今や共産主義国は1991年のソ連の崩壊とともに姿を消し今は中共と北朝鮮、ベトナムに私的権力として残っているだけであるが近代史の理解には共産主義の理解は不可欠である。というのは共産主義は20世紀の歴史の用語、価値観、論理を支配しその影響は現在も色濃く残っているからである。しかしその誤りを論理的に知る人は少ない。そこで共産主義を思想、運動の両面から分析し21世紀の日本人を共産主義の呪縛から解放したい。


「共産主義からの解放

はじめに:

ソ連の自滅で共産主義は否定されたがその思想と運動の正体が分からないという人は多い。たしかに宣伝、用語、論理がさまざまで複雑で解りにくく七つ頭の竜の化物に例える人もいるほどだ。しかし本当の頭はひとつである。まず共産主義思想は本来マルクス主義を含めて曖昧な不合理な願望の集合体であり明確な思想ではない。あるのは唯一破壊と無制限の暴力の容認である。そこで大きな視点からこの思想と運動を分析して見たい。

1.古代の共産主義:

共産主義の起源はギリシャのプラトンの記述に見られるという。人間が共同体で共有し幸福に暮らしていたという桃源郷の伝説である。しかし具体的な社会制度は記されていない。

2.中世のユダヤ、キリスト教の影響:

西欧がキリスト教化すると、中近東のユダヤキリスト教の新しい思想的な要素が加わった。それらは以下の三点である。
1)「神の前の平等主義」:法皇も貧民も天国では平等ということである。ただしこれは死後の世界であるから地上の労苦の慰めと共に天国に行けるように生前の地上の生活を戒める意味を持っていた。本来ユダヤキリスト教は奴隷の宗教であった。

2)「末世思想」:これは終末論とも言われ現在がもっとも苦しい時代であるがその後解放があるという中東の千年王国論からきた歴史観である

3)「弱者正義主義」:これは弱いもの、貧しいものが正しいという一方的な主張であり、キリスト教の聖書にはいたるところに見られる。しかし本来貧富、強弱は道徳的な正邪とは関係が無くむしろ犯罪者は貧乏人がほとんどであるが、一方的に決め付けた。これも弱者の側に立った一方的な倒錯した価値観である。

3.地上に天国を実現する宗教運動:

こうした宗教思想が広がると本来死後の世界であるはずの天国を地上に作り出そうとする宗教運動が起こった。それは地上の権力と衝突したので必然的に暴動となった。
地上と天国は大きく違う。

天国では働く必要がなく無限に資源があるという。しかし現世では限られた資源を使って生き延びなければならない。それには必然的に平等ではなく重点配分が必要になる。平等を主張する人も実際には優先順位によって生活しているのである。


1)ドイツ農民戦争における再洗礼派:中世ドイツで統一権力が失われ内戦が起きた。この時キリスト教の一派が地方都市を占拠して旧約聖書に拠る宗教統治を行った。その内容は共産主義の共有制度であり一夫多妻まで強行したという。結局短命に終わり滅ぼされた。

2)イタリアルネッサンス期には、フィレンツエで僧侶サボナローラがローマ教皇に対立する宗教政治を行った。これも短期間に滅ぼされた。

3)
英国ではクルムウェルの率いる清教徒が王を処刑して英国を支配したが、結局敗れて、その宗派は米国に逃れた。これは米国が建国時代からキリスト教的共産主義の影響を受けていることを示している。

4.宗教思想から社会思想への転化

キリスト教の天国論は社会思想に影響をあたえ、英国のトマスモアは「ユートピア」を現わした。他にもカンパネッラは「太陽の都」を表し、理想社会の構想を作った。

これらの社会思想は18世紀には啓蒙思想となり、人権、平等などの主張となった。

5.イデオロギーへの転化

社会思想としての理想主義は、現世に理想主義社会の実現を図る政治権力を求めるイデオロギーとなった。

1)フランス大革命:今から見ると単なるクーデターであったが、暴動で王制を倒したので大きな影響を与えた。この運動では平等主義が強制されたため、基準から外れた人は強制的に排除されることになり、大量殺人処刑が始まった。

死後の平等が地上の平等の追求になった結果大量殺人が正当化されるようになったのである。

2)諸暴動:理想社会の実現を求める政治暴動は19世紀に仏、独で発生したが成功しなかった。

6.マルクス主義
1)カール・マルクス
マルクスはこうした社会転換、暴動の時代にドイツの裕福なユダヤ人の家庭に生まれた。当初は大学教授職を求めたが失敗し、地方新聞の記者をしながら、「共産党宣言」を著した。これは政府打倒暴動の必然性,正当性を主張した反乱の呼びかけである。理想社会としての共産主義は、人間社会が必然的に到る社会として示されているだけであり、具体的な組織や制度は何も示されていない。破壊すればあとは何とかなるという無責任な主張であった。

マルクスの著作としてよく知られる「資本論」は後から付け足されたものでそれも未完に終わっており、理論的にも市場要素を欠いた欠陥論である。

2)マルクス主義の凋落
この思想は一定の支持があったが、実際のフランス二月暴動、独の三月暴動が失敗すると共産主義必然論が疑われて信用を失った。また「労働者の絶対窮乏論」も実際の労働者の生活が向上したので労働者から見捨てられ、19世紀後半には社会的に支持されない思想となった。マルクスも暴力クーデター一本槍の発想を止めて改良主義の可能性を探すようになっていた。

