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ポトチャリポラパ/コミック/2007年
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2007年/6月
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2007年/6月/30日
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「お菓子な片想い」2巻 阿部川キネコ(竹書房)

・完結しました。
・ぬるいぬるいラブストーリーです。ストーリー4コマの形態をとっています。

・お菓子部の小さい部長は、バスケ部の大きい後輩にホレました。でも、1巻で、彼に好きな人がいることが判明してしまいました。そして2巻。

「え?」と思われるようなざっくりした終わり方をしたような気がします。掲載誌で読んでいた方はとくにそう思ったでしょうね。

・本作はそれに後日談を描き下ろしで加えてます。だから、作者のあいさつのようなものはありません。その余地を後日談描き下ろしに充てた感じですか。

・そうじゃなくても、すごくストイックな作品にお見受けしました。それは1巻のあとがきにあった「大切な作品」ってのもカンケイあるのかもしれませんが、恋愛のピュアなところを煮詰めたようなストイックさといいますかね。しかも、女性視点の。

・男には好きな人がいることを知ってます。だから、これ以上スキにならないために会いたくないと思う。だから、みえそうになったら逃げるんですよ。物理的に逃げる。でも、まわりの策略で会ってしまう。そして、好きになってしまうってね。

・1巻のほうがより顕著でしたが、みつはしちかこ氏の一連のラブストーリーにインスパイヤされてます。カバーといっていいくらいに、その「小さな恋の」エキスがたっぷりと充填されてます。

・そのぬるいラブ空間がとても居心地いいんだな。その空間内での緊張と緩和を絶妙に行き来して物語を進行し終了していきます。

・作者の代表作は「辣韮の皮」というオタク4コマギャグです。このオタク系のギャグは、往々にして、「ちゃぶ台ひっくりかえし」なマンガになりがちです。いわゆる通常のマンガにある「お約束」を笑うタイプ。ほかに楽屋落ちを多用する方とかもそうですね。マジメを茶化すタイプといいますかね。
・こういう方面で印象が強くなると、逆にその「お約束」を描くのが難しくなっていきます。なぜなら、「ちゃぶ台がえし」を期待されるからですね。こういうとき、「うっそよーん」って展開のほうがインパクトありますからね。

・本作、そういった意味では、みつはしちかこ氏のパロっぽいニオイをかもして受けてます。でも、それよりもあふれ出る、これを描きたいって思いが上回ってるんですよね。

・こう、いろいろと著作を拝見させてもらってますと、近作ほど顕著ですが、どんどん正面突破になってきてます。

・2巻で白眉は、ケティランドってテーマパークのパレードの花火。花火があがった瞬間、いっしょにみたかった彼がそこにいるという奇跡ね。こういうのをこういうふうに描くことができる正面突破っぷりに惚れ惚れしました。

・いい作品でした。
オススメ
(19:04)amazon

2007年/6月/22日
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「十五童貞漂流記」1巻 ホリユウスケ(秋田書店)

・当サイトに検索で「十五童貞漂流記はどんな話」というのがありました。

・十五童貞漂流記は、十五名の童貞が無人島に流れ着いていろいろとあるストーリーギャグ4コマです。

・当初は明るくてノンキな童貞が無邪気な無人島ライフをタンノウするという4コマです。朝立ちしたり、オッパイの話をしたり。

・ところが、廃海賊船の材料を流用して作った「チンデレラ城」が建ったあたりからストーリーが展開しはじめるのです。

・なんだこりゃ的な超展開は随所にありますが、それは別に「バトルロワイアル」にだってあるし、いいんです。

・本書で、画期的なのは前半部の「童貞特有の一方的なポジティブシンキング」ってあたりですね。童貞らがべたべたとお互いに無邪気にじゃれ合う感じは意外にこれまでの童貞マンガでは描かれなかったところじゃないかと思ったりします。この前半部のピースフルな感じがあるからこそ、後半にかけての陰謀渦巻くダークネスな展開が映えるともいえます。

・カワイイ絵で、いい意味でのバカやナンセンスもよくできてるし、それらの下ネタにもイヤミがないので、女子にも安心かもしれませんが、おれは女子じゃないのでどうでしょう?

