「スーパーロボット大戦 −The First War−」



第十話 「始まりの終わり」



二一:一〇 日本地区群馬県諏訪山南部 「これが、最後の戦いになりそうですね」  モニターの人物のつぶやきにジョン・コーウェン少将はうなずいた。 「ここまで戦えたのも、あなた方の協力があればこそです。ご協力に感謝します、キシリア・ザビ少 将」 「いえ、我々も地球連邦の一員です。当然のことをしたまでです」  両者の言葉には、形式以上の物はこもっていなかった。だが、それを互いに気にした様子もなく、 無表情にうなずいただけだった。  キシリア・ザビ少将は、サイド3自治軍のナンバー3の重鎮であり、今回の地球行は連邦軍の視察 という名目によるものだった。第十三独立部隊に合流したシャア・アズナブル中尉もキシリアの護衛 としてやってきていたのだ。だが、この地球行は、不可解な所が多かった。キシリアほどの大物が来 訪するにしては、決定が非常に急で慌ただしく、その視察の内容もほとんどこじつけに近かった。  しかし、連邦上層部に手を回していたのか、この地球行はお役所仕事の連邦にしては、異常なスピ ードで受け入れが了承された。そのことをいぶかしく思ったレビル中将が問い合わせたところ、すげ なくこう言われただけだった。 「彼らは連邦との友好を望んでいるのですよ。だからこそ、キシリア少将ほどの大物を使者とされた のです」  これまでサイド3の独立について注意を喚起し続けていたレビル中将は、サイド3の手が回されて いる連邦軍上層部においては少数派であった。そこに連邦政府の機嫌を伺うような今回の訪問である。 サイド3側にしてみれば、この無意味な地球行によって、最低でも連邦内のサイド3を敵視するレビ ル派の勢力を削ぐ事が出来たのだ。カムフラージュにしても安いものだ。しかし、レビルは、彼らの 最大の目的は他にあるのではないか、とコーウェンに語っていた。  今にして思えば、キシリアの地球行の目的が今回の事件にあるのが、コーウェンには分かる。だが、 あの怪物を退治することにどのような意味があるのかまでは分からなかった。まさか連邦政府の目を 欺くとか、新型MSの実戦テストなどという小さな目的のために、キシリアが出向くはずがない。そ れとも、あの怪物にはサイド3自治軍司令ギレン.ザビが興味を示すほどの代物なのだろうか?  コーウェンはいろいろと推論を立てていくが、どれも決め手には欠けていた。それに、コーウェン やレビルがサイド3の陰謀だと言い立てたとしても、あくまで状況証拠に過ぎず、連邦政府を納得さ せることは、不可能であろう。何せ、彼らは連邦に災いをなす宇宙生物の撃退に協力しているのだ。 この事実の前にしては、レビル派の声はどうしても小さくならざるを得ない。  今、彼の部下は勝ちつつあるが、これから先のことを考えると、明るい未来が待っているようには 思えなかった。しかし、それでも勝たねば何も始まらないのだ。   二一:二二 日本地区群馬県諏訪山 「アポリー、ロベルト、それにリュウ君、カイ君、ハヤト君は援護を頼む。アムロ君と剣君は、私と 共に奴の目を引く囮になってくれ」 「了解です、中尉」 「こっちは空から行かせてもらうぜ」  戦場では、自然とシャアが指揮を執っていた。 「この期に及んでやられるんじゃねえぞ、アムロ、剣」 「頼みます」  カイとハヤトが声をかける中、最後衛からガンタンクが、中距離に位置するガンキャノンと二機の ザクが援護射撃を開始した。その間隙を縫って、左からはドムが、右からはガンダムが、そして、上 空からはグレート・マジンガーが怪物に向かって高速で接近しようとしていた。  怪物は接近する三機の中からガンダムを攻撃目標に選んだようだ。いきなり目と口、翼から一度に 光線を発射した。 「そんな攻撃で!」  アムロは、ガンダムのバーニアを吹かしてジャンプ、攻撃をかわした。しかし、そのアムロの行動 を予測していたかのように、ガンダムと同じくらいの大きさの大鎌が唸りをあげて飛来してきた。 「甘い!」  ガンダムを狙った大鎌は、猛スピードで飛来したグレートの鉄の拳がはじき返していた。 「すいません、鉄也さん」  通信をしながらも、アムロは、ガンダムにビームライフルを連射させた。その狙いは、正確に怪物 の右腰の弱点を直撃し続けていた。 「グッギャァーーー!!!」  あの怪物が苦痛に耐えかねて叫んだ。そして、間髪入れずに追い討ちがかけられた。 「グッ、グギャググルー!!」  左腰の弱点にジャイアントバズが連続で直撃したのだ。さらに着地したガンダムも左腕に持ったハ イパーバズーカで右側の傷に集中砲火を加えた。  両サイドの攻撃に加えて、グレート・マジンガーが顔面に胸部の放熱板から熱線を浴びせかけた。  