第三章 地球へ
| 宇宙世紀〇〇七九年三月一日 一一時三一分 地球軌道上 公国軍第三戦闘群第一〇戦隊 巡洋艦『マンハイム』 艦内 「何見てんだ？」 背後から聞こえてきた声に、オスカー・ロート伍長は、ガラス越しに映る景色から殺風景な艦内へと視線を向けた。彼と同じく新米パイロットとして『ケルン』に配属されたオスカー・ロッテンマイヤー伍長が、退屈そうな表情を浮かべて立っていた。ロート同様、退屈を持て余していたらしい。 「べつに。ぼーっとしていただけだ」 そう答えながらも、ロートはふと思った。出撃を、それも初陣を控えたパイロットとしては、もう少し緊張しておくべきなんだろうか？ そんな疑問も、ロッテンマイヤーの気の抜けた声を聞くと霧散した。 「ふぅん。俺はまた危険手当の勘定でもしてるんかと思ったが」 「何でそんなワケの分からんことせにゃならんのだ」 「おとついこさえた借金を返すため」 「あんなイカサマ、俺は認めないって言っただろ」 「イカサマってのはバレない限りオッケーなんだって、おまえも言っただろ」 「……ああ、俺も不幸だよな。栄えある初陣を飾ろうというのに、上司は不良、同僚はイカサマ野郎ときたもんだ」 「イカサマイカサマって言うがなぁ、気が付かなかったのおまえだけだったんだけど」 「大体、おまえは人が良すぎるんだ。人の言うことを一から十まで全部信じ込みやがって、それでよくあんなかわいい彼女ができたもんだな」 二人の会話に飛び込んできた声に、ロートはうんざりしたような表情を浮かべた。 「人の良い悪いとは関係ないでしょ、少尉」 二人の所属するＭＳ小隊の小隊長、ロボフ少尉だった。ＭＳ操縦の腕は立つが、口と人は悪い。ロートはそう思っていた。ちなみにロッテンマイヤーの評価も同じ様なものだ。もっとも、ロートのロッテンマイヤー評も似たようなものだが。そのロッテンマイヤーがロートに助け船を出した。 「人が良いってのがポイントになることもありますよ。少尉には関係のないことかもしれませんけど」 「何ふざけたこと言ってやがる。俺の手にかかりゃぁ女の一人や二人……」 「で、そろそろ任務内容の説明を始めていただけませんか」 絶妙のタイミングで話の腰をぶった切るのは、単に口や性格が悪いだけでは無理だ。そういう意味では、ロッテンマイヤーはやたらと頭の切れる男だった。 ロボフは一瞬言葉に詰まり、仕方なく説明を始めた。 「……ん、ま、この前のブリーフィングで中隊長が説明したことを繰り返すだけだな。細かいとこ ろは面倒くさいので端折っていいな」 「……いいのですか？」 「俺は部下を信頼してるよ」 「それ、勤務評定の時に中隊長にも言って下さいよ」 「覚えてたらな」 ロボフは自動販売機の取り出し口から、コーヒーを取り出しながら答えた。片手で二本のチューブを取り出し、二人の方を見もせずに投げつける。ほとんど無重力なので、スローモーションのようにチューブが飛んできた。チューブを受け取ったロートは、疑わしげな声でロボフに尋ねる。 「少尉、作戦開始前ですけど、いいんですか？」 「なにが？」 「……普通、コーヒーとかは御法度じゃなかったんですか？」 「聞いたことないぞ、そんなの。いや、酒はまずいと思うが」 「……じゃ、いいです。いただきます」 何かをあきらめたような声で礼を言い、チューブの封を切る。 「ん、で、まあ最終のブリーフィングだ。俺たちは予定通り、高度百キロからのバンジージャンプを楽しもうって酔狂な戦友たちを引き留めようという、良心的な連邦の皆々様に、お引き取りを願う任務にあたる。出撃は一五〇〇時。一四三〇時までには最終チェックを済まし、機体に搭乗しておくこと。以上。質問は？ ないな。よし、あとは楽にして良し」 「一気に片づけましたね。いや、確かに質問はありませんけど」 どこか投げやりな声で、ロッテンマイヤーが答えた。 「よろしい。初陣を迎える新兵らしくていいぞ」 「なんかこう、初々しさがありませんよね。俺たちって」 宇宙世紀〇〇七九年三月一日 一五時一一分 地球軌道上 「三一番から六三番および六六番、七八番のチェック完了。チェック項目は以上です」 「ご苦労」 ヘルメットのレシーバーに流れ込んでくる固い声に、パクは笑みを浮かべた。 「少尉、八三番のチェックはどうした？」 息をのむ音。 「申し訳ありません。いま、チェックを終わりました」 内心の動揺を無理矢理に押さえつけて、なんとか冷静を保とうとしている声。 パクは思わず顔をほころばせた。 「よろしい。以後、注意せよ」 「了解」 「レッド・リーダー、こっちはチェック終わりました。オールグリーン」 部下のミルトン中尉が報告してきた。 