「こんな筈ではなかったものを……!」 忌々しげにつぶやきながらもテッカマンソードは敵の斬撃をランサー−形状的には棒にしか見えないが−で防いでいた。 三倍ほどの大きさのオーラバトラーの斬撃を真っ向から受けても全く力負けしていない。驚嘆すべき事実ではあるが、それはテッカマンという生体兵器の性能のほんの一端でしかない。 だが、戦況はラダムテッカマン側にとって必ずしも有利ではなかった。 「エエイッ!!」 苛立たしげな叫びを上げながら素早くオーラソードを押し返し、その場を離れようとした。 力を溜めた一瞬。真横から三発のビームの直撃を受けた。 装甲が多少熱くなった程度だが、ソードの動きを二瞬ほど遅らせるには十分だった。 本命がきた。明らかにビームとは違う光に包まれた巨大な矢が”彼女”を襲ったのだ。 辛うじて直撃だけはかわすことに成功したものの、その衝撃波に巻き込まれたソードは大きく弾き飛ばされた。 (裏切り者共の始末が先だというのに!) 弾き飛ばされる方向に加速することによって戦場からの脱出を試みながら、テッカマンソードは苛立っていた。 あまりにロンド・ベルのことを知らぬ現在の自分と、戦争のことなどほとんど知ろうとしなかったかつての自分に.。 「意外と早く好機が訪れたな」 ソードが敵の追撃を必死でかわしているのとほとんど同じ頃、テッカマンランスは飛行ラダム獣達の影に隠れながら、ブレードの感応波を辿り、スペースナイツ基地へと向かっていた。 「ここでブレード、レイピアを私が葬れば、オメガ様も他の者達も私の力を認めざるを得まい」 地球人であった頃から自尊心と功名心の強い男だった。テッカマンとなり、ラダムの本能に精神を支配された現在でもそれは変わらぬらしい。 「……ロンド・ベルを全滅させるのはその後でも遅くはない。確か、グレートマジンガー、だったな。この私の体に傷を付けた報いを恐怖と共に味あわせてやる」 先の戦いの屈辱が固く握られた彼の拳を震わせた。 「行かせるかよ、このラダム野郎!! 光子力ビーム、サザンクロスナーイフ!!」 まるでランスの独語を聞いていたかのようなタイミングだった。いつの間にか後方に現れたマジンガーZは飛行ラダム獣に向かって光子力のビームと超合金Z製の手裏剣を発射した。 航空機や変形MSの驚異である飛行ラダム獣も黒金の城の敵ではない。ほとんど避ける間もなく、全てのラダム獣が撃墜された。 「おのれっ!!」 テッカマンとしての初陣だというのに、二回も敵に遅れをとってしまった。しかも、似たような機体を相手に。 「へっ、テッカマンもいたのかよ。丁度いい! てめえはこのマジンガーZと兜甲児が相手をしてやるぜ!!」 「クズの分際で!!」 ラダムとしての、テッカマンとしての矜持を傷つけられたランスは鶏冠を立てながら、Zに向かって矢のように突撃した。 マジンガーとテッカマンは次の瞬間、すでにすれ違っていた。 「うわあぁーー!!」 交錯した後、バランスを崩したのはマジンガーだった。顔面から煙を噴きながら、墜落していく。 コクピットを狙ったランサーの一撃を避けたが、代償として左半面を損傷、バランスを失い、失速、墜落していた。 「とどめだっ!!」 この程度でランスの怒りが収まるはずもない。獲物を逆手に持ちかえ、墜落するマジンガーの頭部に向けて投擲した。 ランスの必殺の一投は標的の目前で弾かれた。いや、弾き飛ばされたと言うべきか。 「甲児兄ちゃん、こいつは貸しとくぜ!!」 遅ればせながら到着したザンボット3がランスと同じようにザンボットカッターを投擲したのだ。 「甲児さん、大丈夫ですか?」 「勝平、恵子! Zの方は後だ!! 来るぞっ!!」 テッカマンランスは己の意志を言葉ではなく、行動で示すことに決めたようだ。新たに生成したテックランサーを手に、ザンボットに襲いかかった。 「おっもしれえ、これでもくらいやがれ!! ザンボット! ムーン・アタック!!」 突進してくるランスに向かっていきなり必殺技を繰り出した。 ザンボットの額から三日月型の光線がランスに向かって放たれた。 回避する間もなく、と言うより、むしろ己から当たりに行くようにランスはムーン・アタックの直撃を受けた。 「へっへーん、どんなもんだい! テッカマンって言ったって、てんで大したことな、いッ!?」 とっさに顔面を防御した左腕に衝撃が走る。 健在だった。テッカマンランスはムーン・アタックの直撃をものともせず、ザンボットを攻撃してきたのだ。 「くそ、効いてねえのかよ ムーン・アタックがっ!」 「全く無傷って事はないだろうがな。くそ、ザン・ブルのセンサーじゃ追いきれねえ。恵子、そっちで何とかならないか!?」 「……だめだわ。こっちもスキャンしようとしてるんだけど、動きが速すぎて……」 全長60メートルのザンボット3ではランスと戦うにはやはりサイズが大きすぎた。