・この先、混沌とするのでしょうか、それともまたノホホンとするのでしょうか。よくわかりませんが、2巻は楽しみにしたいと思いました。

・どんな話か知りたかったあなた、おわかりになりましたか?

(22:01)amazon

「童貞志願」麻生我等(少年画報社)

・父親がAV監督、母親がセックスカウンセラーのもと生まれたセックスの申し子の主人公は、それゆえに、セックスがきらいとなり童貞。だが、触れただけで女性を絶頂に導く天賦の才を持ち合わせていたのでした。だから、金に目がくらんだ親は彼の童貞をうばうために刺客を送るのでした。

・ということで、マンガ史上、もっとも女性をイカせた童貞が登場するエロマンガですね。

・シャープで美麗な「ネオ劇画」描写は、女性はちゃんとやわらかくエロく描いてるのにどことなく格闘マンガを読んでいるような気分になっていきます。ま、表紙からしてそれ風なパロディになってるから余計にそう思うのかもしれませんが。

・そいで、かなり中途で「なんじゃこりゃ」終了です。別名「打ちノ切り」か。そういった点でも、駆け抜けていく疾風のようなシャープさはあります。

・ああ、ヤングにわかりやすく書くと、「エロ無双」か。襲い掛かる裸の女を次々とイカせる感じ。

・乱戦がツボな方はグッとくるかもしれませんが、おれのエロポインツはちょっと外れました。「へんなマンガ」部門では入賞ですが。だって、シンプルに、こんなの童貞じゃねえだろ?ってツッコミが有効な「トンデモ」だもん。
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2007年/6月/21日
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「まんが極道」唐沢なをき(エンターブレイン)

・マンガ業界ギャグマンガということです。
・以前小学館から発売された「漫画家超残酷物語」をホーフツとしますが、そっちはタイトルからもおわかりのように永島慎二氏のパロディ的なニュアンスから、時代背景もちょいと古いような気がしたのですが、今回はバリバリの現代劇になっておりますね。
・基本は毎回読みきりで、キャラも毎回チェンジのオムニバス形式です。

・ほのぼの4コママンガ家としてデビューしたものの、趣味と実益を兼ねたエロマンガ描きは止められない。ところが、あるとき彼女ができてしまい、こんなマンガを描いてることがバレたらふられる。さりとて捨てるには忍びない。だから、「使ってしまおう」と使いすぎて死んでしまう。死後発見発売された本はベストセラーに。

・描けなくなったマンガ家がラクガキ同然で苦し紛れに発表したけど、それでも雑誌は売れたので、結局へのへのもへじなマンガになってしまうって、まあ、かなり「現代」な話。

・トイレで自分の悪い評判を聞くためにどんどん落ちぶれていくマンガ家とか。

・まあ、そういう感じのいつもの唐沢節が炸裂しているのですが、本作、いつもより、かなりビターでダイレクトな感じになってますね。いつものが「おーいお茶」とするなら本作は「ヘルシア緑茶」くらいビター。

・より、ダイナミックな展開。より、パラノイアなキャラ。より、残酷残虐。

・そのおかげで、唐沢なをき氏ってかなりの「エス」ってことを確信しました。SMのSね。ドエスって感じ。

・唐沢作品のキャラは基本的に徹底的にいたぶられるものが多い。同様にいたぶる人もいるんだけどね。つまり、かなりはっきりと暴力が介在するカンケイが提示されるわけですよ。