3)過激派の温存
しかしマルクス主義の無法と無制限の暴力を容認する過激な思想を利用できると考えたグループがあった。それがレーニンの率いるロシアの過激派ボルシェビキ党(共産党)である。

6.ソ連の成立:
レーニンの率いるボルシェビキは後に第一次大戦の動乱に乗じてロシアを乗っ取るとマルクス主義の暴力と無法性を使って七十年にわたり暴虐の統治を行い五千万人ともいわれる無実の人々を奴隷化し大量処刑したのである。

7.ソ連の崩壊:
1)驚くべき史実:
しかし1991年にソ連が崩壊すると、驚くべき事実が明らかになった。それは指導者のスターリンら幹部は共産主義信奉者ではなかったということである。彼らは平等主義を否定し、人民に隠れて王侯富豪の生活を楽しみ家族は特権階級(ノーメンクラツーラ)としてソ連に君臨した。赤い貴族である。そして国内では共産主義者を弾圧し迫害し家族ごと絶滅したのであった。
共産主義国家であるはずのソ連でアカ(共産主義者)はいなくなったのである。処刑される共産主義者がスターリンに当てた悲痛な訴えが多数残っているが、かれらは自分たちが用済みになったので処刑されるという冷酷な事実を知らなかった。

2)詐欺運動と判明
結局共産主義運動は、一握りの現実主義者が理想主義者の共産主義者を使って権力を握り私利私欲を追求する運動であった。詐欺運動である。この事実は20世紀半ばに英国のジョージ・オーエルが名著「動物農場」で描いているとおりであった。あまりにも単純な詐欺だったのでかえって高学歴者が騙されたのである。

8.現代社会への影響
ソ連が崩壊し、共産主義国家が一部の権力者に私物化されている状況が明らかになると共産主義思想の声望は凋落した。
しかしもともとの発想にあるユダヤ・キリスト教的要素は今も日本人の思考に悪い影響を与えているので注意が必要である。

1)
神の前の平等主義:日本では無差別平等の発想が行動にになり混乱が起きている。平等は天国でのみ可能であり、物資の欠乏している地上では不可能である。救命ボートも全員が乗れば全滅する。そこに選択があり重点投資がある。平等よりも生存と再生という現実主義が優先すべきである。実際私たちはそのように行動している。

2)弱者正義論:これはいわゆるルサンチマン(ねたみ、恨み正当)主義である。実際には犯罪者は貧乏人に多い。弱いので悪党に命令されると悪事を働くのである。それなのに金持ちを悪徳として非難する。これは誤った偏見である。弱者保護はバランスが必要である。

3)日本人の価値観:日本人は本来奴隷民族ではないからユダヤキリスト教的世界とは関係がない。古来「強く正しく」生きることが求められた。弱いことはよいことではなかった。それが反日宣伝で偏見が生まれ倒錯してきている。弱い者は援助すべきではあるが正しいわけではない。健全な現実主義に戻るべきである。正邪という道徳的価値観と社会的な強弱、貧富は関係が無いのだ。


4)
大衆社会:20世紀以来日本は重層的な社会を破壊されたため大衆社会に入った。大衆心理は不安定である。ある時は主人であり、ある時は奴隷である。このため左翼の欠陥思想の影響を受ける可能性がある。

5)
これを予防するには、国防という具体的な国民の役務を原則全国民に課すことである。頭ではなく身体で政治的現実感覚を見につけるのである。
また日本では家制度により家族の組織化をすべきである。そこに価値観や行動様式が伴い人間を安定化する。

共産主義批判としてマルクス主義そのものを批判する人が多いが、複雑になるので効果的ではない。それよりも共産主義運動が、一握りの現実主義者が労働者の名目で理想主義者を使って権力を握り、隠れて金持ちの生活するという運動の矛盾をつくほうが大衆に解りやすいだろう。
以下思想的な系譜を表示した。

    宗教思想      社会思想 イデオロギー
古代 モーゼの十戒(現実主義) 桃源郷共同体伝説、
プラトン記述
中世1 ユダヤキリスト教の影響
1.神の前の平等
2.末世論(終末論、千年王国論)
3.弱者正当論(ルサンチマン主義)
中世2 ★地上に天国を実現しようとする動き。

1.ドイツ再洗礼派の暴動

2.イタリアフィレンツエのサボナローラの宗教独裁

3.英国クロムウェルの清教徒暴動

理想郷思想
「ユートピア」 トマスモア
「太陽の都」 カンパネッラなど
  宗教イデオロギーによる暴動
近世 新教徒の米国への脱出
米国の宗教的民主主義風土
啓蒙思想(自由、平等、、天賦人権論)、民主主義思想の普及(ただし平等主義で義務と権利の古代ギリシャの民主主義とは違うもの)
★地上に理想郷を実現する動き。そのために権力を奪取する。
フランス革命。強制平等化→大量殺人発生
19世紀 米国式民主主義の強制
マルクス主義(破壊一辺倒主義)は予言の不成就、労働者の待遇改善から支持者低下
20世紀 米国式民主主義 倒錯した悪平等、弱者正当論の横行
不安定な大衆社会の出現
★ロシア革命とソ連の成立、大量殺人発生、
21世紀 倒錯した価値観(悪平等主義、弱者正当主義)の現実主義的正常化が必要 ★ソ連崩壊。幹部と家族は王侯富豪の生活。共産主義運動は詐欺運動と判明。