「スーパーロボット大戦 −The First War−」

 第七話 「攻勢」


一九:四五 日本地区群馬県諏訪山近辺 「まだだ! この程度で!!」  ガンダムがシールドで怪光線を防御した。多少勢いに押されはしたものの、本体は無傷だった。だ が、ガンダムの装甲と同じルナ・チタニウム製のシールドも、たった一撃喰らっただけで本来の役割 を全うしていた。アムロは、ガンダムに使い物にならなくなったシールドを捨てさせると、手近にあ ったGMのシールドを持たせた。すでに四枚目のシールドだが、アムロがその手の遺棄された武器に 事欠くことはなかっただろう。すでに二十機以上のGMと五十機以上の戦闘機が怪物の餌食となって おり、残骸がそこらじゅうに散らばっているのだから。  戦闘はいまだに続いていた。進化した怪物を相手に、連邦軍は第十三独立部隊旗艦ホワイトベース を中心に残存兵力を集中して何とか持ちこたえていた。  総指揮をとるジョン・コーウェン少将の素早い処置と、現場におけるブライト・ノア大尉の冷静な 指揮によるところが大きかった。経験の浅い兵士達もよくそれに応えていた。  だが、それも限界に近い。既に厚木の部隊は壊滅状態であり、いかに士気が高かろうと、残存戦力 では絶対的な戦力の差を埋めることは不可能だと思われた。それでも戦い続けていたのは、強力な援 軍の存在があればこそ、である。早乙女博士と善後策を協議していたコーウェン少将はその途中で聞 かされたのだ、強力な援軍の存在を。そして、それが今こちらに向かってきていることを。詳細を聞 くことは出来なかったが、コーウェン少将は早乙女博士の保証を信じた。どちらにしろ、このままで は勝ち目はないのだ。 「そんな動きでゲッターが捉えられるか!」  普段冷静な隼人が吼えた。その隼人の高まった戦意にゲッター2が応える。地上を高速で移動しな がら、敵の背後にまわり、首筋にドリルを突き立てたのだ。 「グッ、ギャアァ〜!!」  さすがに怪物も苦痛にのたうち回る。暴れ回り、背中のゲッターを引き剥がそうとする。その怪物 に正面からガンキャノンが砲撃を加える。 「この野郎、この! この!」  彼を知っているものが見たら、驚きを禁じ得なかっただろう。人一倍臆病だったカイが敵の正面か ら攻撃を加えているのだ。彼もこの戦いの中で変わりつつあるようだった。 「正面からだと危ないですよ! カイさん!!」  アムロが側面から援護しながらカイに声をかける。元々、MSの操縦に長けていたアムロだったが、 この戦いでその腕にいっそう磨きがかかったようだった。ガンダムの機動性を活用して、積極的に行 動して囮となり、その隙をみて他のMSやゲッターが攻撃する。その連携は次第に洗練され、息の合 ったものになってきていた。 「うわっ!? カイ、気を付けろ! そっちに行ったぞ!!」  ゲッター2をふりほどいた怪物がガンキャノンを標的にしたのだ。トカゲの口から、人型の目から、 それぞれ光線をだす。何とか第一撃を転がってかわしたが、動きの鈍いガンキャノンではこれ以上の 回避は不可能だった。カイを助けようとガンダム、ガンタンクが弾幕を張るが、怪物はものともせず にガンキャノンに向かっていった。 「う、うわぁぁ〜! や、やられる!」  カイが死を覚悟し、目をつぶったその時、黒い物体が怪物を一撃した。  続いてミサイルが撃ち込まれる。さすがにひるんだ怪物に、さらに追い討ちがかけられる。雲一つ ない空に雷鳴が轟き、稲妻が怪物に向かって撃ちかかった。それは暗い夜空を広範囲で明るくした。 その位大きな雷だった。  この連続攻撃はさすがに効いたらしい。怪物が悶え苦しんでいた。だが、その様を見ている人間は いなかった。これほどの攻撃を仕掛けた機体への関心が勝ったのだ。  そこには、見知らぬ黒い機体が立っていた。シンプルなデザインながら、力強さと鋭さを兼ね備え たその姿は、見ている者を自然と勇気づけるようだった。 「誰だ? あれはゲッターでもMSでもないな?」  混戦に突入してしまったため、艦砲射撃が出来ず、後方でバックアップに徹していたWベースのブ ライトがオペレーターに聞いていた。 