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林知更『現代憲法学の位相―国家論・デモクラシー・立憲主義』(岩波書店)2016年5月18日発売!
  


林 知更『現代憲法学の位相―国家論・デモクラシー・立憲主義』(岩波書店、456頁、6500円+税) 2016年5月18日発売 岩波書店 アマゾン

 私の最初の単著が5月に出版されました。2005年から2015年の間に公表した論文14本に書き下ろし4つを加え、私が過去十余年の間に研究し考えてきたことを世に問うものとなっています。考察の全体がどういう連関を構成しているのかをなるべく明瞭に浮かび上がらせるべく努めたので、初めて読む方はもちろん、既にこれまで公表した個別の論文を読んで下さっていた方にもきっと興味を持ってもらえる内容に仕上がったと思っています。一人でも多くの方が手に取ってくれることを願っています。




目次

序章 複数の憲法、複数の憲法学
 1 戦後日本と憲法――第一共和政の苦闘?
 2 戦後憲法と憲法学――普遍と特殊


Ⅰ 憲法学の変容

第1章 危機の共和国と新しい憲法学
――カール・シュミットの憲法概念に関する一考察

 1 
危機と憲法学
 2 政治的単一体の体系とその動揺
 3 流転する秩序
 4 「憲法」という分析視角

第2章 国家論の時代の終焉?
――戦後ドイツ憲法学史に関する若干の覚え書き

 1 はじめに
 2 戦後ドイツにおける国法学の展開
 3 国家論の衰退が意味するもの
 4 「二つの戦後社会」の距離――わが国への示唆

第3章 「政治」の行方
――戦後憲法学に関する一視角

 1 戦後憲法学の出発
 2 戦後ドイツ憲法学と「政治」
 3 再び日本へ

第4章 国家学の最後の光芒?
――ベッケンフェルデ憲法学に関する試論

 1 立憲君主政からの離脱
 2 国家理論の刷新
 3 憲法理論の場所
 4 国家学としての憲法学?

第5章 国家理論からデモクラシー理論へ?
――憲法学の変遷とその意義をめぐって
 1 はじめに―学問の変遷
 2 「国家」―多次元的機能とその解体
 3 「憲法」―法と法学の間
 4 「デモクラシー」―新たな視座を求めて?
 5 おわりに―憲法学の歴史的位相


Ⅱ デモクラシーの諸相

第6章 議会制論の現在
 1 議会の世紀の終わり?
 2 「原理」への希求
 3 諸権力の分節の中の議会
 4 コードの乱立の中で

第7章 政治過程における自由と公共
 1 公共性の配分
 2 公共なき憲法論?
 3 近代的思惟の行方

第8章 政党法制
――または政治的法の諸原理について

 1 はじめに
 2 問題の諸次元
 3 政党の憲法上の地位
 4 秩序モデルの探究
 5 おわりに――憲法原理の所在

第9章 憲法原理としての民主政
――ドイツにおける展開を手がかりに

 1 設問の変容
 2 「型」としての民主政原理
 3 日本への示唆


Ⅲ 多層的秩序の憲法理論

第10章 連邦と憲法理論
――ワイマール憲法理論における連邦国家論の学説史的意義をめぐって

 1 連邦国家をめぐる問い
 2 連邦と法学的国家論――ビスマルク帝国
 3 連邦と新しい憲法理論―ビスマルク帝国からワイマール共和国へ
 4 連邦国家論の行方

第11章 EUと憲法理論
――ドイツ公法学における国家論的伝統をめぐって

 1 はじめに
 2 国家か憲法か
 3 理論と解釈
 4 連邦と多層的システム
 5 ヨーロッパと民主政
 6 おわりに

第12章 連邦・自治・デモクラシー
――憲法学の観点から

 1 本稿の主題
 2 国家論の中の連邦と自治
 3 多層システムの中の連邦と自治
 4 多層的デモクラシーと憲法学


Ⅳ 日本憲法学の行方

第13章 戦後憲法学と憲法理論
 1 はじめに――ポスト「戦後民主主義」時代の憲法学?
 2 立憲主義憲法学の黄昏?
 3 戦後ドイツ憲法学の変容
 4 戦後憲法学を超えて
 5 結びに代えて

