草木も眠る丑三つ時、誰かに呼ばれた気がしたクリーオウは意識を朦朧とさせたままカンだけで声の方へと歩いていった。
いつもならオーフェンかマジクが火の番をしているはずなのに今日は2人共眠っている。
見通しが良いのが幸いして、特別迷うこともなく数本の木々を抜け広い川辺へと出た。
「良かった、わたしの声聞こえたのね」
さっきから聞こえていた声がすぐ側にした。
声の方へと顔を向ける。まだ意識がハッキリとしていないせいか目前の人物は暈けて見える。
「ゴメンサイ、こんな時間に・・・」
聞き覚えのある声の主が段々とハッキリしてきた。
「・・・あ、貴方は」
目の前にいる人物、黒い戦闘服に黒い髪の女性。会ったことがないはずの彼女の名前をクリーオウは呟く。
「・・・アザリー・・・さん?」
名前知ってたの、と少し驚いたように言う彼女に頷き、オーフェンが、と答える。
彼女は軽く嘆息すると口を開いた。
同時刻、クリーオウと同じく声が聞こえたのかそれとも彼女が起きた事に気が付いたのかオーフェンは目を覚まし辺りを見渡す。
眠っているのはマジクとレキ。もう1人いるはずの少女の姿がない。
「・・・ったく、どれだけ迷惑かければ気が済むんだ」
1人で呟くと森の方へと駆けて行く。
「ゴメンナサイ、少し貴方と話がしたかったの」
「話・・・ですか? オーフェンじゃなくて私に?」
ええ、と頷き彼女は問う。
「貴方、どうしてあの子について来たの」
どうして――、以前オーフェンにも同じ事を聞かれた覚えがある。
『ただ、なんで俺について来たりしたんだ』
マジクのようにハッキリとした理由もなく、ただ母親を説得してついてきた旅。
最初は興味本位だったのかもしれない。特別楽しいこともなく、平凡な毎日がつまらなかったから。
それなら今は・・・? クリーオウは自分に問う。
アザリーは黙って少女を見据えていた。時間にすると凡そ数十秒だろう、クリーオウは静かに口を開いた。
「・・・オーフェンを助けてあげたいから」
いつも助けられてばかりいるだけでなく、自分も彼を助けてあげられるような、そんな存在になりたかったのかもしれない。
俯いたまま聞こえるか聞こえないかの声で少女は答える。
そう・・・、という彼女の言葉と同時にクリーオウの意識は途切れフラッと前へ倒れていく。
少女を軽く受け止め、振り向かずに後ろの存在へと声をかける。
「・・・いるんでしょ、キリランシェロ」
ガサッという音と共にキリランシェロ――オーフェンが姿を見せる。
「・・・なんでこんな所にいるんだ?」
「あら、いけない?」
軽く返され返答に困っていると、彼女は自分の抱えている少女を渡してくる。
「クリーオウは・・・?」
くすっ、と笑うと「心配しなくても眠っているだけよ」と答える。
眠ったままの少女を見ながら安堵のため息をつくとアザリーは言う。
「ねぇ・・・貴方これからもその子を連れて行くの?」
「・・・・・・」
しばしの沈黙の後軽く肩をすくめて答えた。
「俺は、こいつを手放す気はないよ」
そう、と軽く微笑すると「余計なお世話だったみたいね」と森の奥へ消えていく。
彼女の姿が消えたのを見届けると、少女を抱え直し荷物の方へと足を向けた。