「よし、今日はここらで野宿するとするか。」
 そう言って黒尽くめの青年―――オーフェンは荷物を降ろした。すると、
「え~! また野宿~。」
 彼のすぐ後ろを歩いていた少女クリーオウが不平の声を上げた。くるっと巻いたくせっ毛の間に埋もれたレキがあくびをしている。
「しかたねーだろ。まだ次の街まで三日はかかる。馬車があるってなら別だが金がない。それに・・・」
 オーフェンはチラッとクリーオウの肩越しに見やる。
「マジクがあれじゃあな。」
 そこには顔を蒼白にしながらも懸命に歩く少年、マジクがいた。いや、むしろ少年を貼り付けた荷物が歩いているといった方が正しいだろうか・・・おそらく総重量は彼の体重を軽く上回っているだろう。
「お・し・さ・ま~。もう、僕、歩けま、せん・・・」
「な?」
 うらみがましく言ってくるマジクを指差しながらオーフェンはクリーオウのほうに向き直った。
 マジクは荷物を降ろし、そのまま地面にへたりこんだ。しばらくは動けそうにない。
「う~。はやくふかふかのベッドで寝たいのに・・・」
 未練がましくマジクを見るクリーオウ。だが、諦めがついたのか静かに自分の荷物をあさりだした。そして・・・
「・・・それは何に使うのか聞いておこうか?・・・」
 半眼でクリーオウをにらむオーフェン。彼女の取り出したのはテントでも食事の準備でもない・・・彼女が愛用する剣だった。
「何って、探検に決まってるじゃない♪」
「だぁぁぁぁぁぁぁぁ! にこやかに言うなぁぁ!」
 あまりにも予想どうりの答えに絶叫するオーフェン。一瞬たじろきながらもクリーオウめげない。
「いいじゃない。やることないんだし。」
「飯の準備にたきぎ、テント張る仕事だってあるぞ。」
「がんばってね♪」
「お前も手伝え!」
 不毛な論争が始まりやれやれと首を振るマジク。いつのまにか地面に降り立ったレキも自分の主人を見上げていた。そんな彼らの思いを知ってか知らずか、2人の口論はヒートアップしていく。
「頼むから俺に厄介事を増やさんでくれよ・・・」
「! な、なによ、誰がいつ厄介事を増やしたのよ!」
「きっぱりとお前だ! あとで探しに行く俺の身にもなってみろってんだ!」
「誰もオーフェンに来てくれなんていってないじゃない!」
「そういう意味じゃねーだろ! 第一、何で俺がお前みたいなじゃじゃ馬の保護者しなきゃならね―んだよ! おまえも大人って言うんなら自分の行動に責任でも持ちやがれ!」
「なによ! なによ! なによぉぉぉぉ! もういい! オーフェンの馬鹿!」
 そう言って一目散に走り出すクリーオウ。置いてかれたレキがきょとんとしている。



 そして彼女の姿が見えなくなってからマジクがぽつりと言った。
「お師様・・・クリーオウ、怒ってますよ~。早く追わなきゃ。」
「何で俺なんだよ。マジク、お前でもいいだろーが」
 憮然とオーフェンがそう言うとマジクは大げさにため息をついた。
「はあ。お師様、本当にわかってないんですか?」
「? なにがだよ?」
 全くわかっていない顔で聞き返すオーフェンにマジクは再び、ため息をついてから荷物を開きだした。
「僕はここで食事の準備しときますから、お師様はクリーオウをつれてきてくださいね。」
「う・・・でもな・・・」
「お師様・・・。」
 有無を言わせない口調で―――この少年には珍しく―――行けというマジク。仕方なくオーフェンはクリーオウの後を追った。それを見送りながらマジクは荷物の紐をほどく。
「ふう。何でお師様は自分のことだとあんなに鈍感なのかな?」
 料理用の鍋を引きずり出しながらマジクは嘆くようにつぶやいた。
「クリーオウの気持ちって奴にさ・・・」



