6/6 収録
まさるな蒼紫さんのご執筆
大神: | ・・・さくらくん、俺、今まで気にも留めなかったんだけど・・・。 |
さくら: | ど、どうしたんですか、大神さん? 深刻そうな顔して・・・。 |
大神: | 俺はこの一年間、ずっと花組のキップをもぎり続けてきた・・・ていうか、花組以外の公演のキップをもぎったことが一度もないんだ! |
さくら: | お、大神さん? |
大神: | 騒ぐんだ・・・モギリの血が・・・。もっといろんなキップをもぎりたい・・・他の組のキップは無いのかって。 |
さくら: | ・・・・・。 |
大神: | どうしてだ!? なんで米田支配人は、俺に他の組のモギリをやらせてくれないんだ!? 俺はモギリとして、そんなに信用されてないのか・・・? |
紅蘭: | それはちがうで、大神はん! |
さくら: | こ、紅蘭? |
紅蘭: | この帝劇には、そもそも花組しかおらへん。それは花組一の古株、マリアはんも認めてはる紛れもない事実や! |
マリア: | 紅蘭の言う通りです、隊長。隊長もその事はご存じのはずでは? |
大神: | あ、ああ、知っていたさ・・・。でも、せめて、 《この帝劇でも他の組の公演は行われている。だからいつの日かそのキップをもぎれる日が必ずやって来る・・・》 と自分に言い聞かせでもしなければ、このどうしようもない衝動を抑える事ができなかったんだ・・・。 |
さくら: | 大神さん・・・。 |
大神: | 第一、他の組が無いんだったら「帝国歌劇団・花組」なんて、いちいち分類しなくても「帝国歌劇団」でよさそうなもんじゃないか! |
すみれ: | 問題はそこですわ。 |
マリア: | すみれ! |
すみれ: | わざわざ、わたくし達の事を花組と呼ぶからには、他の組も存在するはず・・・・・でも帝劇には花組しか存在しない・・・と、なれば答えは一つ。 |
紅蘭: | そうか! 帝劇以外の劇場で公演をしとるっちゅうわけやな! |
すみれ: | そういう事ですわ。 |
さくら: | じゃあ、そこに行けば、大神さんの欲求不満も解消されるんですね・・・あっ、でも、どうやってその場所を見つけるんですか? 帝都だけでも数え切れないくらいの劇場があるんですよ。 |
すみれ: | それについては心配ご無用。もうすぐカンナさんがいい物を持ってきてくださいますわ・・・ほら来た。 |
カンナ: | よぉ、すみれ、みんな! |
すみれ: | カンナさん、例の物は? |
カンナ: | おう、借りてきたぜ。支配人にしては結構あっさりしてたな。これだろ? 「帝国華撃団・系譜」。 |
大神: | 華撃団? 歌劇団の間違いじゃないのか? |
カンナ: | そうだぜ、あたいもそいつが気になってたんだ。どういうつもりだよ、すみれ? |
すみれ: | おーっほっほっほっほっほ、これだから庶民と言うものは・・・頭の回転が遅くていやなのですわ。 |
カンナ: | な、なんだとぉ!? |
紅蘭: | まぁまぁ、カンナはん、ここは抑えて。で、すみれはん、一体どういう事ですのん? |
すみれ: | よろしいですわ。教えて差し上げましょう。花組以外の歌劇団は、そもそもその存在自体があやふや・・・そんなものの資料など、いくら探しても見付かるはずがありませんわ。だから・・・ |
マリア: | それならば、その所在が比較的はっきりしている華撃団の方からアプローチしてみようと言うわけね。 |
すみれ: | さすがはマリアさんですわね。どこぞのデカ女とは頭の構造からして違いますわ。 |
カンナ: | ・・・けっ、言ってろバカ。おら、隊長、何ボサッとしてんだ! てめえの為にやってんだろ。さっさと調べろよ・・・ほらっ! |
大神: | あ、ああ、ごめん。え・・・と・・・・・・? |
