宇宙の騎士テッカマンブレード in SRW 1



「チックショー、全く鬱陶しいぜ。こいつらラダム獣はよぉ」
 兜甲児はマジンガーZに光子力ビームを発射させながら、愚痴をこぼした。愚痴と言うには、声が大きすぎたが。
「ホント、ホント。いい加減嫌になってくるよなぁ」
「んなこと言ってる場合か! 右から来るぞ、勝平!!」
「ほんと、勝平ったら全然進歩しないんだから」
 間髪入れず甲児に賛同したのは、マジンガーの上空で飛行ラダム獣を相手にしているザンボット3のメインパイロット神勝平で、それをたしなめたのはサブパイロットの神江宇宙太と神北恵子だった。
「うるせーな、分かってるよ!!」
 口論しつつもザンボット3は、その手に持った刀−ザンボットカッター−でいとも簡単にラダム獣を斬って捨てた。
 戦闘に対する恐怖を人工的に排除された勝平には戦闘を楽しんでいる節がある。無論、そう言う雰囲気は他のメンバーにも多かれ少なかれ存在するが、それを口に出すほどの子供もそうはいない。
 そんな勝平にとって、(彼らにとって)強くもなく数だけで押してくるラダム獣のような相手とは戦っても何の面白味もない。単調になりがちな戦いに退屈してきたのだ。
 年長だが、勝平と気質の似ている甲児も同様である。
「二人とも、敵の数は多いんだ。口を動かす前に手を動かしてもらいたいな」
 とても戦闘中とは思えない余裕のある口調で、この隊の隊長である破嵐万丈が二人をたしなめた。だが、彼の操るダイターン3は、彼の余裕のある言動とは裏腹にその巨体を利用した苛烈な攻撃でラダム獣を文字通り叩き潰していた。
「まずいですよ。他の部隊は軒並み後退をはじめてます。それに敵の数がいっこうに減る様子がない…」
 後方から、スーパーロボットの援護に徹していたS(スペリオール)ガンダムのコウ・ウラキが全員に告げた。 
 しかし、実際は最前線で戦っている彼らが思っている以上に、事態は深刻だった。

「ガンキャノン、ディザード、ボロット撃墜、パイロットは各自脱出。エルガイム、スーパーガンダム、ブルーガー、ガルバーFX2大破。ダイアナンA、リ・ガズィ02、ダブルスペイザー、テキサスマック、アレックス、ボチューン中破、戦闘続行不可能。収容する必要があります!」
「ラダム獣の数、今だ減りません。第一防衛ラインは完全に寸断され、第二防衛ラインも突破されつつあります。このままでは、ラダム獣のスペースナイツ基地への侵入を防ぎきれません!」
 ロンド・ベル隊旗艦ネェル・アーガマのブリッジは悲鳴のような報告で満たされていた。そんな中、ロンド・ベル司令ブライト・ノア大佐は防衛線を維持しようと矢継ぎ早に指示を飛ばしていた。
「第一防衛ラインの生き残りで、戦闘可能な機体は最終防衛ラインにまわせ! 修理、補給が必要な機体は、各艦に帰投させて、補給を受けさせろ!」
「シーラ女王、グラン・ガランは戦闘を継続しつつ、行動不能な機体を回収して下さい。ビューナスAとニーのボチューンに作業を手伝わせます」
「分かりました。カワッセ、グラン・ガラン降下、損傷している機体とパイロットを回収します。炎ジュンとニー・ギブンに連絡を」
(まだ十分持ち堪えられる。しかし、…。)
 一通り指示を出し終えたブライトは戦況を確認していた。
 ラダム側が予想以上に戦力を投入してくるため、ロンド・ベル側も手痛い損害を受けていたが、部隊の主力は健在であり、専守防衛に徹すれば、このままでも十分に持ち堪えられるだろう。
 しかし、ブライトにはどうしても不安がこみ上げてくるのを抑えることが出来なかった。ブライトは、ラダムにこの戦況を逆転させることの出来る“兵器”が存在することを知っているのだ。そう、“テッカマン”の存在を。

「いっけぇぇぇーー!!」
 崩壊しつつある第二防衛ラインの一角では、ダバ・マイロードのエルガイムmk2に装備されたペンタゴナ最強の兵器バスターランチャーが広大な光の束を吐き出していた。
 さしものラダム獣もこの攻撃には耐えきれず、敵の二割弱が光の中に飲み込まれる。だが、ラダム獣は何もなかったようにバスターによって空いたスペースに殺到してきた。
 いかに高出力を誇るエルガイムMk2でも、バスターランチャーの連発は不可能だ。ダバは歯がみしながら、Mk2を後退させる。
「やっつけたのにうようよ来るよぉ〜、ダバァ〜」
 リリスが泣きそうな声でダバにしがみついてくる。
「くそう、きりがない…」
「無理するな、ダバ君。エネルギーチャージが出来るまで後退していてくれ」
 Mk2に代わって前に出たグレンダイザーの宇門大介ことデューク・フリードが声をかけた。反重力ストームで複数の地上ラダム獣を高空まで浮遊させ、地上に叩き付ける。
「そういう事です、ダバさん!」
 そう言って、空中から攻撃してくる飛行ラダム獣を迎撃したのはシーブック・アノーのF91だ。高出力に調整したヴェスバーとメガビームランチャーで、確実に一体ずつ撃墜していく。
「頼みます、大介さん、シーブック君」
「頑張れ〜!」
 奮戦する三機だったが、引き続きオービタル・リングからラダム獣は落下してきており、その数は全く減る様子はなかった。
 