・原律子氏の大昔の4コマに、ギャグマンガ家のSM度を「殴りオチ」時の処理で3段階に分析するってネタがあります。ま、殴る前、殴り中、殴った後ってことです。殴る前は、こぶしをハーと息を吹きかけてこらしめるという感じ。殴り中はそのまんま。殴った後は、殴られた人がタンコブができていたり倒れてたり血が流れてたり。
・唐沢氏はバリバリの殴り中スタイルです。原氏によるとS度がもっとも高いタイプですね。サンプルケースとして吉田戦車氏が挙げられてたっけか。

・そうじゃなくても、マンガは他のメディアと比較しても個人作業の側面が大きいので、欲望や性癖が露呈しがちです。本作は従来作品と比較しても、ちょっと深く踏み込んでいるような気がしますので、より、その唐沢氏の性癖というかそういうメンタルな面での表現がアカラサマな気がするんですよね。いわんや、マンガ家のことだしね。

・身体を提供することでマンガを載せてもらう夢脳ララアさん。
・45歳で母1人子1人で老眼なのになお一攫千金を夢みてマンガ家を目指すも、母親を金属バットで殴り殺す悪夢におびえている篭目山トト治。
・宗教にハマり、神のお告げに従い、エロシーンを描いている少女漫画家は、その宗教がインチキだと世間から弾圧される迷中マリなどなど、直情径行でカーッとなり極端な行動をとる不安定さをあますところなく魅力的に描かれています。そして、その「キャラ」は4コマを描いていた初期の唐沢氏のキャラだったりするのです。
・今回、その感情的な行動、自体すごくマンガ的ではありますが、ジットリと重めに描いているような気がします。

・それらはこれまでもある「唐沢節」に含まれているものです。でも、サジ加減がかなり従来のものと異なっているような気がします。ギャグのところと、そのダークサイドのところ。これまで「ギャグですよ」ってあった前フリというか、エクスキューズが限りなく薄い状態。ああ、いい言葉。コトバの真の意味での「洒落になってない」話やキャラばかりなんですね。読後の余韻がけっこうあとひいたり。

・(マンガ家などの)モデルさんとか、モデルのファンに、かなり恨まれそうなマンガだよなあ。それくらい生々しさを感じる。あと、かなりリアルなうらみつらみがこもった視点として、編集者を描いてるのがおもしろい。売れなかったり、不安定な状況だと、雑誌の編集はああいう風にみえるんだなあと思った。

・このマンガがターニングポイントなのか、いくつもある引き出しのひとつとして「あえて」なのか、単にどうかしている時期のどうかしてる作品なのか、現時点ではよくわかりませんが、異色作ではありますよね。
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「姫武将政宗伝 ぼんたん!!」1巻 阿部川キネコ(幻冬舎コミックス)

・オタクギャグ界の名将による戦国武将伝ですよ。オビ参照です。

・伊達政宗が女だったらー。ってIFをマンガ化。幼年時代の梵天丸を描いております。ま、本作内でも軽くパロってましたが、「リボンの騎士」だったり、「ベルサイユのバラ」とかね。

・で、基本は軽めのロリっ娘ドキドキラブコメ風にしてるのがまたおもしろい。やんちゃで、すぐ裸になりたがる梵天丸(7歳です)にどぎまぎするお目付け役の小十郎とかね。

・この梵天丸のロリっぷり描写がちょっとあざといかな?と思ったくらいにドーンとストーリーも進行していったりね。やっぱ戦国時代やなあって重苦しい展開になったりと、飽きさせない、油断させないところや、かと思うと逆に重くなりすぎないようなサジ加減までユリ戻したりと、あくまで丁寧に丁寧にいろいろと織り交ぜる職人仕事は本作でも健在です。

・真摯な仕事ぶりはちょっと「マジメか!」ってタカアンドトシばりにツッコミいれたくなったりもするんですけどね。

・本作、あとがきマンガが興味深い。すごく率直に本作にあたっての心境を描かれてます。4コマとしての評判が高くなるにつれ、「4コマしか描けないのか」と悩んでいたこととかね。
・別に4コマに限ったことじゃないけど、作風というかカラーが固定するのを恐れるってのは、誰にでもあるわけなんですね。俳優でも、漫才師でも、かといって売れるのを否定するってのも難しいしね。