「分かりません。あの方向には味方は展開していません」 「あれが、コーウェン少将の言う援軍なのか?」  その時、通信機から少し苦しそうな若い男の声が聞こえてきた。 「…はぁ、はぁ。何を…してやがる‥。この好機を‥逃すつも…りか…」  妙な区切り方をするのはミノフスキー粒子のせいばかりでなく、パイロットが疲労、もしくは負傷 しているからのようだ。 「大丈夫か? 負傷してるのか?」 「…大した‥ことはな…い。それよ‥り…攻撃し…ろ!」  先ほどと比べると呼吸が整い、答えが聞き取りやすくなっていた。恐るべき回復力と言えるだろう。 「了解した。MSとゲッターは後退しろ! 各砲座、各個に攻撃を開始せよ!!」  接近していたガンダム、ガンキャノン、ゲッター2が散開すると同時に、ホワイトベースとガンタ ンクの砲口が火を吹いた。さらに体勢を立て直し、距離をとったガンキャノンとゲッター3に変形し たゲッターロボが攻撃に加わる。 「こちらは第十三独立部隊のブライト・ノア大尉だ。そちらの所属を教えてもらいたい」 「剣鉄也、とグレート・マジンガーだ。こちらも、そちらの指揮に従う。いつでも指示、してくれ」  そう言いながらも、黒い機体は腹部からミサイルを連射している。 「了解した。各員、斉射三連! それが終了次第、グレート・マジンガーとゲッターは接近して攻撃 をかけてくれ。他のMSはその援護を頼む」 「グレート・マジンガー、了解」 「ゲッターロボ、了解!」(*3) 「ガンダム、了解です!」 「ガンキャノン、了〜解」 「ガンタンク、了解! 行くぞ、ハヤト!!」 「ハイ! リュウさん」  それぞれ攻撃を続行しながら、返答する各機。さすがの怪物も集中砲火に身動きがとれず、のたう ち回って苦しんでいた。その最中、グレート・マジンガーからゲッターに通信があった。 「聞こえるか、ゲッターロボ。ゲッター2で地上から攻撃してくれ。俺は空から攻める」 「そいつは了解だ。だが、ゲッターのことも知っているらしいな。お前は一体何者だ?」  陸と空からの二面作戦。それに関しては異論がない。だが、ゲッターの性能すら知悉している鉄也 を彼らは全く知らないのだ。竜馬が当然の疑問を口にした。 「それには答えられない、今はな。だが、いつか言えるときが来る。それまで待ってくれ」  意外に静かな口調で鉄也が答えた。答といえる様な代物ではなかったが。しかし、竜馬は怒りはし なかった。この戦いに勝ち残る、と言外に言っているのが分かったからだ。そうでなければ、後日な どあるわけがない。 「攻撃やめ! 各機、手筈通り行動せよ!!」  短い攻撃が終わり、ブライトの号令一下、各機が行動を開始する。とても短期間で編成された部隊 の行動とは思えないほど、その動きは素早く、統制がとれていた。  ゲッターは素早く3から2に変形して地上から、グレートは収納していた翼を展開して空から、そ れぞれ攻撃に向かう。 「くっ、やはり長引くと不利だな…。なら!」  最大戦速で怪物に向かいながら、鉄也が呟いた。リミッターを解除したグレートの出力は凄まじく、 鉄也の身体とグレート自身に大きな負担を強いており、この時も強いGが鉄也を苛んでいた。いかに 訓練されてきたとはいえ、長時間耐え続けるのは不可能だった。怪物を短時間で倒すべく、鉄也は攻 撃を開始した。 「グレートタイフーン!」  グレートのちょうど口の部分に当たるスリットから強風が吹きすさぶ。いまだ、怪物の周囲に立ち こめる爆煙を吹き払い、敵を確実に捕捉するためだった。  間もなく鉄也の思惑通り敵の姿が明らかになった。さすがにあれだけの攻撃を受けた怪物は、大き なダメージを受けていた。  人型の方は片腕を失っており、胸の部分には稲妻を喰らった後が大きな傷跡を残していた。トカゲ の方は足を二,三本吹き飛ばされており、片目を失っていた。どちらの傷からも、人間のそれとは微 妙に違う赤い液体を流しており、かなり傷ついているようだった。 「一気に決める! アトミックパンチ!! グレートブーメラン!!」  グレートは最大加速で飛行したまま、左腕を飛ばし、右腕で胸の放熱版を敵に投げつけた。