山月記』   中島敦著


 この作品は私が高校生の頃の教科書に載っていたので読んだ作品である。
官吏に登用されるも、その職に甘んじることが出来ず、試作に興じ、人と交わりを絶つものの、詩作の名は一向に上がらず、妻子のため地方の官吏の職に着くものの同期の人間は、はるか彼方の高位につき、歯牙にもかけなかった者たちの下命を拝受しなければならなかたことは自尊心の高い主人公には我慢が出来ず、ついには発狂する。

 なにか、そこに自分の行く末を見た気がした。高校生の頃である。その学校では、成績上位者が教室に貼り出されるのであるが、自分よりも遥かに頭がよろしくない連中が、成績五十番以内に入っているのである。
 私は高一のころは、この地方の県立の普通高校に入れただけで満足していて、学業そっちのけで、お笑いネタなどを授業中にも考えていた。
 しかし、その成績上位者の発表がいかに自分の自尊心を傷つけられたかは筆舌に尽くしがたい。
 学校の勉強なんて、やるか、やらぬかであると思っていた。じゃー、その勝負引き受けましょうと一念発起した。
 高三での春の実力テスト。私立専願コースでは、ついにトップに立ったのである。しかし、その後、ふいた木枯らし。
 青春の全てを捨てて学力テストに賭けたものの、たった一枚の紙切れ一つ。発狂こそはしなかったが、隙間風が吹荒れていた。喪失感。青春の、青春の、そんなことばかり考えていた。その後、一番勉強しなければいけない高三の時には
少しの勉強も出来なかった。虚しい。虚無、ニヒル、そう言葉をなれべても足りない。志望校も何もなかった。
 今考えると、ぞっとする。容姿は人間のなりをしているが、『山月記』と同様、虎になってしまったのかもしれない。無論、
上手く人と交われない。

 高校生の頃、もうすこし味わってみる必要があったのである。ヘルマン・ヘッセの『車輪の下』と『山月記』は進学を希望する高校生には是非読んでおいていただきたい本である。


 中島敦著『山月記』 是非、お読み下さい。



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