「スーパーロボット大戦 −The First War−」
第八話 「介入」
二〇:二四 日本地区群馬県諏訪山近辺
戦闘は収束しつつあった。もはや怪物には戦闘するだけの力は残っていなかったからだ。何とかマ
ジンガーブレードを引き抜いたものの、戦うこともできず、逃げまどうだけだった。だが…。
「クッ、肋骨をやっちまったか…」
先ほどの攻撃の際、鉄也は肋骨を折っていた。先ほどの急降下にはそれだけのスピードとGがかか
っていたのだ。無論、鉄也も覚悟の上だった。そうでもしなければ、あの怪物を短時間で倒すことは
不可能だったからだ。
だが、攻め手も怪物の相変わらず硬い表皮と異常に高い生命力の前に止めを刺せずにいた。何故な
ら、ガンダムもゲッターも長時間の戦闘によって、大量のエネルギーを消費し、弾薬も乏しくなって
おり、パイロットも極度に消耗していた。最大の戦力を誇るグレート・マジンガーも満足に動けず、
奇妙な膠着状態に陥りかけていた。
「…さあ、もう一踏ん張りだ。頼むぜ、グレート」
鉄也は激痛に堪えながらも止めを刺すべく、グレート・マジンガーを立ち上がらせた。いくら瀕死
とはいえ、あの怪物に時間を与えるのは危険だった。
「何だ? このプレッシャー……。そこ!!」
それまで感じた事のないプレッシャーを感じたアムロは、ガンダムに90mmマシンガン−GMの
遺棄装備−でそこを狙撃させた。
“それ”は思わぬ攻撃を受け、わずかに体勢を崩した。だが、“それ”が射出した何かが怪物に命
中した。そして正体不明の機体は、目的を達すると急速に離脱した。この段階で機体を足止めするこ
とはもちろん、アムロの目をもってしても、その姿を確認することはできなかった。その機体の運動
性と隠密性が並外れて高かったからだった。だが、そのことを悔やむ時間は与えられなかった。瀕死
の筈の怪物に変化が起こったからだった。
「グッグゥー、グォォーーー!!」
その叫びは、悲鳴と言うより、高まる力を雄叫びに代えて叫んでいるようだった。
「まずい! また進化するぞ!!」
竜馬の言うとおりだった。だが、彼らとて手を拱いているわけではない。ゲッター1とMSはそれ
ぞれ攻撃をしかけていた。しかし、それを悪あがきと馬鹿にするように怪物は、その姿を変えていっ
た。進化と同時にその耐久力を上げていたとしか思えない打たれ強さだった。
そして、抵抗空しく、その時がやってきた。怪物の下半身には−三本に増えた−尻尾を残していた
が、人型の下半身となり、背中からは翼が生え、失ったはずの片腕が再生していた。
何がこの怪物をここまで変えたのか? 遅れて到着した鉄也の頭にそんな疑問が浮かんでくるが、
考えている暇はなかった。これまで以上に狂暴な目つきをした怪物がこちらを睨んでいたからだ。さ
っきの攻撃で散々痛めつけられた事に怒っているように思えた。
「ガンダムとガンキャノン、ゲッターは補給のために帰還してくれ。このままじゃ奴には勝てん。そ
の間は、俺が敵を引きつける」
いち早く精神的なダメージから回復した鉄也が冷静な口調で呼びかけた。
「だが、剣君、君も負傷している。むざむざやられるつもりか?」
ガンタンクからリュウが反問した。第十三独立部隊で年長者として、小隊長としてアムロ達をまと
めていたのは彼だった。
「そんなつもりはない。だが、満足に戦えない機体が何機いようが状況は変わらないだろう。しかし、
ゲッターやMSが満足に戦えるようになれば、まだ勝機はある。無論、グレートも戦力と数えての話
だ」
「了解した。では、剣君のグレート・マジンガーは敵を引きつけてくれ。ハヤトとリュウのガンタン
クはその援護を頼む。ガンダム、ガンキャノン、ゲッターは直ちに帰還しろ。ここで無駄に時間を使
えば、その分こちらが不利になる。急げ!」
鉄也とリュウの会話を聞いていたブライトが命令した。残念ながら、これ以上の対応策を採ること
は出来そうになかった。
(もう少し戦力があれば…。)
ブライトは、無理とは分かっていても、そう思わざるを得なかった。そして、この命令を下したこ
とを早くも後悔しはじめていた。
それは怪物以上の暴れぶりだった。両手の指からビームを撃ち、それを避けたところに翼と−それ
