タマちゃん騒動

(Sep. 16 ,2002)

 タマちゃん騒動、要するに、多摩川や鶴見川、さらには帷子川で目撃されたアゴヒゲアザラシについて、連日、マスコミで目撃情報が報じられています。

 これに対する反応としては、マスコミの論調と同じ、かわいい、とか、癒される、というものと、その反対に、アザラシが本州で目撃されたからといってそんなに騒ぐことではなく放っておいた方がいい、というものに分類できます。

 不思議なのは、アゴヒゲアザラシがそんなにかわいいか、という疑問を呈する意見がないことです。

 今からもう15年ぐらい前になりますか、森下裕美氏の「少年アシベ」(集英社)がきっかけとなって、ゴマフアザラシの赤ちゃんが、かわいい、と言われたことがあります。私もそれはもちろん理解できます。でも真っ白な毛に覆われているのは生後わずか2週間ほど。すぐに大人と同じ色になります。そうなったらもうかわいくありません。

 今回騒動になっているタマちゃんは、人間でいうと中学生ぐらいのオスではないか、とのことです。あれがかわいいか、私には不思議です。

 ラッコなんかは大人でも、おなかの上で貝を割ったり、脇の下に食べ物を入れたりしているのがかわいい、という反応はあるのでしょう。またアザラシでも、動物園で飼われていて、例えば敬礼をする芸が仕込まれているのであれば、それを見てかわいいと思うかもしれません。

 テレビのニュースで、タマちゃんを見た幼稚園児とか小学校1、2年生ぐらいの子供が、かわいかった、などと感想を述べるシーンがテレビで放映されます。でもそれって、親がかわいいと言っていたから、とか、テレビで可愛いと言っていたから自分もそう思う、というものではないかと思います。幼稚園児や小学校1、2年生が、自分よりも体の大きな肉食獣をかわいいと自主的に思うとはあまり考えられません。

 1、2年前ですか、都内でサルが目撃されたことがありました。その時にはマスコミの論調として、かわいい、というものはありませんでした。何でサルはかわいくなくて、アザラシならかわいいのか、私にはわかりません。

 小泉首相のインタビュー時の談話で、
「タマちゃん、ツルちゃん、かわいいね、私も見たいな。」
というものがありました。これなんかはマスコミの基本的な論調に合わせているだけなのではないかと思います。

 むしろ、扇国土交通大臣の、
「帰りたくなれば海に帰るでしょ。それより見学に来て川に転落する子供の方が心配。」
という談話の方が私にはよく理解できます。

 マスコミが毎日のように報道するのは、例えばテレビであれば、タマちゃんの話題をやれば視聴率がとれるからなのでしょう。

 以前はマスコミが若手狂言師としてあおっておいて、最近ではバッシングの対象にされてしまっている和泉元彌氏のように、しばらくしたらタマちゃんもバッシングの対象になってしまうのではないかというのが私には心配です。