「スーパーロボット大戦 −The First War−」



第五話「逆撃」




一九:一五 日本地区群馬県諏訪山近辺

 既に日は暮れ、暗闇が諏訪山近辺を支配していた。だが、北方から瞬くような光と火線が周囲を照

らしていた。傍目にはきれいだが、それは戦闘の光だった。幾ばくか遅れて聞こえてくる轟音がそれ

を裏付ける。そして、その光と音は待機している第十三独立部隊の旗艦ホワイトベースの乗組員に出

番が近いことを教えていた。 

 Wベースとガンキャノン、ガンタンクの二機と地中で待機しているゲッター2は、明かりはもちろ

ん、ジェネレーターの出力まで最小限に落とし、固唾をのんで敵の来襲を待っていた。

「これより攻撃命令がでるまで、いっさいの通信を禁ずる」

 第十三独立部隊とこの待ち伏せ部隊の指揮官であるブライト・ノア大尉が囁くような小声で最後の

通信をした。あの怪物が軍用通信を傍受できるとは限らないし、仮に傍受できたとしても、その内容

を把握できるとは考えにくい。それに、電磁波を乱反射するミノフスキー粒子が戦闘濃度まで散布さ

れているので、そこまで用心する必要はないのだが、些細なことで緊張が途切れることをブライトが

嫌ったからだった。いや、それ以上に、この作戦を成功させるという意気込みがそうさせたのかもし

れない。

 だが、その意気込みを嘲笑するかのように、状況は更に悪化していた。目標を何とかここまでおび

き出したレムレス隊は、すでに戦力の過半を失っていた。本来ならWベースの援護に回る筈の第四飛

行中隊まで投入して、である。

 ブライト隊に残された戦力はWベースとMS三機とコアブースター、ゲッターロボだけだった。そ

して、ガンダムとコアブースターも既に戦闘状態に入っていた。だが。もはや迷っている暇はなかっ

た。全員が覚悟を決めていた。

「目標、あと十秒で射程内に入ります」

 オペレーターも目標に聞かれるのを畏れるように、小さな声で報告する。それでも静まり返ったブ

リッジでは、予想以上に響く。ブライトは内線で各部署に敵の接近を告げた。

「目標、射程内に入りました!」

 今度ばかりはオペレーターも興奮を抑えられずに上擦った声で報告する。しかし、ブライトは黙っ

たままだった。全員の視線がブライトに集中する。

「まだだ。もっと敵を引きつける。各部署もいいな。こちらの命令があるまで絶対発砲するな!」

 全員が驚きの目でブライトを見ていた。そこにいたのは、少しヒステリー気味の軟弱な将校ではな

く、冷静さと果断さを兼ね備えた若い有能な士官だった。

「目標、なおも接近…」

 と、報告の途中でオペレーターが言葉を失った。モニター内の目標は鋭い好戦的な目でこちらを睨

んでいたからだった。一瞬の自失の後、再び報告するその声には抑制が全くきいていなかった。

「も、目標がこちらを睨んでいます!」

「何!? 全砲門、斉射五秒! 撃ちまくれ!!」

 引きつけすぎたのが裏目に出たように思えたが、Wベースの反応は早かった。そのため、目標は攻

撃を仕掛ける前に砲火を浴びていた。Wベースの主砲、メガ粒子砲、前部ミサイルと前部ハッチに待

機していたガンキャノンの二四〇mmキャノン、ガンタンクの一八〇mmキャノンと四連ミサイルが

一斉に火を吹く。

「グッギャ〜オ〜!」

 さすがに避けきれず叫ぶ怪物。その声には、確かに悲鳴が混じっていた。Wベースは上昇しながら、

なおも攻撃を続ける。

「よし、攻撃やめ! 全速後退。ガンタンク、ガンキャノンは本艦を離脱、散開せよ!」

「了解」

「了解」

 多少の自覚はできてきたのか、カイも素直に命令に従う。そして、その行動はいつになく素早かっ

た。そして、それを援護するようにガンダムとコアブースターが目標を牽制する。目標の注意がそち

らにそれたその時。目標の背後から飛び出す影があった。その気配に気付いた化け物は、ガンダムの

牽制などものともせず、後ろを振り返ろうとした。だが、その瞬間にゲッターは分離し、各個に敵の

後方に回った。

「行くぜ! 隼人!! 武蔵!!」

「おお!」

「おう!!」

