『スーパーロボット大戦 −The First War−』

第四話 「逆撃への布石」



 
一八:〇二 日本地区群馬県高崎市南部

 目標の怪物は、第二飛行中隊の牽制によって市街地への進撃を足止めされていた。だが、第二中隊

も既に四機を失い、他の機も燃料、弾薬がつきかけていた。

「ちぃ、本隊はまだか。もうもたんぞ」

 第二中隊々長がぼやいたとき、北方から味方の識別信号を発する大編隊が現れたことをレーダーが

示していた。

「やっと援軍か、助かったぜ」

「こちら、レムレスだ。ご苦労だったな。帰還してくれ。後は俺達が引き継ぐ」

「頼みます。こちらも補給が終わり次第、駆けつけます」

「了解」

 第二中隊が高度をとり、退却をはかるのと入れ代わりに、レムレス隊が目標への攻撃を開始する。

「作戦目的は理解しているな。俺達は奴をおびき出せば良いんだ。無理をする必要はない。作戦開始!」

 レムレス隊の作戦は、航空機部隊が目標の前面に断続的にミサイルを撃って前進を阻止し、後方か

らGM隊で目標をおびき出すというものだった。さらに、MSと航空機部隊を三隊に分け、交互に攻

撃することによって、攻撃の密度を一定に保つようにしていた。

 作戦は図に当たり、目標の進路を変えることには成功した。だが、予想以上に被害が大きかった。

目標がMSや航空機の動きを読んだ攻撃を仕掛けてきたからだった。怪光線の照準は、最初の頃と比

べると段違いの精度で、GMやTINコッドを狙ってきた。そればかりでなく、フライマンタに光線

を吐きかけていたかと思うと、GMに急接近して尻尾を振るって吹き飛ばす。知能は低いかもしれな

いが、戦闘に関しては非常に高い能力を持っているようだった。

「気を付けろ! 奴の戦闘力は尋常じゃない! よく動きを見て攻撃しろ!!」

 見かねたレムレス少佐が注意を促す。だが、返事をする前に、一機のGMが右腕を噛みちぎられ、

尻尾で吹き飛ばされていた。

「囮役ですら満足に勤められないのか、俺達は…」

 少佐は自分たちの無力を痛感しながらも、作戦を成功させるために第二隊の投入を指示していた。
 

一八:三五 日本地区群馬県諏訪山近辺

 待機中のブライト隊は、カモフラージュしたホワイトベースのブリッジで戦況をモニターしていた。

「…しゃれになんねえな、ありゃ。あんなに動きが早いのかよ」

「最初に接触したときと比べると、段違いに動きがいい。成長というより、進化だな」

 呆然としたカイが漏らした言葉に、冷静に隼人が答えた。そう思うに足る光景がモニター上に展開

されていた。

 レムレス隊は第二部隊を投入したものの、既に三分の一が撃墜され、半数が何らかの手傷を負って

いた。だが、それは彼らの動きが悪いからではない。彼らは劣悪な戦況にありながらも、何とか戦線

を維持していた。

 ただ目標の動きが圧倒的なのだ。その速さ自体はGMと大差ない。だが、反応速度が異常なくらい

に早く、その身のこなしにはとてもついていけなかった。しかも、後ろに目がついているかのように、

ここぞというときには、後方の航空機にも的確な攻撃を返してくる。もしも正面から攻撃していたな

ら、とうに全滅していただろう。

「でも、隙がない訳じゃありません。それに、奴はずっと戦いづめなんだから、疲労も溜まっている

はずです。勝機はあります」

 気休めのようにアムロ曹長が全員に声をかけた。

「アムロの言うとおりだ。レムレス隊の犠牲を無駄にしないためにも、我々がやるしかない。目標は

もうすぐこちらにやってくる。作戦を確認するぞ」

 ブライトが、気を取り直したように言った。ブライト自身、勝ち目がないと思っていたが、ここま

で状況が悪化したことによってかえって開き直ったのだ。