とても、敏捷なテッカマンのスピードには追いていけないのだ。もっとも、その分装甲が厚く、致命傷を受けにくいのだが。 「ボルテッカであれば簡単に撃墜できたものを」 ボルテッカはテックセットする際に発生する反物質を一気に放出するテッカマンの切り札とも言える大技だ。逆に言えば、もう一度撃つには再び変身しなけれならないのだ。その上、ボルテッカ使用後のテッカマンの戦闘力は激減する。目標にたどり着く前に使うのは自殺行為に等しかった。 忌々しげな独語と舌打ちを残して、ランスはさらに加速し、一撃離脱を繰り返す。 最強の技が使えない以上、そのスピードを生かして敵を葬るしかない。 執拗なランスの攻撃は僅かだが確実に、ザンボットにダメージを与えていった。 最終防衛ラインは突破される寸前だった。 オービタルリングより降下してくるラダム獣の大群はより正確にスペースナイツ基地周辺に展開、最終防衛ラインに殺到していた。 「これならばっ!!」 ビームアックスが一閃、最大出力のビームとサザビーの重量をのせたアックスの一撃で、大型ラダム獣の足が斬り飛ぶ。 突進しての渾身の一撃で大きな隙ができるのが普通だが、赤い彗星は少数派に属する。 残った足の攻撃を反転してかわしながら、アックスのビームを伸ばして振り向き様に斬撃を浴びせ、腹部の拡散ビーム砲を撃ち、後退しつつシールドに装備されたミサイルで追撃を断つ。 「戦況は……」 常人には不可能な手練の技を見せながらも、クワトロの表情は冴えなかった。 戦況が相変わらず、いや、“相変わらず”悪化しているからだった。 「キィシャァァァーーー」 おまけにMSなら小隊が蒸発してもおかしくない攻撃を喰らっても、奴は生きていた。 「チィ……」 これも予想通りとはいえ、愉快な筈もない。クワトロは舌打ちを禁じ得なかった。 「クワトロ大尉、あのラダム獣は自分が引きつけます! 大尉は防衛の指揮を!!」 いつの間にか後方に来ていたバーナード・ワイズマンのリックディアスだった。 「君には無理だ、バーニィ君。奴は私が倒す」 「しかし、このままでは最終防衛ラインを突破されてしまいます!! 残念ですけど、自分では雑魚のラダム獣も満足には倒せません……。でも、まだ大尉が自由に行動できれば、望みはあります!!」 「……君には謝らなければならないようだな。私は君を過小評価していたようだ。すまない、バーニィ君」 「そ、そ、そんなっ!! 大尉が謝ることなんてありませんよ! それより大尉は指揮をお願いします。奴は自分が命に代えてもくい止めますから!!」 「当てにさせてもらうよ。だが、死んでは元も子もない。バーナード・オトゥール軍曹も言っていただろう、生き残ってこそ、仲間を守ることが出来るのだ。それを忘れないでくれ」 「了解です! 行きます!!」 「……逞しくなったものだ」 全身傷だらけのリックディアスの後ろ姿を見送りながら、クワトロは嬉しそうに呟いていた。 その目前で一体のラダム獣が青い光球の直撃を受け、消し飛ぶ。 「頼もしい部下をお持ちで、羨ましいことですな。シャア・アズナブル大佐。おっと、今はクワトロ・バジーナ大尉でしたかな? 失礼」 皮肉混じりの声と共に現れたのは一人の人間だった。正確には、パワードスーツなのだが、MS−その中でも特に大型のサザビー−と比較すると、ソルテッカマンはほとんど人間と変わらなかった。だが、その性能がおさおさMSにも引けを取らないこと、対ラダム戦において非常に有用であることもクワトロは熟知していた。 「バルザック・アシモフ中佐だったな。彼は私の部下ではない」 「仲間、とでも言うつもりですか。DCの赤い彗星もすっかり腑抜けになられたようで」 あくまで皮肉な崩さず、それでいて防衛ラインを突破してくるラダム獣を的確に撃破する。バルザックが口だけの男ではないことをクワトロは見抜いていた。 「……ソルテッカマン二号機も投入されたか。バルザック中佐、ポイント2−5の支援を頼みたい。よろしいか?」 バルザックの皮肉など聞いていなかったように、指示を出す。 「ラ〜サ」 あくまで嘲るような調子を崩しはしなかったが、バルザックは素直にクワトロの指示に従った。ここでスペースナイツに倒れられても困るのだ。軍にとっても、彼にとっても。 「ソルテッカマン一号機の投入でこちらはまだ持ちこたえられるな。問題はフィリップ中尉の部隊か。ソルテッカマン二号機だけでは支え切れまい。他の部隊は……」 持ちかえたビームショットガンで防衛ラインを突破してくるラダム獣を狙撃しながら、クワトロは全体の戦況を確認、打開策を見いだそうとしていた。 (私たちに任せて……) その瞬間、クワトロの脳裏をある声が駆けめぐった。それは、宇宙という環境に順応するために人類が得た新たな能力だった。 |