「 デパート金庫事件 」
以下本文ですが、内容紹介のテキスト文なので、画像が正しい位置に入りません。PDFでご覧いただければ幸いです。
中学に入学して出来た友人は、いわゆるバタ屋部落の子供たちだ。とにかく生活力旺盛で頼もしかった。子供なのに金の稼ぎ方を知っているのである。
遊びながら、工事現場で捨てられた古い電線を見つけると喜んで捨って帰り、焚き火の中に放り込む。青い炎が燃えて中から剥き出しになった銅線を業者に売って小遣いにするのだ。ベーごまやメンコは格段に強く、取り上げたコマを相手に買い戻させる。
確かにお金を賭けているのではないが、結果として金儲けだ。
そんな目からウロコの新知識の中で、彼が夢中になったのは、錠前外し、バタ屋に集まってくる大小のゴミの中で、リサイクルできないのが鍵の無い錠前。子供たちは思う存分分解し、その構造を覚えた。シリンダー錠という真鍮製の鍵以外は、ヘアピン一本で見事に開くのである。ダイヤル錠もコツさえ覚えれば30秒で必ず開く。
はじめは驚きの連続であったが、手先が器用だった少年には、直接の夢につながる大知識であった。何しろ怪盗ルパンになる方法は学校では教えてくれないのだから。
少年の夢は怪盗ルパンになって、悪い大人から奪った金を貧しく正しい人々に分け与えることであった。
2ケ月もしない内に、錠前はずしに関しては右に出るものが居なくなった。特に指先に伝わるダイヤルの微妙な変化には自信が有った
。
夏のある日、師匠の塩田君と池袋のデパートに出かけた。二人で勝負と言って、金庫売り場に置いてある手提げ金庫やら大小の金庫を、端から端までどちらが先に開け尽くすか競争した。ふざけた話ではあるが。
一つ目をあけて驚いた。錠を挿さずにダイヤルだけで開けると、内臓の非常ベルがなるようになっていた。どうしようと塩田君の方を見ると、構わずに黙々と開けている。負けるものかと踏ん張り、7・8分ほどでおよそ10台位あった金庫を全て開けてしまった。勝負には勝ったが、問題はそれから。
大騒ぎになり、店員さんがすっ飛んできた。二人とも襟首をつかまれ事務所に連れて行かれた。「どこの学生だ。」頭から湯気を出して怒られた。
しかし、心は以外に冷静であった。物を盗んだ訳でもなく、まして中学生に開けられてしまうような金庫を売っている何て事が、マスコミにばれたら大損失であるから、警察に突き出されるはずも無い。 しゃあしゃあとしながら大人の顔を観察していた。
「怒りに震える顔は何とも哀れで、何の説得力もないなあ」などと、心の中で舌を出しながら見ていた。何とも嫌味な少年であった。
その後、塾講師になった熊先生は、とんだハプニングに巡り会った。
休み時間に拾ったダイヤル錠を誰かの鍵と勘違いして、いたずらで友達の指に掛けてしまった生徒がいた。本人が慌てて助けに来るのを期待したのだ。
しかし、誰も持ち主は居らず、さらに拾った時は開いていたから誰も番号を覚えていなかった。大騒ぎになった。指先は赤く膨れてくるし、大変だ救急車を呼ばねばならないとみんな青くなった。
丁度出勤してきた熊先生。ちょっと見せてご覧と、慌てるでもなく一発で開けてしまった。子供たちの目は点に成った。さださんの受け売りだが、将にぴったりの状況になった。
伝説が生まれた一瞬であった。
……
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