「クリーオウ! どこだ!」
 それから数分。クリーオウの走っていった方向を頼りに探し回るオーフェンだったが地面が乾いていたため彼女の足跡がたどれず、苦戦していた。あたりはまだ明るいもののどんな猛獣が出るかわからない。例え彼女の剣の腕が悪くないにしても集団で襲い掛かられては魔術でもなければ撃退できない。不幸なことに今の彼女にはレキが居ない。
「くそっ、やっぱり厄介事を持ってくるじゃねーか。」
 うめくようにして立ち止まるオーフェン。あたりを見回してもうっそうと茂る森しかない。
「あの、じゃじゃ馬・・・川とかに落ちてんじゃねーだろうな・・・」
「誰がじゃじゃ馬よ・・・」
「どおおおおお!?」
 いきなり後ろから飛んできた声にオーフェンは思わず叫び声をあげる。数歩跳んで攻撃態勢になりながら振り返ると・・・
「なによ。人を化け物みたいに・・・。」
「いや、それもあながちまちがいじゃ・・・・・・」
「なんか言った!?」
「いや・・・。ところでお前何してんだよこんなとこで。」
「あ、オーフェン。実はね、大変なの。」
 大変と言うわりには全く落ち着いているクリーオウ。そんな彼女を半眼でにらみながらオーフェンはため息をついた。
「で、何が大変なんだ。言っとくが厄介そうなところは・・・」
「もう、いいからこっちこっち。」
 そう言ってずかずかと森の中へと入っていくクリーオウ。慌てて後を追うオーフェンだったがそのころになるとすでに、自分が何のために彼女を探していたのか忘れてしまっていた。



「ほら、ここ、ここ。」
「ったく、なにが・・・・・・」
 クリーオウが指差すものを見てオーフェンは絶句した。
 うっそうと茂る木々の間に土のれんが出来た巨大な建物があったからだ。
 半壊した塔を中心にかなりの広さだ。壁のいたるところには彫刻がほどこされ美しい模様を描いている。つたが絡まり塞ぎかかっている窓も見受けられる。どうやらここ数百年ほどは誰も手をつけていないらしい。そして、ちょうどオーフェン達が居る目の前に入り口らしき穴があいていたのだった。
 オーフェンは壁に近寄って模様を観察し始めた。ものめずらしそうにクリーオウが横から覗き込んでくる。  模様の中には人間やドラゴン種族などさまざまなものが描かれているのだが一つだけ共通点があった。それは全てが完全な形で残されていることだった。そして・・・
「みんな羽が生えてるわね。」
 クリーオウがぽつりと言った。そう、そこに描かれている全ての生物に羽が描かれているのだった。昆虫とも悪魔とも違う・・・天使のような羽が・・・
「これは・・・天人種族の遺跡じゃねーな。それよりも新しい・・・人間種族の・・・」
「人間の遺跡!? そんなのがあるの?」
 目を丸くして驚くクリーオウ、そんな彼女に得意げに人差し指を立てながらオーフェンは説明しはじめた。
「天人種族が魔術士狩りを行った時代があったって話は前にしただろ?」
「うん。でも、普通の人の方が返り討ちにあっちゃったんでしょ?」
「まあな。でも、その中で魔術士をかばおうとする人間もいたんだよ。」
 そう言ってオーフェンは建物を見上げる。中央の塔に光りがあたり幻想的な風景を思い起こさせている。もしかしたら昔の人間たちもこうして塔を見上げていたのかもしれないな、など考えながらオーフェンは続けた。
「でも、天人種族に何の武器も与えられてない人間はもっと無力だ。魔術士を殺せない分の怒りや、焦り、そんなもんで殺されていったんだよ。まあ、ようするに八つ当たりだな。そこが人間の弱いところだろうな。」
(自分の立場が悪くなっちまうとすぐに他人のせいにしちまうからな。)
 胸中でうめくようにつぶやく。いままで多くの人間の弱さを見て、自分自身も弱さを実感したオーフェンだからこそ感じることが出来るのだ。人間の弱さ・・・
「そして、その人間たちは天人種族から逃れるために山奥や密林に逃げ、そこに新たな文明を築いたって訳だ。で、これがその一つだろうな、きっと。」
「ふ~ん、じゃあ、罠とかないの?」
「ん? ああ。天人の遺跡みたいに悪質な奴はねーな。でも原始的な・・・」
 そこまで言ってオーフェンははっと気がついた。横で遺跡を眺めていたはずのクリーオウが居ない。急いで入り口の方を見てみると走って遺跡の中に入っていくクリーオウの後ろ髪だけが見えた。
「な! あの馬鹿!」
 言うが早く、オーフェンはすぐにクリーオウの後を追い遺跡の中へと入っていった。