「レッド・リーダー了解。では、状況始め」 ミルトン中尉のセイバーフィッシュとその列機は、パクたちから離れるコースに乗った。 戦闘機の部隊は、通常四機から構成されている。これは地球上でも宇宙でも変わりない。さらに、それはウィングと呼ばれる二機単位のペアを作る。通常、そのペアが最小の構成単位となる。たとえば、敵機を攻撃する際でも、ウィングの一方が攻撃を行い、もう一機が援護にあたるという具合だ。ウィング二つでダイアモンドとなる。 ルウムでの戦いに生き残ったパクには、少佐の階級証と、第二八七航宙隊の副官というポストを与えられていた。 昇進には違いなかったが、素直に喜べるほどすばらしい立場というわけでもなかった。ルウムで壊滅した二八七航宙隊は、早い段階で再建が決まっていた。彼の身分は、そのために配属されてくる新米パイロットたちの教育係というのが正確なところだろう。まあ、不満がないわけではなかったが、出来るだけの訓練は施してやるつもりだ。 人員と機材の頭数が揃ったところで、訓練不十分なままでは戦力の内に入らない。 「だらだらと訓練するよりも、一度実戦を経験させたら全部身体で覚える」と主張する者もいないではなかったが、パクに言わせると、それは責任放棄以外の何者でもない。つまり、それは裏を返せば、「覚えられなかった者は生命で授業料を払え」と言っているのに等しいからだ。 まあ、充分な訓練を受けたからといって、あのサイクロプスに勝てるわけでもないというあたりが救われないんだがな。そんなことを思いながらも、後方モニターに映る彼の列機に目をやった。 「レッド・ツー、リードだ。こちら航法データにエラー。転回点の座標をロストした。スリーのウィングとの連絡が取れない。リードを任せる」 現在、彼らは哨戒戦闘を終え、帰投中というシチュエーションのもとで訓練飛行を行っていた。戦闘直後なのでミノフスキー粒子のために近距離のレーザー通信しか使用できず、母艦や僚機との連絡が取れない状態で、戦闘中にダメージを受けたパクに替わって現在位置を把握し、母艦まで帰投するという訓練である。現実的な訓練ではあったが、パイロットウィングを得て間もない新米パイロットには、まだ荷が重い訓練かもしれない。少なくとも開戦前なら、この段階では行われることの無かったはずの訓練だ。 いや、充分な教育を受けて訓練学校を卒業してきたパイロットならば、さして問題もなくこなせるはずの訓練だろうな、とパクは思った。ある程度のハンデは付くだろうが、訓練過程の中で、似たような内容の訓練を行ったはずだ。開戦前に卒業したパイロットならば。 開戦後、激減したパイロットを補充するために、満足な教育も行わずに訓練学校を卒業させる例が目立ち始めてきた。誰も望んではいないが、一人でも多くのパイロットを前線に送り込むためには仕方がない。パクたちは、今そのつけを払っているというわけだった。 しかし、とパクは思った。彼らはまだ運がいい。これから先の補充パイロットは、文字通りに実戦の中で叩き上げられるしかなくなるのだろう。 宇宙世紀〇〇七九年三月一日 一五時一八分 ジャブロー連邦軍本部基地 統合司令室 「間違いありません。奴ら、動き出しました」 報告の声と共に、壁面一面を使った巨大なスクリーンに映し出されている表示に、変化が生じた。 「やはりサイド５か……」 イリヤ・キレンコフ准将は、口の中で呟いた。サイド５宙域の赤外線とミノフスキー粒子濃度のレベルが急速に上昇したのだ。同時に、ジオン本国・月面・ソロモンといった公国軍の根拠地からも同様の情報が送られてくる。ただし、これらの情報は欺瞞の可能性が高いという中央コンピュータのコメントが添付されていた。その点に関してはイリアも他の参謀たちも異論はない。過去一月の状況から、公国軍の主力がサイド５に集中していることはまず間違いないと判断されていた。 クリスタルパレスと俗称されるこの連邦軍統合司令室には、連邦軍の入手したあらゆる情報がリアルタイムで流れ込むようになっている。同様に、その情報を処理するためのコンピュータや幕僚も集中している。つまり、宮殿の女主人たるイリアこそが、最初に公国軍の地球降下作戦の開始を知ったわけだ。 もっとも、イリアはこの情報に対して、さしたる感慨を抱いたわけでもない。 南極会議で講和条約の締結に失敗した公国が地球降下作戦を実施することは、連邦軍内部ではほとんど既定の事実となっていた。さらに、サイド５への戦力集中がほぼ完了したと判断されたのが二日前のことである。たまたま今日、彼女の当直の時間内にそれが始まったというだけのことだ。