・ということで、意欲作になるのですね。期待していようと思いました。
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2007年/6月/15日
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「怪物さん」西川魯介(幻冬舎コミックス)

・WEBマンガです。最近は多くなりましたね。

・そして、西川氏の最新作です。WEBマンガにより、発表の機会が増えたのはありがたいことなんでしょうか。それとも後の稀少や版権の複雑化ゆえのプレミアなどのゴタゴタの元なんでしょうかね。まあ、いずれにせよ現状ではありがたい西川氏の最新作です。

・えーと、魑魅魍魎のあらわれる学園妖怪エッチコメディです。影の番長・立烏帽子清華さんがつまり「怪物さん」ということになるのかな。ボインの美人さんで、サングラスをはずしひとにらみすれば妖怪を退治する目を持ってるのですよ。

・それにトゥーシャイシャイボーイが鬼太郎でいうところの夢子ちゃんで、ネズミ男になるのは、なんだかよくわからない生徒会長(女・美人)で、ネコ娘になるのは、夢子ちゃん役のボーイにホレてるツンデレ気味のボーイッシュ女子中学生(キューピッドさま付)といった布陣か。

・この立烏帽子先輩は過去の作品にも登場されておられる、西川作品ではわりとおなじみの名女優さんです。今回も大活躍という役回りというより、「伝家の宝刀」的に、他キャラピンチに颯爽と登場するって感じですか。

・あとがきによると、もともとは青年誌に連載する予定が、発売中止になり、浮いたところをWEBに拾っていただいたなんてカタチになり、その「エロ」の表現にすったもんだがあったそうです。

・ただ、それが功を奏したのか、本作、おれ的には、これまでで1番エロのバランスがいいような気がします。

・基本SH(少し・エッチ)な西川作風であります。ただ、だいぶエッチなのも、NOエッチなのもあります。基本、エロなものも描く人はそれぞれの幅があります。少年誌から成年コミック誌まで幅広い方も多数いらっしゃいますしね。

・正解は読者それぞれの煩悩と下半身にあると思われますが、作者ごとに「適正エロ」ってのは存在するとおれの煩悩と下半身はいってます。

・なんでもかんでもモロがサイコー!ってのを否定したから日本のエロはイビツながらもすごく発展していったのです。そうじゃなかったら、みんな裏ビデオをみるわけで、たとえば、グラビアの水着ビデオとか成人男子が買うのはおかしいじゃないですかね。

・本作、基本はエロ妖怪に翻弄される少年少女って感じでして、たとえば、夜な夜な表れる妖怪バター少年が少女を襲ったり、魂が入った江戸時代のオナホールが痴女になって学校の男どもにめくるめく快楽を与えたりするわけですよ。

・すごくどぎついわけでもなく、さりとて少年誌レベルの乳首が解禁だー!ではなくという、なんだかいい感じだなあと最後まで楽しく読むことができましたね。

・随所に仕込まれる西川式パロディの数々もますます磨きがかかっておりますし、今回、ほのぼの度がちょっと高いのがまたいいな。とくに、上記のネコ娘&夢子さんの青いやりとりが実にいいです。田舎の夜道や学校の帰り道感と「夏感」がよく出ています。おれも幼馴染の気の強い女の子と軽口を叩きながら学校を登下校してみたかった。

・エロ、ほのぼの、妖怪と、3要素が楽しめます。ただ、それぞれ1つで1冊のものよりは薄めという宿命はありますが。
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2007年/6月/11日
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「えんまちゃん」かがみふみを(双葉社)

・WEBマンガです。最近は多くなりましたね。けっこう古くからいて、出版社かわっても継続中の「SEED!」です。

・地獄からきた閻魔大王の娘のえんまちゃんが田舎の小学校の5年に転校してきます。ウソをついたらお父さんに舌を抜かれるので、転校のあいさつで素性をばらしてしまいます。
・彼女は自分が下界にバラまいた「悪玉」9個を回収しにきました。で、隣の席の静ちゃんといっしょにがんばるわけです。

