2.透明導電膜

透明かつ電気を通す原理、応用、透明導電膜材料、膜の作製方法について紹介します。


透明導電膜の原理

金属は電気をよく通しますが光(可視光)を反射します。黒鉛も電気を通しますが可視光を吸収してしまいます。透明で電気をよく通す膜を作製するためにはワイドギャップ半導体を利用します。ワイドギャップ半導体では、エネルギーギャップが紫外域に対応するため可視光を吸収しません。また、キャリア電子の密度が1021cm−3程度と金属よりかなり低いため可視光を反射しません。このためワイドギャップ半導体からなる膜は可視光をよく透過します。キャリア密度の異なる2種類のITO膜の可視光スペクトルをFig.2−1に示します。キャリア密度の高い膜は、赤外光を反射するため赤外領域の透過率は減少していますが、可視光領域では80%以上の透過率を示しています。

Fig.2−1 キャリア密度の異なるITO膜の透過率スペクトル

透明導電膜の応用

透明かつ電気をよく通すという特異な性質を利用してノートパソコンや携帯電話の表示素子用電極、太陽電池用電極、プラズマディスプレイパネル用電極などに用いられています。

透明導電膜用材料

透明導電膜用材料としてよく用いられている物質をTable 1に示します。現時点ではITO膜の抵抗率がもっとも低いため、UHQ膜のターゲットとしてITOを選びました。

Table 1 透明導電膜用材料の比較
ITO(酸化インジウム・スズ) ・酸化インジウムに5〜10wt%の酸化スズを添加
・In3+席に置換したSn4+がキャリア電子を発生する
・酸素欠損も同時にキャリアを発生
・抵抗率が低いため(1.5〜2.0×10−4Ωcm)液晶ディスプレイなどにもっともよく用いられている
・インジウムが高価である
酸化亜鉛 ・酸化亜鉛に酸化アルミニウムや酸化ガリウムを添加
・安価だが抵抗率が高い(〜1.0×10−3Ωcm)
酸化スズ ・酸化スズに酸化アンチモンやフッ素をドープ
・太陽電池用電極として使用されている

ITO透明導電膜の作製方法

透明導電膜材料としてもっとも用いられているITO膜の代表的な作製方法と特徴をTable 2に示します。UHQ膜の作製方法としては、まだ研究例が少ないPLD法を選択しました。

Table 2 ITO膜作製方法の比較
スパッタリング 大面積基板上に低抵抗な膜を比較的低温で作製できるため工業的に広く用いられています。ガラス基板上に成膜温度250〜300℃で抵抗率1.4×10−4Ωcm、110℃で成膜したアモルファス膜では3〜4×10−4Ωcmが得られています。
真空蒸着 金属を蒸発源にし、酸素を導入した雰囲気中で反応性蒸着を行います。低抵抗膜を得るためにはスパッタリングよりやや高い基板温度(300℃以上)が必要です。そこで、活性化反応蒸着や高密度プラズマアシスト蒸着によって成膜温度を下げる研究がされています。
ゾル・ゲル法 金属アルコキシドなどの化合物の溶液を原料として、スピンコートやディッピング後熱処理によって膜を形成する方法です。真空を必要とせず簡単な装置で成膜できますが、現状では抵抗率の低い膜は得られていません。
クラスタービーム蒸着 金属または酸化物原料からの蒸着中に酸素クラスターイオンビームを基板に同時照射する方法です。京都大学附属イオン工学実験施設では基板温度300℃で7.8×10−5Ωcmの低抵抗率膜を得ています。
PLD レーザー光でターゲット表面を叩き出して対向する基板上に膜を形成する方法です。ターゲット組成からのずれが少ない、成膜条件が広い範囲で設定できる、成膜中の基板への光照射等が容易であるなどの優れた特長を持ちますが、透明導電膜への適用例はまだわずかです。

UHQホームページ