ロンウェー公爵はガルガスタン陣営との全面戦争を前にして、暗黒騎士団ロスローリアンと密かに「非干渉条約」を結ぼうとする。その密使にはロンウェー公爵の片腕、レオナールが当たることとなった。デニムたちは、レオナールの護衛役としてフィダック城に赴く。
フィダック城には、ロスローリアンの団長ランスロット・タルタロスがいた。
暗黒騎士ランスロット
「よくぞ参られた、ウォルスタの戦士よ。私がランスロット・タルタロスだ」
騎士レオナール
「はじめてお目にかかります。アルモリカ騎士団のレオナールにございます。して、ご返答はいかに?」
暗黒騎士ランスロット
「ハッハッハ。貴公は、ちと性急だな。よかろう。公爵殿にお伝え願おう。バクラム人の長・ブランタ侯はガルガスタンとウォルスタの争いには興味がないと仰せだ。我がロスローリアンも同じ。これまでどおり中立を保とうぞ」
騎士レオナール
「ははっ、ありがたきお言葉。我が主もさぞやお喜びになられるはず」
暗黒騎士バールゼフォン
「しかし、貴殿らは我等の力なしで勝てるとお思いなのか?」
騎士レオナール
「無理でございましょうな。もとより勝とうとは思っておりませぬ。我等の戦いはあくまで共存できる世界を作り上げること。しかしガルガスタンは誇り高き民にございます。我等が他国の手を借りたとあれば平和的な解決を志す穏健派の者たちを窮地に追い込みかねません」
暗黒騎士ランスロット
「なるほど、貴公はバクラム人のように我がロスローリアンにツケをまわし他民族の反感を買うようなことをしたくないと申すのだな。これはおもしろい。ハッハッハッ」
騎士レオナール
「い、いいえ、そのようなことは・・・」
暗黒騎士ランスロット
「まあ、よい。我々も名誉を重んずるローディスの民だ・・・。汚い仕事は他人に委ね、享楽を貪るバクラム人のようになりたくないという気持ちもわかろうものだ」
騎士レオナール
「・・・・・・」
肥った豚
バクラム人。
ヴァレリア島人口の2割弱を占める少数派民族である。ドルガルア王の統治した旧王国の支配者階級に位置していた。現在は、司祭ブランタの扇動により、ヴァレリア・バクラム国を建国している。
彼らは、ウォルスタ人の指導者ロンウェー公爵からはこう言われる。
「肥った豚同然のバクラム人など敵ではない」
そして、暗黒騎士ランスロットからはこう言われる。
「汚い仕事は他人に委ね、享楽を貪るバクラム人・・・」
無償の平和や自由、権利というものはない。
平和や自由は、それらが何者かによって侵されたとき、戦いも辞さず、という強い平和や自由への意志がなくては獲得も維持もできない。(権利は、義務を遂行してはじめて得られる。)バクラム人のように、他者に「ツケをまわし」たり、「汚い仕事を他人に委ね」たり、他人の血を流しても自らの血は流さないという政策では軽蔑されても仕方がない。
軽蔑されても、血が流れない方がよい。軽蔑されようが、生きていくことには何ら支障はないではないか、と考える人もいるだろうが・・・。
ブランタとバクラム人
ロンウェー公爵や暗黒騎士ランスロットをはじめ、多くのウォルスタ人、ガルガスタン人にバクラム人は、軽蔑されている。
だが、バクラム人の中にもブランタを指導者とする現政権に反対する人々がいる。「ヴァレリア解放戦線」などである。個人的にブランタの政策をおもしろくないと思っている者もいるだろう。その人は、力がないため表立って反論できないだけかもしれない。バクラム人の全てが、ブランタの政策を支持しているわけではない。
君主(ブランタ)と国民(バクラム人)は一枚岩ではない。両者を一蓮托生した仲とみることはできない。むしろ、別々に考えてみる必要がある。
バクラム人を擁護するわけではないが、強力な支配者がいて彼(女)の政策に反対、という状況に立たされたら、いったいどれだけの人が反体制の行動を起こせるのか。
誰にでも、バクラム人を軽蔑する権利が与えられるわけではない。
バクラム人と日本人
「汚い仕事は他人に委ね、享楽を貪るバクラム人」
ランスロット・タルタロスの発言は深く考えさせられた。
「命に関わる危険な仕事は他人に委ね、経済発展による享楽を貪る日本人」
バクラム人と日本人が重なったからである。
日本が「汚い仕事は他人に委ね、享楽を貪」っていると感じたのは、在ペルー日本大使公邸占拠事件である。キルギス拉致事件もそうだ。
日本人が生命の危機に瀕しているというのに、日本政府は何もしなかった。ペルーの占拠事件など、終結まで4ヶ月もかかった。なのに、日本は具体的な行動を何もしなかった。「人命尊重」「平和的解決」など、誰でもそう思う。そんなこと誰でも言える。わざわざ政治家が言わなくても私が言ってやる。そんなこと言う暇があったら、何か具体的な対策を取れ。何のための国家で、何のための政治家か。
この事件で、日本人は全員無事だったが、ペルー人の人質1名とペルー軍の将校2名が亡くなった。「汚い仕事は他人に委ね」たとしか思えない。
ランスロット・タルタロスの言葉は、私の胸に刺さる。自分が非難、軽蔑されている、と感じるからである。