地上波デジタル

(Dec. 08 ,2003)

 地上波デジタル放送が平成15年12月1日に始まったようです。NHKの番組で、地上波デジタルをプロモーションする番組を見ました。

 カラーテレビ以来の大きな進歩ということですし、また地上波デジタルの普及が今後の日本のエレクトロニクス産業の発達にも不可欠のことでしょうから、ぜひ普及に向けてがんばっていただきたいと考えております。

 そんな中、地上波デジタルをプロモーションする番組を見ていて気になったことがあります。

 その番組では、地上波デジタルについて、画質や音質がすぐれている点を地上波デジタルの長所として紹介していました。また、双方向のインタラクティブなメディアであるという点や、EPG(番組表を画面で見ることができる)や、将来は携帯端末でも視聴可能になるという点を紹介していました。

 でも、画質や音質というのはそんなに大事なことなんでしょうか。

 私はテレビは10年ぐらい前に買ったものを今でも使っています。引っ越しをした際にテレビのチューナーが壊れてしまってテレビ単体では映りません。ビデオデッキは壊れていませんので、テレビの切り替えを「ビデオ」の方にセットしたままにしてビデオデッキのチューナーでチャンネルを切り換えてテレビ番組を見ている状態です。別に私はお金に困っているわけではありません。先日も車(新車)をローンを組まないでキャッシュで買ったりしています。でも、10年前の壊れたテレビを今でも使っています。テレビはとりあえず映って漏電とかを起こさなければそれでいいと思っています。テレビの視聴者のうちで現在のテレビで画質や音質に不満を持っているという人はどの程度いるのでしょうか。

 また、双方向、ということですが、ケーブルテレビではなくあくまでも電波で番組のデータが送られてくるわけですから、本来的に地上波デジタル自体は双方向になるはずがないと思います。視聴者からテレビ局へ電波を飛ばすことはできません。視聴者からテレビ局へは電話線等の通信手段を使って信号を送っているはずです。その意味では、双方向といっても、地上波デジタル放送自体が双方向というわけではなく、電話線等の補助が必要です。

 EPGは、テレビのレスポンスタイム次第だと思います。操作に時間がかかってしまうのであれば、新聞のテレビ欄を見たりパソコンでヤフーにアクセスしてヤフーのテレビ番組のサイトを見た方が早い可能性もあります。

 で、新しいメディアが強調すべきなのはどんな点か、というと、当然のことですが、どんな番組が見られるか、ということです。

 現在のテレビは、
1 地上波(VHF・UHF)
2 BSアナログ
3 CS
4 CATV
5 BSデジタル

があります。

 私の周りでは、地上波が見られるテレビを持っていない人は1人もいません。10人いれば10人が視聴環境下にあります。

 BSアナログは、大リーグが見たいという人とか冬のソナタが見たいという人ぐらいしか視聴環境下にありません。感覚だけでいうとBSアナログを見ることができる設備を持っている人は10人中2人ぐらいでしょうか。BSアナログのためにアンテナを立てるのは不経済ですし、BSアナログチューナーは普通の量販店では売っていませんし、テレビやビデオデッキでBSアナログチューナー内蔵のものというのは一部しかありません。

 CSとCATVは、チャンネルの一部は重なっていますし、視聴料を払っているという点では共通しているので、両方を合わせると、私の周りでは10人中でいえば6人ぐらいが視聴環境下にある、という状況です。サッカーの試合を見たい、野球中継を最後まで見たい、外国のテレビを見たい、格闘技番組を見たい、経済専門チャンネルを見たい、というような幅広いニーズに対応して、何十、あるいは何百というチャンネルがあるのが一番の長所です。

 BSデジタルを見ている人というのは私の周りでは1人もいません。無料チャンネルが多い、という以外にどんなメリットがあるのかが分かりません。

 つまり、地上波を除けば、無料(NHKの視聴料はかかりますが)で見ることのできるBSアナログやBSデジタルが普及していなくて、有料のCSやCATVが普及しています。自分の見たいコンテンツがあればお金を払ってでも見ます。当然のことですが、TSUTAYAとかの店でビデオテープやDVDディスクをレンタルするのには料金を払っているのですから、それと同様に、自分が見たいコンテンツがあれば、数百円、あるいは千数百円という料金であれば視聴者はお金を払ってでも見ます。地上波デジタルが無料であるということはメリットになりません。

 その意味で、地上波デジタルが普及するかどうかで一番大事なのは、どんな番組を見ることができるか、ということです。先日見た地上波デジタルのプロモーション番組では、地上波デジタルでどんな番組を見ることができるかについては何も紹介がありませんでした。残念ですがこのままでは、地上波デジタルはBSデジタルと同様にあまり普及しないのではないかと思います。

 私が地上波デジタルを視聴するきっかけになるのは、地上波デジタルでしか見ることができない番組がある、ということ以外にはありません。

 今私が見たいと思う番組は、MTVです。CSで見ることができるのはMTVジャパンというチャンネルで、国内で制作している番組が多くてあまり見る気になれません。アメリカ直輸入のMTVが見られれば地上波デジタルをすぐに導入します。

 あとは、アジア圏で放映されている英語放送のチャンネルでしょうか。アジア圏のチャンネルで英語放送のチャンネルが放送されていると、このままでは自分はまずいと思って英語を勉強するモチベーションになります。英語圏に行って英語放送のテレビを見たり朝の駅付近の売店で英字新聞が売られているのを見ても何とも思いませんが、アジア圏の国に行って英語放送のチャンネルを見たり、英字新聞が日本のように片隅に置かれているのではなくて現地語の新聞と同程度の扱いで売られているのを見ると、自分を含めた日本人は英語力が不足している、このままでは日本の国際競争力はなくなると焦って英語を勉強するモチベーションになります。それと同様にアジア圏の英語放送のチャンネルを地上波デジタルで見ることができれば英語を勉強するモチベーションになりますので、モチベーションを持続させるために地上波デジタルを見る機器をすぐに導入しようと思います。

 地上波デジタル放送が始まった平成15年12月1日の同じ日に、CS(スカパー)のch200でひっそりと始まった番組があります。「スカパー!映画祭り秘宝トーク」という番組です。口は悪いけど日本人きってのハリウッド通である町山智浩氏と柳下毅一郎氏(ファビュラス・バーカー・ボーイズ)による映画紹介の番組です。たぶん両氏が揃ってテレビに出演するのはこれが初めてではないかと思います。年末年始ということで映画に力を入れたいと考えるスカパーが町山・柳下の両氏に白羽の矢を立てたというのは、コンテンツ重視というスカパーの方針によるのでしょう。スカパーのプロデューサーのセンスが光っています。

 地上波デジタルも、画質・音質よりも、コンテンツ重視というのが今後の普及の鍵になると思います。