「 幹二の漢字 」


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以下本文ですが、内容紹介のテキスト文なので、画像が正しい位置に入りません。PDFでご覧いただければ幸いです。

 古川先生に紹介されたのは、小学5年生の家庭教師であった。お父さんが有名銀行の海外支店長で、4年生で帰国するまでアメリカ暮らしであった。
 顔立ちは全くの日本人なのに、帰国当初は英語しか話せない。勿論文字も書けないからノートも取れず、勉強が苦手なはずなのに、持ち前の明るい性格で楽しく通っていた。
 友人達から付けられた渾名は、「森外人」である。自分の名字の森が入っている名前をニコニコしながら言うから、喜んで返事をしていた。
 だんだん日本語が解かるようになって、それが人を馬鹿にするために付けられた渾名だと気がついた。急に学校が嫌いになった。それでも彼は学校を休まなかった。
 心配していた叔父さんの古川先生が熊ちゃんに目をつけた。 こいつなら気持ちがわかるかも知れない。「一緒に遊んでやるつもりでやって見ろ。」と言われた。
 実際に逢って見ると、日本語はほとんどしゃべれるし明るくいい子だ。
 ストレスが起因して喘息の発作が出るという。毎週土曜日、1時間勉強した
 後は、剣道を教えたり、サッカーを一緒にやったり友達になる事に務めた。特にカードゲームでは絶対に負けないように、ちょっぴりいかさまもした。
 そうやって信頼感を築いたが、どうしてもノートが取れない。勉強の効率が悪い。聞くと、担任の先生が毎日漢字テストをすると言う。ひどい渾名を黙認していた人なので、これに反発して漢字を一切書かないと言う。
 自分の英語の神田先生の話をした。本当に傷つくのは自分だけだと。
 翌週、20点取ったと小躍りして小テストを見せた幹二。出題される予定の漢字のうち「本」と言う漢字だけ覚えられたので、5題全部に「本・本・本・本・本」と書いたので、中の1問だけに○が付き、はじめてO点ではない点を取ったと言うのだ。
 誉めてくれと言うのだろう。黙って外に連れ出した。近所の神社に連れて行った。 目に付いた石造りの寞銭箱に彫ってある文字を読んでご覧と言った。
 ハイになっている幹二は真剣に考えた。そして
奉納と言う字の旧字簡略体 「ビーフステーク」と叫んだ。
「凄いよく読めたね。でも何でそう思った?」
 その字は下の図の通り、奉納と言う字の略字である。
 牛と言う字に2本のフォークがあるから、ビフテキだ。と言うのである。
 思わず笑い出したくなったが、その通り、読む人に理解されない漢字は文字でないのである。
 君が読めもしないのに、ただ「本」をたくさん書いて取った点数は、私にはちっとも嬉しくない。奉納の奉と言う字は、神様に捧げ物をする人の手を表しているんだ。本当の努力をするなら手伝いたい。と言うと泣いてしがみついて来た。それからの彼の努力は言うまでも無い。
 6年生の時には塾の講師をしていたので関われなかったが、最期には「オール5になりました。」と言う電話を貰い、電話口の双方で泣いてしまった。
 日本語を学ぶ目的で、彼が作った俳句が

  「咲き乱れ 紅葉の陰に 富士の雪」

というものだ。自分のような者には、とても読めない感性である。
幹二の人生を変えた「奉」と言う漢字の話。

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コンコンチュウチュウの似顔絵

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