待機中の他二人の副調整官と、彼女の上司である防空戦闘主任調整官のカーン大将も、数分後にはここにやってくることだろう。 その数分間の地球防衛は、彼女に委ねられている。躊躇わずに全軍に赤色警報を発令した。この瞬間から、連邦軍は自動的に迎撃作戦を開始する。 宇宙世紀〇〇七九年三月一日 一五時二〇分 地球軌道上 サラミス級巡洋艦『マキシマム・ゴーリキー』 第一艦橋 「始まったか……」 警報を受けた『マキシマム・ゴーリキー』艦長のシー・チーコン大佐は、ぼそりと呟いた。皺の多い表情は、船乗りというより、半生を土と共に過ごした昔風の農夫という印象を与える。 「艦長、訓練機に対する帰艦命令の発令許可を頂きたいのですが」 二八七航宙隊の指揮官アンツネス中佐は、シーとは正反対の、つまり常に戦闘的で機敏な空気を発散させている男だった。必ずしも彼の性格の全てがそうした要素だけから造られているわけではないのだが、シーの横に立っているといやでもそのように見えてくる。 彼が訓練機の帰艦を要求したのは、いつ戦闘が始まるか分からない現状では当然のことだったが、それに加えて訓練機四機の内二機が、飛行学校を卒業して間もない新米パイロットであるという事情もあった。 哨戒任務のため単艦航行中の『ゴーリキー』は、四機のセイバーフィッシュを搭載していた。セイバーフィッシュは四機だが、パイロットはパクたち四人の他に、アンツネスとその列機パイロットのクラーク中尉の合わせて六人いる。支援要員を除けば、この六人が二八七航宙隊の全パイロットだった。 ルウムに参戦した一三機中一〇機の未帰還機を出し、文字通り壊滅した二八七航宙隊が、早い段階で部隊再建を決められたのは幾つかの偶然や必然が原因となっているが、その一つが連邦軍の航宙機運用能力の低さである。 マゼランやサラミスといった戦闘艦は、元来セイバーフィッシュなど航宙機の運用能力を持たなかった。開戦前から公国軍がＭＳという機動兵器を運用していることは判明していたが、それに対する有効な対応策を採る前に戦争が始まったのである。この点について、戦後の一般に流布した見解は、「大艦巨砲主義に陥っていた連邦宇宙軍首脳の怠慢」というものである。それが全くの誤りというわけでもないが、連邦宇宙軍の基本的な役割の一つが、コロニー防衛にあったという点を取り上げないのは公平ではないだろう。航続距離の短い航宙機は、コロニー防衛という局面で運用されることを前提とされていたのだ。 開戦直後のコロニー防衛戦において、この方針が全くの無効だったというわけではなかった。公国軍の奇襲攻撃を事前に察知したごく少数の部隊は、セイバーフィッシュなどの機動兵器をそれなりに有効に運用している。戦後の一般的な見解とは異なり、「艦船ではＭＳに対応できない」という戦訓は、この段階ですでに得られている。 ルウム戦役の折り、艦船で無理矢理にセイバーフィッシュやボールを牽引して戦場に送り込んだのは、その戦訓に従ったからである。当然、それは各艦が持っていた整備能力の限界を超えており、戦闘後の調査によるとセイバーフィッシュの稼働率は六割に満たなかったらしい。整備や補給を担当する支援能力が充分に機能していればまだマシだったと思われるが、こうした戦闘艦にとっての「余計もの」が歓迎されるわけがなく、また現実問題として支援部隊を配置する場所もなかったのである。 連邦軍の参謀たちは、一つの支援部隊で複数の実戦部隊を整備させることによってこの問題を解決しようとした。無理が生じるのは分かり切っていたが、他に有効な手だても思い浮かばなかった。コロンブス級輸送艦を改装し、母艦機能を付与するという手段も検討されたが、防御力や機動性の問題で前線に送り込むのは無理と判断されていたし、この時点ではペガサス級航宙母艦は建造中だったのだ（なお、ペガサス級が強襲揚陸艦に区分され大幅な改装を受けるのは、ヴィンソン計画が始まった四月に入ってからのことである）。 二八七航宙隊は、この方針に従い、二八五航宙隊の支援を受けてルウム戦役に参加することになった。結果、二八五航宙隊は支援部隊を含めた全部隊の八割を失う損害を受け消滅したが、二八七航宙隊には支援要員と機材がほぼ完全に残されていたのだ。 しかし、優先的に再編を行うという方針が決められたとはいえ、一朝一夕に片づく問題ではない。機材や人員、特にベテランパイロットは、どの部隊でも切望されているからだ。 二八七航宙隊の場合、ルウム戦役の後、六人残ったパイロットのうち負傷入院の一人を含む三人が転出し、替わりにパクが加わって四人のベテランを中核として部隊再建を行うように定められた。アンツネスは部隊半数の八人程度のベテランを望んだが、すぐにあきらめた。