第二次スーパーロボット大戦 −DC戦争−」

第二話「機械の獣」



 ランバ・ラルが戻る前に大きく戦局は動いていた。リュウのGファイターがG−3の援護にやってきたのだ。このGファイターの乱入によって二機の旧ザクのG−3への攻撃は集中力を欠くこととなり、その結果、大きな被害もなくG−3は再起動、攻守は所を変えるところとなっていた。
 だが、あまりに一方的に過ぎる戦いは、もはや戦闘とは言えなかった。同じMSとはいえ、旧ザクとG−3では性能差がありすぎたのだ。そして、その差はアコース、コズンのようなベテランパイロットが地の利を押さえていても埋めることは出来なかった。彼らに残された手段は、逃げ回ることだけだった。しかし、それも時間稼ぎにしか過ぎず、撃墜と投降という不名誉な二者択一が彼らを待っていた。
「直ちに抵抗をやめ、投降せよ! 生命は保証する!!」
 リュウは先程から全チャンネルで投降を呼びかけていた。しかし、彼らは抵抗――逃亡――をやめようとはしなかった。
 敵を投降させるため、旧ザクを撃墜することを避けていたアムロはG−3とGファイターを接触させ、直接回線でリュウに撃墜の可否を問うた。
「仕方がないな。ただし、パイロットはなるべく殺さないようにな。背後関係を聞きたい」
「いくら民間に払い下げられたからって、MSが簡単に入手できるはずないですからね」
「ああ。俺が追い詰めるから、足でも吹っ飛ばして行動不能にしてくれ。最悪でも、機体が残っていればどういうルートから流されたか分かるからな」
「了解。行きます!」
 アムロの声を合図に、G−3とGファイターは二手に分かれて、敵に向かって突撃した。

 それまで固まって行動していたザクが二手に分かれた。どちらか一方だけでも逃げ切るつもりらしい。だが、アムロはそれに惑わされることもなく、リュウが追撃する一機に集中した。
 程なくGファイターの攻撃によって旧ザクは追い詰められた。高出力のビームキャノンが旧ザクをかすめた。
 その間にG−3は手持ちの武器をビームライフルからビームサーベルに持ち替えている。Bライフルの残弾が少ないのだ。それに、障害物の多い暗礁空間では近接戦闘の方が確実に敵の足を止められる。
 至近弾によって姿勢を崩した旧ザクにG−3が急接近、斬りかかった。
「う、うわぁぁぁ〜、やられる、やられちまうぅ。た、助けて、助けて下さいぃぃーー! た、たい、たいちょぉぉーー!!」
 アコースは半狂乱だった。無理もない。自分の機体よりはるかに高性能な機体に追い回されているのだ。まるで猫に狩られる鼠のように。
 だが、もはや逃げ場はない。半狂乱でありながらもそれを覚ると、アコースは機体を反転させた。窮鼠は猫に噛み付くしか道はないのだ。
 旧ザクはG−3に向かってマシンガンを乱射した。無論、G−3の装甲とシールドはそれを問題にしなかった。
 窮鼠と化した旧ザクは、反抗を諦めはしなかった。左腰のラッチにあるヒートホークを持たせ、投げつけたのだ。
 しかし、そんな必死の攻撃もBサーベルで簡単に弾かれた。もはや丸腰の旧ザクには、抵抗する術はないはずだ。アムロはそう思った。
「ま、まだだぁぁぁー!!」
 G−3の隙をつくように、旧ザクはショルダータックルを仕掛けた。
「うおぉぉ〜!!」
「な、なに!? うわぁ〜!」
 Bサーベルを左腕を受けながらの旧ザクの攻撃はカウンターで決まり、G−3を吹き飛ばした。咄嗟にアムロも逆噴射をかけて衝撃を多少殺したのだが、不意をつかれたのでその全てを受け流すことは出来なかった。
「無駄なあがきを! そこだ!!」
 吹き飛ばされながらもアムロの対応は早かった。Bサーベルを捨てて、ライフルに持ち替え、ザクの足を狙撃する。このビームはザクの両足を薙ぎ払った。

