「失われた10年」

(Jan. 19 ,2002)

 バブル崩壊後、既に10年ほどが経過し、本来ならばこの10年間に構造改革を進めるべきであったのに進めなかった、この10年は「失われた10年」だ、と言われることがあります。

 私は経済学の素養がありませんし、学生時代等に会計学を勉強した時には、キャッシュフロー会計だの連結決算だのということは教わらなかったので、現在の会計理論も分かりません。

 だから新聞の経済欄を読んでもよく分かりませんし、また、テレビ東京で23時から放映している「ワールドビジネスサテライト」を見ても、「トレンドたまご」ぐらいしか内容を理解できません。

 バブル崩壊、というのは、不動産や株式等の資産価値が下がった、ということですが、資産の価値が下がる、ということが、そんなに悪いことなのか、私には分かりません。

 例えばバブル期には、相続が発生して、高額の相続税が払えなくて不動産を手放さなければならない人が多かった、地価が下がったため、相続税を払わなければならない人は減り、また、払うとしてもその額が少なくて済むようになったため、不動産を手放さなければならない人が減った、ということを聞いたことがあります。

 不動産の価値が下がって困るのは、不動産を売ろうとしている人です。そのまま持ち続けようとしている人にとっては不都合がない。もちろん不動産を取得しようとしている人にとっては朗報です。

 つまり、
  不動産を売ろうとしている人・・・バブル崩壊はマイナス
  不動産を持ち続けようとする人・・バブル崩壊はプラス
  不動産を取得しようとする人・・・バブル崩壊はプラス
というわけで、プラスになる人の方が多いのではないかと思います。

 株式等も下がったのかもしれません。でも少なくともバブル崩壊当時、上場企業の発行済み株式総数の中で、個人が保有している分というのはごくわずかで、ほとんどが法人が保有している株式であったわけです。ですから、株式の下落により数十兆円だか数百兆円だかの価値がなくなった、といっても、個人が被った損失は、そのうちの数パーセントに過ぎません。また、安定株主、つまりずっと昔から株式を保有していた個人株主にとってみれば、かつて自分が株式を取得した時の水準に戻っただけ、ということで、実際の損失は発生していない人もいるでしょう。
 その意味で、実際に個人が被った損失というのは、巷間考えられているほど大きくはないのではないか、という感じがします。

 法人にとっても同じです。地価が高騰したというのはせいぜい昭和50年ぐらいからでしょうから、平成2年ころにバブルがはじけるまでの15年ぐらいの間に取得した土地であれば価値は下がったのでしょうが、それ以前から取得していた土地であれば、以前の水準に戻っただけ、ということです。歴史のある会社で、創業が明治何年、というような会社であれば、どんなに土地の価格が下がったとしても、土地取得時の価格まで地価が下がるということはありえません。

 法人にとっての株式等はどうでしょうが。個人の場合には、短期間に株式を売ったり買ったりして利ざやを儲ける、という目的で株式取引をすることが多いのでしょうが、法人の場合には、金融機関のように資金の運用をすることが本業である会社を別とすれば、株式保有の目的は系列や親会社・子会社の関係のように、相手先会社に対する影響力のために保有していることが多いのではないでしょうか。本業そっちのけで投機的な株式売買をしている会社が、バブル崩壊により損失を被る、ということがあれば、それは自業自得といえるのではないでしょうか。

 そもそも企業活動というのは、資金を調達して設備投資をして収益をあげ、調達先に利息や配当金を支払う、というのが基本で、基本的に借金体質というのが正常な姿であると思います。全ての企業が無借金経営をしていたのでは、金融機関は破綻してしまいます。借金経営ということが常態の企業にとって、資産価値の下落ということによる打撃ということはあまり考えられません。

 先ほど、金融機関は別、と書きましたが、金融機関が破綻したのも、融資した先のゴルフ場が計画途中でとん挫して開業にこぎつけられなかった、とか、融資先のテーマパークが思ったよりも集客力がなく廃業した、などの理由で融資が焦げ付いたからであって、バブル崩壊によって資産の価値が落ちたからではないケースが多いと思います。

 そのような意味で、資産の価値の下落、ということがどこが悪いのか、私には分かりません。

 現在の時代が不況の時代であるとすれば、それは、資産価値が下落したから、ではなく、原因はほかの点にあると思います。

 会計帳簿には、貸借対照表と損益計算書があります。貸借対照表には資産と負債と資本が、損益計算書には費用と収益が記載されます。

 資産価値の下落、という貸借対照表の数字の悪化、ということは、国民生活にも企業活動にもマイナスの影響はあまりないのだと思います。そうだとすれば、もし今が不況であるとすれば、その原因は、損益計算書の悪化、ということにあると思います。

 そうだとすれば、以下の時代、個人にとっても、会社にとっても、とりかからなければならないのは収益力のアップ、ということだと思います。今の資産価値の下落の時代に、資産をどれだけうまく運用するか、ということを考えても、資産が資産を生む時代ではないわけですから、時勢に適合しないのではないかと思います。

 会社にとって収益力を上げるにはどのような方法があるのかは分かりません。ただ、個人にとって、収益力を上げる、というのはそれほど難しいことではないと思います。

 中国では、英語ができるかできないかで収入が何倍も違うので、中国の若者は、必死になって英語を勉強している、とか、韓国では、大学生が、英語力を身につけるために半年とかの期間、英語圏に留学することが日常化している、とか、インドでは、IT技術を身につけるかどうかで収入が何倍も違ってくるからIT技術者が急増しており、それでも世界的にIT技術者は今後も不足が予想される、とか、アメリカでは、IT不況の前後から、これからはバイオテクノロジーが成長分野であるということで、優秀な学生はバイオの分野に行くようになった、と報道されています。

 日本でも、一部では同じような動きがあるのかもしれませんが、私としては、日本の学生が変わった、という印象は感じません。

 例えば、英語の検定試験で、TOEICというのがあります。以前、このサイトで、私も受験する、と書いたことがあります。この受験者は何人ぐらいいると思いますか。

 第88回(平成13年11月)が、日本全国で67,403人です。ちなみに今日から行われるセンター試験の受験者数は602,089人です。センター試験は全ての大学が利用しているというわけではありませんから、いかにTOEICの受験者が少ないか、ということが分かるかと思います。

 高収益をあげることのできる技能(英語をはじめとする外国語、IT技術、バイオテクノロジーというのは一例で、それに限られるわけではありません)を身につけた人が増えれば、そのような人のたくさんいる企業は高収益をあげることができるでしょうし、日本全体の収益力も上がり、不況、という状態も脱却できるのではないかと思います。