4.PLD法で作製したITO膜の基本的性質
PLD法(レーザーアシスト照射なし)で作製したITO膜の成膜条件(組成、基板温度、酸素分圧)と電気的性質、構造(結晶構造、表面構造)、光学的性質の実験結果を整理して示します。
電気的性質 結晶構造 表面構造 光学的性質
電気的性質の酸素分圧依存性
- 種々の酸素分圧下で成膜したIn2O3(酸化インジウム)及びITO膜(Sn含有量5wt%および10wt%)の抵抗率(ρ)、キャリア密度(n)、ホール移動度(μ)の成膜中の酸素分圧に対する依存性をFig.4−1に示します。(基板温度:○室温、●200℃)
- いずれの組成、温度でも抵抗率は酸素分圧が10−2Torr付近で極小を示しています。
- 室温で作製した膜の抵抗率は、より大きな酸素分圧依存性を示しています。
- キャリア密度(200℃)は、10−2Torr以下ではほぼ一定(1021cm−3)であり、高酸素分圧では急激に低下します。
- キャリア密度(室温)は、低酸素分圧・高酸素分圧で著しく低下します。
- ホール移動度(室温および200℃)は、1〜1.5×10−2Torr付近で極大値を示します。
- 以上の結果より、いずれの組成・基板温度でも成膜中の酸素分圧が1×10−2Torr付近でもっとも良い電気的性質を示すことがわかりました。
Fig.4−1 電気的性質の酸素分圧依存性
電気的性質の基板温度依存性
- 抵抗率(ρ)、キャリア密度(n)、ホール移動度(μ)の基板温度に対する依存性をFig.4−2に示します。(酸素分圧は1×10−2Torrで一定)
- In2O3膜の抵抗率は、150℃以下で低く(約3×10−4Ωcm)、200℃以上では上昇しています(約1×10−3Ωcm)。
- 逆にITO膜(5%、10%とも)の抵抗率は、150℃以下で高く(約6×10−4Ωcm)、200℃以上では減少しています(約1.5×10−4Ωcm)。
- In2O3膜のキャリア密度は200℃以上で低下しています。一方、ITO膜のキャリア密度は200℃以上で増加しています。
- In2O3膜のホール移動度は基板温度の上昇とともに徐々に低下しています。一方、ITO膜のホール移動度は基板温度とともに増加しています。
- 以上の結果から、In2O3膜は150℃以下、ITO膜は200℃以上で良い電気的性質を示すことがわかりました。ITO5%膜と10%膜の電気的性質は似た傾向を示していますが、5%の方が変化が急峻です。
Fig.4−2 電気的性質の基板温度依存性
結晶構造(X線回折)
- XRDパターンの基板温度依存性(In2O3及びITO5%、10%、酸素分圧:1×10−2Torr一定)と成膜中の酸素分圧依存性(5%のみ、基板温度:200℃一定)をFig.4−3に示します。
- すべての組成で100℃付近から弱い回折線が観察され始め、200℃でほぼ結晶化しています。ただし、ITO10%の結晶性は他の組成より低いことがわかります。
- ITO5%の200℃での酸素分圧依存性では、1×10−2Torr付近でもっとも高い結晶性を示しています。この酸素分圧はもっとも良い電気的性質を示す酸素分圧と一致しています。
- 以上の結果から、ITO膜では基板温度200℃以上、酸素分圧1×10−2Torr付近で結晶性がもっとも高くなることがわかりました。この成膜条件は、良好な電気的性質を示す条件と一致しています。一方、In2O3膜では基板温度150℃以下のアモルファスに近い膜が高いキャリア密度を保持できるため、低い抵抗率を示すことがわかりました。
- 回折パターンを詳細に観察すると、ピーク位置のシフトや非対称化、さらにピークの分裂が観察されます。詳細な構造解析やこれらの原因については、「6.シンクロトロン放射光によるITO膜の構造解析」の項で説明します。
In2O3 vs Ts |
ITO5% vs Ts |
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ITO10% vs Ts |
ITO5% vs Po2 |
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Fig.4−3 XRDパターンの基板温度および成膜中の酸素分圧依存性
表面構造(AFM観察)
- 種々の基板温度で作製したIn2O3およびITO5%膜のAFMによる表面構造測定結果をFig.4−4に示します。
- いずれの組成でも基板温度が室温および200℃では平均粗さ(Ra)が1.3nm以下のきわめて平滑な表面を有していることがわかりました。
- 基板温度が150℃および200℃では表面粗さは増加し、Raは2.5〜5nmを示しました。
- 表面粒子の形状を比較すると、In2O3がITOより大きな粒径を示しています。
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In2O3 |
ITO5% |
RT |
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100℃ |
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150℃ |
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200℃ |
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Fig.4−4 種々の基板温度でのIn2O3およびITO5%の表面AFM測定結果
光学的性質(透過率スペクトル)
- 基板温度が室温および200℃、種々の酸素分圧で作製したIn2O3およびITO5%膜の透過率測定結果をFig.4−5に示します。
- いずれの組成、温度でも1×10−3Torrでは可視光域(400〜800nm)の透過率が低く、酸素不足のため着色していることがわかります。
- 成膜中の酸素分圧が1×10−2Torr以上では、可視光域での透過率が80%以上の透明な膜が得られることがわかります。
- 2×10−2Torr以上の高い酸素分圧下で作製した膜は、赤外域の透過率が高いことがわかります。これは、キャリア密度が低く赤外光に対する反射率が低いためと考えられます。
- ITO5%で1×10−2Torr付近の酸素分圧で作製した膜は、高い可視光透過率と、赤外光反射率を示し、優れた光学的性質を有していることがわかります。
Fig.4−5 種々の基板温度でのIn2O3およびITO5%の透過率測定結果
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