ゴリアテ。
かつて『オベロンの真珠』と呼ばれたガルドキ島の港町である。
ウォルスタ人の指導者ロンウェー公爵が、ガルガスタン陣営の虜囚となった後、この美しい町を黒い海嘯が襲った。
ローディス教国の暗黒騎士団ロスローリアンの襲撃である。これにより、町は壊滅的な打撃を受けた。大勢の民間人が殺害され、牧師のプランシー・パウエル神父は拉致された。
何故、彼らが港町の牧師風情を連れ去ったのか理由は不明である。もしかしたら、プランシー神父は彼らにとって重要な人物か、重要な情報を持っていた人物だったのかもしれない。だが、暗黒騎士団がゴリアテを攻めたのは、反乱分子が潜んでいるという情報をつかんだからである。もっとも、この情報はデマだったのだが。
これらのことは、後日、ロスローリアンの団長ランスロット・タルタロスが認めている。
暗黒騎士団がゴリアテを襲った理由は、プランシー神父ではない。ゴリアテを攻めたら偶然、探していたプランシー神父がいた、という話は信じがたい。そうすると、暗黒騎士団に「ゴリアテに反乱分子あり」のニセ情報を流した人物が怪しくなるわけだが・・・。
プランシー神父拉致に関することはよくわかっていない。
僅かに生き残った人の中に、プランシー神父の娘カチュア・パウエルと息子デニム・パウエル、そして二人の幼なじみであるヴァイス・ボゼッグがいた。
デニムは、目の前で父親を連れ去った暗黒騎士団を仇として憎んだ。
ゴリアテ襲撃から1年後、復讐の機会が来た。
ロスローリアンの団長、暗黒騎士ランスロットがゴリアテを訪れるという情報を得たのである。デニムとヴァイス、カチュアは、ランスロット暗殺を目論む。だが、カチュアはあまり乗り気ではなかった。僅か3人によるランスロット暗殺の成功する確率が低いことがわかっていたからだ。
標的はランスロット一人だが、彼の側には暗黒騎士の近衛兵がいる。その数はわかっていなかった。戦力も情報も不足していて、作戦が成功するはずはなかった。
「やっぱり、やめよう。・・・ね? 私たちに勝てるわけないわ」
「たったの3人であの暗黒騎士団に立ち向かうなんて・・・」
と、二人を止めようとするカチュアの行動は軍事的に正しいと言える。デニムたちの目的が、自分たちの死を、ウォルスタ人の決起を促す起爆剤たらんとした、というのなら別だが。
だが、後のカチュアはこうも言う。
「私はあなたを失いたくないのよ」
「私にはあなたしかいないの・・・」
「たった二人しかいない姉弟なのよ。死なせたくない・・・」
これらの言葉から、カチュアがランスロット暗殺に反対した第一の理由は、弟デニムを死なせたくない気持であったことがわかる。であるからこそ、決行の直前になって、
「やっぱり上手くいくわけないわ。それに彼らの命を奪って何になるっていうの?」
という発言が出てくる。この時点で、カチュアはすでに父であるプランシー神父の生存を絶望視していた。故に、復讐心も少し萎えていて、デニムに命の危険を冒させてまで実行することではない、と考えていたようだ。カチュアの弟を想う気持ちが、正しい判断をさせた。
しかし、二人を止めることはできなかった。カチュアも、やむを得ずランスロット暗殺に参加する。このとき、デニムたちが対した男が暗黒騎士ランスロット・タルタロスだったら、彼らは命を落とすか、虜囚となっていたに違いない。
ゴリアテにやってきたのは、ランスロット・ハミルトンという、ゼノビアの聖騎士であった。ゼノビアは、ヴァレリア島の東にある王国で、革命によって誕生した。建国から1年もたっていない新しい国だ。
ランスロットという名が災いして、デニムたちの誤解を招いたが、カチュアが暗黒騎士ランスロットは片目であることを思い出し、誤解はとけた。
しかし、ヴァイスはゼノビアの聖騎士であるランスロットとその一行に不審を感じた。
「あんたたちはどうしてこの島へやってきたんだ? この島を・・・ヴァレリアをゼノビアのものにしたいからじゃないのかッ!? ローディス教国とゼノビア王国のやつらは、この島で戦争をおっぱじめようっていうのかッ!」
ヴァイスは鋭い思考力を持っているようだ。暗殺実行の前、カチュアの「ランスロットの命を奪って何になるのか」という問いかけに次のように答えた。
「ランスロットは暗黒騎士団の団長だ。そしてやつらはバクラムの力の源。だからランスロットを暗殺することはバクラムの力を一時的にでも弱めることになるんだよ。そうすればヴァレリア全土を征服したがっているガルガスタンが動き出すに違いない・・・」
彼の考えは、ほとんど謀略である。ヴァイスには、多分に謀略家の素質があるのかもしれない。だからこそ、聖騎士ランスロットがヴァレリアにやってきたことに謀略くささを感じとることができたのであろう。ただ、謀略家は、何気ない出来事をも「謀略ではないか?」と疑ってしまうところがある。
ランスロットたちは、我々は王国に追放されたのでこの島に来た、と語った。
この話の信用性を疑問視しつつもヴァイスは、カチュアにもたしなめられ、目的のためランスロット一行の助力を要請する。ヴァイスたちの目的、それはウォルスタ人のリーダー、ロンウェー公爵の救出である。ガルガスタン陣営に捕らわれているロンウェー公爵の処刑が近いという噂が流れていたのである。
ランスロット一行の一人、風使いのカノープスは言う。
「助ければ、いいカネになりそうだな。どうだランスロット、やらねえか?」
双方の利害が一致した。
デニムたちはロンウェー公爵を救出する、という目的。
ランスロットたちは、公爵救出の功績による恩賞を得る、という目的。
かくして、三人はランスロット一行とともに、ロンウェー公爵救出に向けてゴリアテを後にする。だが、カチュアの足取りは重い。いかにランスロットたちが助けてくれるとはいえ、ガルガスタン軍の方が兵力は多い。デニムに危険が及ぶことは間違いないのだから。
「私は、もう誰にも死んでほしくないだけよ・・・」
目指すは、公爵が捕らわれているアルモリカ城。