「ガンダムとコアブースター、第四飛行中隊は囮になって目標をWベースの前方におびき寄せてくれ。

ガンキャノン、ガンタンク、ゲッターロボはWベースとともにカモフラージュして待機。目標が射程

内に入ると同時に一斉射撃を加える。作戦と言えるようなレベルの代物じゃないが、他に手はない。

何か質問は?」

 ゲッターチームの隼人が挙手した。

「悪くはないと思う。ただ、ゲッターを別行動にしてもらえないか? ゲッターは空、陸、海に適応

した変形ができる。そして、俺が操る陸戦用のゲッター2は地中移動が可能だ。ゲッター2は地中で

待機して、Wベースの一斉射撃の後、奴の後方から飛び出し、ゲッター1に変形、ゲッタービームで

攻撃する。これなら奴を挟撃できる」

「変形にはどのくらいかかるんですか?」

 はじめてみるタイプのロボット、ゲッターロボに興味を抱いていたアムロが質問した。

「五秒、だな。武蔵がしくじらなければ」

「こんな所でまでそういうこと言うか、隼人!」

 だが、まじめな顔で武蔵に向き直って、隼人は言った。

「冗談なんかじゃないさ。この作戦では失敗は許されない。それに、敵の動きからすると後方からの

攻撃にも対応してくるだろう。最悪、俺達は全滅して作戦も失敗する事になる。それでも、この案を

実行する覚悟があるのか、と聞いているんだ。リョウ、お前もだ」

 こんな状況下にあっても、相変わらずシビアな隼人の答えを聞いて、重い雰囲気がブリッジを包み

込んだ。

「俺の方は問題ないぜ。ゲッターとなら心中しても悪くねえ。だが、まだゲッターを使い足りねえ。

だから、こんな所で死ぬつもりも、失敗するつもりもない!」

 そんな雰囲気を気にもせず、自信満々に本心を語る竜馬。自然と視線は武蔵に集中する。しばらく

考え込んでいた武蔵だが、静かに、何かを確かめるように語りだした。

「確かに、俺はお前達ほど操縦はうまくない。だが、俺はゲッターに惚れ込んでるんだ。ゲッターの

ためなら死んでも良い。けど、リョウと同じで、まだゲッターに乗り足りない。それに…」

 武蔵は自分の心を整理するように、一度口を噤む。

「…それに、俺はゲッターを信じてる。ゲッターなら、ちゃんと俺の思いに答えてくる! 頼みます、

俺達にやらせてください!!」

 武蔵の言ったことは己の覚悟でしかなかったが、この段階で一番必要なのは、この覚悟だった。そ

して、その意気は全員に伝わった。やれる、俺達は勝てる、そう全員が感じていた。

「分かった。そうしよう。頼むぞ、流君、神君、巴君」

「水くさいですよ、大尉。武蔵、でいいですよ。な、お前達も良いだろ? リョウ、隼人!」

 それぞれの仕草で肯く二人。

「そうか、なら、我々も名前で呼んでくれ」

「分かりました、ブライト、さん、でいいですか?」

 ブライトは笑って答えた。それでいい、と。

「では、作戦を整理しよう。ガンダム、コアブースター、第四飛行中隊は囮役を頼む。Wベース、ガ

ンキャノン、ガンタンクはカモフラージュして待機。ゲッターロボは、ゲッター2に変形して地中で

待機。一斉射撃に関しては、私が命令する。それまで、発砲するな。一斉射撃は連続五秒とする。こ

の攻撃が終わったら、ゲッターは目標の後方に進出、ゲッター1に変形、ゲッタービームで攻撃。そ

の間に、Wベースとガンキャノン、ガンタンクは緊急離脱、目標との距離を保て。その後は各自の判

断で攻撃せよ。以上だ。質問は?」

 今度は全員が納得していた。それに、それまで頼りなかったブライトが指揮官として自然に全員を

まとめ始めていた。意外と実戦向きなのかもしれなかった。

「では、全員配置に付け! 総員、第一戦闘配備!!」
 

一八:四四 科学要塞研究所

 連邦極東方面軍が謎の生物相手に戦闘を繰り返している頃、ここの工場も一種の戦闘状態だった。

