スキー場での衝突事故と脱力


2001年2月,私は学校のスキー学習でスキー場にいました。子供たちが自由滑走に入ったので,私は斜面の端の方に立って子供達の滑りを見ていました。スキーを履いていましたので,両足は揃えて斜面に対して横向きになっていました。左足が谷の方です。身体はやや捻って斜面の下の方を見ていました。すると,突然後ろで「ザザー!」と音がします。振り返ると,男性が転倒して私の足元めがけて突っ込んできていました。距離は2m程度。とても避けられる距離ではありません。

その時,頭で「こうしよう!」と考えるより早く,私の身体は次のように変化しました。
・まず,谷足側である左の内肩がストンと下がりました。
・続いて全身(特に胸)から力がフワッと抜け,上半身がその男性を迎えるように丸くなりました。
・角付けをしていた谷足からも力が抜けました。その結果,スキーがゆるやかに横滑りを始めました。
これらが,おそらく1秒の何分の1かで起こったのです。

次の瞬間,男性が激突してきました。その方のスキーが私の右足にぶつかるのが感じられました。エッジが付いているため,「こわい」と思いました。すると,右足が後ろに下がり,激突のショックを吸収するように空中へと逃げました。その方のスキーが両方飛んで行きます。そして,その方のスキー靴が谷足である左足にぶつかってきました。すでに横滑りをしていたので,左足にはほとんどショックを感じませんでした。その方は,私の身体の下を滑り降りて,約20m位下方まで流されていってやっと止まりました。私は,斜面上方に向かって柔道の前受け身のような格好で倒れました。

起きあがると,その時はどこも痛くありませんでした。男性は,下方で倒れたままでしたので,私はスキーを2本拾い,3ターンでその方のところまで行きました。(だから20m程度かなと記憶していたのです。)幸い,その方も起きあがり,ケガはないようでした。
その後,右足の膝に青タンができているのを見つけました。また夜になってから首筋がこわばり,だるくなりました。むち打ちの症状が出たようです。
(3日ほどで回復しました。)

以上が,衝突事故の概要ですが,ここで述べたかったことは
「もし,太極拳をやっていなかったらもっと深刻なケガをしていたかも知れない」
という実感なのです。

普段,推手などをしていてもなかなか脱力できないで,つい力んでしまう私なのですが,「避けられない!」と思ったのと同時に,というか思うより早く身体が脱力の反応をしてくれたことにびっくりしました。まるで,身体自身が判断・思考しているかのような不思議な感覚を覚えました。

空手をやっていたころ,私は相手の蹴りをつかまえるのが得意でした。相手が茶帯くらいまででしたら,まず楽に蹴ってくる足を下から掬うことができました。それだけで相手はバランスを崩し,倒れてしまいます。しかし,それをするとき,私は「つかまえてやろう」と考えてしていたわけではありません。気が付いたらつかまえているという感じでした。手が勝手に反応しているという感じでした。そして,今思えばそのとき,心は無心になっており,身体全体は脱力していたと思うのです。
今回,久しぶりに危機的な状況に遭遇しましたが,その中でかつての感触がよみがえってきました。身体の脱力を自覚できたこと,そしてリフトから見ていた人が「あれは,骨折したと思った」というくらいの勢いを緩和できたことは,太極拳のおかげだと強く感じた次第です。

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