再建される部隊は二八七航宙隊だけというわけではなかったからだ。 こうして部隊基幹を整えると、まず二人の新米パイロットが配属されてきた。ここまででひと月近くかかっている。迅速な再編成というにはほど遠いはなしだが、やむを得なかった。パイロットは工業製品ではないからだ。「増産」が決定されたとしても、一日二日でそれが現場に反映されるはずもない。最終的にはあと十人ほど配属される予定だが、それがいつのことになるのかよく分からなかった。 とにかく、アンツネスは配属されたパイロットから順に、訓練を行うつもりだった。ルナ２近辺での訓練だけではなく、艦艇からの発艦作業を含む、より実戦的なものを考えていた。単艦哨戒を行う『ゴーリキー』に便乗させてもらったのは、その一環である。本来ならば哨戒航行に戦闘機を伴うことはないのだが、ルウム戦役に参加したシー大佐は、機動兵器との共同訓練の重要性をよく理解していた。訓練とはいっても、セイバーフィッシュを使った哨戒も併せて行うことから、実戦とほとんど変わらない。提出した哨戒計画の段階で戦闘を前提としていないのは、単艦航行という一点のみだった。 無論、だからといって訓練中の新米パイロットたちに全てを託せるはずもない。連邦軍本部の警告によると、『ゴーリキー』が一番接敵可能性の高い哨戒エリアを担当しているらしい。ベテラン二人については心配していないが、新米が迷子にでもなったら困る。ここは一刻でも早く母艦に戻してやるべきだった。 だが、シーはアンツネスの要求に即答しなかった。 代わりにスクリーンの一面を埋めている航宙図に視線を向ける。そこには『ゴーリキー』の航路を中心とした宙域が映し出されていた。哨戒中の二八七航宙隊を示すマーカーもある。 「情報士、現状で敵より先に位置を割り出す自信はあるかね？」 艦長に尋ねられるより先に、手元のコンソールでシミュレーションを行っていた情報士のガサンディ少佐は即答した。 「もちろんです」 「では、哨戒機に信号を出した場合はどうだ？」 「確答できかねます。敵の位置次第ですね。ジャブローの情報から推測した座標の通りなら発見される可能性は低いですが、おそらく偵察部隊を先行させているでしょうし、私は危険だと判断します」 ガサンディは、ルウム戦役で副長が負傷したあと、交代の来ていない『ゴーリキー』の先任仕官だった。実は本人も戦役後少佐に昇進して転出が内定していたのだが、転出先の予定だった艦が前回の哨戒航行で公国軍の哨戒部隊と交戦、中破の被害を受けてドッグ入りし、シーが強引に残留を認めさせたため、いまなお『ゴーリキー』の副長兼任で任務に就いている。 現在『ゴーリキー』は、公国軍の推定進出軌道に対して、「太陽を背に」して触接を図っている。完全な電波管制態勢を取っている現在、『ゴーリキー』を発見するためには光学か赤外線のどちらかの手段しか使えない。太陽という強力な電磁波源を背にしている限り、後手に回る可能性は低い。 こちらは単艦で、あちらは艦隊規模という点もありがたい。放出する赤外線の規模が桁違いになるためだ。ルナ２や地球上からの超長距離索敵を妨害するためにミノフスキー粒子を散布せざるを得なくなるし、そうなると赤外線索敵による有視界外での索敵が可能になる。つまり、赤外線量の大きな公国軍艦隊を、向こうに気付かれずに張り付き続けることが可能になるのである。 ただし、全ては敵に気付かれていないという前提が成立する間だけのことだ。何かの拍子に気付かれてしまえば、すぐさまＭＳを送り込まれて追い払われてしまう。電波管制態勢を取っているため、『ゴーリキー』には哨戒機の正確な座標がつかめず、比較的発見されにくい低出力のレーザー通信は使えない。レーザーの出力を上げたり発光信号を使った場合、敵の哨戒部隊に気付かれる可能性は格段に高くなる。 もうすこし距離が縮めば、『ゴーリキー』のセンサーで敵艦隊の正確な座標や兵力を割り出すことが可能になる。慎重に行動するべきだった。 シーはアンツネスに言った。 「帰還信号は出せない。本艦は予定通り航行する」 アンツネスもシーの意図を察し、沈黙した。パクたちの運の強さを信じるしかない。 宇宙世紀〇〇七九年三月一日 一五時二〇分 地球軌道上 パクは背中が気になった。 理屈ではない。ベテランパイロットの勘だ。特に戦場では、背中に目をもっていなければ長生きできない。 別に特殊な能力ではない。戦闘機パイロットという生き物は、特に見張りというものの重要性を身体が覚えるまでたたき込まれる。すると、否応なく死角が気になる。また、機体の操縦に習熟すれば、操縦そのものに意識を使う必要が無くなり、見張りに意識を回すことが可能になる。 