第二次スーパーロボット大戦 −DC戦争−」

第一話「鳴動」



 そこは、隕石やコロニー建設の廃棄物が集まる宇宙の暗礁空域だった。コロニーや航路から大きく外れたこのエリアは危険なだけで、業者が廃棄物を投棄する以外で、好んで近寄ったり、ましてや、そこに居を構える物好きはいなかった。
 しかし、生物が存在しないはずのこの宙域で、火線や爆発が断続的に起こっていることがコロニーから見て取れた。そう、今、この暗礁空域で戦闘が行われているのだ。
「ッキショー、ゴミが邪魔で、射線が通らねえ」
 中距離からの支援を行っていたグレーのMSのパイロットが、無念そうに呟いた。
 ゴミや隕石をかいくぐって、執拗に攻撃を繰り返す敵の戦闘機に翻弄されているのだ。それも仕方ないだろう。この宙域が敵の根拠地である以上、地の利が敵にあるのは当然だし、この視界の悪い暗礁空域は、中距離支援用のガンキャノンにとって有利な戦場とは言い難かった。
「焦るな、カイ」
ガンキャノンに背後から攻撃しようとしていた敵機を別の戦闘機がビームキャノンで撃墜した。
「すまねえ、リュウ。でも、このままじゃ、突出したアムロが孤立するぜ」
 カイの危機を救ったのは第十三独立部隊のモビルスーツ部隊の隊長リュウ・ホセイ大尉の駆るGファイターであり、グレーに塗装されたガンキャノン重装型――ガンキャノン3――に搭乗しているのは、同隊所属のカイ・シデン少尉だった。どちらの機体も、一年ほど前にロールアウトしたばかりの連邦軍の新型だった。
「分かってる。カイはハヤトと一緒にホワイトベースの直衛にまわってくれ。アムロは俺が援護する」
 ただ一機で母艦を護衛している、もう一機の赤く塗装されたガンキャノン――ハヤト・コバヤシ曹長機――をカイに援護させると、リュウは、自らの乗機を暗礁空域中心部に突入させ、既に突入しているアムロ・レイ少尉の援護に向かった。

 宇宙に建設されているコロニーは、それぞれラグランジュポイントと言われる重力の安定点に建設されている。
 その内のサイド1とサイド4のコロニーが建設されているL4ポイント。現在、このL4ではサイド1に比較して開発の遅れていたサイド4のコロニー郡の建設が本格化していた。しかし、その前途には暗雲が立ちこめていた。
 コロニー建設のための物資、人員を満載した輸送艦が次々と攻撃を受け、略奪されているのだ。この事件はスペースノイドを震撼させただけでなく、もはや歴史書とフィクションの中にしか存在していない海賊が実在していることを教えていた。
 このような宇宙海賊はL4だけでなく、ここ数年で地球圏全体に広がりつつあった。そして、特にこの二年の間にその勢力を大きく拡大していた。
 勢力を増したと言っても横のつながりもなく、組織化されたものでもなかったので、連邦やコロニーにとって深刻な脅威とはなり得なかったが、放置しておくわけにはいかなかった。だが、その鎮圧は困難を極めた。
 まとまりが無く、分散してるが故に討伐する側の連邦軍も一つ一つ地道に潰していかなければならない。その上、海賊は暗礁空域や廃棄コロニーなどの難所を拠点としているため、物量で圧倒することも出来ず、連邦軍の討伐は困難を極めた。
 だが、中には例外もある。特にこのL4にある暗礁空域を根城とする海賊退治に派遣されている第十三独立部隊は設立当初は寄せ集め部隊などと陰口を叩かれていたが、二年前の宇宙生物の撃退以降、宇宙海賊の討伐に大きな戦果を挙げており、その精強さは軍内だけでなく、一般市民にも知られるようになっていた。