「アムロ、動けるか?」
 両足を失った旧ザクを警戒しながらも、GファイターがG−3に呼びかけた。
 しかし、それは上方からの攻撃によって遮られた。
 アムロが返事をする前にGファイターの直上の隕石の影から現れた青いザクが急接近、マシンガンを乱射したのだ。完全な不意打ちだった。回避する前にGファイターは被弾、左翼をもぎ取られた。
「ぐぅ、お、落ちるなー!」
「上!? 敵は引き受けます、リュウさんはホワイトベースに帰投して下さい!」
「す、すまん、アムロ!」
 アムロは被弾したGファイターを援護すべく、G−3にBライフルを撃たせる。が、敵のスピードについていけず、追撃のビームは敵の航跡をなぞるだけだった。
「速い! 何者だ!?」
「正確な射撃だな。だが、それ故に読みやすい」
 さっき倒した機体とは別物としか思えないような速度で青い旧ザクは機動した。その素早い動きに気を取られていたG−3は後背から攻撃を受けた。
「な、なに、直撃!?」
 不意打ちを食らっているG−3を後目に、ランバ・ラルはアコースを回収し、撤退していた。その背後でアコースのザクが自爆していた。
「……危ないところだったな。第十三独立部隊か、その名、覚えておこう」
 青いザクのパイロット、ランバ・ラルはそう呟くと母船と合流すべく、機体を加速させた。

   二年前の宇宙生物来襲事件を期に、アムロは異常に勘が鋭くなり、モビルスーツの装甲越しに敵の殺気を感じ取れるまでになった。
 そして、アムロの勘はこの二年でますます鋭くなり、今では複数の敵の気配や攻撃にうつる時の殺気をも感じ取れるようになっていた。それ故に、アムロが完全な不意打ちを食らうことは無かった。少なくとも、これまでは。
「そんな、どこにも敵を感じない!? そんなっ!?」

 いまだに続く攻撃を回避しながらもアムロは焦っていた。敵の殺気どころか気配すら感じ取ることが出来ないのだ。感覚が鈍ったわけではない。戦場を離脱するランバ・ラルやリュウの気配を感じ取ることは出来るのだから。
 そんな戸惑いなど関係なく、敵機がG−3の正面から攻撃を仕掛けてきた。敵が発射した独特の形をしたミサイルをかわしながら、アムロは敵の姿をはっきりと確認した。
 人間の頭蓋骨を模した頭部の両脇に大鎌が装備された異様な姿は、MSとは全く異なるコンセプトの元に作られた機体と分かる。
 敵の異形に驚きながらも、アムロは攻撃を仕掛けた。Bライフルが立て続けに撃ち込まれる。
 だが、その攻撃は微妙に外れており、唯一の直撃弾も胸部の分厚い装甲の表面を融解させただけだった。
 アムロの同様とは裏腹に、敵機は直撃弾にも全く動揺することなく、目からミサイルを撃ち放ち、左側の大鎌に手をかけると、それをG−3に投げつけてきた。
 だが、その速度は遅く、G−3は悠々と回避した、はずだった。側面からのレーザー攻撃さえなければ、だ。
 敵は二機いたのだ。余裕を無くしていたアムロは敵を完全に一機だけだと思いこんでいた。
 二条のレーザーはBライフルを直撃して爆発させ、大鎌はシールドの中央部に命中し、ルナチタニウム製のシールドをたやすく両断した。
 Bライフルを破壊した機体も、先程の機体と同様にMSとは全く違う姿をしていた。緑に塗装されたその機体は、龍をデフォルメした頭部を二つ胴体から生やしていた。
「もう一機いたなんて……。くそ、このままじゃ勝てないか……」
 G−3はシールドを捨てると、その場を離脱した。逃げ出したのだ。
 機体の性能、パイロットの能力。どちらも戦闘に必要なものだが、それだけで戦闘は決しはしない。戦いには“勢い”というものがある。ある意味、これの前には多少の能力差は無意味だ。
 今のアムロは正体不明の敵を前にして動揺している。怯えている、と言ってもいい。こういう時、エースと呼ばれるパイロットほど脆い。
 そう考えれば、アムロの選択は間違ったものとは言えないだろう。
 それに、飛び道具の無いG−3では勝ち目はない。

