「 あほの首相 」
以下本文ですが、内容紹介のテキスト文なので、画像が正しい位置に入りません。PDFでご覧いただければ幸いです。
中学2年生のクラスに首相君と言う変わった名前の生徒がいた。頭の回転は連いのに、やることが奇抜で、いや奇抜すぎてピントが外れている。折りから流行のテレビドラマ「夕陽丘の首相」をもじって、「あほの首相」とあだ名されていた。
ピントが狂っているのに、やる気満満で、いつも真っ先に手を上げては笑い者になる。本人もそれで満足している。中学時代の自分を見ているようで、何とか岡長先生になりたかった。どんな答でも必ずいい所を見つけて、取り合えず褒めた。仲良しはいつか信頼に変わった。
その年は塾2年目にあたり、何か新イベントをやろうと言う事になった。熊先生の提案で館山市洲崎の磯に実験合宿に行こうと言う事になった。講師6人で50人近くの生徒を連れて行くので、下の学年の子に目が行き届くように、中3を班長にして縦割り班をつくる事にした。
6班作りたかったが、3年生は5人しか参加しない。熊先生は早速あほの首相君を推薦した。全員の先生から反対された。 とんでもないと言う剣幕だ。自分の班にするからやらせてくれと頼み込んで押し切った。
熊先生の班にはもう一人、2年生の熊ちゃんと言う気になる生徒がいた。小2のクラスは「決闘」仲間で、熊先生の親衛隊だ。実験合宿に行きたいと言い出したのもこのクラスだ。
しかし、一人だけ熊ちゃんだけは最後まで参加しないと言う。親御さんに説得に行って、初めて事情を聞かされた。
体が人一倍小さい熊ちゃん、実はおねしょの習慣が取れていない。みんなと一緒に行って恥をかかせたくないと言うのだ。「僕なんて中学2年までありましたよ」と言って無理やり誘った。
旅行の途中、トイレ休憩に寄ったサービスエリアで、あほの首相君を呼び出して訳を話した。「俺も中2までやっていたが、みんなに笑われたら一生の恥になる。おねしょしてしまう事は人格とは何も関係ないから、絶対に守ってやってくれ。」と2人だけの約束をした。
例によって「まかせといてよ。」と気楽に言う。余計心配になった。
しかし1日目2日目となっても、おねしょの話が無い。熊ちゃんますます元気になって、普段やらない決闘に参加するまでになった。すっかり自信になったようだ。連れて来て良かった。
逆に帰りのバスの中で、班長の首相君、みんなで歌を歌って大盛り上がりの中、爆睡している。こんな事が気になる位大成功の旅行だった。
その事をなじると、初めて首相君が秘密を打ち明けた。彼も小学上級生までおねしょの癖があり、恥ずかしさを知っていたと言う。だから毎晩3時頃こっそり起きて、ぐしょ濡れの熊ちゃんのパンツを収り替え、そのまま洗って干して翌晩に使ったと言う。3晩とも気付かれずに出来た。その分眠かったんだと言う。
そうか、合宿でみんなへとへとなのに、そこまでやってくれて、熊ちゃんは生まれて初めておねしょしなかったと思い込んだのだ。だからあんなに元気だったんだ。
本来自分がするべき仕事であった。 しかし首相君は彼なりに、熊先生はみんなの為に裏で働いているから、これは自分だけでやらなければ成らないと決意してやった事だ。
「相談もしないでご免なさい。」と謝られて、もうこれは泣いて抱きしめるしかなかった。
生徒は素晴らしい。教師になりたい。教育ってこんなに感動だ。みんなに叫びたかった。
……
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