先程と 同じように左腕は胸の傷跡に、ブーメランは人型の首筋−先刻ゲッター2がドリルを突き立てたのと 同じ箇所−にそれぞれ的確にヒットした。従来の威力に加えてグレート自身の加速が加わっているた め、その攻撃力は倍加されたようだった。胸には大きな傷がつき、首筋から赤い体液が飛び散った。 「グギャ、ギヤァオゥ〜!」  だが、傷を負い、体液を撒き散らしながらも、敵はグレートに攻撃を仕掛けた。口と目からの光線 がグレートを襲う。 「そんな攻撃!」  一方の光線をかわしたグレートだったが、ブーメランを回収しているときにもう一方の光線を喰ら った。だが、その攻撃はグレートの頑強な装甲を打ち破ることは出来なかった。超合金NZの硬度も さることながら、敵の攻撃力が弱まっているのだ。 「こっちも忘れてもらっちゃあこまるぜ!」  怪物がグレートに気を取られている内に後方にまわり、尻尾の付け根にドリルを撃ち込むゲッター 2。さらに、尻尾を片手で掴み、一気に尻尾を本体から引きちぎった。 「ギッギオロォ〜!!」  傷跡からは盛大に体液が流れ出し、大量の返り血を浴びるゲッター2。怪物は悲鳴を上げながらも、 振り向きざまに攻撃を加える。だが、いち早くゲッターは地中に退避し、攻撃を避ける。そして、こ れが絶好の隙となった。 「マジンガーブレード!!」  長剣を手にして、上空から一気に急降下するグレート。そして、その剣は正確にトカゲの頭に突き 立ち、頭を地面に縫いつけた。しかしながら、敵もただ者ではない。グレートを残った片腕で吹き飛 ばした。だが、その腕には既に力がなく、装甲にかすり傷をつけるに留まった。マジンガーブレード を抜くことも出来ず、その場でのたうち回るだけだった。  常識はずれの耐久力を誇る怪物といえど、一方の頭と尻尾を失った上に大量の体液を流し、その力 は極度に低下していた。この状況では、怪物が倒されるのは時間の問題だと思われた。 同刻 火星周回軌道上 「まさか、ここまでやるとは。科学力の割には戦闘力が高いようですね…」  ウェンドロ艦隊副司令は本隊を太陽系外に駐留させ、高速巡洋艦一隻で地球を監視していた。無論、 表向きは“ギルギルガン”の監視であるが、彼の目的は地球の軍事力の観察にあるようだった。だが、 第二段階まで成長した“ギルギルガン”をまさかこんな未開の惑星の住人が倒せるとは予想していな かった。  “ギルギルガン”。その出自は不明だが、金属を常食し、短期間で成長を遂げるこの怪物は、彼ら の有人星の幾つかを壊滅状態に追い込んでいた。その怪物を捕獲しえたのは、怪物が全てを破壊しつ くし、冬眠状態に入ったからだった。おそらく力を出し尽くしたのだろう。しかし、より詳細な調査 をするために大型生物研究用の小惑星に輸送する途中に何故か再び覚醒し、艦隊から脱走したのだっ た。 「やはり、このままにしておくことは出来ませんね。彼らの力の全てを見せてもらうためには。準備 は出来ていますか?」  オペレーターがそれに淀みなく答える。ウェンドロはその答えに満足そうに笑みを浮かべた。何の 邪心もない純粋な笑みを。続けて詩でも詠むような優雅な口調で命令を下した。 「それでは、偵察隊はギルギルガンに超圧縮エネルギーカートリッジを撃ち込み、以後も偵察を続け て下さい。強襲部隊は実戦配備で待機していて下さい」  その命令に最敬礼で答える部下達に満足しながら、ウェンドロは当初の目的よりも、最終進化型ギ ルギルガンを相手に地球人がどのように戦うのか、その点に最大の興味を抱くようになっていた。  そして、考え事をしていた彼は気付かなかった。別のモニターが小型の大気圏突入カプセルが戦場 に向かっているのを映し出していることに。 予告  優位に戦闘を進めている第十三独立部隊だったが、彼らは満身創痍だった  さらに何者かの介入が怪物を真の姿に変えていく  グレート・マジンガーをも圧倒する怪物に為す術はあるのか?   次回、第八話「介入」
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