・という、ほのぼのマンガです。すごく定石どおりに作ってきてます。ただ、かがみ作品のちがうところは「ちまちま」もそうでしたが、感情表現がものすごいんですよね。

「ちまちま」では、ボーイミーツガールってことで、おたがいはじめての彼氏彼女ということで手探りしながらもドキドキしているサマが暑苦しいほどでしたが、本作ではそれが少女同士の友情という点でかなり暑苦しさは軽減です。いや、それでも暑苦しい感じはありますがね。銭湯のスチームサウナのような暑苦しさ。誤解を生みそうだけど、「じめっと」した暑さ。

・最初は、えんまちゃんのハイテンションで直情径行で世間知らずの暑さが目立ちますが、その後、定石の展開として、悪玉を回収したら地獄に帰って、なおかつ、記憶はすべて無くすというやつがはじまるわけです。そこでの、2人の友情パワーがすごいことになるんですよ。

・ここまで定石なんでネタバラシもなにもないんですが、そうとわかっていても読んでいてココロを動かされる暑さ。

・お互いにそのことを知り、お互いにそのことを「知らない」と思っていて、お互いにその話を切り出そうとしながらも、切り出せないまま、2人で学校で写生している図式。


このままこんな時間がずっと続けばいいのに


・2人ともそう思うのですよ。だけど、この後、別れに向けて物語は進行していきます。すごくベタでしょ? でも、いいんですよ。

・作者は、ロリ系の成年コミックもようけ出しておられる方でして、些少ながらそういう方面の展開もありますし、彼女らの抱擁などはユリで淫靡なニオイも漂います。「微香」といったオモムキですが。たとえば、パンツをみせることに抵抗がないえんまちゃんに「はずかしいこと」と諭す静ちゃんとか、水泳の授業で着替え中の静ちゃんの着替えタオルをめくったりとか。いや、そういった意味でも暑いマンガなんですよ。だから、お子様に向けての内容でいながら、お子様にオススメするにやや抵抗があるというおもしろいことにもなってますが、それはおれがそうと知って、そういう視点でみているからそうなのかもしれない。確証はもてません。

・でも、この感情描写や暑さになにかひっかかるとは思うのよ。よくも悪くも。そこにおれは「ヘン」を見出したね。それはずいぶんとちがうように思えますが、島本和彦氏などの、なにをやるにも熱血って感じの誇張表現に通じるものがあります。「適切」じゃないというか、「適当」じゃないというか。ものすごいコンロで熱量で作ったけど焦げてない家庭料理って感じか。

・それでいて、王道のおもしろさもありますし。なによりも、男子も女子も素直にかわいいです。これは非エロ視点で。
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2007年/6月/4日
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「大妹」和六里ハル(コアマガジン)

・表題作の「大妹」シリーズが3/5くらいで、あと短編4編の和六里ハルの商業第3作品集。ここは思い入れも込みで、「大妹」のみについて語ることにします。ほかの短編もデキはいいですよとだけ。

・身長179センチの大妹に翻弄される160センチの兄の話ですね。全6話、延々とやりつづけています。複数バリエーションなどのエロ展開もありません。

・本作は3つのポイント。「大きい」「無邪気」「妹」から構成されております。これらがかなり複雑にからみあっており、作品の完成度を高めています。すごく密接に関係しています。だから、正直なところ、最初の3話目まではちょっとぎこちないです。それくらい複雑です。妹の性格にとくにブレがあるか。


