宇宙の騎士テッカマンブレード in SRW 2



 宇宙世紀00××年、人類は突如現れた謎の生物の攻撃を受けていた。
 外観は蜘蛛を巨大化させただけの奇怪な生物群は、連邦政府に対して宣戦布告どころか何の呼びかけもせず、呼びかけにもいっさい応えなかった。唯一明確だったのは、それらが地球に対して敵意を持ち、それを攻撃という形で表現している、ということだけだった。後に、この正体不明の生物が“ラダム”と呼ばれる地球外知的生命体の下僕である事が判明するが、その詳細はいまだに判明していなかった。

 それに加えて、先年まで続いていたDC戦争とそれに続く異星人(インスペクター、ゲスト)との連戦は、地球圏を統括する地球連邦政府に大きなダメージを与えていた。度重なる正規軍の壊滅に加えて、ゲストとの戦い−第二次星間戦役−の際に起きたティターンズのクーデターは、今も連邦軍に深い傷を与えていた。
 当然、連邦軍の再建は急ピッチで行われていたが、ゲストとの間に和平条約が締結されると、自然とその速度は遅くなった。無論、度重なる戦争による厭戦気分や予算の不足などがマイナスに作用した点も見逃せない。
 さらに、新たに建設が決まった巨大衛星軌道基地“オービタル・リング”の建造が優先されたため、軍の再建は滞るようになってしまった。
 オービタル・リングとは、衛星軌道上に建設された巨大なリングである。その外観は土星のリングを思い浮かべてもらえば間違いない。このリング内には、スペースポート、世界通信中継施設、太陽エネルギー発電施設や各種の実験プラントが設けられている。さらに地上とは軌道エレベーターを内蔵した塔と連結することによって、人や物資の流通をシャトルなしで行うことが可能である。莫大な費用がかかったが、人類のさらなる宇宙進出には必要不可欠な施設であった。
 結果的に、これが裏目に出た。ラダムが最も苛烈に攻撃してきたのがオービタル・リングだったからだ。未整備であった連邦軍の防衛ラインを突破したラダム獣はオービタル・リング内に侵入、申し訳程度の抵抗を簡単に排除すると、一匹のラダム獣がメインシステムに寄生、オービタル・リングのコントロールを奪取、完全に支配下に置いてしまった。
 これに対して、連邦軍も出来うる限りの抗戦を試みたが、惨憺たる結果に終わった。オービタル・リングの通路は連邦軍の主力兵器モビルスーツで戦闘が出来るほど広くはないし、ラダム獣はMSのビームライフルの直撃にも耐える。そんな敵を相手にするには、陸戦隊やミドルモビルスーツはあまりにも非力だった。
 本来、オービタル・リングは外宇宙への港として作られた施設で、防衛設備は少く、その整備も進んでいなかった。まして、内部にラダム獣ほどの大きさの敵が侵入することなど想定されていない。その結果、軍はオービタル・リングの放棄を決定した。いや、せざるを得なかったのだ。
 オービタル・リングという足場を手に入れたラダムはコロニーを無視して、地球への侵攻を開始した。ラダム獣はオービタル・リングから地上に降下、さらにオービタル・リングに備え付けられていたレーザー砲を使用して地上を掃射した。
 ラダムの地上侵攻に対して、連邦軍はMSを中核に据えて必死に抵抗したが、ラダムの侵攻を押しとどめるのに精一杯だった。しかも、ラダム側の驚異的な数的回復力に比べて、MS部隊の補充ははるかに遅い。ラダムによる地上侵攻が始まって半年、膠着していた戦況はじわりじわりとラダムに有利になっていった。
 そんな時だった。地球側の反撃の狼煙となる白い魔人がオービタル・リングに現れたのは……。