さくら: | どうしたんですか、大神さん? ・・・あら、この本、外国の言葉で書かれてるわ。それも見たこともない・・・。 |
紅蘭: | いいや、これは外国語ちゃうで。暗号や。大神はん、士官学校で習わらへんかったんですのん? |
大神: | い、いや、確かに暗号についても少しは学んだけど、あくまで基本的な事だけだし・・・実際に解読したことは1度もないんだ。 |
紅蘭: | はぁ、情けないなぁ・・・あんた、ほんまに首席やったんか? |
大神: | ・・・・・。 |
すみれ: | それにしても、これではお手上げですわ。まったく米田のクソジジィ・・・どうせ読めないと分かっていたから、簡単に渡したのですわね。 |
マリア: | 私が読めるわよ。 |
大神: | ・・・え? |
紅蘭: | ほんまか、マリアはん!? |
マリア: | ええ。昔、ロシアにいた頃よくやったから・・・。でも、これはかなり複雑な暗号の様ね。私でも、何とか読めるのは各組の名称とその見出しぐらい・・・。 |
すみれ: | それで十分ですわ。マリアさん、さすがに花組の元隊長だけありますわね。 |
大神: | ・・・・・。 |
さくら: | じ、じゃあマリアさん、早速お願いできますか? まずは風組あたりから・・・。 |
紅蘭: | ちょい待ち! 風組の事ならウチがよう知っとる。あそこの隊員は、いつもは花やしきの従業員として働いとるはずやから、劇団の可能性はないで。 |
カンナ: | そうか・・・じゃあ、次は月組ってとこか? |
マリア: | 月組ね。え・・・と・・・隠密行動部隊・月組。主な任務は偵察、情報収集、敵地への潜入、ほか・・・平時は帝撃施設の管理、整備、清掃等を行っている 。 |
すみれ: | これはハズレですわね。それじゃあ、夢組はどうかしら? |
マリア: | 霊能部隊・夢組。主な任務は霊視による戦況分析、予知・過去視による戦術サポート。平時はお祓いやお清め、お守りの発行等を行っている・・・これも違う様ね。すると残るのは・・・。 |
大神: | 雪組か! |
マリア: | 主な任務は、豪雨、強風、積雪など、通常の部隊が行動不能となる局面において作戦を遂行すること。その結成は花組よりも新しく、東北に拠点を置いている・・・これだわ! |
さくら: | 劇団の可能性があるのは、ここだけみたいですね。 |
カンナ: | でもよぉ、モギリをするためだけに行くには、東北はちょっと遠すぎやしねえか? これでも一応、花組の隊長なんだからよ。 |
大神: | 一応・・・。 |
すみれ: | 心配ご無用。わたくし達には心づよぉい味方がおりますわ。今は自室でお昼寝をしている、そう・・・。 |
6人: | アイリス!! |
ドタドタドタドタドタ・・・バタンッ!
| |
アイリス: | うぅーん、どうしたの? いきなり入ってきて・・・アイリス、まだ眠たいんだよぉ。 |
カンナ: | わりぃな、アイリス。隊長がどうしてもおめぇに頼みがあるって言うからよ。 |
アイリス: | えーっ、お兄ちゃんが!? なになに? アイリス、お兄ちゃんのためだったら、なんだってやるよ! |
大神: | 実は・・・アイリスの力で俺の体を瞬間移動させてほしいんだ。 |
マリア: | ちょっと待って下さい、隊長。よく考えてみると、いくらアイリスの力が強力とは言え、何百キロものテレポートは無理があるのではないでしょうか? |
大神: | そう言えばそうだな・・・。 |
紅蘭: | それについては、ウチにまかしときぃ! こんな事もあろうかと、かねてから製作中やった「ちょうやくくん」が、ついこないだ完成したばかりなんや。実験代わりにちょうどええで! |
一同: | ・・・・・。 |
紅蘭: | な、なんや、その疑惑の眼差しは!?