背後を振り返る。もともと細めの彼の目がさらに細められる。一瞬、星の光が瞬いたように見えた。大気中とは異なり、宇宙空間では珍しい現象だ。 星の光のまぶしさをこらえて、じっと虚空を見つめる。 ごくかすかに推進炎が見えた。少しでも目を動かすと見えなくなりそうだ。そのままの姿勢で通信回線を開く。 「レッド・ツー、レッド・リーダーだ。状況中止。リードを引き継ぐ」 「ツー」 「慣性航行を行う。三・二・一・戻せ」 Ｇが消え、セイバーフィッシュの加速が止まったことが体感される。 「ツー、チェック・エイト」 「ツー」 「……見えたか？」 「……はい。見えました。ＭＳが二機」 「よし。敵はまだ気付いていない。このままやり過ごす」 「ツー」 返事を返したが、すぐに質問してきた。 「リード、ミルトン中尉のウィングは大丈夫でしょうか」 「任務に関係のない通信を送るな」 わずかに厳しい声でパクは言った。口調を柔らかくして続ける。 「我々に連絡する手段がない。我々に出来るのは、彼らが我々と同じ程度の運と用心に恵まれているように祈ることぐらいだ」 「ツー」 宇宙世紀〇〇七九年三月一日 一五時二一分 地球軌道上 「見えました。曹長、十一時方向、推進炎です」 部下の報告を受け、イ・チョンジェ曹長はその方向をズームしてみた。ゆらゆらと揺れる明るい星が四つ。 あまり当てにならない赤外線捕捉システムを搭載したイ曹長のザク�兇�、赤外線反応を探知したのが一分前のこと。太陽の輻射熱による誤探知を疑いながらも、慎重に加速して距離を詰め、少し先行した部下がようやく視認したのだ。 セイバーフィッシュが二機。哨戒機か。 「イリー、加速度を連中に合わせろ。このまま奴らをつける。母艦がいるはずだ」 「了解」 「気取られるなよ」 「そんなヘマしませんって」 宇宙世紀〇〇七九年三月一日 一五時二三分 地球軌道上 パクは焦る気持ちが募ってくるのを押し殺し、なんとか冷静さを保ちながら考え込んだ。 こちらが発見してまもなく、敵は加速を絞った。たまたま敵の予定表がそうなっていたのでなければ、先行するミルトンたちのウィングを発見し、『ゴーリキー』までの送り狼となったのだろう。敵は推進炎が発生させる電磁波のため、探知距離一杯のこちらに気付いていないようだ。つまり、ミルトンたちについても同じ事が言える。『ゴーリキー』の正確な位置は分からないが、あまり長い猶予が残されているとも思えない。 さて、どうしたものか……。救いを求めるようにモニターに表示される情報に目を走らせる。現在加速度〇・〇五Ｇ。敵との相対加速度はゼロ。距離五三・八キロメートル。推測による『ゴーリキー』との触接は約八分後。ミノフスキー粒子濃度は二・三。レーダーによる長距離索敵は殺せるが、大出力による信号を殺しきれるかどうか、微妙なレベルだ。 最大加速にでも入れようものなら、瞬時に気付かれる。攻撃可能距離にまで踏み込むのはまず無理だろう。現在セイバーフィッシュの搭載しているＳＩＭ−３スティレットＢ対空ミサイルは、最大加速度一五四Ｇという猛スピードで獲物までの距離を詰める能力を持っているが、あいにく対ミノフスキー能力に乏しい。現在、センサーをレーダーから赤外線の探知に切り替え、ミノフスキー防護処置を施したＣ型の開発を進めているらしいが、将来の装備に現実を変える力はない。手持ちのＢ型では無誘導のロケット弾と変わりない。さすがに発射から到達までの約七秒間の間、敵がおとなしく待っていてくれるとは思えなかった。おまけにスティレットの弾頭威力はかなり限定されたもので、宇宙兵器としてはかなりの装甲を持つＭＳ相手に、まぐれ当たりを一発二発入れてみても決定的な効果は期待できなかった。つまり、一機あたり十二発装備されているスティレットを散弾のようにばらまいて命中率の向上を狙っても、敵の撃破は望めない。 必死に考え続ける間にも、残された時間は少なくなっていった。 「リード」 ムーア少尉が呼びかけてきた。現状の打開策を考え込んでいたパクは、ここしばらくの間見張りがおろそかになっていた。あやうく慌て声で返事を返すところだった。喉まででかかった声を飲み込み、平静と変わらない声を作る。 「ツー、どうした？」 彼の返事は、パクの予想していたものとは全く違っていた。 「『ゴーリキー』に警告を送れないでしょうか」 「出来るものならとうにやっている」 かろうじてため息をもらすのをこらえながら、パクは言った。 正確な座標の分からない相手にレーザー通信を送るとなると、必然的に出力が大きくなる。レーザーの収束率を落として、相手がいると推測されるエリア全体に対して発信するからだ。