アバディーンにある新砲塔チハがドーザー装備型であることはよく知られている。しかし、ドーザー装備型戦車についての詳しい解説と言うのは見たことがない。そこで、その開発経緯などを紹介したいと思う。
陸軍では飛行場建設の機械化が必要になった時、本格的なブルドーザーを小松製作所に発注する一方で、応急的な機材も開発している。それがドーザー装備型戦車で、開発は昭和18年から三菱重工で九七式中戦車を用いて始まった。当初開発された試作車ではドーザーは油圧装置によって上下するようになっていた。これは作業を行う上では望ましいものだったが、三菱重工には油圧装置を製造する設備がなかったことと、現地の部隊での油圧装置の修理が困難なことから、最終的には戦車の外に乗った作業員が手動でドーザーを動かすように改められた。
人が戦車の外に乗って操作するということからも分かるように、ドーザーはもっぱら後方での飛行場建設用で、弾が飛んでくるような場所での使用は想定されていない。この点で前線での工兵作業を目的とした米軍のドーザー戦車と異なる。そのため、ドーザーを細いワイヤーで吊っているように、耐弾性と言ったことはドーザー装備の設計には考慮されていない。
昭和19年2月に三菱重工にドーザー装備型戦車200輌が発注され、終戦までに50輌が納品された。そのうちの何輌かはフィリピンや硫黄島に送られているが、ドーザーが現地で実際に使用されたのかは不明である。なお、この200輌の注文は戦後も継続されて、砲塔や武装を除いた形で製作され戦後の復興に使用されている。
ドーザー装備型戦車の試作車。ドーザーを上下させる油圧装置を装備している。油圧装置を動かすためのガソリンエンジンによる油圧ポンプを砲塔横に搭載している。
ドーザー装備型戦車の生産型。手動式上下装置の横に作業員が座って、手でドーザーを上下させる。
ドーザー装備型の九七式軽装甲車。2輌のみ試験的に作られた。
戦後製作されたドーザー装備型戦車。砲塔も武装もないので、もはや戦車とは呼べないものである。
戦車にはドーザー以外の土木器具を装備することもテストされた。上は横穴掘削用のシャベルを装備したもので、下はキャリオール・スクレーパーを装備したものである。いずれもテストだけで終わっている。