401k(確定拠出年金)

(Feb. 15 ,2002)

 今日(平成14年2月15日)の朝日新聞朝刊によると、エンロンの破綻によって、従業員は年金も打撃を受けたようです。エンロンの401kは、投資先の6割が自社株だったので、株式が価値を失うと、自社株部分が無価値になってしまう、ということです。

 年金制度の破綻、と危惧からか、日本でも401kを導入してはどうか、ということも言われますし、現に導入している企業や、自営業者もいるのかもしれません。

 でもどうも私の場合にはしっくりいかなくて、国民年金、国民年金基金、及び、中小企業総合事業団の小規模企業共済の3つの制度を利用しています。

 確定拠出年金では、さまざまな商品を扱うことができるようで、例えば、預貯金、公社債、投資信託、個別株、自社株などを複数、組み合わせて運用する、ということのようで、どれを組み合わせるかは、従業員なり自営業者なり自身が選択する、ということのようです。そして、月々新たに発生する掛け金だけでなく、既に積み立てている分についても、運用先を変えることができる、ということです。

 今までは、預貯金は全額保護されていたわけですが、今年(平成14年)4月から、定期預金等についてペイオフが解禁となり、来年4月からは普通預金等についても解禁になります。社債については、昨年のマイカルの破綻の際に、個人が老後の資金をマイカルの社債で保有していたら紙くずになってしまった、という報道を読んだことがあります。アルゼンチン国債は元本すら守られるかどうかは未確定な状態ですし、エンロンの破綻によって、これまでは元本は安全と言われていたMMFすら元本割れは避けられないようです。何種類かに分散投資しても、最悪の場合、全部がうまくいかない、という可能性もあります。

 では、「勝ち組」と言われる企業の株ならどうでしょうか。例えばソニーとかホンダならばどうでしょう。

 例えばHONDAは、昨日(平成14年2月14日)のニューヨーク証券取引所の取引開始の鐘をASIMO(アシモ)が鳴らしたようですが、ロボット事業によって今後の株価が変動する、ということは考えられません。やはりクルマが今後も売れるかどうか、ということが、中・長期的に見たホンダの株価の変動の要素になるでしょう。

 そして、ホンダは、日本では人気があり、また、アメリカでも、オデッセイなど、大変に人気のあるメーカーです。それに対してヨーロッパでは、日本やアメリカほどは人気がありません。そうすると、今後のホンダの株価の変動を決定づけるのは、ホンダ車がヨーロッパで日本及びアメリカのような人気が出るかどうか、ということにあるのではないでしょうか。

 でも、ヨーロッパで今後、ホンダ車が人気が出るかどうか、なんてことは、少なくとも一般のサラリーマンとか自営業者とかには分かりません。

 そうすると、老後、安定した年金を確保できるかどうか、という観点からすると、確定拠出年金には不安があります。

 問題はそれだけではないと思います。確定拠出年金について報道されていることを読んでも書かれているのを読んだことはないのですが、従業員や自営業者が、自分の年金の運用について気にかける時間と労力が、国内全体で考えると、かなりの量に及んで、それが経済の足を引っ張ってしまうような非効率的なものではないか、と思います。

 これまで、年金の運用等の業務を行うのは、それが仕事の人たちが行っていたわけです。それを廃止して、各自が各自の責任で運用を決定する、というのは、各自が自分の資金を運用するファンド・マネージャーになるようなことを意味します。

 それが非効率的、というのは、ほかのことに例えれば、飛行機について、今後は旅客機を全て廃止し、代わりに小型飛行機を何百万台も飛行場に置いておくので各自で飛行機の操縦技術を身に付けて、自分で目的地に行ってください、というのと同じように聞こえるのです。国民全員が飛行機の操縦なんて知る必要はない、国民全体から考えてごく一部のパイロットだけが飛行機の操縦を習得して、操縦すればいい、というのと、年金の運用なんて国民全体が自己責任で行う必要はない、それを仕事にするごく一部の人だけがそれを習得して運用すればいい、というのは同じではないでしょうか。

 もちろん一般の人が飛行機の操縦を趣味としてやる人がいるのはいいでしょう。でも国民全員が飛行機の操縦をすることを義務づけることは、国民経済にとってマイナスになると思います。国民全員が自分の年金の運用の責任を負うというのは、それと同じだと思います。

 前にも書きましたが、私はテレビ東京の経済番組なんて見てもほとんど分かりません。数学の教養がありませんから、経済学の本で、難しい数式なんか書いてあってもさっぱり分かりません。英語もさほどできるわけではありませんから、ブルームバーグ(英語)なんか見てもさっぱり分かりません。私がブルームバーグを見るのは、キャメロン・ディアズに似たキャスターの人がいるので、その人が出ている時は何となく見ていることがあるのですが、同じキャスターの英語をいくら聞いても、分からないものはやっぱり分かりません。

 本来ならばわれわれ一般国民は、経済学やら数学やら経済英語なんかは分からなくても生活をしていくことができます。しかしそれが分からないと老後、安定した生活はできなくなるかもしれません。そこで、本業を多少おろそかにして、そのようなことを習得する必要が出てくるのかもしれず、国民経済全体として考えればそれが無駄なことなわけです。医者は医療に専念すればいい、消防士は消防に専念すればいい、ラーメン屋さんはラーメンを作ることに専念すればいい、というのが、確定拠出年金を採用すれば、みんな、自分の年金の運用を考えなければいけない、ということになるわけです。

 さらにいえば、経済学やら数学やら経済英語に強い人は、確定拠出年金で安定した運用をすることができ、それらに強くない人は確定拠出年金でマイナスの運用しかできない、ということになってしまうという傾向が出てしまうのではないかと思います。個人の教養や能力によって老後が決まってしまう、というのは、いいこととは思えません。

 で、どうしたらいいんでしょうか。

 結局、運用によってマイナスになったりプラスになったり、というのは、預貯金や公社債や株式というような、いわばモノではなくカネが形を変えたもので運用するからではないかと思います。
 もっと原始的に、運用、というのではなく、金(きん)やらプラチナやらというような、何千年も前から価値があると言われてきて、今後も少なくとも数十年や数百年の間は少なくとも価値がゼロになるようなことのないようなモノを買い貯めていき、65歳なり70歳なりになった時にそれを一括して売る、あるいは少しずつ売っていく、そんな形での年金制度というのはないのかな、と思います。