「スーパーロボット大戦 −The First War−」

第一話「戦端の始まり」

一二:三八 日本地区日本海上空  波の高い日本海上空を航行する一隻の白い船があった。連邦軍第十三独立部隊の旗艦− この他に所属している艦はいないが−ホワイトベースである。中国地区での所定の訓練を 終えたWベースは、日本地区のドックで整備を受けるべく、日本海を横断していたのだ。 「やれやれ、中国にはでかいドックが幾らでもあるんだから、わざわざ日本まで行かなく とも良さそうなもんなのによ」  ガンキャノンのパイロット、カイ・シデン伍長がいつものように不平を言った。天の邪 鬼のカイがこんな事を言うのは、今に始まったことではないが、他のパイロット達も今回 ばかりは、カイと同意見だった。 「ほんとですよ。こんなことなら、富士のすそ野で訓練した方がよほどましです」  いつもならカイとは仲の悪いハヤト・コバヤシ伍長も、この時ばかりは間髪入れずに同 調した。いつもは辛抱強く、生真面目な彼も疲れから口が軽くなっていたのだ。  同様に疲れてはいたが、年長でもあり、多少の分別はあるリュウ・ホセイ中尉は、いつ ものように抑え役に回った。 「仕方ないさ。上海のドックは、新型艦の建造中。天津や大連、台北は他の艦隊が使って るんだから」  今回は合同訓練であったため、近くのドックは、優先的に他の部隊の艦艇に回されてし まったため、最近、寄せ集めで編成されたばかりの第十三独立部隊は、一番遠い日本の呉 に回されてしまったのだ。自分たちが連邦軍の中では落ちこぼれであることは自覚はして いるが、こうも露骨に待遇が違うと愚痴のひとつもこぼしたくなってしまう。特に、拭い ようのない疲労感が一層不満を大きくしていた。 「言うな。疲れるだけだ」  と、張りのない声で言ったのは、第十三独立部隊の指揮官であり、Wベースの艦長を務 めるブライト・ノア大尉である。実際、最も疲れていたのは彼だろう。  それまで、連邦軍の中では可もなく不可もない存在だった彼が、何故この寄せ集め部隊 の指揮官に任命されたのかは彼自身にも分からなかった。だが、実戦経験もなく緊張感に 欠ける彼らを指揮することが、ブライトにとって非常に骨の折れる任務であったのは事実 だ。今回の合同演習においても、その動きは参加部隊中もっとも悪く、演習の責任者であ るジャミトフ少将に叱責されたばかりだった。もっとも、もともとジャミトフ少将は第十 三独立部隊設立に真っ向から反対していたため、そのあたりの事情を割り引く必要はある だろうが。 「トーレス、呉までどのくらいだ?」 「あと、二十分位です。用があったら呼びますから、艦長室で休んだらどうです?」 「そうだな。だが…」  ブライトが考えていると、通信士から報告が入る。 「艦長。浅間山近辺に未確認飛行物体が落下中とのことです」 「隕石じゃないのか?」 「月、コロニーからの観測では、確認できなかったようです」 「調査命令が出たのか?」 「いえ。ですが、何らかの命令が出る可能性があるので、呉で速やかに補給を済ませ、待 機しろ、とのことです」 「落下予想時間は?」 「一七:〇〇だそうです。呉に着くのは一三:〇〇ですから、三時間で整備と補給を済ま せなければなりませんね」  ブライトは、やれやれ、と首を振り、速度を上げるように命令した。 「ほんと、人使いが荒いですよね」  一番最後にブリッジに入ってきたパイロットがそう呟いた。ガンダムのパイロット、ア ムロ・レイ曹長である。パイロットにしては少年と言っていいほど幼く見えるが、連邦軍 がモビルスーツ(MS)を正式に採用して丸二年しかたっておらず、軍の組織も戦術も、 従来のままであった。当然、MSのパイロットは、この二年間に養成された若者が多かっ た。しかも、頭の固い連邦軍上層部は、コロニーで実用化されたMSを過小評価しており、 主戦力とは見なしていなかった(その評価には、コロニーが実用化した兵器なぞたかが知 れている、といった小児病的な感情が働いていた事は否めない。)  しかし、実戦部隊に影響力を持つレビル中将やジャミトフ少将などの強い要請があり、 ガンタンク、ガンキャノン、ガンダムといった試作機が開発され、もっとも完成度の高か ったガンダムを簡易化したGM(ジム)の正式採用が決定していた。だが、その生産数は 少なく、配備された部隊も、彼らの影響力のある部隊のみで、連邦軍一般の装備は、従来 とまるで変わっていなかった。 「遅かったじゃないか、アムロ」 「ガンダムの整備に付き合ってたんですよ。できる範囲でやっておかないと、後がきつい ですからね」 「調子が悪いのか?」  ブライトが尋ねる。調査命令が出た場合、ガンダムの出撃が考えられない訳ではない。 手持ちの機体の中で最強のガンダムが使えないのは痛すぎる。ブライトの危惧はもっとも であった。 「テストパイロットの変な癖がついてるんで、それを補正するのが大変なんですよ」 「ガンダムはテストではほとんどまともに使いこなせなかったから、こっちに回ってきた んだからな」  多少は事情に詳しいリュウが口を挟む。 