当然、そのコーンの中にいれば、その気にさえなれば誰でも受信できる。パクたちと『ゴーリキー』とを結ぶコーンの中に敵のザクがいる以上、そんな危険は犯せない。特に敵が偵察を任務としている以上、なんらかのセンサーを搭載している可能性は高い。軽率な行為は禁物である。 かといってコースを外してザクに気付かれにくい位置から通信を送るというのも考えものだ。ほぼ直線上にあるといっていい位置関係からして、現行のコースに対して垂直方向に座標を移す必要がある。不可能な話ではないが、軌道修正のために必要な時間とエネルギーが問題だ。敵に気付かれないように減速・針路修正・再加速を行っているうちに時間を使い切ってしまう。無論、戦闘時のようにスラスターを盛大に吹かせば、その瞬間に気付かれる。 その程度のことは当然知っているはずだし、知らなければ問題なんだが……と考えているパクの表情を読んだのだろう、ムーアは慌てて続けた。 「『ドンキー・アイ』のレーザースポットを使えば、敵に気付かれる可能性は低いのではないかと思うのですが」 彼らのセイバーフィッシュは、翼面のパイロンに装備される中距離ミサイルと、機体内部に装備された短距離ミサイルを主兵装としている。今回はあくまでも訓練が主眼であったため、戦闘用の装備としてはスティレットのみで、翼面には訓練用のＳＴＭ−３ドレイクを搭載していた。これは簡単に言えばミサイル型のレーザー発振機で、目標をロックオンし「発射」すれば先端から低出力のレーザーを発射して目標を照射、それを内蔵のコンピュータが評価し、命中の正否を判定するというものであり、ミサイルの訓練ではごく普通に用いられるものだった。一応、訓練の種類の応じて本物のように推進する機能も備わっているが、どちらかというと発射機から切り離されたあと、回収されるための自力移動能力といった程度のものであって、もちろん兵器としての攻撃力は皆無である。パイロットたちは、先端の大きな可動型レーザー発振器から『ドンキー・アイ』と呼んでいた。 機体から切り離すだけだから、推進能力が弱いことも問題にならない。むしろセイバーフィッシュと比べて格段に質量が小さいため、より弱い熱量で大きな加速度を引き出すことが出来る。ふむ、使えるか。 パクは決断を下すと、コンソールに『ドンキー・アイ』への命令を入力し始めた。 宇宙世紀〇〇七九年三月一日 一五時二六分 地球軌道上 サラミス級巡洋艦『マキシマム・ゴーリキー』 第一艦橋 ん？ ガサンディはコンソールのディスプレイに見入った。ごく僅かな電磁波の上昇を、『ゴーリキー』のセンサーが拾い上げたのだ。本来ならコンピュータがフィルターにかけて選別した情報のみを映し出すのだが、彼はフィルターのレベルを下げるだけ下げ、自分の判断力に処理の大半を任せていた。確かにそうすると彼の手元に集まる情報が格段に増えるが、虚探知の数もそれに比例する。また、情報の嵐を真っ正面から受け止めることになるため、すぐに疲労してしまう。 しかし、今回はさほど時間をかけずに、求める情報にたどり着けるはずだった。長くても数分以内のはずだ。同じ事は敵についてもいえる。一秒が惜しかった。それに彼は自分の能力を充分に信頼していた。戦前行われた演習の際に、彼は同じようにしていて新星を発見したことがある。他の天体観測の専門機関より先に発見したのだ。 彼は新しい電磁波に慎重にマスクをかけ、フィルターを切った。同時に何億光年も向こうから届くものを含めたあらゆる電磁波が飛び込んでくる。 フィルターのレベルを上げる。アナログ式の微調整ダイヤルを少しずつ回し、ノイズを払い落としていく。 太陽や天の川を背にしていなかったのが幸運だった。ノイズの量はさほど多くなかったため、まもなく欲しい情報が得られた。コンピュータが解析する。彼は解答を艦長に報告した。 「艦長、パク少佐からの警告です。二四三─三三八─六八に敵の偵察部隊」 「機関制動〇・〇二、進路〇─＋三〇」 「制動〇・〇二、進路〇─＋三〇、アイ」 ガサンディの報告を受けたシーは、間髪入れずに命令を下した。慣性航行を続けていた『ゴーリキー』は、緩やかに減速を始めた。 「パク少佐のウィングは現在敵を追尾中。ミルトン中尉のウィングは、敵の前方にいると推測されるとのことです」 「しかし、よく我々を捕まえられたな。敵に感づかれたかな」 アンツネスが言うと、ガサンディは否定した。 「訓練用ミサイルから転送されてきた通信です。位置関係から、敵に察知された可能性は低いと推測されます」 「なるほど、『ドンキー・アイ』か。考えたな」 「情報士、時間的猶予は？」 