 普通の海賊――おかしな表現だが――なら、今の状況下なら敵を撤退させただけで満足していただろう。普通なら。
 だが、この二機は迷う素振りも見せず、追撃を開始した。双頭の機体はそれぞれの頭からレーザーを乱射、G−3の行動を妨害し、骸骨頭の機体は通常では考えられないような加速でG−3を追跡していた。そう、MSならパイロットがGで圧死するような加速度で。
 アムロは敵機の尋常ではない速度に驚嘆しながらも、隕石やゴミを巧みにかわしながら敵を撒こうとした。
 しかし、それでも敵は距離を詰めてきた。骸骨頭はあらかじめ地形を把握しているようで、ほとんど速度を落とさず追撃。双頭龍も遅れがちながら、的確なレーザー攻撃でG−3の逃亡を困難にしていた。
「うわぁぁーー!!」
 G−3は遂に捕まった。骸骨頭の体当たりを背中に喰らったのだ。
 敵機と隕石にサンドイッチにされるG−3。機体が激しく軋む。
 骸骨頭は自機が悲鳴を上げているのを無視して、そのままG−3を隕石に押しつ続けた。このまま押し潰すつもりのようだ。
「こ、こんなところで!」
 アムロは何とか脱出しようとするが、敵の手を逃れることは出来ない。どうやら、敵の出力はG−3と互角か、それ以上のようだ。
 しかし、ふっ、と機体にかかっていた圧力が消えた。
 横合いから誰かが攻撃したようだった。すかさず上昇して、窮地を脱したアムロは反転して戦況を確認した。
 その時、正面モニターには骸骨頭を一刀両断にした黒い機体が映し出されていた。
「あ、あれは、グレート・マジンガー!?」
 アムロの声が聞こえたのか、黒い機体−グレート・マジンガーは、ちらっ、とG−3の方を見た。だが、それも一瞬のことで、双頭龍に向き直った。
 味方をやられたにもかかわらず、双頭龍は逃げなかった。それどころか、味方を一刀のもとに破壊されたにもかかわらず、怯んだ様子すら見せなかった。
 先制したのは双頭龍だった。双頭からレーザーを発射し、胴体からミサイルを連射する。
 黒い機体はそれをいとも簡単に回避した。しかも回避しながら、双頭龍に向かって鉄拳を飛ばす。回転しながら高速で飛来した鉄拳は、いとも簡単に双頭龍の胸部を貫いた。
 胸部を貫かれながらも双頭は攻撃をやめなかったが、長くは続かなかった。黒い機体が投擲した胸部の放熱板によって双頭は切り飛ばされ、間髪入れず胴体には雷が撃ち込まれた。この連続攻撃に耐えられるはずもなく、双頭龍は大爆発を起こした。

 戦闘による張り詰めていた空気、というか雰囲気がほぐれていくのがアムロには分かった。戦いは終わったのだ。
 ほっと一息ついていたアムロは黒い機体に呼びかけた。いくらミノフスキー粒子が濃くても目視できる範囲の機体と連絡が取れないわけではない。
「聞こえますか? グレート・マジンガー。こちら第十三独立部隊旗艦ホワイトベース所属G−3(ジースリー)、アムロ・レイ少尉です」
「聞こえている、アムロ・レイ少尉。久しぶりだな」
 先程戦闘したばかりだというのに、冷静そのものの声で答えたグレート・マジンガーのパイロットは、やはり二年前の宇宙生物来襲事件で共に戦った剣鉄也だった。



予告
   それは二年以上の歳月をかけて周到に準備されていた
   ただ己の正義を貫くために
   その計画が遂に発動する
   地球圏をその手に掴むために

次回、「ディバイン・クルセイダーズ」




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