「クリーオウ! 待て! 戻るんだ!」
「罠とかないんじゃ大丈夫でしょ? そんなに焦らなくても・・・」
 ようやくクリーオウが見えてきたとき彼女は祭壇のような場所に立っていた。
 壁に描かれているものと同じ・・・天使の羽を持った女神の像がある祭壇に。
「違う! 天人種族のような罠がなくても人間にだって原始的な奴は作れる!」
「大丈夫よ。原始的って落とし穴とかでしょ?そんなの・・・」
 そしてクリーオウが祭壇から足を踏み下ろした瞬間・・・地面がパックリ割れ、彼女の体が落下し始めた。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「クリーオウ!」
 オーフェンは状況を認識するまもなく飛び出していた。



「・・・あれ? ここどこ?」
 そう言ってクリーオウは穴の中で起き上がった。上を見上げるとかなりの高さである。きっとこの落とし穴を作るだけで何年も費やしたのだろう。体中が痛むものの目立った外傷はない。骨も折れておらず打撲や内出血もないだろう。彼女は信じられないことに無傷だった。
「? 確か・・・オーフェンが叫んでたから祭壇から降りて・・・そしたら地面が割れて・・・オーフェンが飛び出してきて・・・! オーフェン!」
 思い出して叫ぶクリーオウ。しばらくあたりをきょろきょろ見回すと・・・そこには横になっているローブを来た黒魔術士らしき者の姿があった。オーフェンではない別の・・・
「? なにこれ? ・・・・・・!」
 思わず触れてしまったクリーオウだがその手をすぐに引っ込めた。それは完全に白骨化した魔術士の死体だったからだ。おそらく自分と同じように落とし穴に落ちたのだろう。オーフェンのように重力中和も出来ないがため落下の衝撃で動けなかったのか、即死だったのか・・・
(オーフェンは・・・・・・大丈夫よね・・・)
 そして、後ろを振り向くと・・・そこには見慣れた黒髪とその隙間から覗く赤いバンダナがあった。
「オーフェン!」
 急いで駆け出すとそこにはぐったりと横になっているオーフェンが居た。見た感じ怪我をしている様子もない。おそらく自分をかばってくれたものの落下の衝撃によって離されたのだろう。
「オーフェン・・・大丈夫?」
 返事がない。まぶたをピクリとも動かさずまるで眠っているかのようだ・・・そう、まるで死んだように・・・
(冗談じゃないわ!)
「オーフェン! 起きてよ! ・・・・・・嘘でしょ・・・ねえ、オーフェン!」
 オーフェンの体を揺さぶりながら叫ぶクリーオウ。だがオーフェンは全く反応を示さない。次第にクリーオウの手が震えてきた。いや、手だけではない・・・足がガクガクとゆれ、まともに立っていられなくなってきたのだ。
 オーフェンの隣に座り込むクリーオウ。その目には涙が浮かびはじめ・・・そして頬を伝った。
「オーフェン・・・・・・冗談は止めてよ・・・嫌よ・・・オーフェンが死んじゃうなんて・・・」
 オーフェンの胸に頭をうずめクリーオウは、それでもオーフェンが目覚めることを祈った。
 涙で前が見えなくなり・・・それでも必死にオーフェンの名を呼びつづけた。頬をぺしぺしたたくが全く起きる気配がない。
「・・・オーフェン・・・私まだオーフェンに言わなきゃいけないことがあるのに・・・まだ言ってないのに・・・死んじゃったら言えないのに・・・」
 そして・・・後は泣き声だけが暗い穴の中に続いた・・・・・・
 と、泣き崩れるクリーオウの頭を誰かの手が触った。なぜか慣れている感触・・・それは・・・
「で、言いたいことはなんなんだ? 今までわがまま言ってばかりでごめんなさいか?」
「へっ? ・・・・・・おーふぇん?」
 頭を上げるクリーオウ。そんな彼女が見たものは頭だけを起こしてこちらを見ているオーフェンの姿だった。その顔にはいたずらそうな笑みが浮かんでいる。何がなんなのかわからず混乱していたクリーオウだったがすぐに血相を変えて叫んだ。
「・・・・・・だましたわね!」
「そーいうこと。まあ、最初は本当に気絶してたけどな・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
 思わずボーゼンとするクリーオウ。そんな彼女を退かせるとオーフェンは伸びを一つして立ち上がった。そして彼女の額を指でピンッとはじくと半眼でこう言った。
「ったく、原始的な罠ほど怖いものはないって言おうとしたら見事にはまりやがって、もし俺が重力中和が使えなかったら二人とも即死だぞ?」
「・・・・・・・・・バカ・・・・・・」
「ん・・・?」
「バカ! オーフェンのバカ!! 本気で心配したのよ! それなのに、それなのに・・・」
 泣きながら訴える少女にさすがのオーフェンもたじろいだ。
「あ・・・そいつは悪かった・・・」
 思わず謝ってしまうオーフェン。だがクリーオウはそんなオーフェンの言葉など聞こえないのか泣きながら腕をめちゃくちゃに振り回す。
「ほんとに死んじゃったと思ったのに・・・こわかったのに・・・もう! いっそここで死になさい!」
「あ、わかった、わかったから! 落ち着けクリーオウ。痛て! 止めろ! こぶしを振り回すな!」
 ここからクリーオウが落ち着くまで15分はかかった。