「まだか? まだ終わらないのか!?」
 青年の声が整備場に響いた。整備場では、4〜5m程のロボットに整備員が何人も取り付いて作業しており、かなりの喧噪に包まれていたのだが、青年の声はそんな中でも良く通った。
 苛立たしそうな声を発したのは、赤いジャケットを着た青年だった。年齢は20歳程か、均整の取れたしなやかそうな体に整った顔立ちをしていた。しかし、鋭過ぎる眼光と左目の上の傷が、必要以上に彼の顔を厳しく見せていた。
「焦るなよ、Dボゥイ。まだあのテッカマンは出てきてないんだ。」
「おやっさんの言うとおりよ。それにロンド・ベルのみんなが守ってくれてるんだから、エビルなんか目じゃないわよぉ〜」
 作業を監督していた貫禄のある中年の男と、ロボットの脚部に取り付いて作業していた男がDボゥイに答えた。もっとも作業をしている方を男と言い切るには少しばかり問題があるのだが。
「奴はそんな簡単な相手じゃない! 犠牲者が出てからじゃ遅いんだぞ!!」
 二人の言葉は気休めにもならないらしい。Dボゥイと呼ばれた青年は、先程よりもさらに大声で怒鳴り返していた。
「少しは落ち着いて、Dボゥイ。貴方がいらついたからといって、作業が早く終わる訳じゃないのよ」
 完全に喧嘩腰のDボゥイに声をかけたのは、彼の傍らに寄り添う黒髪の女性だった。
 Dボゥイはまだ納得のいかない様子だったが、彼女−如月アキは彼が口を開く前に言った。
「みんなを信じて。共にラダムと戦う貴方の仲間を…。お願い…!」
 彼女の真摯な口調は、Dボゥイにある出来事を思い出させた。崩れゆく連邦本部基地の中で心を閉ざした自分に「貴方は悪魔じゃない」と言い、涙を流したアキの姿を。
「アキ……」
 彼女の言葉に、力強く頷いてみせたのだった。


