思っておけ!!


・ここが気にいったセリフ。

・ということで、ノンビリできるマンガですよ。
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2007年/3月/5日
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「県立性指導センター」にったじゅん(三和出版)

・にったじゅん最新作のタイトルから「童貞」の2文字が消えた。大きな変化はそこでみてとれるが、本作はそれだけではなく、にったじゅんのターニングポイントたる作品になった。成年コミックです。

・にった作品といえば、前記のとおり毎回タイトルにかませるほど重要なのが童貞です。が、それよりもそのにったワールドを作り上げている基礎となるものは、「女性上位」かと思うのです。
・古臭いコトバではありますけど、にった作品においてはこのコトバがしっくりくる。セックスの快楽と引き換えにあらゆる点で支配するという図式が徹底している。女性のための世界。

・本作収録の「童貞最後の日」がアカラサマに顕著です。文字通りでもうしわけないですが、女性上位の体位で、膣口にチンポをあてがった状態で女性が告白します。これでことわることができる男がいますか? もう「おまじない」のコーナーに載せてもいいくらいです。「100%告白が成功する方法」。ま、文字通り性交成功ってことですが。ま、本作は男のほうがいったんことわるんですけどね。

・かように女性はわりとすんなり目的を果たします。男は童貞を奪われると同時にさまざまなものも奪われます。プライドとか金銭とか理性とか。本作では命も奪われます。

・それは童貞に限定されているように思われがちですが、これが脱童貞後も支配され続けられます。セックスフレンドの大勢の1人として。生活を保障する財布として。彼女らの生活を潤わせるものとして存在していきます。

・本作で、その世界はより広がりをみせるのです。それがタイトルで連作の「県立性指導センター」シリーズです。

・これまでの世界を「前提」として、この性指導センターが存在します。まるで、ラブクラフトの書いたクトゥルー神話のようです。もっとも、にったじゅん氏1人でこの「にったワールド」は書かれているんですが。似たような世界は成年コミックの世界ではあちこちにみられますが、それぞれちがいますし、かなりストイックにこの世界だけを描きつづけているマンガ家ってのはそうは多くないですし、にったワールドは唯一無二のものといっていいほどの独自性はあります。

・男女の性経験の格差が広がる一方で社会的問題に発展し、それを埋めるために「ボランティア」で女性を募り、童貞に1ヶ月マンツーマンでみっちり仕込んで格差是正をするのです。


「遊びの浮気じゃ夫に気が引けるけどボランティアなら堂々と出来るしね」


・という35歳の人妻。


「世界で戦える男たちを育てることにしたのだ」


・という年齢不詳で、たぶん、多くの人がひっかかるであろう、マッチョな性指導員の鯖井春(さばいばる)さん。年齢不詳。筋骨隆々。

・そう、本作では、にったじゅん氏のこれまでの世界をより補完し補強してるのですし、にったじゅん氏の描く女性上位の現象は少なくとも日本では全国的な広がりをみせていることになっているのです。みんな小学生のころからズコバコやっては、中学ころにはもう同級生を見下し、大学生の童貞を奪ったりして「ちょーたのしー」と喜んだりするんですね。
・そう、つまり、政府が行動を起すほど問題になっているというところが最高におもしろいところです。
・これまでに作品では、たとえば、遊んでいそうな女子高生や、ヤンキー、コミケでとっかえひっかえ男漁りをしている、「特訓」と称して、公衆トイレ入ってきた人がだれでもやるとか、いうたらなんだけどかなり「特殊」な人が多かった。それは徐々に変化していったんですね。本作では、そういうタイプは1人もいません。前作あたりからそうですが、傾向として熟女化してきてますね。今回、35歳ですからねえ。
・そうじゃなくても、いわゆる「遊び」という段階じゃなくて、それなりの男性経験をこなしてるのは、アタリマエになってる世の中になってますね。そのことに「はしたない」とか「ヤリマン」とか、コトバからして撲滅してますね。「健康な女子ならSEXくらいしてアタリマエ」って世界です。

・そして、本作で提示されて目だっているのは「施し」としてのセックスです。ボランティアだったり、かわいそうだからだったりです。もちろん、そこに女性側からの性欲も存在しています。ただ、そのために女性はなにかを犠牲にはしません。ここがわりと矛盾してるんですけど、女性が求める分にはチンポにはけして不自由しないようにできているのですね。
・完全たる無償のセックスという段階にまできたんですね。性指導センターも、街でばったりあった元同級生の35歳フリーター&童貞にも、公園でカメラで花を撮影していた少年にも、やらせてあげているわけです。これは完全たる勝者の立場での「施し」の図式ですね。

・過去作品では「男なんか」出会い系ですぐに集まるとかになってますが、6年で2万回射精させるとか1日10人ペースですからねえ。すなわちそれが、すべての点で女性上位の世界であることをさらに強調してます。つまり、女性が射精させたいときにはそこに必ず射精したがっているチンポがあるという世界です。まあ、たいていのチンポはいつも射精したがっているし、射精しているチンポをみるためにエロマンガをボクたちは読むのだからそれは道理なのです。でも、童貞も依然として多くいるという世の中になってます。ここいら、人口の男女比が10:1くらいじゃないと合わないんじゃないか?

・その世界は天国なのか地獄なのか、それぞれの考え方でしょうが、おもしろい世界観ではありますよね。つーか、性指導センターいきたかったなー。鯖井春さんとだったらコワイけどさ。

・さて、本作、もうイッコの変化があります。絵です。

・前作、「素人童貞」でもかなりみてとれますが、本作ではさらに絵が変わりました。PC処理なのか、全体的にトーンワークがものすごくなり、目が小さくなり、全体的に劇画チックになっている傾向にあります。画面の密度が濃くなってます。黒くなってます。

・これはわりと成年コミック全体的な傾向であり、問題であると思います。劇画化傾向といいますか。周期的に起こっているような気がします。全体的な画力平均が底上げされるわけです。

・すごくわかりやすい言葉で書きます。「萌えない」。本作はいやらしいと思いますが、萌えません。それが是なのか非なのかはこれまた各人の意見があると思われますが、おれは絵だけならショボーンと思いました。なんか書き込み過多が「暑苦しい」と思うんですよ。

・それこそ、2ちゃんねるのAAなんかでよくみかける初期の「キモーイガールズ」とは全然ちがうようになりました。おれはあれが収録されていた「童貞鎮魂姦」あたりの絵のほうが好きだった。なんていうかな「相応の絵」というか。今のは明らかに過多だと思う。でも、それが昨今の流れでもあるんようなんですよね。ここいらの話はキリがないので省略します。

・かなり意欲作ではあります。「性指導センター」シリーズのほかにも、連作で、リレーのバトンのようにキャラクターがどんどん入れ替わっていく「FOCUS」から「ナース篠原がんばりますっ!」までの連作。このナース篠原のまったく普通の新米ナースだけど男性経験だけはすごい(し、それが普通とココロの底から信じきっている)ってキャラがなんていうか「そういう世界」なんだなと思いを一番強く感じさせてくれました。

・最後にボーナストラック的に収録されている人間の限界を超えた快楽をあたえる性器を持っている殺し屋アナスタシアが活躍する「女殺し屋アナスタシア」とかね。

・今後どういう変化をみせるか興味はまだ残っています。さらなる「にったワールド」を補完していくのか(謎はまだ多いし)、それともちがった展開をみせるのか。絵柄の変化はこれで完成になるのか等、まだまだみどころは多いですね。そもそもこのワールドを突き詰めていくと世界は滅亡しそうな気がしてしょうがないんだけどね。
(19:25:02)




・[ケージバン]