「機嫌直せよクリーオウ。悪かったって言ってるだろ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・ふん!」
 あれからしばらくして完全に機嫌を損ねたクリーオウはオーフェンから背を向け、全く話そうとしなかった。何を言ってもこの様子である。
「わかった、もう、こんなことしねーから・・・な?」
「ほんとに? もうしない?」
 そう言ってようやくクリーオウは振り返った。
「ああ、もちろん。」
「じゃあ、次の街に行ったら、オーフェンのおごりで一着、服買ってね♪」
「え? いや、そのそれはだな・・・」
 あまりにあまりの条件にオーフェンはしどろもどろになる。
「ふ~ん、駄目なんだ・・・あっそ、じゃあ・・・」
「だあぁぁぁ! わかった、わかったから!」
「♪」
 まんまとクリーオウの術中にはまったとも知らずにオーフェンは財布の中身はいくらあったかを計算し始めるのだった。
 と、ぶつぶつ言うオーフェンにクリーオウが不意に言った。
「そう言えばオーフェンと二人っきりで話すのって久しぶりよね。」
「ん? ああ、そういや、そうだな。ここんとこ騒がしかったからな。ゆっくり話す機会なんて無かったもんな。」
 そう言うがはやくクリーオウはオーフェンの隣に腰掛けた。それに促されてオーフェンも腰をおろす。  しばらく談笑していると不意にクリーオウがオーフェンに聞いた。
「ねえ、オーフェンって好きな人とかいるの?」
「は? 何でそんなこと聞くんだよ?」
「だって・・・この前三人で話してたときマジクが言ったでしょ? 『お師様はトトカンタにかなりの女友達がいますもんね』って・・・」
 数日前にふと始まったトトカンタの話の中でマジクが冗談のように言った一言だった。たしか発端はクリーオウが『オーフェンって女たらしだけどトトカンタでもそうだったの?』と聞いたことだったのだが・・・
「でも、ろくなやつらじゃねーぞ。無能警官に恋愛暴走女、迷惑魔術士に不良ビジネスウーマンとかもいたんだぞ? まともな恋愛が出来るかよ。」
「エリッセとか言う人と半同棲してたってマジクが・・・」
「何で知ってんだよ・・・あれは向こうが勝手に押しかけてきたんだよ。」
「お姉ちゃんに見合いを申し込んだ。」
「あれはボルカンが勝手に仕立てたことだ。」
「ステフのこと必要以上に気にしてたじゃない。」
「あいつは・・・ただの友達。」
「キンクホールじゃ淫乱暗殺者と仲良さそうだった。」
「いん・・・? ヒリエッタか・・・ま、魅力的だと思うがそれまでだな。」
「ティッシのこと好きなんじゃないの?」
「姉さんは・・・嫌いじゃないがあくまで姉さんだよ。」
「メッチェンとかいう人と親密そうに話してた。」
「何で俺が魔術士狩り専門の奴らに惚れなきゃならん。」
「エリスのこと実は気にいってたでしょ?」
「放火されたのにほっとけるわけねーだろ。」
「アザリーさん・・・は?」
「! ・・・・・・俺はただあの人を尊敬してただけだ。それに大切な人だからって好きになるわけじゃない。俺にとってはそうだな・・・・・・高嶺の花って奴だな。」
(ま、いろんな意味なんだけどな・・・)
 心中でオーフェンはこっそり付け加えた。
「しかし・・・お前よく覚えてるな。」
「当たり前でしょ? オーフェンのそばに一番いるのは私なのよ!?」
「え・・・・・・?」
 呆れたようにつぶやいたオーフェンにクリーオウは思いがけない大声を出した。ここで彼女が怒る理由はないはずだ。だがクリーオウは怒ったような顔で言ってくる。
「どうしてオーフェンはわかってくれないのよ! いつでもそばにいるのに! ふつうならこんなそばに年頃の女の子がいたら何か感じるでしょ!」
「いや・・・慣れちまったていうのかな?」
 牙の塔の時代に2人の姉にひどい目に会わされたり、トトカンタでもろくな目に会っていないせいかオーフェンは女性に対する気持ちが薄れていってるのかもしれない。それ以前に魔術士は性差廃別主義者が多い。もちろん結婚制度が禁じられているわけではないのだが最終的には自分自身を制御しなければならない魔術士にとって他人とかかわり、自我をなくすなど自殺行為になりかねない。
 と、ここまで自分でも何を考えているかわからないほど考えたオーフェンだが結局のところ結論は一つである。悲しいことにオーフェン自身、女性経験が全く無いためそういうことに関しては鈍いのだ。
 そんなオーフェンの考えを尻目にクリーオウが続ける。
「私だって17歳の女の子なのよ!? 側に男の人がいたら気になるに決まってるじゃない! こっちだけ動揺するなんて不公平よ!」
「公平、不公平の問題か?」
「どうだっていいの! こんなに長い間一緒にいて、時々かっこよく助けられたりとか、元気付けられたりされて、色々あったら好きになっても不思議じゃないでしょ!」
「な! ・・・・・・・・・クリーオウ?」
 思わず聞き返すオーフェン。そのころになって自分の言ったことにはじめて気が付いたように顔を真っ赤にするクリーオウ。
「・・・・・・う、嘘じゃないわよ・・・」
「ほ、本気とかそんなんじゃなくてだな・・・そ、その・・・」
 しどろもどろになって何かを言おうとするオーフェンだが動揺のせいで上手く舌が回らない。
 と、クリーオウがオーフェンに一歩近づいた。興奮していたのかクリーオウは知らず知らずにオーフェンに近寄っていた。そしてほとんど2人の距離がゼロになりクリーオウがかかとを上げる。そしてオーフェンの肩に手を回し・・・オーフェンの唇に自分の唇を合わせた。