以前の時がそうであったように−目からも光線を発射する。鉄也が慎重に距離をとって行動していた
から避けることが出来たが、攻撃の最中であったなら、あっという間に撃墜されていただろう。
「チッ、ネーブルミサイル!」
攻撃をかわしながらも牽制にミサイルを放つ。だが、それも目眩まし程度にしか役に立たなかった
が、攻撃の手がゆるんだ。その隙をついてすかさずグレートタイフーンを使った。風速一五〇mの
強風の中では、あの怪物も満足に動けないと踏んだからだった。すかさずガンタンクも援護射撃を開
始した。
「グッグッグッ、グッギャーー!」
その声は笑っているようだった。人間の抵抗など自分には効かない、と。それを証明するかのよう
に強風の吹きすさぶ中から、突如“鎌”がグレートを襲った。不意をつかれた鉄也はそれを回避する
ことは出来なかった。怪物は自分の腰についていた鎌状の装甲を引き剥がして、武器として使ったの
だ。
「クッ…!」
激しく吹き飛び、山肌に叩き付けられるグレート。その左腕は上腕部から先が綺麗になくなってい
た。とっさにガードした結果がこれだった。進化したことで道具を使えるようになったようだ。
「大丈夫か? 剣君!!」
「大丈夫ですか!!」
牽制の攻撃を続けながらも、ガンタンクのガンナーとパイロットが鉄也を気遣う。
「…な、んとか、…な…」
吹き飛ばされた弾みに唇を切ったのか、口から血を流しながら鉄也が答えた。そう言いながらも、
その手はグレートの状態をチェックしていた。超合金NZの硬度の賜物か、左腕が全てのダメージを
引き受けたのか、左腕以外は特に異常がないようだった。
その左腕の切断面から流れ出していたオイルもすぐに止まっていた。
「こんな、事で、くたばって、たまるか!」
鉄也は己を奮い立たせるように叫ぶとグレートを立ち上がらせた。
「剣君、ハヤト、リュウ! もう少しだけもたせてくれ、もうすぐガンダムとガンキャノンの補給が
完了する!」
ブライトも気休めにしかならないと分かっていながらも、こう言わざるを得なかった。
「当てにしてるぜ、ブライト!」
ブライトを落ち着かせるようにリュウが返事をすると、ガンタンクを後退させた。怪物がこちらを
目標にしたからだ。
まるでいたぶるようにゆっくりと迫ってくる怪物に向かって、ガンタンクは砲火を集中させた。だ
が、怪物は深刻なダメージを受けた様子もなく、その歩みも止まることはなかった。
「もうちょっともたせろ! 今行く!」
鉄也がグレートを猛スピードで突撃させた。身体全体をきしませながらも、そのスピードを緩めた
りはしなかった。初対面でお互いのことを何も知らないとはいえ、今の彼らは間違いなく“戦友”な
のだから。
「射程に入った! くらえ! サンダーブレーク!!」
グレートの武器の中でも最大の攻撃力を誇る稲妻が敵の背中に襲いかかった。これにはさすがの怪
物も足を止めた。すかさずガンタンクは、最大戦速で後退する。だが、ガンタンクが危機を脱しても、
鉄也は攻撃を続けた。
(グレートも自分もどれだけもつか分からない。こういうチャンスには出来るだけの攻撃を仕掛けな
ければ。)
鉄也はそう考えたのだ。だが、怪物もそのままではいなかった。
振り向きざまにふるってきた鎌がグレート・マジンガーを襲ったが、その攻撃を予測していた鉄也
はそれをかわした。しかし、怪物は目や翼からの光線で追い討ちをかけてきた。初手で体勢を崩した
グレートにその全てをかわすことは不可能だった。
「しまった!」
攻撃を焦った己の迂闊さに臍をかむ鉄也。またも山肌に叩き付けられるグレート。今度はそう簡単
には起きあがれそうにもなかった。何より鉄也自身へのダメージが大きかったからだ。必死で気力を
奮い立たせながら、グレートを操縦しようとするものの、身体は自分が思うほど動きはしなかった。
呼吸が荒い。
「逃げろ、剣君! くそ、なんて足が遅いんだこいつは!!」
「急いで下さい! リュウさん!!」
リュウとハヤトが叫ぶが、ガンタンクは離れすぎてしまったため、援護射撃すら出来なかった。そ
れでも、鉄也を助けるために鈍重な機体を出来うる限りの速さで向かわせた。
格納庫でも作業が大急ぎで行われていたが、作業はいまだに完了していなかった。