さしもの怪物もあわや、と一瞬誰かが思ったかもしれない。しかし、やはり敵は怪物だった。こん な状態でありながら、右腕の大鎌でガンダムを狙い、ドムを左手のビームで牽制し、グレートには翼 の光線で反撃した。  怪物のタフさを嫌というほど思い知らされている各機は全く油断していなかった。難なく敵の攻撃 をかわして、一斉に敵の射程から離脱した。ここからは別の機体の出番だからだ。 「今だ! 行くぞ、リョウ、隼人!!」  高空でチャンスをうかがっていたゲッターチームは、この好機に行動を開始した。 三機が離脱し たのと同時に行われた後方から援護射撃によって怪物の追撃が阻止されただけでなく、砲撃による衝 撃と爆煙で怪物の視界が遮られたからだった。  急降下したゲットマシンが怪物の背後に廻って、ゲッター3への合体を開始した。ジャガー号が平 行に位置し、上からベアー号、イーグル号の順で垂直にジャガー号に合体する。これがゲッターの中 でも独特のフォルムを持つゲッター3への合体方法だった。  たとえ目が見えなくとも、奴が背後の気配に気付かないはずがない。そのままの姿勢で、背後の気 配に向かって片手に握った鎌を振るった。その手を合体の完了したゲッター3が掴んだ途端、空気が ものすごい勢いで巻き上げられた。 「うおおおぉぉーー!!」  怪物には何が起こったのか分からなかったに違いない。武蔵の雄叫びが響く中、あっという間に高 空まで投げ上げられた怪物は、背中に生えている翼を使うこともなく、そのまま地上に叩き付けられ た。 「見たか! 大雪山おろしの威力を!!」 「すごい、あの巨体が宙に舞うなんて…」 「オイオイ、マジかよ…」  見ていた一同は、しばし呆然とした。 「何をしてやがる。これで終わった訳じゃないぜ!」 「止めを刺すまで気を抜くな!」  鉄也とシャアが、同時に注意を喚起した。  既にジャイアントバズを全弾撃ち尽くしたドムに残された武器は、胸部の拡散ビーム砲とヒートサ ーベルだけだった。 「ハッ!」  シャアは、己に気合いを入れると、ヒートサーベルを構え、怪物に突撃した。ドムは赤い彗星の渾 名に恥じない勢いで加速、無防備の怪物の左腰にヒートサーベルを突き入れた。 「グッグギャアアァァァーー!!」  あまりの勢いに柄近くまでサーベルを突き刺したシャアは、ヒートサーベルの熱量を限界まで上昇 させ、剣を残したまま離脱した。 「これでどうだ!!」  辺りには肉が焼けるにおいが漂い、怪物はますます苦悶した。そして、手負いの怪物に更なる追い 討ちが、かけられた。  怪物の顔面に上空から降下したグレートが、片目にマジンガーブレードを突き入れたのだ。 「ギッギヤァァァーー!!」  悲鳴を上げながらも、大鎌をふるってグレートを振り払う。   それを予期していた鉄也は、シャアと同じように剣を残したまま、鎌をかわし、離脱する。  もはや怪物は半狂乱だった。滅茶苦茶に鎌を振り回し、あらぬ方向に光線を発射したりした。しか し、左腰に刺されたままのヒートサーベルは己の体を焼くだけではなく、左足をきかなくしていた。 そのため、起きあがることすら出来なくなっていた。 「そこだぁー!!」  滅茶苦茶な動きで、動きの読めない怪物の間隙を縫って、アムロのガンダムが右腰にビームサーベ ルを突き入れた。その俊敏な動きに、さしものシャアが驚嘆した。荒削りながらも鋭い動きで、シャ アのそれすらも凌駕していたかも知れないからだ。 (恐ろしい少年だな。今はまだ機体の性能に頼っている面もあるが。)  だが、攻撃が成功したことでアムロは、一瞬まわりの状況を忘れた。 「何してる、アムロ!」  味方が接近しているので、攻撃の手を休め、状況を観察していたカイが叫んだ。気付いたときには、 棒立ちになったガンダムに怪物の大鎌が襲いかかっていた。とっさにジャンプして回避したガンダム だったが、タイミングが遅かったため、右足を切り落とされてしまう。 「クッ…」  もはやガンダムは戦闘不能な状態だったが、アムロの一撃で怪物は立つことも出来なくなっていた。 「こいつで止めだ」  隼人の冷静な声が聞こえた。ゲッター2に変形したゲッターロボが、残った目にドリルを突き刺そ うとしたのだ。だが、敵も大鎌を振り回し、ゲッターの接近を阻んだ。 「甘いぜ!」  隼人の声と同時に、ゲッター2のドリルが打ち出された。そして、それは怪物の残った片目に突き 刺さった。 「ギッギャァァァーー!!」  これは完全な悲鳴だった。怪物は動きを封じられ、視界を完全に奪われたのだ。 「こいつで止めを刺してやる。サンダーブレーク・バスター!!」  怪物の上空に滞空しているグレート・マジンガーが両耳から三〇〇万ボルトの電流を放出する。