第14章 憲法秩序における団体
1 本章の課題
2 自由と秩序
3 「憲法」と「立憲主義」
4 自由の諸条件と憲法
5 憲法学の可能性

第15章 論拠としての「近代」
――私人間効力論を例に

 1 主題
 2 議論の磁場
 3 リュート判決再訪――またはリュートから見た三菱樹脂
 4 日本憲法学の「近代」

第16章 「国家教会法」と「宗教憲法」の間
――政教分離に関する若干の整理
 1 政教分離原則の動揺?
 2 制度・共同体・個人
 3 結びに代えて


終章 戦後憲法を超えて
 1 二つの戦後憲法と憲法学
 2 戦後憲法を超えるために


あとがきと謝辞
初出一覧
人名索引






 …で、せっかく出た本がさっぱり売れないと、尽力してくれた出版社の人たちに申し訳ないので、以下、関心のある方々のために若干の解説とセールストークを。



 助手論文を公表した際に、「君の論文のタイトルは大先生の還暦記念論文集みたいだねえ」と人から言われたことがありますが、本書のタイトルも結局そうなってしまいました(汗)。
 今回は特に、一冊の本の中に様々なテーマ・切り口が含まれているために、全体を包括するタイトルがなかなか思い浮かばず、かなり苦心した上たどりついたタイトルです。最終的に自分の脳裏にあったのは、Carl Schmittのしばしば用いた"Lage"の語であり(『Die gestesgeschichtliche Lage des heutigen Parlamentarismus(現代議会主義の精神的地位)』や『Die Lage der europäischen Rechtswissenschaft(ヨーロッパ法学の現状)』)、自分がやってきた仕事は結局のところドイツと日本の比較を通して憲法学という学問が現在立っている位置・状況を明らかにしようとするものだ、と考えてこの題に到達しました。問題はこの"Lage"をどう日本語に訳すかですが、かなり悩んだ末、辞書的には若干外れるものの「位置」や「状況」よりも「位相」の語が最も趣旨に適合している、と考えました。
 現代において憲法学はいかなる位置と様相を有しているのか、我々が憲法について考えようとする際に、我々の思考に手がかりを与え、同時にこれを制約する足枷ともなっている与件とは一体何なのか、というのが本書にとっての中心的問いです。標準化され規格化された通説をなぞるのではなく、時局的な争点に対していわば半減期の短い直観的反応を投げかけるのでもなく、憲法をめぐる諸問題をより良く、できる限り根源的に考えるための手がかりを獲得したい、というのが本書を貫く関心です。本書はこの関心に、主にドイツと日本の憲法学を素材に様々な角度からアプローチしていきます。


 本書は、「モノグラフィー(単一の主題について書かれた長編論文)か論文集か?」という二分論でいけば、論文集になります。しかし他方で、書き手の思いとしては、「過去に公表した論文の単なる寄せ集め」という意味でのありきたりな論文集にはしたくありませんでした(本当は、最初の著作は長編論文にするつもりで、構想を練っていた時期もありました)。
 本書がどのように成立したか、詳しい経緯は「あとがき」に記してありますが、最大の転機となったのは、2004年から2006年にかけての著者の最初のドイツ留学です。ここで、学問上の問題意識を大きく揺さぶられ、新しい問題を抱えて日本に帰ってきました。それからの10年は、共同研究や原稿依頼など様々な機会を捉えては、この本質的に通底する主題を軸として様々な角度から勉強や思考を積み重ねていくことになります。従って、本書を通読していただければ、一見したところ全く異なる論点をめぐる議論が、実は深いところで密接に結びついていることを理解してもらえると思っています。
 この意味で本書は、喩えるなら「短編集」というよりは「連作小説」であり、一話完結の短編が集まってひとつの大きな全体としての物語を構成している、という感じの作りになっています。読者には、個別の議論の積み重ねから浮かび上がる全体像、それを支える問題意識と問いこそを、是非とも受け止めてもらえるとうれしい、と考えています。同じ意味で、個別の論攷を既に読んで下さっている方も、もう一度これを本書が提示する全体としての思考の文脈の中で読み直してもらえれば、きっと何か新しい発見があるはずだ、と思っています。


 値段に関しては、いささか悔いが残っています。もう少し安くしたかったんですが…(値段を下げる努力をし、出血もしたのですが、これが限度でした)。
 簡単なことですが、なぜ高いのかと言えば、部数があまり刷れないからです。なぜ部数がたくさん刷れないのかと言えば、売れるという確実な見込みがないからです。「まだ世間でそれほど名前を知られていない研究者が、その研究者人生で最初に出す本格的な研究書」というのは、程度の差こそあれどうしてもそうなってしまいます(誰が書いても、またどの出版社から出ても)。もう少し学生さんが買いやすい値段にできたら良かったのですが、私の力では今回は無理でした。
 ただ逆から言えば、そのような種類の本には、例えば「世間で名前の売れた研究者が、生涯に10冊目に書いた、値段もボリュームもほどほどで、適度な力の入れ具合の、読者をそれなりに楽しませる安定感のある本」とは質の違う迫力があると思っています。本を読む人であれば、これまでの読書体験を振り返って、わかっていただけるのではないかと思います。「処女作にはその人の全てが含まれている」という言い方をすることもありますが、自分にとっては(まだ本にしていない一番最初の助手論文と並んで)そういう意味のある仕事になりましたし、それだけの「重さ」を感じてもらえる作品に仕上がった、と考えています。
 著者としては、そういう作品を手にしてくれた読者に対しては、特別な感謝の念を抱いています。是非手に取ってみて下さい。新しい読者と出会えることを心から楽しみにしています。




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