はるかの方が
ビデオの人より
おっぱい大きいから
気持ちいいよねぇ


・このセリフが白眉です。兄は妹の学校に面談に呼び出されて発情した妹に学校内でパイずりされています。

・通常、このセリフは逆のパターンで使われることが多いです。「ビデオみたいにうまくないけど…」と。
「ウブ」を演出するに効果的なセリフです。だけど妹は無邪気なのでサラリとそういってしまいます。しかも、ここでいうところのビデオは兄が隠し持っているビデオを盗み見して「研究」したものですし、妹であるために、兄の「ツボ」を完璧に心得ているのです。そして、妹だから、兄に対して駆け引きをする必要がないのです。恋人同士でもこのようなセリフはいいませんもんね。妹はただ純粋に、兄が気持ちいいことを願ってるし、確信しているからこそのセリフです。そして、まんまと気持ちいいのですね。エロいしねえ。

・本作、テーマとして作者の苦手ジャンルの「男性キャラ受け」だそうで、たしかに、兄は半ば強引に妹のペースに促されるまま「襲われ」「ちょうきょう」されるのです。

・でも、最高にいいと思ったのは「兄妹」愛が描けているところです。
・兄と妹がいたすマンガはエロマンガ界には腐るほどあります。むしろ普通の恋人同士のそれより多いんじゃないかと思うくらいです。
・ただ、この2人は実の兄妹といたすって背徳のヨロコビのみの設定で作られたのではない「兄妹」って感じが強いんですよね。モノゴコロついてから兄と妹として存在し認識してきたって。

・本作、そこいらのバックボーンが丁寧に描かれてます。両親が学者でずっと留守にしてること、ベビーシッターがダメなやつだから、本当、幼いときから2人きりですごしてきたし、妹のめんどうもたくさんみているコトなど。妹のために料理がトクイになるとか(この設定「クッキングパパ/うえやまとち」を思い出すね)。

・そういうこともあるけど、それよりも自然な、仲良し(という設定の物語上の)な兄と妹のカンケイが描かれているんですよね。お互いのいろいろなことを知ってるわけです。

・妹は、兄に甘えているし、これまでずっと親がわりに面倒みてもらっているために、すべての信頼を寄せているしそれに妥協も駆け引きもなにもない。その延長上として「自分でも役に立ちたい」と兄妹愛を超えたところの愛と、肉欲がないまぜになって、自分でもよくわからない衝動に襲われつつも、兄を襲っている。

・一方、兄は、そういう妹に対して「守らなければ」という使命を持っていなければならないのにと、罪悪感を持っているから吹っ切れないまま、それでも、「妹のワガママ」を聞く条件反射と、ツボを心得すぎている妹のテクとボディに、結局のところ背徳の気持ちを抱えつつもカンケイを持ってしまうわけです。

・その結果、最後のほうにちょっと2人の関係に展開があり、不覚にも最終話で感動してしまうんですよ。別にネタバレになるからどうってことでもないんですがちょっと伏せときます。
・しかし、兄は最後まで「ちょうきょう」されっぱなしだ。これじゃあ兄は一生セックス面は妹にコントロールされて終わるなあ。

・そいでもって本作、これまでの和六里作品に比べても格段に突き抜けている。最近の潮流である子宮断面図に射精描写とかもある。この描写は「ハード」よりってことを宣言しているようなもんだしなあ。あと、妹をはじめとしての「アヘ顔」もまたすごくなった。女性の本当のアクメ顔というかね。

・そのわりに、近藤るるるフォロワー時期より引き継いでいる、ほのぼのとした味も残しているという、かなりバランスがいいところだし、これまでのアタマ2つくらい抜き出た完成度があります。

・絵は過渡期で、どこに落ち着くのかしら?って興味もありますね。おりもとみまな氏のニュアンスが匂ってきてます。短編「修学旅行」のカラーなんかとくに。

・個人的にかなりガツンとやられた作品で、単行本が待ちきれなくて、「大彼女」なんてパチモンまで手に入れてしまうくらいです。過去の作品も手に入れましたし。

・エロマンガっていいもんですね。
(23:42)amazon

2007年/6月/2日
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「フューチャー・イズ・ワイルド」ドゥーガル・ディクソン&ジョン・アダムス&小川隆章(双葉社)

