ユックリで強くなるのか

 太極拳をやっていると言いますと,約半数の人は「ああ,あの踊りみたいやつね。」と言います。そして,残り半分の人はたいてい「あれって,武術でしょ?あんなにユックリやって強くなるの?」と言います。
 結論→強くなります。
 実は,私は空手で2段をとった頃,不思議なことに気づいていました。指導に出向いていた高校で,茶帯(3級〜1級)以下の後輩を相手に組手(試合形式の練習)を行う時のことです。彼らが精一杯のスピードと力で突いたり蹴ったりしてくるのを,こちらはユックリと動きながら制することが可能になっていたのです。
 彼らの突きを横からちょんと掌で払うことができる。蹴ってくる足の踵をすくい上げることができるのです。これは,不思議な感覚でした。激しいフットワークで踏み込んでくる相手に対し,ちょっと早めにユックリ動き,死角に入ると,相手は何もできなくなってしまいます。相手が2人でも同じ事でした。(常に一人の後ろにもう一人がいるように自分の位置をとればいいのです。すると,まず一人をユックリと制し,次にもう一人を制することが容易です。)
 で,太極拳を始めた頃も,ユックリ動くことに何ら疑問を持たなかったのですが,自分で練習を重ねているうちに,このユックリは,空手のようにできるだけ速くというポリシーの練習と同じくらい強くなるなあと実感させられました。
 まず,手足の軌跡が正確になります。速く動かすのも難しいですが,ユックリ動かすのも難しく,迷いがあるとぶれが生じます。筆で伸びやかに大きく文字を書くように,手足を動かしていきます。
 次に,太極拳では力を体の内側から,筋肉の緊張に頼らずに張り出してゆくのですが,その力の運用はユックリ動かすからこそ認識できるのです。
 さらに,少しでもやった方はお分かりになると思いますが,ユックリ動いている間,その動きを支えている下肢,特に太ももの筋肉への負荷はかなりのものがあります。太極拳では,両足に体重がかかっているのは,始めと終わりだけです。後は,ずっとどちらかの足に体重がかかっています。そして,その体重は常にその片足の中で動き続けています。熟達すると,その動きに少しもぎくしゃくしたところがなくなって,自然でスムーズな動きになりますが,そうなると脚の力や腹筋が格段に強くなっているのです。
 太極拳愛好者には,お年を召した方が多いのですが,「太極拳を始めてから,2階までの階段が辛くなくなった。」等という報告をよく聞きます。そのたびに,人間の体に合ったこの運動のすばらしさを感じさせられます。

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