「あの機体、どこに逃げた?」
 まるでこちらを誘い出すかのような敵−海賊−の動きを不審に思いながらも、アムロは、G−3(ガンダム3号機)をさらに加速させた。
 G−3はかつてアムロが使用していたガンダム二号機と同型機だが、二号機のデータを元に若干改修し、その上にマグネット・コーティング――機体の関節部等の抵抗を電気的に減少させ、機体の追従性を大幅に向上させる新技術――を施されており、その性能は大幅に向上していた。
しかし、己と機体の力を過信し、敵を侮ったその雑な行動はアムロに手痛い教訓を与えた。
「なに!?」
 G−3の前方の空域に一瞬にしてネットが張られたのだ。加速中だったアムロはそれをかわすことが出来なかった。
 鈍い衝撃がコクピットにまで伝わり、G−3はネットに激突した。
「くそ、こんなものでガンダムをやったと思うなよ!」
 すかさずG−3を離脱させようとしたが、計算ずくの敵の行動はそれよりも早かった。G−3に絡みついているネットに高圧電流が流されたのだ。
「クッ、しまった……!」
 人間の目と同じように配置されたG−3のモニターアイが光を失うのと同時に、コクピットが闇に包まれた。G−3のアビオニクスの耐性を越えるほどの電流が流されたため、セイフティが働き、一時的に全機能が停止したのだ。
 幸いなことに人体への影響は少なかったので、アムロはG−3を復旧させるべく、すぐに行動を開始したが、同時に己が慢心していたことを思い知らされていた。
(今までずっとうまくいっていたからって、敵を侮って注意を怠るなんて……)
 二年前の宇宙生物の撃退以降、何十回と行ったテロリストや宇宙海賊などの不穏分子の討伐に遅れをとったことはなかったことが少なからずアムロを増長させていたのだ。
 しかし、アムロに後悔している猶予は与えられなかった。機体を揺るがす衝撃が敵の攻撃が始まったことを知らせていたから。

「アコース、コズン。油断するなよ。今回の戦闘の目的は敵の殲滅ではなく、ここから無事に脱出することだ」
 青い機体に乗った壮年の男が貫禄を感じさせる声で、隕石の影からバズーカの砲撃を続ける二機の部下に対して、命令を伝えた。
 彼らの使用している機体は開発したサイド3自治軍ではすでに一線から退いているMS−05ザク1――通称旧ザク――だった。この旧ザクは、リックドムが自治軍の主力として正式に採用後、第一線から退き、各コロニーなどに作業用として払い下げられた機体であった。だが、皮肉なことにこの優秀な機体は作業用としてよりも、宇宙海賊の主力機としてその名を知られていた。
「はっ!」
「了解であります」
 二人の部下の返答を確認すると、ランバ・ラルは本隊に連絡をいれた。
「クランプ、そちらの状況はどうだ?」
「無人機の損害が予想以上に大きいですが、それ以外は予定通りです。ご命令があれば、今すぐにでも撤退できます」
「例の奴もか?」
「……あれを使うのですか? しかし、あれは……」
 それまで、冷静に受け答えをしていた男の声がわずかに落ち着きを失った。それだけ、意外なのだろう。
「奴らは予想以上に実戦慣れしている。こちらをただの海賊と侮ってくれたからいいようなものの、本気になられたら、殿(しんがり)無しでは振り切れんぞ。案ずるな、実戦データは保存してあるし、あれはこういう任務にこそ向いている」
「……分かりました。五分下さい。それまでに準備します」
「三分で準備しろ。それまでは、我々が敵を抑える」
「了解しました。ご無事で」
 ラルが本隊との交信を終えるのと同時に部下から連絡が入った。
「大尉、奴が動き始めました。……信じられません、こちらの攻撃がほとんど効いていないようです」
 アコースの声が震えていた。ラルの元で数多くの戦闘をくぐり抜けてきた彼がここまで怯えるのだ。これまで相手をしていた連邦軍と同じ部隊とは、ランバ・ラルには思えなかった。
「貴様達はすぐに後退しろ。何なら、そのまま逃げ出してもかまわん。その後の行動は打ち合わせ通りだ」
 急いで指示すると、部下の返答も聞かずに機体を急加速させた。そして、Gに耐えながらあることを思い出した。
(そういえばシャアが言っていたな。連邦のMSは侮れん、と)



予告

 仲間の助けによって窮地を脱したG−3
 しかし、そのグレーの機体に青い巨星が迫る
 そして、モビルスーツとは違う別の機体が蠢動する

次回、「機械の獣(けもの)」


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