・有名なベストセラーをマンガ化したものだそうです。そういわれてみればなんとなく覚えているような気がします。

・500万年後、1億年後、2億年後の地球を舞台として、そこで生きている生物を描いているマンガです。

・500万年後、氷河期に突入しています。人間なんざとっくの昔にいません。かつてのジャングルは消えうせ、乾いた大草原となったアマゾン川流域に住む最強の動物は鳥です。逃げる必要がないので空は飛ばず、彼らの横暴に霊長類最後の種族は戦々恐々と暮らしています。

・さらに一億年後、最後の哺乳類は、クモに家畜として飼われています。クモは彼らの食事を与え、彼らはそれを食べぬくぬくと生き、捕食されます。

・そして、2億年後、さらに世界は混沌しています。魚は空を飛び、カタツムリは砂漠を跳ね回り、イカが知性を持っています。

・これらを圧倒的な科学考証を経たと思われる知識と、圧倒的な描写で、説得力を持たせています。

「まんが極道/唐沢なをき」というマンガ家の生態を描いたギャグマンガにおいて「設定馬鹿」というのが登場します。文字通り、設定に凝りすぎて作品を描くヒマがなくなった本末転倒な人。解説で、奥さんでライターの唐沢よしこ氏のエッセイのようなものにも似たような方が登場します。キャラ設定シートしか書いてなくて、「これでデビューできますかね?」っていってるの。

・そういうの考えると、本作は、設定が8割くらいです。そりゃあねえ、500万年後の地球とか設定を説明しないとわからないだろうし。原作は、そういった意味においては設定書みたいなもんでしょうね。

・まあ、ぶっちゃけ、その設定がすげえおもしろかったら無問題ってことが証明されているのが本作ですね。

・動物図鑑、ネッシーや雪男などのUMA、スターウォーズなどのクリーチャー、そういうのに胸をときめかせた少年時代を送った方はかなりヒットします。正直、かなり「女子はあっちいってろよ」の世界ではあると思われます。

・そして、本作はマンガであること。これが最大の特徴。きっちりマンガとして完成させてきているのがすごいところ。
・ふきだしなどはありませんし、マンガ記号的なものも少ないです。でも、その仕上がりは、設定書をコマでわって、精緻な絵を描いたという「もどき」ではなくて、マンガになってます。
・500万年後、1億年後、2億年後で、全8話、ちゃんとしたマンガがそこには展開されています。

・500万年後の「北ヨーロッパ氷原」に住む、スノーストーカー(サーベルタイガーに似た口からの牙が特長のネコっぽい動物)の母子の物語。

・1億年後、ベンガル沼地で、最大の陸上生物トラトン(亀が恐竜のようにでかくなった感じか)が群れからはぐれ、知性が少しある川タコのスワンパスを眺めて一生を終える話。

・2億年後、人類以降もっとも知性を持った木の上に住むイカの祖先が巨大な敵に挑む話。

・これら、「ちゃんと」マンガとしておもしろい。その大きな要因として、各キャラに感情移入ができる。そして、なぜ感情移入できるかというと、表情や思考がわかるからですよ。主人公と据えられているキャラがナレーションもありますが、なにを考え、どうしてその行動をするかがよくわかるから。

・これは作画の小川氏のすごさですね。空を飛ぶ魚が実写さながらの精緻な絵でいて、身体の表面の色を変えることができる大王イカのワナにはまったのを知って、あわてふためいて逃げる表情なんて、なかなか描けないよ。それでいえば、木の上に住む知能が発達したイカの兄弟なんてなあ。

・最近流行の「泣けて泣けて困る」ってストーリーはありません。だけど、体毛が逆立つような知的好奇心でコーフンする感じはかなり久しぶりです。ツチノコが東北の山の中にいる!ってテレビでやっていたのをみていたときのコーフンです。