「約九分」 「能動的な手段を用いず、ミルトン中尉のウィングと接触するまでの時間は？」 「約七分、ただしやや不正確です」 艦長の質問を予想していたのだろう。ガサンディは、シーの言葉に対してよどみなく答えた。 「アンツネス中佐、君の意見を聞きたい」 例によって言葉少ななシーの質問に、アンツネスは少し考えて答えた。 「おそらく敵の編成は、センサーを強化したザクが一機と、護衛が一、二機というところでしょう。 我々が先手を打てば勝てます。ただし、敵本隊に気付かれます」 「通信士、パク少佐と連絡は取れるか？」 「おそらく可能です。しかし、敵に察知される危険があります」 シーは目を閉じて考え込んだ。アンツネスもガサンディも黙っている。この先は指揮官が決断する領域だ。判断を誤ると、連邦軍の迎撃作戦の失敗に直結しかねない。しかし、悠長に考え込んでいられるほどの時間を与えられているわけでもない。 シーは目を開いた。 「パク少佐に通信を送れ。敵偵察部隊の座標を本艦に転送させろ。それと攻撃開始時には同調させる」 「アイ・サー」 「敵座標を捕捉した時点をもって攻撃を開始する。砲雷撃戦用意。攻撃目標は敵偵察部隊」 「砲雷撃戦用意、アイ」 ガサンディが答えた。ほぼ同時に通信士が報告する。 「パク少佐から返信です。敵偵察部隊の座標を獲得しました」 「了解」 「艦長、砲雷撃戦用意完了」 「了解。レーザーセンサーに火を入れろ。敵偵察部隊と航宙隊の現在位置を把握する」 「センサー、アクテイブ、アイ」 「ミルトン中尉を見つけたら、戦術情報を転送しろ。敵偵察部隊を追い払い、セイバーフィッシュを収容後、敵本隊への触接を試みる」 「アイ・アイ・サー」 宇宙世紀〇〇七九年三月一日 一五時二八分 地球軌道上 警報が鳴った。イ曹長は、反射的にディスプレイに目をやり、表示された警告の内容を読みとった。 特定波長の電磁波、光……レーザー通信か！ 一瞬、レーザー通信の解析を行って発信源と着信先を調べようかと思ったが、思い直した。発信源の方向に太陽があったからだ。解析の困難云々より、こちらの位置が先に露見しているという危険の方こそを重視するべきだった。 「イリー、バレたらしい。ズラかるぞ」 「了解」 ルウム以来の相棒だけに、余計な口を叩かずに従った。 あるいはそれが彼らの命を救ったのだともいえる。 続けて警報が鳴り、ミサイルの接近を告げた。ミノフスキー粒子の濃度から考えて、誘導が効いているとも思えないが、取りあえず機体の向きを変え、回避行動をとる。 ミサイルが爆発した。 連続して次々に火球が生じる。二機のザクを衝撃波が叩いた。 イは、心の中で舌打ちした。やはりバレてたんだ。あのままぼさっとしてたらただではすまなかったな。 そう思ったところに続けて警報が鳴り響いた。後方に高熱源体。 宇宙世紀〇〇七九年三月一日 一五時二八分 地球軌道上 『ゴーリキー』から転送される戦術情報を受け取ったパクのセイバーフィッシュのディスプレイには、完全にレンジ外に存在する『ゴーリキー』のデータも表示されていた。『ゴーリキー』のデータのすぐ下には、攻撃開始までの時間を表す小さなカウンターが、数字を減らし続けていた。画面の右上にはもう一つのカウンターがおかれていた。もちろん、こちらは彼らの攻撃開始時間を表している。 攻撃開始まで二秒、一秒、開始。ディスプレイには新たにミサイル群を意味するマーカーが表れた。ほとんど同時に敵ＭＳは回避を始めた。反応が早い。あるいは予測していたのかもしれないとパクは思った。 もう一つのカウンターがゼロになった。 「フォックス２」 ムーア少尉に告げて、同時にトリガーボタンを叩く。ムーア少尉もそれに倣った。 一機あたり四発、二機で八発のスティレット短距離ミサイルが虚空を切り裂き、ザクを目指した。 二人は同じ目標を狙っている。より近く、しかも重要度の高い敵──イ曹長のザクだ。『ゴーリキー』の放ったミサイルが爆発し始めた。あらかじめ敵の機動を予想して自爆するように調整していたのだ。さらに爆炎を切り裂いて閃光が奔る。主砲も砲撃を始めたらしい。数瞬の後にはスティレットが背後から襲いかかってくる。理想的な先制攻撃といえた。 二機のセイバーフィッシュは、回避のために進路を変えたザクのとどめを刺すべく、二度目のスティレットを放った。 宇宙世紀〇〇七九年三月一日 一五時二八分 地球軌道上 全身のスラスターから炎を吹き上げるようにして、二機のザクは回避行動をとった。意図的にスピンを起こし、機体を強度限界まで酷使して照準を外す。さすがに主砲のビームは喰らわなかったが、逃げる先々に打ち込まれるミサイルはかわしきれなかった。 