こ れでこのまま敵を攻撃すれば、サンダーブレークだが、グレートは手にしているマジンガーブレード に電流を吸収させた。そして、電流を吸収したブレードを逆手に持ち替え、怪物目掛けて急降下した。  そして、雷をまとった剣は狙い違わず、怪物の口を貫いた。そして、貫くと同時に、剣に吸収され ていた電撃が炸裂、怪物の頭部を内部から灼いたのだ。もはや声すら出せない怪物は無言でのたうち 回っていたが、次第にその動きを弱め、動かなくなった。 「どうだ? 倒したのか?」  じっと事態の推移を見守っていたブライトが、呼びかけた。 「分からないな。なにせ、相手が相手だからな」  鉄也が見たままを冷静に答えた。だが、その懸念は杞憂に終わった。動きを止めた怪物の身体が、 崩壊をはじめたからだ。人々が固唾をのんで見守る中、怪物の身体は完全に崩壊し、残ったものは、 怪物に刺さっていたはずの武器と赤茶けた土だけだった。 「やった、な…」 「あの化け物、やっとくたばりやがった…」 「僕たちが、僕たちがやったんですよね!」 「ああ、そうさ、ハヤト。俺達がやったんだ!」  それぞれが、それぞれの形で喜びを表現した。そこにコーウェン少将から通信があった。 「よくやってくれた諸君。後始末には他の部隊を回す。君たちは取り敢えず厚木に戻って、疲れを癒 してくれ」  いささか少将の顔色が冴えなかったが、それに気付いた者はほとんどいなかった。 「さあ、早くホワイトベースに帰還しろ。回収作業が終わり次第、厚木に向かうぞ」  ブライトの声も明るい。援軍をあおいだとはいえ、彼の率いる第十三独立部隊は戦死者を出さずに 任務を成功させたのだ。  だが、剣鉄也だけはその戦勝気分に加わらず、マジンガーブレードと斬り落とされた左腕を回収し、 素っ気なく告げた。 「俺が付き合うのはここまでだ。また会おうぜ」  そう告げると、後ろを振り向きもせずにグレートを飛び立たせた。 「また、か…」  シャアが、グレート・マジンガーの後ろ姿を見送りながら、ぽつりと漏らした。 二二:〇二 火星周回軌道上 「全艦、臨戦態勢解除。偵察隊を収容後、本隊に合流します」  ウェンドロは地球上での戦闘が終了したのを確認すると、直ちに命令を下した。  乗組員がそれぞれ準備をしている最中、ウェンドロは無邪気な笑みを浮かべていた。まるで、新し い遊びを見つけたような子供ようなの笑みを。 (彼らがこれほどやるとはね。面白い、この星は全く面白い。これで、この先退屈せずにすみそうで すね。)  この後、彼らが再び来訪するのは三年後の事であった。 同刻 資源衛星ア・バオア・クー司令室  先程まで宇宙生物と連邦軍との戦闘を写しだしていた大型モニターには、すでに休息を与えられて いた。 「意外な結果に終わりましたな。もう少し苦戦すると思っていたのですが」  その部屋にいる人物の中で比較的若い人物が、丁寧な口調で先程の戦闘の感想を述べた。 「世の中とは、君が思っているほど狭くはない、ということだ。実際、良いパイロットと優秀な機体 が揃っていた。パイロットの方はまだまだ未熟だったが」  椅子に座った壮年の男が、相手を諭すように答えた。 「なるほど。しかし、我々にとっては都合が悪いのではないですかな? 腐りきった連邦を打倒する には、彼らは邪魔でしょう」   男は堅い口調で反論してきた。 「慌てるな、ギレン。いかに彼らが精強であろうと、今の連邦内では、その実力を十分に発揮するこ とは出来まい。それに今回の事件から何を学ぶというのだ、この十年もの間、変わるどころか腐敗し 続けてきたあの連邦が……!」  男の言葉には自信が満ち溢れていたが、その語尾にわずかに歯をこすれ合わせる音が混じった。地 球連邦に対する彼の負の感情は、その鉄のような自制心をもってしても抑えきれないようだった。  サイド3自治政府首班ギレン・ザビはその言葉に首肯した。だが、それは言葉だけでなく、連邦に 対する感情も同じ、と頷いているようにも見えた。 「確かに。あの無能な地球連邦に比べて、我が軍はモビルスーツの量産に成功し、Dr.ヘルとの同 盟によってミケーネの技術も手中に収めております。あと、半年もあれば機械獣の量産体制も整い、 一年あれば臨戦態勢を整えることが出来ます」 「出来るだけ急いでくれ。来るべき宇宙からの侵略に対抗するためには、統治者能力を失った連邦を 打倒し、より強大な力で地球圏を再統一しなければならない。そのためには、我が“ディバイン・ク ルセイダーズ”が少しでも早く決起することが必要なのだ」  男の言葉に対して、ギレンは恭しく一礼して返答した。 「お任せ下さい。ビアン・ゾルダーク総帥」 『スーパーロボット大戦 −The First War−』                           Fin  

第九話

あとがき

SRW−インデックス