「スーパーロボット大戦 −The First War−」



第六話「偉大な勇者」




一九:〇五 科学要塞研究所

「所長、戦況はどうなっているんです! グレートの調整は済んでるんですか!?」

 精悍な顔立ちをした若者が、工場に入ってくるなり剣造に向かって声高に詰め寄った。

「落ち着け、鉄也君。一度には答えられない」

 この若者こそ、グレート・マジンガーのパイロットである剣鉄也だった。グレートのパイロットに

なるために孤児院から引き取られた彼は、少年の頃から厳しい戦闘訓練を受けており、その厳しい訓

練は、彼の肉体に野生の狼のようなしなやかさと力強さを与えていた。

「グレートの作業はあらかた終わっている。まず、君は戦闘服に着替えてきたまえ。詳しい話はそれ

からだ」

「そんなこと言ってる場合ですか。出られるのなら、今すぐ出撃します!」

「ここで少しばかり焦ったところで戦況が好転するわけではない。それに、本物のグレートは君が今

までシミュレーションしてきたものとは桁が違う。思い上がるな!!」

 若さ故か焦る鉄也を剣造は一喝した。それまで一刻も早く戦うことしか考えていなかった鉄也は、

剣造の剣幕に息をのむ。

「そんな心理状態で戦うのは危険だ。相手は容易な敵ではない。心を落ち着けて冷静に戦わないと勝

ち目はないぞ」

 やっと話を聞ける状態になった鉄也を諭す。鉄也とて話の理非が分からないほど愚かではない。だ

が、厳しい訓練を積んできたとはいえ、はじめての実戦を前にして平静でいられるほど大人でもなか

った。

「そのくらいで良いだろう、剣造。鉄也君もよく分かったはずだ」

 取りなすように二人の会話に入り込んできたのは、兜十蔵博士だった。超合金Zと光子力を発明し

た老科学者もこの非常事態を看過できず、鉄也と共にやってきたのだった。

「さあ、早く着替えてきなさい。全てはそれからだ」

 今度ばかりは鉄也も素直に従った。その後ろ姿を科学者の親子が対照的な表情で見守っていた。

「この一ヶ月で少しは成長したのかと思っていたのですが、まだまだのようですな」

 愚痴を溜息と共に吐き出す剣造。己にも他人にも厳しい彼だが、十蔵にだけは真情を吐露できるよ

うだった。

「何を言い出すのかと思えば。彼は優秀なパイロットだよ。すこし気が勝ちすぎるところもあるが、

若さ故だ。これから経験を積めば、立派にグレート・マジンガーのパイロットとしてミケーネとの戦

いを戦い抜くことが出来るだろう」

「そうなってもらわないと困ります。それより、マジンガーZの最終テストはどうでした?」

 あくまで鉄也に対して厳しい剣造。それに苦笑を返しながら十蔵が答えた。

「鉄也君のおかげでいいデータが取れた。Zも間もなく完成するだろう。データは、整理が出来次第

こちらに持ってこよう。それより、グレートの作業は終わったのか?」

「はい。ですが、あのままでは攻撃力が不足しているので、リミッターを解除しました」

 それまで好々爺然としていた十蔵の表情が変わった。剣造も心持ち表情が厳しい。

「…そこまで事態は逼迫しているのか?」

「残念ながら。厚木の連邦軍は壊滅状態といっても過言ではありません。現在は、かろうじて残存部

隊とゲッターロボが持ちこたえていますが、このままでは全滅も時間の問題でしょう」

「あの早乙女研究所のゲッターロボをもってしても倒せないというのか…」

「いえ、一度は連邦軍との連携によって撃破に成功したのですが、敵はより禍々しく姿を変えて再生

したのです。さらに、連邦軍は緒戦で大半の戦力を失っており、現状ではより強力になった敵を撃退

するのは不可能でしょう」

「やむをえんか…」

 呻くような十蔵の言葉を最後に二人は沈黙した。もはや手段を選んでいる段階ではないことを改め

て覚ったからだった。そんな時、出撃準備を終えた鉄也がやってきた。所要時間四分。はじめての実

戦ということを考えると十分な速さであろう。

「所長、出撃準備完了しました」

 剣造は先ほど十蔵に話したのと同じ事を鉄也に聞かせる。多少は驚いたようだったが、冷静さを取

り戻した鉄也は、静かに話を聞いていた。

「要はその宇宙生物を倒せばいいんですね」

「そうだ。だが、いかにグレートといえど一機で奴を倒すのは不可能だ。現在展開している連邦軍と