・おれはオーシャンファントムですね。この生物の圧倒的な奇想天外ぶりにかなりココロを動かされました。こんなのいたらすげえよなあ。

・双葉社の高い(値段と品格のダブルミーニングであることを察しましょう)マンガったら、谷口ジロー氏の「シートン動物記」と、こうの史代氏の「夕凪の街 桜の国」あたりがありますが、それと同様に、学校図書館に並べられるべきマンガがまたひとつ誕生したってことやで。しかも、おもしろいんですよ。これらが並んでいる図書館がある中学校の中学生に戻りたいもんです。
オススメ
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「私家版魚類図譜」諸星大二郎(講談社)

・これがファンタジーだろ。

・前に出た「私家版鳥類図譜」と対になっていてます(前作持ってません)。タイトルのとおり「魚」シバリでの短編集です。全6編に描き下ろし1編。

・諸星大二郎氏のすばらしさを宣伝するのはイマサラすぎるのですが、個人的に最近ご無沙汰気味で(また、最近のほうがひょっとしたら精力的な活動をされているような気がするし)、久しぶりに読んだら、まだおもしろいことにびっくりしてます。

・たいがい、年齢を重ねるとつまらなくなるものです。とくにワンダーの点でつまらなくなります。「斬新」とか、そういう言葉と無縁になり、「円熟」とかそういったホメ言葉が多くなりますが、一握りの方はずっと斬新のままなんですね。

・この斬新なイメージの奔流はなんだ?と思います。このワンダーはなんだ?

・深海に住む「深海人魚姫」。光の届かない深海に人魚たちが住んでいるなんて発想はなんだろう? すごく詳細な深海の「楽園」の様子を描いてます。たとえば、チューブワームが「森」を作り、深海火山のおかげで暖かく、食べ物にも困らない。まあ、大前提として、それでも人魚なんていないんだけどね。そこがワンダーでファンタジーなんですよ。
・中身はいわゆる童話の人魚姫です。深海探査船に乗った乗組員に一目ぼれして海面に向かおうとする人魚の話です。なにせ深海なもんだから海面に出るだけで大冒険になるんですね。

・島のまわりの海上に家を建てて暮らしている民族。しかも、女だけ。男はどこに? どうして島に入れない? 「鮫人」

・いつかもわからない未来。廃墟に廃墟を重ね、地下の奥深くに住んでいる少年少女が生きた魚を探す冒険に出る話「魚が来た!」

・魚の学校なるものがあるのでいってみる女子高生。ギャグタッチの「魚の学校」

・などなど、これまでの諸星パターンに魚シバリを加えたものって感じなんですが、それぞれが類のない独自で個性のカタマリなのでまったくOKです。

・ああ、そういえば、大事なこと。 最近、ちょっと諸星作品から遠ざかっていたのは、やや絵が荒れていた時期があったからですね。これがまた年齢を重ねるとすべてのマンガ家に必ずといっていいほどありうる現象です。絵が荒れて、話も荒れる。
・でも、本作は、また元通りになってましたね。ここいら、いったいどうなっているんでしょうか? もっとも、マンガ家でもキャリアに対して相当絵のブレがない方だと思います。

・おもしろかったのです。「鳥類〜」も他の雑誌で読んでいるからいいやと敬遠した作品も集めようという気持ちが高まっています。思えば、近所の本屋にあった諸星作品を全部発作的に買った10代でした。それから氏のコレクションとファン暦がはじまったんですよねえ。
・そして、義妹も、どこで知ったのか、いきなり諸星作品にハマりこないだ奥さんの実家にいったらけっこうな数のコレクションがあったなあ(朝日ソノラマが多かったけど)。

・諸星作品にはそういう謎の魅力があると思われます。クセはあるんですがハマると止まらなくなる。しかも、こっちの要求に応じてくれるくらいフトコロが深いです。で、本作はそのとっかかりに適してると。近いうちにどこかが全集を出しそうな気がします。そして、その前に入門編としての本作は最適すぎます。

オススメ
(20:16)amazon


・[ケージバン]