 数秒―――と言っても2人にとってはかなり長い時間―――たってからクリーオウは体を離した。
 オーフェンはいまだに何が起こったのかわかっていないように呆然とクリーオウを見ている。
「・・・・・・クリーオウ? ・・・」
「これでもまだ信じられない?」
 もう完全に真っ赤になってうつむくクリーオウ。やっと状況を理解したのかオーフェンは同じように顔を赤くし指で唇を触れる。今さっきの感触が蘇ってくるように・・・認識するように・・・
「クリーオウ・・・・・・」
「ご、ごめんね! オーフェン。」
「え・・・・・・?」
 突然、オーフェンに背を向け一歩だけ離れてクリーオウが言った。
「そうだよね。好きでもなんでもないのにこんなことされちゃ迷惑だよね。」
「な! ち、ちが・・・」
「いいの。ごめんね。もうこんなことしないから忘れて・・・」
 すると・・・そう言い切った時クリーオウの肩に手が置かれた。
 そして、いきおいよく反転させられると、目の前に一瞬、黒髪が広がった。
「!!!」
 数秒間、クリーオウの視界はオーフェンのまぶたしか映っていなかった。軽く目を閉じているオーフェンのまぶたしか・・・
 そして、オーフェンは軽く彼女を押すと元の位置へと戻った。
 目を一杯に見開き驚くクリーオウ。先ほどのオーフェンと同じように唇を指でなぞる。そして上を見るとそこにはオーフェンの笑顔があった。照れを隠しているようで全く隠し切れていない顔が。
「おかえしだ。」
「・・・・・・ばか・・・・・・」
 上目遣いにオーフェンを見ながらクリーオウはつぶやいたのだった。



