「 出会い 」
以下本文ですが、内容紹介のテキスト文なので、画像が正しい位置に入りません。PDFでご覧いただければ幸いです。
熊先生も一生に一度だけ、燃えるような恋をした。勿論片思いである。
高校の文化祭「創作展」の最終日。熊先生は打ち上げパーティーを仕切って無事お開きになった。ところがこのクラス、みんな仲良しで、二次会に小さく分かれようと言っても誰も帰らない。仕方なく50人の集団のまま、二次会場を探すべく巣鴨の街をうろつくことになった。
「50人も入れる店がこんな時間に予約もなしに開いているわけが無い。」ぶつぶつ言いながら最後尾を歩いていると、目の前、後ろから2番目に歩いているのが。クラスのアイドル、通称妃殿下。髪の毛がとても綺麗で、女子みんなから触られるような人だ。
駅前のアーケードに通りかかった時、鉄柱に寄りかかってつぶれている酔っ払いが一人。
熊ちゃんの前2m、妃殿下の後2m、丁度まん中に差し掛かった時「うっ」とうめいた。
反射神経で飛び下がったと同じ瞬間。前に歩いていた妃殿下がさっと飛び戻り、両手を掬うように差し出した。見事なタイミングで、酔っ払いが例のものを吐き出した。
彼女はそのまま駅の蛇口の所に行き手を洗い、さり気なくみんなに合流した。
みんなの憧れの美人である。見知らぬ酔っ払いのゲボである。何が起こったのかまるで考えることすら出来ない。
その後、偶然二次会場が見つかった。隣のクラスが一次会場として借りていた喫茶店で、丁度終わったばかりだった。
何だか判らない衝動に駆られ、誰も近寄らない彼女の隣にすんなり座った。
「さっきのあれ、どうして?」流石にみんながホットドックをほうばっている所で下種な話は出来ないが、聞こえないように小さな声で開いてみた。
「やあね見ていたの。だって、あれ2800円もするのよ。」と言って笑う。
余計に判らないじゃないか。更に問い聞くしかない。
「だってあの人酔っているから、コートに懸かってシミになるでしょ。クリーニングに出すと、2800円懸かるのよ。私の手だったら洗えばいいから。」と言われて、はじめて考えられる所まで近づいた。
それでも、自分の基準では、他人の2800円とゲボに触る気色悪さは、順位が逆ではないか。おかしいぞ。頭の中では「こいつは何者なんだ。」と言う言葉が渦巻くばかり。
家に帰って布団に入っても、目が冴えて寝付けない。どんな暮らしをしているのかと気になったら寝てもいられない。
自転車に飛び乗って真夜中の国道を住所録を頼りに彼女の家を探しに行った。
妃殿下のイメージから豪邸を想像していたが、そんな家は見当たらず、うろうろしていたら、2階建ての長屋からどてらを着たおじさんが下りて来た。
「お前何してる?」と聞かれて、最も言ってはいけない言葉「友達の家を探しています。」と言ってしまった。
驚いたことに「そんな事は知っている。何をしてるんだ。」と言うのだ。
自分にはこう言う友達がいて・・・とタ方の事件の話をした。
「ふーん、それでお前その娘とどうしたいんだ。」と言われた。
「自分では信じられない世界を持つ人なので、どんな暮らしをしているのか知りたくなったんで・・・。」と口篭もると
「要するに付き合いたいって事だろう。」とずばり言われた。
「はい」と妙に力んで答えた。
「うちの娘もそんな事が出来きるようになったか。あんな娘で良ければ付き合っていいけど、こんな時間だ。明日また出直しておいで。」彼女の親父さんであった。
その後一方的な片思いが続き、人生の師と仰ぐようになるが、出会いはあまりに強烈であった。
親友の西村が修学旅行のときに、撮ってくれた集合写真の盗み撮り。集まったばかりでまだ位置も決まらず、あっち向いたりこっち向いたり、みんなおしゃべりに夢中な中で、いつシャツター押されてもいいようにと、笑顔で中腰姿勢をしている写真。彼女の生き方の全てを語っている。
……
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