 同じ第二防衛ラインの一角では、第一防衛ラインの指揮を執っていたアムロ・レイ少佐のνガンダムとセシリー・フェアチャイルドのビギナ・ギナが合流、抵抗を続けていた。
 恐れを知らないのか、何も考えていないのか、真っ正面から突っ込んでくるラダム獣の大軍に、νガンダムの、ZZガンダムの、ビギナ・ギナの、ザク3改のビームライフルが一斉に火を吹き、空中から真ゲッター1のゲッタービームがラダム獣を薙ぎ払う。
一,二発ならば、ビームライフルの直撃にも耐えるラダム獣もこれほどの集中砲火を前にしてはひとたまりもない。次々と、爆発していった。
「へっへ〜ん、ざまあみろ、ってんだ!」
「敵を甘く見るな。次が来るぞ」
 青く塗装したザク3改のアナベル・ガトーが調子に乗りかけたジュドーをたしなめた。怖い物知らずのジュドーも、ロンド・ベル屈指の堅物アナベル・ガトーは苦手である(彼を得意とする人物などほとんどいないが。)。おとなしく言うことを聞いている。
「分かってますよ、ガトーさん。しかし、鬱陶しいな、こいつら。ここはハイメガキャノンで一気に…」
「焦るなジュドー、敵の数は多いんだ。切り札を切るにはまだ早い」
 ロンド・ベルを代表するエース、アムロ・レイ少佐だった。
 ジュドーもニュータイプとしての能力はアムロと互角か、それ以上かも知れないが、精神的に未熟なために戦場で遅れをとることがままある。
 しかし、それも無理のない事かも知れない。ロンド・ベルには司令官としてはブライトが、パイロットとしてはアムロや万丈、鉄也と言った存在が部隊の柱として立派に機能しており、却ってジュドーに自覚を促さないのかもしれなかった。
「だが、このままでは埒があかないのも事実。アムロ少佐、援護を頼む。私は真ゲッターと共に敵中に突っ込む!」
「了解、行くぜ!」
 真ゲッター1は真ゲッター2に変形、猛スピードで突撃、右腕に装備されたドリルでラダム獣を次々に貫いていった。
 ガトーもザク3改にハイパービームサーベルを抜かせると、一気に敵中に突撃、縦横無尽にラダム獣を斬りまくっていた。 

 
「ゴラオン、エレ女王、聞こえますか?」
「聞こえます、カミーユ・ビダン。何事ですか?」
 ゴラオンのブリッジの前でウェーブライダーが飛行ラダム獣とドッグファイトを演じていた。
「このままではこちらが不利です。我々が囮になって、敵を誘い出します。そこをゴラオンのオーラ・ノバで一気に叩いて下さい」
「危険です。一つ間違えれば、貴方達が…」
「ですが、このままでは圧倒的な敵の数に押し潰されるのを待つだけです。どうか!」
 ゴラオンのブリッジの前で、ウェーブライダーはZガンダムに変形、後方につけていた飛行ラダム獣に取り付き、ビームサーベルで頭部を突き刺す。
「俺達なら大丈夫ですよ、エレさん。だから、お願いします!」
 その声と共に撃ち出された巨大な矢は、簡単にラダム獣を貫いた。ひびき洸のライディーンだ。その背後では、竜崎一矢のダイモスが鮮やかな手際で三竜棍を操り、立て続けにラダム獣を叩きのめしている。
「エレ様、他に手はありません!」
 マーベル・フローズンもダンバインに剣を突き立てさせながら、エレに頼んだ。
「……分かりました。エイブ」
 カミーユの依頼を受けたエレは、ゴラオンの艦長であるエイブに向き直った。
「ハッ、女王陛下。全艦、オーラ・ノバ発射用意! カミーユどの、合図はそちらに頼んでよろしいか?」
「了解です。準備でき次第、発光信号を上げます。では!」
 カミーユはエレとエイブに敬礼し、通信を切ると、自分の小隊のメンバーに命令を伝え、自らもそれを実行した。機体をゴラオンの前方に向かわせる。
「マーベルさん、洸君、一矢さん。聞いての通りです。お願いします」
「了解」
「行きましょう、一矢さん!」
「おう!」

