「ねえ、オーフェン」
「なんだ?」
クリーオウの軽やかな声に比べ、オーフェンの声はものすごく不機嫌だった。
「前に…ほら、バルト……なんとかの剣ってあったじゃない」
「ああ、あったな」
相変わらずむっつりした声で応えるオーフェン。
視線はクリーオウにではなく、そこら辺の木々や茂みに向けられていた。
その全身から発せられている不機嫌なオーラに、さすがの彼女も多少おされながらも臆する事なく続ける。
「あれがあったら、便利よね……。ほ、ほら。例えばお金が無い時とか、食料が無い時とか。今みたいに………」
つられて足元を見つめるクリーオウに、オーフェンは普段から悪い目つきをさらに悪くして
冷ややかな視線を浴びせていた。
「ほーう。ちなみに、何で貴重な金がほとんどなくなったり、残り少なかった食料が無くなったりしてるんだ?」
「えっと、お金がなくなってるのは優しい優しいオーフェンが私に服を買ってくれたからで、食料が少なくなってるのは、そのお礼にスペシャルメニューを作ってたら不幸な事故でちょっと失敗しちゃったから?」
小首を傾けてにっこり笑いながら言うクリーオウにオーフェンは辺りかまわず怒鳴りたくなるのを必至で堪えながら無理やり作った、かなり引きつった笑みを返す。
「ちなみに、服は買ってやったんじゃなくていつも通りにお前が勝手に抜き取って行ったからで、その“スペシャルメニュー”とやらの尊い犠牲になったマジクはもう二時間もたつのに未だに復活しないんだが」
「………オーフェン」
「な…何だよ?」
急に目線を逸らし、しおらしく呼びかけるクリーオウにオーフェンはどうせまた企みでもあるのだろうと思いながらもつい戸惑ってしまう。
「そんな事言って……私の事、嫌いになったの……?」
台詞と同時にクリーオウがふいっと顔を上げる。
真夏の湖のように蒼い瞳が、今は涙で滲んでいる。
「クリーオウ……」
「…………」
「急にしおらしい事言ったり、嘘泣きしても無駄だからな」
目尻に溜まった涙を拭っていた細長い指がぴたっと止まる。
図星だったらしい。
「ったく…本当に、どこから覚えてくるんだろうな。こういうセリフ」
「……よくわかったわね」
「そりゃあ、な。 ……………だからな」
「え?何?何か言った?」
既にしゃがみ込んで食料になりそうな草やキノコ類を探し始めていたクリーオウには、オーフェンの呟きが聞こえなかったらしい。
肩越しに振り返ってこっちを見ている。
「何でもねえよ。 それより、お前が食料ダメにしたんだから、責任持って探せよな」
「わ…わかってるわよ!!」
しゃがむと地面に着きそうになるから、と言う理由で少し高めに結ってある髪が静かな風に揺れている。
木漏れ日が金色の髪に当たって弱い反射をしている。
マジクは未だに目が覚めないが、大した事はないだろう。
勝手にそう納得すると、クリーオウの横に少し離れて座り込み探索を再開する。