「なんてこった! 作業はまだ終わらないんですか!?」
たまらず武蔵が叫ぶ。
「分かってる! 分かってるから急いでやってるんだろ!!」
ホワイトベースの整備長アストナージが負けずに叫び返した。実際彼はよくやっていたし、アムロ
もカイもゲッターチームも補給作業を手伝っていた。
だが、人の技である以上、そのスピードには自ずと限界がある。それに、パイロットも整備員も経
験不足のため、その作業はスムーズにはいかなかったのだ。
グレートのことを案じていたのは彼らだけではなかった。グレートの基地である科学要塞研究所と
の独自の回線から通信が入ってきていた。
「鉄也君、しっかりしたまえ! こんな事でやられるグレートと君ではないはずだ!!」
あの冷静な兜剣造が大声を上げて、必死に鉄也に呼びかけていた。
彼にとって、鉄也とグレート・マジンガーは甲児やシローとは別の、血を分けていない子供と言う
べき存在だった。その彼らの窮地を黙って見ていることは出来なかった。そして、何時になく必死な
剣造の呼びかけに鉄也は、必死で応えようとしていた。
「…ハァ、ハァ、…分かって‥ますよ。所長…」
苦痛に耐えながらも、何とか答えを返し、操縦桿を握る。だが、無情にも怪物はグレートを蹴り上
げた。本能のままに戦い続けていたそれまでとは、明らかに違う種類の攻撃だった。
自分を痛めつけたグレートに恨みを抱いているように見えた。この怪物は、進化によって感情が芽
生えはじめたのかも知れない。そう思わせるに足る行動だった。
「グッ!」
鉄也は悲鳴を押し殺し、苦痛に耐える。だが、それでも操縦桿は離さない。鉄也自身がまだ戦いを
放棄していないからだ。少しずつ体を動かし、グレートを立ち上がらせようとする。
(こんな所で死ねるか。俺はミケーネと戦うために幼い頃から訓練してきたんだぞ。)
いまだに戦意を失ってはいなかったが、如何せん戦意に体がついてこなかった。
そして、その鉄也の努力を嘲笑うように、怪物は手に持った鎌を振りかぶった。止めを刺すつもり
なのだ。ガンダム、ガンキャノン、ゲッターは補給中。ガンタンクも間に合わない。それを阻止し得
る機体は、この場にはいなかった。
まさにグレート・マジンガーが止めを刺されようとしたその時。突如、大気圏突入カプセルが上空
を高速で通過した。三体の人型の機体を残して。そして、自由落下する二機の緑の機体がバズーカを
連射した。さすがの怪物もこの攻撃を無視することも出来ず、新たな敵に向かって目と翼の光線で応
戦した。二機とも危なげなく攻撃をかわす。彼らの目的は怪物の目を引きつけることだったのだ。
その隙をついて赤く塗装された機体が怪物の直上から急降下しながら、手持ちのマシンガンを連射
した。威力はともかく、雨あられのように降りかかってくる弾丸には辟易したようで、唸り声を上げ
ながら、弾丸の雨を避けた。
「大丈夫か? 後退する」
着地した赤い機体から若い割には、落ち着いた声が聞こえてきた。
「すまない」
この一瞬のチャンスを逃すほど鉄也も愚かではない。苦痛に耐えながら、グレートより一回り小さ
い機体に続いて、後退する。怪物の追い討ちが考えられたが、緑の機体が二機がかりで攻撃し、その
暇を与えなかった。そのチームワークは見事なもので、しばらくは時間が稼げそうだった。
「どこの部隊か知らないが、感謝する。出来れば、貴官の所属と姓名を教えてもらいたい」
ホワイトベースからブライトが指揮機らしい赤い機体に通信をした。赤い機体は一つしかない目を
光らせながら、すぐに答えた。
「いや、礼には及ばない。私はサイド3自治軍所属のシャア・アズナブル中尉だ。貴官らの怪物退治
の手伝いに来た」
モニターに現れたマスクを付けた士官は、実現不可能とも思えるようなことを穏やかな口調でさら
りと言ってのけ、少し笑った。
予告
思わぬ援軍によって一息つく第十三独立部隊
宇宙(そら)からやってきた赤いモビルスーツは、ガンダムをも凌ぐ動きを見せる
その攻撃は宇宙からの招かれざる客を葬ることが出来るのか?
次回、第九話「赤い彗星」
第七話
第九話
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