ミニネタシリーズ

         ちょっと引っぱりっこ

子供が教卓までやってきました。
「先生,カッターを貸してください。」
「はい,どうぞ。」
カッターを差し出すと,それを受け取って行こうとします。
が,そこで彼の動きが止まりました。
持っていこうとしたカッターが私の手から離れないからです。
ちょっと引っぱりっこの状態になりました。
「あれ?」という顔で,私の方を見た彼の目と私の目が合いました。

けげんそうな彼の顔が,パッと明るくなります。ちょっと照れて,
「あっ,ありがとう。」
今度は,私の指からカッターが離れます。
そして,もう一度「はい,どうぞ。」

ほんの数秒のうちに,貸し借りの際の気持ちの良い挨拶に気づいた
彼でした。

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