 ラダム獣の大軍の中に孤立した第一防衛ラインにおいて、大小数機の機体が包囲網の中で、抵抗を続けていた。
 敵を消耗させるため、アウトレンジから一撃離脱を繰り返す飛行ラダム獣。地上に密集し、敵を絡め取ろうと粘液を吐きつける地上ラダム獣。この二種類のラダム獣による二重三重の包囲網は、じわじわとその輪を狭めてきており、部隊の全滅は時間の問題と思えた。
「今だ! マサキ! リューネ!!」
 包囲網の中心で密集していた部隊の隊長、ビルバインに搭乗するショウ・ザマが、包囲の輪が狭まった瞬間を逃さず、叫んだ。
「おう! 行くぜ、サイフラーッシュ!!」
「行くよ! サイコブラスター!!」 
 地中世界ラ・ギアスの守護者である風の魔装機神と天才科学者ビアン・ゾルダークの忘れ形見がショウの声に応えた。この二機を中心に青と赤の光の波が音もなく、放射状に広がっていく。この二色の光は、味方であるビルバインやダンクーガ、リ・ガズィには何の影響も与えなかったが、ラダム獣に触れた途端、強い衝撃を与えたのだ。さらに接近しようとしていたラダム獣は避けようもなく、あるものは弾き飛ばされ、あるものは衝撃に耐えきれず、爆発した。
 それまで、まるで機械のように整然と包囲していたラダム獣の動きが乱れた。包囲網を縮めるために密集状態にあったのだからなおさらだ。
「ダンクーガ!!」
「おう!!」
 あらかじめ打ち合わせていたのだろう。命令する側もされる側も最低限のやり取りだけで、己の役割を果たしていた。
 超獣機神に装備された火砲のほとんどが正面に向けられ、一斉に咆哮をあげた。エルガイムmkIIのバスターランチャーほど射程は長くないが、獣戦機隊の精神エネルギーによって威力を増幅されたそれは、バスター同様に容赦なくラダム獣を消していった。
「よし、フォウ、退路を確保してくれ!」
「了解」
 断空砲によって出来たスペースをZガンダムの量産型再設計機が駆け抜ける。常人ならば気絶しかねない加速度で。
しかも、前方を塞ごうとするラダム獣を狙撃しながら、だ。
 このような人外の技をなしえるのは、フォウが人工的に身体機能を強化されているからだ。彼女自身、そのことを忌まわしく思ってはいたが、この能力があればこそ仲間を守ることも、カミーユ・ビダンと一緒にいる事もできるのだから、ためらいはない。
「包囲網突破!」
 包囲網を脱出したフォウは、ダンクーガとヴァルシオーネが脱出するまで退路を確保するべく、全兵装を使ってラダム獣を迎撃、牽制する。
「了解。みんな、手筈通りに頼む!」
「まかしとけって、ショウ! マサキも道に迷うんじゃねえぞ!」
「ほんと、大丈夫かな? マサキの方向音痴は筋金入りだからね〜」
「ほっとけ! てめえらこそみんなの足を引っ張るんじゃねえぞ!」
「似た者同士で争ってるんじゃないよ! 全く……。フォウひとりで退路を確保してるんだから、急ぎな!!」
「沙羅の言う通りだ。無駄口は生きていればいつでも叩ける」
「そういうこと!」
 緊張感に欠けるやり取りをしているが、彼らの行動に無駄はなかった。ビルバインとサイバスターが殿軍となって敵を防いでいる間にダンクーガとヴァルシオーネは最大戦速で包囲網を脱出していた。
 先程までは悠々と通り抜けられた退路も、彼らが包囲網を突破した時点で完全にラダム獣で埋め尽くされていた。断空剣とディバインアームで進行方向にある敵を切って捨てながら、ダンクーガとヴァルシオーネは包囲網を突破した。
 外観は知性のかけらも感じることが出来ないラダム獣だが、戦闘に関する彼らの本能は侮りがたいものがある。それになまじ感情などがないため、失敗してもそれを引きずることなく、すぐに次の行動に移れるのだ。
 今回もそれは例外ではない。ラダム獣は逃げた獲物を諦め、完全に孤立した二機に殺到しようとしていた。だが、この瞬間こそショウとマサキが待ち望んだ瞬間だった。
「いくぜっ! アァァカシックバスタァァーー!!」
 己に残された全てのプラーナを燃焼するかのように力の限りマサキが叫ぶ。その声に反応して、サイバスターの前に魔法陣が出現、炎をまとった鳥が生まれ出る。通常なら、ここで火の鳥が敵に突撃するのだが、この時は違った。火の鳥にサイバードに変形したサイバスターが自身を重ね合わせて突進する。これがアカシックバスターの真の姿だった。パイロット自身のプラーナを大量に消耗するため、滅多に使えない大技だ。
 触れる全てを焼き尽くし、弾き飛ばしながら、ダンクーガ達とは反対方向にサイバードは突き進んだ。後方にはウィングキャリバーに変形したビルバインが続いている。
 さすがのラダム獣もこれには対抗する術がない。サイバードとビルバインは程なく包囲網を突破した。

「……ハァ、ハァ。……よし、突破した!」
「やったニャ、マサキ」
「でも、マサキもサイバスターも消耗が激しいニャ。無理は禁物ニャ」
 魔装機神操者の無意識領域から創造されたファミリアのクロとシロ−白と黒の二匹の子猫−が、サイバスターとマサキの状態を伝えた。
「マサキ、大丈夫か? ついてこられるか?」
 サイバードの後方につき、追撃してくるラダム獣を防ぐビルバインから、ショウが気遣う。
「…………ああ、なんとかな……」
「あとは、味方に合流するだけだ。何とか頑張ってくれ」
「こんなとこでやられたら、忍やリューネに笑われるわよ!」
「……ハァ、ハァ、分かってるって。誰が、好きこのんでこんな所でやられるかよ!」
 リューネや忍の名が出たせいか、チャムの挑発的な言動にまんまと乗せられたのか、疲労が激しいはずなのにマサキは強がって見せた。どうも憎まれ口を叩く相手がいた方が、やる気が出てくるようだ。
「よし、よし。その意気、その意気♪ 」
「…相変わらず乗りやすいんニャから」
「ここからは、シーラ様のグラン・ガランが近いニャ。マサキ、進路を北北東に変更ニャ」
 漫才に加わっていなかったクロが最も近い味方の母艦の位置を割り出していた。
「こちらでも確認した。先に行ってくれ。敵は俺が防ぐ!」
 サイバードを守るようにビルバインが構えたオーラソードから、強いオーラが立ち上っていた。



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続く

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