「もっとも、量産機に必要なデータはとれたらしいがな。それにしても、テストパイロッ トがあんまり機体を持て余すもんだから、量産機はかなり操作系が簡易化されたらしいぜ」  リュウの言い方に、カイが意地の悪い笑い方をする。 「それより、ガンキャノンとガンタンク、コアブースターの状態はどうだ?」 「特に問題はないと思いますけどね。これ以上は、呉じゃないと無理ですよ」 「戦闘があるかもしれん。カイ、ハヤト、リュウ、呉ではアストナージに協力して機体の 状態を完璧にしておけ」 「へいへい」 「ハイ」 「了解」  と、それぞれバラバラに返事をする。それを聞いて、また心の中でため息をもらすブラ イトだった。 一三:三〇 早乙女研究所  そのころ、浅間山山麓の早乙女研究所では、早乙女博士が宇宙開発用ロボット、ゲッタ ーロボの正パイロットを指令室に集めていた。 「集まってもらったのは他でもない。リョウ君、隼人君、武蔵君。この近くに未確認飛行 物体が落下するらしい。そこで、日本地区行政府から調査依頼が来ている。そのつもりで 準備しておいてくれたまえ」 「そいつはいいけど、博士。今度もプロトゲッターじゃないだろうな?」  ぞんざいな口のきき方をしたのは、イーグル号とゲッター1のメインパイロットの流竜 馬である。凄腕の空手の使い手だった彼をパイロットにしたのは、早乙女博士である。強 靱な肉体でなければ、ゲッターロボは使いこなせないからだが、その説得には何人もの負 傷者の山を築くことになった。 「そうだぜ、博士。訓練をはじめて、もう半年。そろそろ本物のゲッターに乗せてくれて もいい頃だぜ」  そう竜馬に同調したのが、ベアー号とゲッター3のパイロットの巴武蔵。柔道の達人だ った彼はゲッターに惚れ込み、半ば押し掛ける形でパイロットとなった。だが、これは不 幸中の幸いだったかもしれない。最初にスカウトした中からは、ゲッター3の適格者がい なかったからである。武蔵がいなければ、ゲッター3のパイロットは、いまだに未定かも しれなかった。 「自分の未熟を棚に上げて、勝手なことを言うものじゃないな」  冷ややかに二人をたしなめたのは、ジャガー号とゲッター2のパイロットである神隼人 だった。元々学生運動のリーダーだった彼は、運動が挫折するころ、その頭脳と力量を見 込まれて早乙女博士に拾われた。拾われた、といっても、それに隼人が納得するまで、何 度となく流血沙汰が起きていた。このように、問題児ばかり集めたようにも見えるが、現 在は彼らでなければゲッターロボを動かすことはできない、と早乙女博士は思っていた。  隼人は、一見二人をたしなめているようだが、二人の言うことに反対しているわけでは ない。これまでの実地訓練で使用されていたプロトゲッターは出力がゲッターの半分もな く、今となっては、彼らには物足りなくなっていたのだ。そのことを3人は不満に思うよ うになっていた。もっとも、最初はプロトゲッターすらまともに扱えなかったのだが。 「何だと! 隼人、てめぇ、俺を武蔵と一緒にするんじゃねえ!!」 「そんな言い方あるかよ、リョウ!」 「やめんか! 三人とも!!」  青筋を立てて怒鳴る早乙女博士。だが、怒鳴られた方は全く気にしていないようだった。 「フゥ、そんな事じゃ、とてもゲッターの使用は許可できんな」 「え! じゃ、ゲッターを使っても良いんですか?」 「たった今、その気がなくなったよ」 「そんなぁ〜。頼みますよ、博士」  哀願する武蔵。 「それはともかく、落下してくるのが隕石じゃなく、未確認飛行物体というのは気になり ますね。場合によっては戦闘になるかもしれない」 「隼人君の言うとおりだ。だから、ゲッターの使用を許可しようと思っていたんだが…」 「じゃ、博士。今からゲッターを使わせてくれませんか。それを見た上で判断してくれて もいいでしょう。どちらにしろぶっつけ本番では、こいつらには厳しいでしょうから」 「おい、隼人!」 「そんなこと言ってる場合か、リョウ! お願いします、博士!!」 「ゲッターの整備は万全だ。やってみるかね?」 「はい!」  この時ばかりは三人揃って返事をする。それを見た博士は、にやりと笑って命令した。 「ゲッターチーム、出撃せよ!」  三人が勇んで出ていく様を見送りながらも、早乙女博士はわきあがる不安を押さえきれ ないでいた。 「連邦軍の協力もあると思うが、初めての実戦だ。保険をかけておく必要がありそうだな。 …もしかすると、これがビアン・ゾルダーク博士のいう宇宙からの侵略の始まりなのかも しれんな…」  自説を連邦政府から黙殺され、学会から姿を消した偉大な科学者のことを考えながら、 博士はある研究所と通信をしていた。 「こちらは早乙女ですが、兜博士はおられますかな? 重要な用件があるのですが…」 予告  ついに地球に姿を現した怪物とゲッターロボが対峙する  初陣のゲッターに勝ち目はあるのか? 次回、「前哨戦」 
プロローグ 第二話 SRWインデックス