全ては、あの怪物を倒すためである。科学要塞研究所。ロボット工学の世界的権威である兜十蔵、剣

造両博士が、極秘に設立した研究所であった。

「慌てるな。急がなければならないが、焦る必要はない。冷静に行動してくれ」

 長時間の作業によって疲労した作業員に、落ち着き払った所長が声をかける。その冷静な声に、疲

労と時間的な余裕の無さから焦っていた作業員達が落ち着いた。それも、所員全員が所長を信頼して

いるからだった。この所長こそ、兜剣造だった。 

 兜剣造。十年前に、研究中の事故で死んだ筈の男だった。だが、古代ミケーネ帝国という敵の存在

と父兜十蔵が彼を死なせなかった。

 父の手によりサイボーグとなり、半身を機械化して剣造は生き延びた。しかし、彼の生存は、彼の

二人の息子−甲児とシロー−にも秘密にされ、その秘密を保持するために葬儀すら行われた。全ては

ミケーネの超科学力で作られた戦闘獣を倒すロボットを造り上げるためだった。

 父の開発した“超合金Z”とそれを使用したロボット“マジンガーZ”を参考に、それよりもより

硬く、より光子力を放出する新素材と、より完成度が高い戦闘用のロボットを開発すること、それが

彼の仕事だった。そのために、剣造はこの十年を“超合金ニューZ”と“グレート・マジンガー”の

開発に捧げたのだった。

 さらに、専用のパイロットとして、素質のある少年“剣鉄也”を孤児院から引き取り、この十年間

厳しい訓練を積ませてきた。その甲斐あって、この黒い魔神はほとんど完成しており、後は実地テス

トを重ねて、調整をするだけだった。

 だが、問題が起こった。例の宇宙生物だった。それ自体、当然看過し得ない問題だったが、より重

要な問題は、この生物が剣造の想像以上に強力である、と言うことだった。

 兜剣造の生存を知る数少ない人物である早乙女博士とは、頻繁とは言えないが交流があり、お互い

のロボットについては、かなりの所まで情報を交換している。ゲッタービームは、出力的にはグレー

トの切り札の一つ“ブレストバーン”に匹敵し、敵はその攻撃を耐え凌いだ、というのだ。これは、

剣造を非常に驚かせた。

 さらに、この時剣造の脳裏をかすめたのは、旧友ビアン・ゾルダーク博士が十年前に訴えていた宇

宙から侵略者のことだった。この十年をグレートの開発にかかりきりだった剣造は、そのことに思い

を馳せる余裕はなかった。だが、グレートの能力には強い自信を持っており、いかなる敵にも引けを

取らないと自負していた。

 だが、この成長していく宇宙生物が相手では、現時点のグレートの武装では力不足であることは明

らかだった。それを補うために決断したのが、リミッターの解除だった。この制御装置は機体とパイ

ロットに過度の負担を与えないように、と装備された装置であり、そこまでの出力は必要ない、と判

断した上でのことだった。しかし、その設定の上限が甘かったことを剣造は思い知らされていた。

 これを解除した場合、機体出力が三〇%増加するものの、機体とパイロットへの強烈な反動と操作

性の著しい低下が問題だった。だが、その点に関しては、剣造は心配してはいなかった。十年かけて

鍛え上げた彼の息子達ならば、乗り切ることができると確信していた。

「リミッターの解除、終了しました!これより最終調整に入ります」

「よくやってくれた! もうすこしだ、みんな頑張ってくれ!」

 その剣造の叫びに重なるように、司令室のジュンの声がスピーカーから流れてきた。

「所長! 鉄也が帰ってきました!!」


予告

 ブライトが、アムロが、ゲッターチームが己の命をかけて任務に臨む

 彼らの攻撃であの化け物に一矢報いることが出来るのか?

次回 第五話「逆撃」 


第三話

第五話

SRWインデックス