ゲッターロボに協力しなければならない」

 剣造は若く、勝ち気な鉄也が独走すること危惧していた。

「それは分かってます。で、肝心のグレートのほうはどうなんです? 何か改造を施していたようで

すが?」

「これが一番肝心だ。心して聞いてくれ。予想以上に強力な敵に対抗するために、私はグレートのリ

ミッターを解除した。そのため、今のグレートは君がこれまで訓練してきたシミュレーターより、出

力が三十五%程上がっている。しかし、その分操縦性が悪化し、君と機体への負担は大幅に増大して

いる」

 そこで話を区切り、心の底まで見抜くような目で鉄也の目を見ながら剣造は言った。

「だが、グレートはまだまだ未完成、君もまだ訓練不足だ。残念ながら敵の力は底が知れない。連邦

軍の残存部隊も当てにはならないだろう。正直言って最悪の状況だ。それでも、それでも戦えるか?

鉄也君」

 低い声だった。まるで囁くような小さい声だった。だが、鉄也は不意に強打されたように感じてい

た。

ミケーネと戦うためだけに十年も訓練され続けた彼は、「自分が戦うことは当然、いや、自分には戦

いしかない」と考えていた。だが、剣造はそれ以上のことを鉄也に問うたのだ。(義務だから戦う

のではなく、お前自身に戦う意志は、戦って勝つつもりはあるのか?)と。この最悪の状態を覆すに

は、お前自身の強い意志が必要なのだと。

 剣造も十蔵もじっと待っていた。彼らが見込んだ若者が答えを出すのを。目を閉じ、考え込んでい

た鉄也が口を開いた。

「…戦います。ここで戦わなければ、俺がこれまでやってきたことは全て無駄になる。それにあの怪

物をこのままにしておけば被害は大きくなる一方です。少なくとも、俺にはそれを止める力と意志が

あります。お願いです、俺を戦わせて下さい!」

 鉄也の言葉に剣造と十蔵は安堵した。まだ未熟で中途半端だが、戦いにもっとも必要な“戦う意志

”を鉄也が持っていることが分かったからだった。こればかりはどんなに訓練しても身につけること

は出来ない。本人の強い意志が必要なのだ。

「何をぼーっとしているんだ、鉄也君。話はこれで終わりだ、早く出撃しないか! 時間がないんだ

ぞ!!」

「は、はい!」

 強い口調で鉄也を出撃させる剣造。だが、その強い口調に、鉄也は何故か暖かいものを感じていた。

 真紅の戦闘機に鉄也が乗り込む。その戦闘機の戦闘力や機能を追求した流線型の姿は、美しささえ

感じさせた。この機体こそ、グレート・マジンガーのコクピットであるブレーンコンドルだった。

「エンジン始動! いくぜ、ブレーンコンドル!!」

 急発進するブレーンコンドル。洞窟状の滑走路を猛スピードで突き進むその様は、紅い矢のようだ

った。

あっという間に滑走路を走り抜けたブレーンコンドルは、カムフラージュしている発進口を抜け、夜

空に飛び出した。空中で旋回したブレーンコンドルから鉄也が叫ぶ。

「マジーンゴー!!」

 夜目にうっすらと見える科学要塞研究所のそばに、鉄也の声に反応したように渦巻きが出来ていた。

その中から、黒いロボットが上昇してくる。それに向かって急降下するブレーンコンドル。異常に早

い相対速度と夜の暗さをものともせず、真紅の戦闘機はロボットの頭部に合体した。その技量は驚嘆

に値するであろう。

「ファイヤーオン!」

 そのかけ声と共にロボットの目が光った。この瞬間に、黒い魔神グレート・マジンガーに命が吹き

込まれたのだ。

「スクランブルダーッシュ!」

 背中から収納式の翼を展開し、急加速で飛行するグレート。

「くっ」

 鉄也は歯を食いしばった。グレートのスピードとGは、鉄也がシミュレーターで経験したものとは

桁違いだったのだ。

 そして、その上空では、二つの流星がまるで意志でもあるかのようにグレートと同じ方向に向かっ

て流れていった。



予告

 僅かな光明にすがりながら戦闘を続けるゲッターとガンダムを助ける黒い影

 その強大な力によって一気に逆転する戦局

 しかし、この戦いを演出した者は更なる激戦を欲していた


次回、第七話「攻勢」

第五話

第七話

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