 イーグル号、ジャガー号、ベアー号の順番で並び、ゲッター1への合体がはじまる。まずジャガー

号とベアー号が合体してゲッターの胴体と手足となり、イーグル号がゲッター1の頭部に変形、合体

して合体は完了する。ジャガー号とベアー号が合体し、イーグル号が合体する寸前。目標が素早く振

り返りざまに口から怪光線を発射した。それは正確にゲッターを捉えていた。あれだけの砲撃を喰ら

ったことを考えると、恐るべき反応と耐久力と言えるだろう。だが、…。

「うおおおー!!」

 何者かが怪物に突っ込み、ゲッターを直撃するはずの光線が突然方向を変えた。

 その光線がそれた次の瞬間、ゲッターは変形を完了していた。

「くらいやがれぇー!!」

 竜馬の絶叫とともにゲッタービームが発射される。さすがの怪物もあれだけの艦砲を喰らった後で

は、その攻撃をかわす事はできなかった。さらに畳み掛けるようにガンダムとガンキャノンが集中砲

火をかける。高出力のゲッタービームとビームライフルの集中砲火に耐えうる生物など地球上にはい

ないだろう。

 だが、この地球外からやって来た化け物は耐えた。この事実だけでも怪物の名に恥じないだろう。

しかし、終幕は呆気なく訪れた。突然目標が爆発したのだ。

「やったぜ!」

「さっすが俺のゲッターだぜ!」

「やれやれ。しかし、リュウにアムロ、あんたたちが援護してくれなかったら、俺たちはやられてた。

礼を言うぜ」

 ゲッターが合体寸前に光線に直撃されそうになった時、リュウがコアブースターのブースター部分

を分離して、目標にぶつけたのだ。そして、その瞬間にアムロのガンダムがブースターを狙撃して爆

発させ、攻撃をゲッターからそらせたのだった。

「作戦遂行のためには当然さ。それに、アムロが狙撃してくれなかったらこうもうまくはいかなかっ

ただろう。礼を言われるようなものじゃないぜ」

「何言ってるんですか。あの位置からじゃ、リュウさんがブースターを突っ込ませなかったら、ガン

ダムは何もできませんでしたよ。リュウさんのおかげです」

「けっ、どっちでもいいだろ、そんなこと」

 カイはお互い謙遜するリュウとアムロを馬鹿にしたように言ったが、その声はうれしさを隠しきれ

ないようだった。

「僕達が力を合わせたから勝てたんです。みんなでつかんだ勝利ですよ」

「そうだな。ハヤトの言うとおりだ。みんな良くやってくれた」

 ガンタンクのハヤトは喜色を隠そうともせずに言った。さすがに多少の抑制はしているものの、ブ

ライトも心底嬉しそうだった。「連邦軍のお荷物」と言われ続けた自分たちが、正規軍をも圧倒した

謎の未確認生物を撃退したのだ。指揮官として有形無形のプレッシャーを感じていたブライトには特

に感慨深いものがあったのだろう。だが、アムロの緊迫した一言が全員を現実に引き戻した。

「…! 気を付けて! 何かそこにいます。まだ生きてるかも知れない!」

 まだ爆煙が晴れておらず、それに加えて、周辺の森林の火災によって確認するのは困難だったが、

アムロは煙の向こうに徐々に大きくなっていく敵の“プレッシャー”を敏感に感じ取っていた。

「馬鹿な! まだ奴が生きてるってのか?」

「どういうことだ? アムロ」

「全員、後退しろ! 奴の能力は人知を越えている。生きている可能性はある!」

 竜馬やカイが敵の生存を信じ切れないでいるのに対して、ブライトは素早く後退を命じた。最悪の

事態を想定してのことだったが、敵はさらにその上をいっていた。

「ギィヤ〜オゥー!!」

 立ちこめる爆煙を突っ切って出てきたのは、まさしくあの怪物だった。だが、その姿は劇的に変化

していた。トカゲに似た姿のその背中から、人間のそれとは大きく異なるが人型の上半身が生えてい

たのだった。

 全員がその姿に驚愕し、声も出せない。だが、怪物は人間の思惑など無視して行動を開始した。一

声叫ぶと、もっとも近くにいたゲッターに怪光線を浴びせかける。危うい所だったが、ゲッターは素

早く分離して難を逃れた。

「リュウ、ハヤト! 一度帰還しろ。帰還次第、ガンタンクの弾薬を補給、リュウはガンタンクの操

縦を頼む。ガンダム、ガンキャノン、ゲッターは奴を足止めしてくれ」