もっとも、二人とも衝撃波とＧに耐えるので精一杯だったので、ミサイル直撃の衝撃はそれほど堪えなかった。無論、衝撃の大半を機体が吸収していたからなのだが。 イ曹長には、荒れ狂う嵐が過ぎ去ったと思えるようになるまでずいぶんな時間が過ぎ去ったように思えた。精神的にも肉体的にも過酷な試練を乗り切るために、盛大に分泌されたアドレナリンの影響が薄れるにつれて、ようやく理性が復活し始めた。もっとも、訓練によって身体に刷り込まれた部分は、理性の機能が停止している間にも働いていた。 取りあえず敵の攻撃はこれ以上はないようだ。センサーの捉える範囲内には、特に脅威を示すものはない。敵もとどめを刺しに来るほど余裕はなかったのだろう。機体の方も深刻な損傷は受けていない。衝撃に弱いセンサーシステムや機体各部のサブスラスターが破壊されているのは仕方がない。まあ、この程度で済んだことの方を感謝するべきだろう。そこまで確認すると、回復した理性が列機の状況を気にしだした。 「イリー、無事か？」 「……あまり無事じゃありませんな」 失神していたらしい。返事が返ってくるまでしばらく時間を要した。カメラがいかれたらしく、映像は映らない。音声だけだ。 「右腕と左脚が手酷くやられました。頭もダメですね。あまりよく見えません」 「おい、大丈夫なのか？」 一瞬、間の抜けた沈黙が訪れ、ついでイリーの笑い声が聞こえた。 「俺の事じゃありませんよ。ザクのことです」 イはため息を付いた。 「人型ってのも考え物だな」 「全くです。で、敵はどうなりました？」 「さあ。探知範囲にはいないな。おとなしく引き上げてくれたか、我々の本隊を探りに行ったか、いずれにせよ目をやられちまったんじゃ、これ以上出来ることはないな。引き上げるぞ」 「了解。まあ、さすがにさっきのは本隊の方でも気づいたでしょうが」 「おそらくな」 宇宙世紀〇〇七九年三月一日 一五時四一分 地球軌道上 サラミス級巡洋艦『マキシマム・ゴーリキー』 第一艦橋 「セイバーフィッシュ全機、係留作業完了しました」 「了解」 ガサンディの報告に、シーは頷いてみせた。 「整備できないのが残念ですが」 アンツネスは、『ゴーリキー』近辺の航宙図を映し出しているスクリーンを見ながら言った。 敵本隊を意味するマーカーから、不確実な座標を意味する円の直径が秒刻みで縮まってゆく。この円弧の中のどこかに敵の艦隊が存在するわけである。円弧が消え、点になった瞬間が索敵任務の完了だ。現実にはそこまで徹底する必要はあまりない。むしろ危険だともいえる。敵の座標を確定するということは、有視界距離に入った、つまり敵からも見える距離にまで間合いが狭まったということを意味するからだ。 先ほどの交戦でこちらの存在を露見させた以上、不必要な接近は危険以外の何ものでもない。おそらく、既にＭＳ部隊をこちらに向かわせている頃だろう。放出する赤外線量が格段に小さいため、敵ＭＳ部隊が加速を続けていた場合、こちらの探知距離に入ったときには回避不能な状況になっている可能性が高いのだ。先ほどの交戦のように、こちらが相手を先に発見して、しかも双方の相対速度がそれほど大きくない状態とは全く状況が異なる。こちらが回避するまもなく一撃を喰らい、それで終わりになるはずだ。ルウムの時のように。 一番いいのはセイバーフィッシュを前衛に張り付けておくことだが、艦内に収容して整備する能力を持たない『ゴーリキー』では、弾薬や推進剤の補給どころか、冷却作業すら満足に行えない。サラミス級巡洋艦の限界といえた。 結局、『ゴーリキー』が選択したのは、必要最低限の情報を獲得したことに満足してさっさと撤退することだった。セイバーフィッシュの固定が完了したところで、反転、帰還する。 「まあ、今回は被害も出ませんでしたし」 ガサンディがなだめるように言った。 「こちらの敵が本隊であることはほぼ確実ですし、これで充分なんじゃないですか？」 「少佐の言うとおりだな」 それまでほとんど沈黙を保っていたシーが答えた。 「我々がセイバーフィッシュと連携して、しかも先手を打って相手を潰せなかったというのが現実だ。無論、任務の遂行には成功しているが、あまりに戦闘力が開きすぎている。五分に持って行くにはセイバーフィッシュのような機動兵器の充実が必要だ」 普段よりやや饒舌なシーの言葉を受け、アンツネスが言った。 「連邦が敵と張り合えるようなＭＳの開発に成功するまで、我々パイロットは死ねないということですな」 「そういうことだ。熟練したパイロットは量産が効かん」 アンツネスは自分の言葉とシーの言葉を反芻した。死ねない、ね。無理難題とはこういうことを言うんじゃないか？ |