ちょうやくくんはアイリスの頭に被せる事によって、その力を何百倍にも引き上げ、距離・方向とも完璧に制御できると言う超優れモンなんや! しかも、神武のためにウチが開発した「複合型霊子動力増幅器」を使用、改造した装置やから信頼性も抜群なんやで! |
さくら: | 紅蘭の数少ない成功品・・・じゃあ、信用してもいいんじゃないですか、大神さん? |
大神: | そ、そうだな。神武のあの時の活躍も、紅蘭の発明あってこそのものだったし・・・。 |
紅蘭: | よっしゃ! ほんなら早速、準備にとりかかるで! ほらアイリス。ボーっとしとらんとこっち来いや! あ、あと、マリアはんもちょっと手伝ってもらえまへんか? |
マリア: | ええ、いいわよ。 |
大神: | あ、でも・・・。 |
カンナ: | 何だよ、隊長。男だろ? いい加減、腹を決めるんだな。 |
大神: | い、いや、そうじゃなくて・・・。 |
すみれ: | そうじゃないもクソもありませんわ。まったく・・・一体、誰の為にこんな苦労をしてると思ってるんですの? |
大神: | 別に、すみれくんに頼んだ覚えは・・・ブツブツ。 |
マリア: | 隊長、すみれの言う通りですよ。それに、花組の隊長がそんな優柔不断でどうするんですか? |
さくら: | がんばって、大神さん! |
大神: | うん、がんばる・・・じゃなくて! さくらくん、俺の話を聞いてく・・・。 |
紅蘭: | よっしゃあ! 準備完了や! 行っけー、アイリス!! |
大神: | ちょっ、待っっ・・・!!!!! |
アイリス: | えーい!!! |
ピンピロリン | |
紅蘭: | おしっ! 成功や! |
さくら: | あの・・・大神さん、涙目で何かうったえかけてたみたいなんですけど・・・。 |
紅蘭: | だぁいじょうぶやって。ちょうやくくんも煙さえ吹いとらんし、目標地点にバッチリ到着したはずや! |
アイリス: | ねえねえ、紅蘭。お兄ちゃん、どこに飛んでったの? |
紅蘭: | そうか、アイリスにはまだ言っとらんかったな。東北や。 |
アイリス: | 東北の・・・どこ? |
紅蘭: | どこってそら、この地図で適当に・・・あ・・・。 |
すみれ: | 紅蘭、あなたまさか・・・。 |
カンナ: | マリアに続きを読んでもらって、雪組の劇場の場所を特定できたんじゃねぇのかよ!? |
マリア: | い、いえ、私は・・・。 |
紅蘭: | マ、マリアはんには、アイリスの髪を束ねてもらっただけや。ちょうやくくんはサイズが小さいさかい、あのブワブワの髪の毛が邪魔で・・・。 |
さくら: | じゃあ、大神さんは・・・。 |
紅蘭: | ・・・・・。 |
すみれ: | ・・・・・。 |
マリア: | ・・・・・。 |
アイリス: | ・・・・・。 |
カンナ: | ・・・・・。 |
一同: | やってもうた・・・。 |
ちょうやくくんは、紅蘭の言う通り大成功だった。大神の体は、紅蘭のセットした地点に寸分違わず運ばれたのである。
それから3日後・・・新潟県のとある雪山の中腹で、かろうじて大神は発見された。彼は5日経ってようやく意識を回復したが、その後、その時の恐ろしい体験が彼の口から語られる事は、決して無かったという・・・。
なお今回はまさるな蒼紫さんがすべてをご執筆下さいました。素晴らしい力作のご投稿、まことに、誠にありがとうございますうっ!!m(_ _)m 読者の皆さん、ここまで完成度の高い本作品に臆することなく、ネタだけでもかまいませんから私にご教授をぜひお願い致します。
その他、どんな疑問もよろず解決! 皆さんもサクラな疑問がありましたらぜひ以下のメールアドレスまでご意見をお寄せください。