「アム、アム! しっかりしなさい!! 生きてるんでしょ!!」
 ガウ・ハ・レッシィは左腕と左足を失って倒れているエルガイムのパイロットに必死に呼びかけていた。
「…い……ったぁ〜」
 何度目の呼びかけの時だったろうか、やっとアムが反応した。
「何やってんのよ! あんたは!!」
「う、うっさいわね! そんなに怒鳴らなくても良いでしょ!!」
「生きてるんならはやく起きろ。ここは戦場だ」
 この隊の隊長である剣鉄也は、いつもの口喧嘩に突入しそうな会話に冷然とストップをかけた。
 その冷たい言葉に憤慨しかけたアムだが、反論するのは思いとどまった。なんだかんだ言って、彼女のエルガイムを敵から庇っている機体が鉄也のグレート・マジンガーだと分かったからだ。
「おやおや、寝坊助のお姫様がやっとお目覚めのようだ」
「ちょっと、キリー。あんまり嫌みっぽい言い方は女の子に嫌われるわよ」
「全くだ」
 ゴーショーグンだ。グレートと同じようにエルガイムを守るように立ってスペースバズーカでラダム獣を攻撃している。
「…迷惑かけたみたいね。ゴメン」
 グッドサンダーチームも茶化してるように見えるが、アムを気遣っているのだ。アムもそれに気付かないほど鈍くない。
「動けるようなら、すぐにグラン・ガランに後退しろ。機体が動かないなら、機体を捨ててもいい」
「あたしはまだやれるわよ!」
「これは命令だ」
 どこまでも熱いアムに対して、鉄也は氷のように冷たかった。しかし、意外なところから援軍があった。
「待って、いい方法があるわ」
 セイバーでラダム獣を串刺しにしながら、レッシィが鉄也を止めた。
「ネェル・アーガマにはもう一丁バスターランチャーがあったわ。あれを使うの。アム、まだエルガイムのジェネレーター動いてるでしょ?」
 レッシィは聞いているのではなく、確認していた。何せ、エルガイムはグレート・マジンガーの後ろで、尻餅をついた体勢でパワーランチャーを撃っていたのだから。
「と〜ぜんよ!」
「分かった。レッシィ、君はネェル・アーガマに連絡を頼む。そして、ゴーショーグンと一緒にアムを守ってやってくれ。俺が前線で敵を引き付ける」
「オイオイ、おいしいところは独り占めって訳かい? そりゃ無いぜ」
「そう、そう。隊長は後ろでどっしり構えてるもんだぜ」
 ゴーショーグンのメインパイロット北条真吾とサブパイロットのキリー・ギャグレイが婉曲に異議を唱えた。
「勘違いするな、今の俺達の任務はエルガイムにバスターを撃たせることだ。そのためには、敵の目をエルガイムからそらすこととエルガイムを守る盾が必要だ。盾はでかい方がいい」
「私達は盾代わりって訳? ひどい話」
「そう言うことだ。準備が出来たら、合図してくれ」
 そう言い捨てると、鉄也はグレート・ブースターを射出、それに続いてグレート・マジンガーをラダム獣の群の中に突入させた。 

「ミリー、外の様子はどうだ?」
「依然として激しい戦闘が続いています。ロンド・ベルも全力で戦っていますが、ラダム側も新たに五百を越えるラダム獣を投入していて、とても防ぎ切れません。第二防衛ラインを突破してくるラダム獣は少数ですが、このままでは…」
 スペースナイツ基地の指令室でオペレーターをしているミリーと呼ばれる少女は、その愛くるしい顔を不安に曇らせながら答えた。
 一見場違いに見えるが、その幼い外見とは裏腹に彼女のコンピューターオペレートの力は世界でも有数で、連邦政府直属の特殊部隊“スペースナイツ”の正式なメンバーの一人だった。
 しかし、少女に報告を促した壮年の男は不利な戦況にあると聞いてもサングラスの下の表情を全く変えなかった。続けて少女に尋ねる。
「ペガスの改装は?」
「本田さんとレヴィンが全力で取りかかってますが、まだ時間がかかるようです」
 ミリーの報告に頷くと、スペースナイツチーフ、ハインリッヒ・フォン・フリーマンは再び戦況を映しだしているメインスクリーンに目を向けた。 

 フリーマンと同じようにスペースナイツ基地攻防戦を観戦する者が一人、オービタル・リングにもいた。
 外観は、人間よりも一回り大きく、まるで中世の甲冑を着込んだような姿をしていた。
 だが、鎧を着込んでいるような不自然さは見受けられない。動きもなめらかだ。
「フン、人間どもにしてはやるものだ。だが、お前達が来た以上、遊びはこれまでだ。待っていろ、ロンド・ベル! そして、裏切り者テッカマンブレードよ!! クックックッ……」 
 男は独り言を言っているのではなかった。先程まで一人だった彼の回りには、同様の姿をしている影が三つ、いつの間にか現れていた。



第一話あとがき

続く

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