 もっとも早く自失から回復したのはブライトだった。矢継ぎ早に指示を出す。

「トーレス、敵との距離を保て。コアファイターとガンタンクを収容する。通信士、コーウェン少将

と連絡を取れ。増援がいる!」

一九:三八 日本地区群馬県諏訪山南部

「まさかこんな事態に陥るとはな…」

 その姿を変えた目標をモニターで確認しながら、コーウェン少将は自分の考えの甘かったことを認

めざるを得なかった。

 少将は、今回の事件を奇貨として、第十三独立部隊とモビルスーツの能力を上層部に知らしめ、M

S部隊の拡充と新たな量産型MSの開発を上層部に提唱しようと考えていたのだ。

 無論、私利私欲から出たことではない。連邦政府の目を欺いてはいるが、以前より不穏な動きを見

せていたサイド3は、着々と戦闘態勢を整えつつある。それも新兵器モビルスーツを中心として。こ

のままでは来るべき戦闘において、MSへの対応力が著しく低い連邦軍では敗北しないまでも、苦戦

を免れ得ない。常日頃から抱えている危機感が彼を突き動かしていた。

 そして、その計画はうまくいっていたのだ。特に第十三独立部隊の作戦行動は予想以上に見事なも

のであり、計画は完遂しかけていた。だが、その目論見も一体の宇宙生物に潰された。しかも、彼の

部下達も道連れに。最悪の事態を回避するためにもコーウェン少将は行動を開始した。

「早乙女研究所に連絡を取ってくれ」

「ちょうど良かった。こちらから連絡しようと思っていたところですよ、少将」

 ほとんどタイムラグ無しで早乙女博士が応答した。

「一体あれはどういうことです?」

「少将の疑問はごもっともです。正直いって私も予想できませんでした。しかし、今考えるとこうい

う仮説も成り立つと思います。あの生物は摂取した金属に比例して成長していますが、一定程度成長

するといくら金属を摂取してもその姿に変化はありませんでした。最初はエネルギー補給のためだろ

うと考えていたのですが…」

 ここで、早乙女博士は一旦話を区切った。しばらく考え込み、自説を確認しているようだった。少

将も敢えて口を出さず、博士の言葉を待った。

「…あの大量の金属摂取は新たなる進化を遂げるためのものではなかったか、とも考えられます。正

直言って、今までこんな生物がいるとは考えもしませんでしたが」

 語尾に二人の嘆息が混じる。だが、現在の境遇を嘆いてばかりはいられなかった。

「目標がもう一度進化すると思いますか? 博士」

「それはないと思います。おそらくあの形態に進化しただけで、かなり摂取した金属を消費したでし

ょうし、あの形態を維持するには大量のエネルギーが必要でしょう。新たに進化するには、再び大量

の金属を、それも前回以上の量を摂取する必要があると思われます。しかし、あの諏訪山中にはそれ

だけの金属はありませんから、現状ではこれ以上進化することはないと思われます」

 推論と断りつつも、明確に否定してみせる早乙女博士。だが、真の問題は別にあった。

「では、今の目標を倒すにはどの程度の火力が必要だと思いますか?」

「……現状の部隊では無理でしょう。第一段階の敵ですら倒すのにあそこまで手こずったのです。あ

れ以上の攻撃を仕掛けるのは、現状では不可能でしょう。せめて…」

 いいかけて口を噤む早乙女博士。繰り言になることが分かっているからだった。気を取り直して博

士は言った。

「…殲滅だけならば、部隊を撤退させ、戦術核を使用するのがもっとも早いでしょうな。正直言って

できるだけ避けたい選択肢ですが、最悪の場合も考えておかれた方がいいでしょう」

 コーウェン少将もそのことを考えていたのだろう、答えようと口を開きかけた時。場違いな甲高い

少女の声が聞こえてきた。

「こちら科学要塞研究所! 早乙女研究所、応答願います! こちら科学要塞研究所!!」

予告
進化した怪物に対して単独で攻撃を続ける第十三独立部隊

だが、彼らは決して孤立無援ではなかった

彼らの新たな力となる魔神が、今目を覚ます

次回、第六話「偉大な勇者」 

第四話

第六話

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