「ねえ、オーフェン。」
「ん? なんだよ。」
 遺跡からの帰り道・・・クリーオウが突然オーフェンに訪ねた。
「何であの遺跡の壁画の生き物って羽が生えてたんだろ?」
「ああ、それか・・・。ま、つまらなく考えたら・・・人間の空への憧れだとか、神の強さへの憧れだとか・・・そんなところかな。」
「じゃあ、面白く考えたら?」
 少しの沈黙のあと・・・オーフェンは笑みを浮かべてこう言った。
「ドラゴン種族も、人間も、同じようになって仲良く暮らしたいって願望を書いたのかも知れねーな。人間たちが素直に伝えることの出来なかった思いを・・・・・・。」
「・・・伝えることの出来なかった思い、ね・・・」
 そう言うとクリーオウはオーフェンの腕に抱きついた。
 一瞬驚いたような顔をしたオーフェンだが、少しだけ困ったように苦笑したものの、結局何も言わなかった。
「でも、私はしっかり伝えたもの。」
「・・・そうだな・・・」
 そしてそのまま2人はマジクの待つ野営地へと向かった。



「なるほど、2人でゆっくり遺跡探検をして楽しく談笑しながら帰ってきたのは、動かない体に鞭を打って食事の準備、テント張り、荷物の仕分けをしていた僕に対するあてつけなんですね。」
「え、いや、そういうわけじゃ・・・な、クリーオウ」
「え? ええ。そうよ、マジク別に私たちは・・・」
「いいんですよ、言い訳しなくても。結局2人は僕のことを便利な使いっ走りとしか思ってないですもんね。ええ、そうですよね。どうせ半人前のお荷物な弟子ですもんね。」
「だから・・・なあ。」
「そうよ・・・ねえ。」
 オーフェン達が帰ってきたとき、マジクは完全に怒りの頂点へと達していたのだった。どうやらすぐ帰ってくると思って食事の準備をしていたらしいのだがいつまでたっても帰ってこなかったので仕方なく仕事をしていたらしい。そしてやっと帰ってきたと思ったら謝罪の言葉すらない。マジクでなくても切れることは仕方ないことだ。
 取り付く島も無い少年を見ながら二人は苦笑するしかなかった。
 あれからマジクのことをすっかり忘れた2人は仲良く遺跡の中を見て回ったのである。そして外に出てみるともうすでに夕方。しかも来た道を2人ともド忘れしてしまったために帰ってきた時には日が完全に落ちたあとだったのだ。
「なあ、マジク?」
「いえ、もういいです。もうなにを言っても僕は聞くつもりはありませんから。どうぞ二人で食事でも作っていてください。」
 そう言い捨ててマジクはテントの中へと入っていってしまった。
 後に残された二人は困ったように顔を見合わせた。
「どうする? クリーオウ。」
「・・・とりあえず料理でも作ろっか。」
 そう言って荷物の中から食材を取り出し始めるクリーオウ。そんな彼女の様子を見て、オーフェンもため息をついてからのろのろとまきを集め始めた。



 そんな二人の様子をテントの中からそっと見つめる少年の姿があった。
 ひざの上にレキを乗せ、そっと二人の様子を眺めているのだった。
「まったく、やっとあの2人も一歩前進ってとこかな?」
 呆れたような口調でひざの上のレキに話し掛けるマジク。
 そんな彼の言葉を聞いてかレキは音も無くあくびをしたのだった。

あとがき : 影虎さま
つかれた・・・制作期間一週間はさすがにきつかったか・・・あ?どーもどーもみなさん。影虎でございますよー。えー、さっそく書いてしまったわけでして、えー・・・
「止めなさいって・・・・・・」
はっ!作者のものまねを止める奴はって二作連続登場か、ゆき!
「そんなものまね誰も知りませんって・・・それよりちゃんとあとがきしなきゃ駄目ですよ」
あう、えーっと、今回はまたまたゆかなかさんのリクエストを盛り込みました。はっきり言ってこれほどきついリクエストは初めてでして・・・だってあの2人じゃ無理じゃん!
「なに言ってるんですか・・・他の方々はちゃんと書いてますよ。それに二週間とか言っておいてしっかり一週間で書き上げてるじゃないですか。早すぎてゆかなかさんに苦労かけますよ。」
くう、でも書き始めたら止まらなくなって・・・オー×クリってネタが出来たらすぐに書けるから楽し♪
「大丈夫なんですか?なんか無理している気がしますけど?」
いいの。だって最終的に本人が一番楽しんでるんだし。そもそもお前が前回のあとがきであの試作品を読むから・・・
「さてさてお別れの時間がやってまいりました。」
おい!無視をするな!
「(黙殺)駄文だったでしょうが最後までお付き合いいただいてありがとうございます。パソコンとネタがある限りこれからもどうぞよろしくお願いしますね♪」
ネット規制されそうな・・・。またいつか会いましょう!それでは。
『さよならです!』
影虎さま、ありがとうございました!